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空位の魔王と反逆勇者の孫  作者: かわうそ
『学院』入学編
15/36

13話 力技

5年前。


ガキンッ!!


振り下ろした刀が岩に弾かれた。


「おいっ!クソ弟子!何度言ったら分かるんだ、刀は叩きつける道具じゃねぇっ!」


ゴンッ!!


拳骨が降って来た。


「いっでぇぇぇっっっ!!クソ師匠がっ!すぐ殴るなよっ!」


ドスッ!!


下から抉るようなボディブロー。


「うぐっ!!!」


俺は堪らず地面に突っ伏した。クソ師匠め、容赦がねぇ。

身体強化で耐久力は増しているはずなんだが、この師匠の前では全く意味をなさない。


「クソ師匠だとぉ〜、言ってくれるじゃねぇか。よーし、俺の自在流を身を以て体感させてやる!これも修行の内だ、有難くボコられな!」


えっ?!もう腹に一発貰ったじゃん!これ以上は死ぬって!無理無理無理!

この傍若無人、唯我独尊、奇人変人、暴力至上主義者のエルフに殺される!


俺はボディブローのダメージを抱えながらも必死で立ち上がり走り出す。


「ぎゃー!すみませんでしたー!助けてー!!」


三十六計逃げるに如かず。命は大事に!


「あっ、こら逃げるんじゃねぇ!」


結局捕まってボコボコにされた。



「いいか、ドラゴ。お前はまだ力任せで刀を振るっているが、その所為で太刀筋が乱れている。だから、刃が真っ直ぐ綺麗に走らない。叩きつける勢いで無理矢理刀を振り切っているが、それでは強固な外殻や鱗を持つモンスター、高強度の魔法障壁なんかを斬ることは出来ないぞ。何より刀が保たない」


「はい」


「大切なのは剣線をぶれさせない事だ。見てろ」


師匠が高さ2メドルはある大岩の前に立つ。


「【天墜(てんつい)】」


ん?どうしたんだろう師匠、大岩の前に立ったまま動かないけど。


「師匠!技の名前は分かりました!どんな技なのか見せてくださいよ」


「ん?ああ、もう斬った。ほら」


そう言って師匠が大岩に触れると、


バカッ!!


綺麗に真っ二つにされた大岩が左右に分かれた。


すげぇ~


近寄ってみると、岩の断面はまるで高級大理石製テーブルの天板のように滑らかだ。光り輝いてすらいる。


しかし、音もしなかったし、太刀筋どころか刀を抜く動きすら見えなかったな。全く参考にならんっ。


「無音の一太刀。一切の無駄を削ぎ落し、動きの最適化を重ね続けて辿り着く境地だ。まぁ、並みの才能なら辿り着くのは絶対無理だが、お前はそこそこ才能がある。50年、しっかりと研鑽を積むことが出来れば会得できるだろうな。但し、その身体強化任せの刀術じゃ絶対に不可能だぞ」


「無音の一太刀か、かっけぇ」


奥義ってやつだよなぁ。なんかこう男心を擽られるな。50年は長いけど頑張ればもっと早く会得できるかもしれないし!ワクワクするな!


「よし、それじゃあ今の技をもう一度やってみせる。今度はお前の目でも追える速さだからな、しっかり見ておけ」


「はいっ!」


「よし、返事は一人前だ。それじゃあ、後でやってもらうからな。まずは素振り1万回で太刀筋を体に叩き込む。そして、実際に岩を斬れるまでひたすら刀を振ってもらうぞ」


前言撤回。ワクワクなんぞしねぇ。絶望だよ、この鬼師匠。


--------


ベノムドラゴンから距離を取り、体勢を立て直しながら、師匠から天墜を教わった時の事を思い出していた。


俺の天墜はまだまだ本物じゃないってことか。

まぁ、50年かかるって言われてたんだ、5年やそこらじゃ無理だよな。

きっと、師匠なら魔法障壁をベノムドラゴンごと真っ二つにしていただろう。想像に難くないな。


「ドラゴ!次が来るぞ!」


「分かってる!リオレス、奴の逃げ道を塞いでくれ」


射程距離が長くその範囲も広いブレスを持つベノムドラゴン相手に距離を取り続けるのは得策じゃない。

奴を空へ逃がせば苦戦は必至。まずは動きを封じる。


「分かった!風よ【嵐の(テンペスト・)天蓋(ドーム)


ゴウッ!!


リオレスの魔法によってベノムドラゴンの頭上を覆うように暴風の結界が張られる。

これで奴は逃げられない。


俺は再び地面を蹴り、ベノムドラゴンとの距離を詰める。

風の鎧によって毒ブレスの影響をある程度は軽減が出来るが、風の防壁ほど完全に防ぐことは出来ない。

いくら身体強化を発動していたとしても毒を受けて活動するのは限界がある。

こっちの生きる道は接近戦だ。ブレスは打たせない。


ベノムドラゴンへと接近、俺の攻撃射程に入った。

直刀「閃」を構え、攻撃の準備が整う。

さっきの攻撃でベノムドラゴンを守る魔法障壁には罅が入っている。

次の一撃で破壊できる!


「【薙峯一閃(ていほういっせん)】!!」


天墜が縦の斬撃なら薙峯一閃は横の斬撃だ。

俺は横一文字に刀を振り抜いたが、


ガキンッ!!!バキッバキッ!!


魔法障壁を破壊する筈の俺の一撃は、またしても障壁に罅を入れただけで阻まれる。


「なっ!!」


どういうことだっ!なぜ破れない?!


GURUAAAAAAA!!!!


「クソッ!!」


困惑からの一瞬の硬直、その隙を逃さずベノムドラゴンが前足を振り下ろしてくる。

猛毒を纏った鋭い爪が眼前に迫るが寸でのところで躱す。


GURRRRR…


追撃はしてこない。あくまでもカウンター狙いか?


しかし、どうなってやがる。

障壁には間違いなく罅が入っていた筈だ。


「ドラゴ見てみろ!奴の魔法障壁がっ!」


なっ?!


俺が今し方つけた筈の罅が塞がっていく。


自動修復?!

2撃目を入れる直前に修復されていたとしたら障壁を破壊することができない訳だ。

破るには、修復されるより早く2撃目を叩き込むか、1撃で決めるしかない。

だが、今の俺では、


「ドラゴ、一旦下がれ!防壁を張るから体勢を整えよう」


そうだな、ここは一度立て直そう。

俺がリオレスのいる位置まで下がるとすかさず風の防壁が俺達を覆う。

ベノムドラゴンは嵐の天蓋で動きが制限されている上に、風の防壁によって自分のブレスが防がれると分かっている為か、動かずにこちらの様子を窺っている。

あくまで時間稼ぎがベノムドラゴンの役割か。


「どういう理屈か分からないが魔法障壁のダメージが自動で修復されるみたいだね」


「そうみたいだ」


流石、人族最高戦力『七星』の魔法障壁といったところか。正直、甘く見ていた。


「なら、2連撃だ。僕が2撃目を魔法で叩き込む」


1人で無理なら2人でか、それもそうだな。

俺は熱くなり過ぎていた様だ。

ちょっと冷静に考えれば思いつくことを、リオレスに言われるまで気がつかないなんてな。


「分かった、俺が1撃目を入れたら2撃目を頼む」


ぶっちゃけ、ベノムドラゴンがこのまま動かないなら奴を抑えるという役目は果たしているのだろうが、倒せるなら倒してしまったほうがいい。

さっきの動きを見る限り、ベノムドラゴン自体は俺とリオレスの2人がかりなら倒せるだろう。


「リオレス、準備が出来たら教えてくれ。俺はいつでもいけるからな」


「僕も大丈夫」


「よし、なら行くぞ!風の防壁を解除してくれ!」


「了解!」


俺は身体強化を改めて発動、そしてリオレスの魔法が解除される。


「っぐぅぅぅうううううあああ!!!!」


なんだっ?!


苦痛に悶える叫びが上がる。


反射的に叫び声が上がった方向に視線を向ける。


宙に舞う腕。


その腕の持ち主。


腕を斬り飛ばした相手。


全てがスローモーションに感じる世界で、俺はノイアーが腕を失い、その命が絶たれようとしているのを見ている。


ビチャッ!!


永遠とも思える時間を経て、音を立て落ちる腕。


「ノイアーーーーッッッ!!!!」


「ドラゴッ!駄目だっ!」


止めるな!リオレス!

ドートレスの野郎を止めないとノイアーが死んじまう!


GURUOAAAAA!!!


くっ!ベノムドラゴン!


ベノムドラゴンがその巨体によって繰り出す体当たりで、ドートレスを止めるべく走り出した俺の行く手を遮る。


速いっ!さっきまでの緩慢な動きじゃねぇっ!

避けきれない!


覚悟を決めて衝撃に備える。


「風よ!」


ブワッッッッ!


「のわっっ!」


俺の身を包んでいた風の鎧、その圧縮された風が指向性を伴って解放される。そうして生じた突風に吹き飛ばされた俺は、間一髪ベノムドラゴンの体当たりから逃れた。


助かったぜ、リオレス!


畜生!このドラゴン、手を抜いてやがった。

こっちが奴を抑えるつもりが逆に抑えられてたってか。

笑えねぇぞ。


そうこうしているうちに、ノイアーは自分の魔法で吹っ飛んで魔法障壁の中へ避難したみたいだ。


一先ず大丈夫か?

魔法障壁内にはミレイがいるから手当てをしてくれる筈だ。


しかし、ドートレスが魔法障壁への攻撃を始めている。

破られるのは時間の問題か。


向こうに加勢に行くには、こいつをとっとと始末するしかねぇ。


「リオレス!2撃目は頼んだぞ!」


リオレスの返事を待たずにベノムドラゴンへと突貫する。


斬ろうとするから駄目なんだ!

障壁を破壊するだけなら一点突破だ!


師匠、ごめんっ!

こうなったら、冷静でなんかいられねぇ!

普段クールぶってる癖に情けないけどな!

だけど、知り合ったばかりでも、よく知らなくても、救いたいと思ったんだ!

後悔だけは残したくない!

俺はミレイにも、ノイアーにも死んで欲しくない!


「お前が邪魔だぁぁーーーーーーー!!!!!」


身体(フィジカル・)強化(ブースト・)限界突破(オーバードライブ)!!!!


「自在流【雫渦穿(だっかせん)】!!!」


腕を内旋させながら、右手に握った直刀をベノムドラゴンを守る魔法障壁に真っ直ぐに突き込む!!

肉体の限界を超えたスピードと腕を内旋する動きにによって生み出された回転が(きっさき)の突破力を高める。


ブチブチブチッ!!!


筋肉が断裂する音が聞こえ、全身の骨が軋みを上げる。

毛細血管が加速する血流に耐え切れずに破れるのが分かる。


ピシッ!!


バリンッ!!!


渾身の力業が魔法障壁を木っ端微塵に破壊する。


師匠が見たら拳骨どころかボコボコにされるような雑な技だな。


「風よ突き破れ!【旋風の(トルネード・)大槍(ジャベリン)】!!!」


俺が魔法障壁を破壊した瞬間、リオレスの魔法がベノムドラゴンを襲う。


GUGYAAAAAAAAAAA!!!!!


ベノムドラゴンはリオレスの魔法を躱しきれず、右眼を抉られ、右の翼に風穴が開く。


ベノムドラゴンにとどめを刺そうとしたその時、


バリンッッッッ!!!!


破砕音が響く。


くそっ!速すぎるぞ!


ドートレスが魔法障壁を破壊し、ノイアーとミレイに襲いかかろうとしている。


頼む俺の体よ、もう少し保ってくれ!!

身体中から聞こえる悲鳴を無視して駆ける。


間に合ってくれ!!

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