12話 試験薬NO.75
ドートレスがドラゴンの背中から降りる。
「ドラゴくんとリオレスくんは下がってろ!」
「ノイアー!1人じゃきついって」
「駄目だ!学院生候補をむざむざ死ぬのが分かっている戦いに臨ませる訳にはいかない。俺がなんとか時間を稼ぐ!」
「命の危険とか今更だ!レッサードラゴン退治の時は協力してくれなんて言っておいて!」
「それとは次元が違うっ!今、目の前にいる相手は、君たちの実力では到底太刀打ち出来ない。その上、私のカバーできる範囲も逸脱している!一歩も間違わずに綱を渡り切っても死が待っているレベルだ!いいから下がってろ!」
くそっ!ノイアーの奴、聞く耳を持ちやしねぇ。
それじゃあ、あんたが死んじまうじゃないか!
「別に遠慮しなくても、3人でも4人でもいくらでもかかってきな。な~に、殺しはしないぜ。死なない程度に痛めつけるだけだ、くっくっくっく。用があるのは魔法障壁の中にいるメス餓鬼だからな」
やはり、ドートレスの狙いはミレイか。
しかし、自分が使役していたレッサードラゴンの群れがほぼ全滅したのに、ドートレスの野郎は余裕の表情だ。
俺達じゃ自分に敵わないと分かっているのだろう、薄ら笑いを浮かべてやがる。
「遊んでやるぜ。オブト!」
GURRRR!
オブトと呼ばれた毒々しい紫色のドラゴンが唸り声を上げている。
「ノイアー、あのドラゴンはなんだ?」
「おそらくベノムドラゴン。中級飛竜の中でも厄介な種族だな」
名前と見た目からして毒の竜ってところか。
あのドラゴンぐらいなら俺でも倒せるか?
「オブト!挨拶代わりの一発だ」
ベノムドラゴンが息を大きく吸い込む。
「まずい!!風よ!」
ゴウッ!!
短縮された詠唱でノイアーが風の防壁を発動する。
ノイアーは風魔法も使えるのか。
雷、土、風の3属性。
まだ使える属性があるかもしれないし、ノイアーは相当な実力者だ。
しかし、そんなノイアーでもドートレスには勝てない、か。
GAAAAAAA!!!!
咆哮と共に吐き出された猛毒のブレスが風の防壁に遮られている。
風によって散らされたブレスは、周囲に紫煙となって漂う。
防壁を解除すれば俺たちはたちまち猛毒の餌食になるだろう。
「致死性の猛毒ブレスだ。殺しはしないなんて言っておいて、こっちが必死で抵抗すれば死なないかもなってことかよ。私達が抵抗するのを楽しんでるな。」
「ははははははは!流石にこの程度のブレスは防ぐか。そうでなくっちゃなぁ、暇つぶしにもならねぇ」
笑ってやがる。
「ノイアー、俺とリオレスでドラゴンを抑える!ノイアーはドートレスの相手をする!それならいいか?」
「くっ、やむを得ん。ベノムドラゴンもそこいらの中級冒険者パーティーじゃ歯が立たない強敵だ。ブレスはもちろん牙と爪にも注意しろ。全て猛毒の凶器だ」
「分かった。リオレス、俺のサポートを頼む」
「分かったよ。ドラゴ、死ぬなよ」
「死ねるかよ、こんなところで」
「腹を括るしかないか。よし、今から風の防壁を解除する勢いで毒ブレスを吹き飛ばす!そうしたらベノムドラゴンを抑えてくれ。無茶な真似はするなよ、あくまで時間稼ぎだ!」
「「了解!」」
「行くぞ、1、2、3!」
ブワッッッッ!!!!
ノイアーが風の防壁を解除し、滞留していた毒を吹き飛ばす。
「リオレス、風を!」
「ああ。風よ!」
リオレスの魔法が俺の体を覆う。
ブレス対策の風の鎧だ、無いよりマシだろう。
よし、身体強化全開!
ドッ!
地面を蹴り砕き加速した俺は一直線にベノムドラゴンを狙う!
「おっと、オブトは俺のお気に入りだ。簡単にはやらせねぜぇ!」
ドートレスが俺とベノムドラゴンの間に入って来ようとするが、ノイアーの雷魔法がそれを阻止する。
「お前の相手は私だ!『眼星』!」
サンキュー、ノイアー!
「喰らえ!自在流【天墜】」
俺は跳び上がりベノムドラゴンの頭上から直刀「閃」を振り下ろす。
ガキンッ!!ビキビキッ!!
魔法障壁?!
GURRRRR…
ドートレスの野郎か!
魔法障壁に攻撃を阻まれた俺は一度距離を取る。
だが、今の一撃で障壁に罅が入った。
次でブチ破る!
----ノイアー視点----
「お前の相手は私だ!『眼星』!」
ドラゴくん、頼むから無理だけはするなよ!
将来有望な君達を失うのは世界の損失だ。
「ほう!俺を『七星』って知ってて挑んでくるとはおもしれぇ!テメェ如きじゃ俺に傷ひとつ付けられやしねぇけどなぁっ!!」
ドートレスが右手を虚空にかざすとその手に一振りの剣が現れる。
武器召喚か。
どうやら、腰にある短剣は使わないみたいだな。
「大地よ!【金剛の劔】」
私は魔法で創り出した金剛石の剣を握る。
接近戦はそれ程得意じゃないんだが、そうも言ってられないか。
「いいぜ!かかってきなぁっ!」
こうして対峙しているだけで嫌でも力量の差が分かってしまう。
真正面から行けば一太刀で斬って捨てられるだろう。
取り敢えず、牽制しておくか。
「雷よ!」
バリバリバリッ!
「ふんっ!つまらん魔法はやめておけよ」
私の放った初級の【電光】は、奴が剣を一振りすると掻き消されてしまう。
やはりこの程度の魔法は全く通用しないか。
かといって威力のある魔法を使うには隙を晒すことになる。
今の私では、短縮詠唱や無詠唱だと本来の威力は望めないしな。
身体強化をして接近戦しかないか。
無詠唱で打てる魔法も陽動くらいには使えるだろう。
しかしまぁ、困ったことに打ち合える自身は湧いてこないな。
「おいおいどうした?俺の相手をしてくれるんだろう?突っ立ってちゃ遊べないだろうが!」
ドートレスが仕掛けて来た!
ちっ、待ってはくれないか。
「【身体強化】」
ついでに無詠唱化した【火矢】だ!
「うぜぇっ!」
ドートレスはまたしても一振りで薙ぎ払う。
接近して来たドートレスが斬り掛かってくる。
打ち合う覚悟を決める!剣よ折れてくれるな!
ギンッ!キンッ!キンッ!
ドートレスと1合、2合、3合と剣を合わせる。
くそっ!ついて行くのが精一杯だ!
打ち合う度に腕が痺れ、身体の芯へとダメージが通る。
これが世界屈指の実力者!
まるで歯が立たない、私はただ遊ばれているだけかっ!
ガギンッ!!!
ドートレスの剣に絡め取られ、私の剣が手から離れ宙を舞う。
「くっ!」
剣を弾き飛ばされ、無手となった私にドートレスは容赦なく斬撃を放つ。
間に合え!
【岩砦の城壁】
私とドートレスを隔てるように地面から壁がせり出す。
人一人を隠す程度の岩壁だ。
ズギャッッッ!!!
「っぐぅぅぅうううううあああ!!!!」
「ちっ、仕留め損ねたか」
短縮詠唱で発動した不完全な魔法。
しかしながら、不格好で本来の強度に満たないその岩壁がドートレスの太刀筋をずらし、私の体が真っ二つになるのを防いでくれた。
ビチャッ!!
二の腕付近で斬られた右腕が宙を舞い地面に落ちる。
死ぬほど痛いが、即死じゃなけりゃまだ何とかなる。
「まぁいい」
ドートレスが近づいてくる。
くそっ!まぁそうだろうな、奴は最初から俺たち全員殺す気だ。
この襲撃の目的がミレイちゃんの暗殺であるなら目撃者は生かしておく必要がない。
「ノイアーーーーッッッ!!!!」
ドラゴ、来るな!
「右腕を失い、その出血じゃすぐにくたばるだろうが、それを待ってやるほどお人好しじゃないんでなぁ!死ねっ!!」
まだ死ねんっ!
「風よ!【暴風の砲弾】!ぐふぅっ!!」
「くっ!!」
いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
自分の魔法で自分を吹っ飛す暴挙。
全身に爆風を叩きつけられ空中に投げ出された私は、10メドル程飛び受け身も取れずに地面へと激突する。
ぐっ、息が、できない、身体強化がなければ死んでいたな。
だが、これでドートレスと距離を取ることが出来た。
「おいっ!死にぞこない!余計な手間を掛けさせるんじゃねぇっ!!」
ガギンッ!!!
「畜生!この忌々しい魔法障壁がっ!!!」
ふぅ、うまいこと魔法障壁まで飛んで来られたみたいだな。
学院製の魔法障壁はそんじょそこらの魔法障壁とは強度が違う。
馬車に搭載された魔法陣が発動起点となっており、発動した術者の意識と魔法力がある限り持続する。
まぁ、耐久値に限界はあるが、それでも個人の魔法障壁の数十倍だな。
『七星』の1人が相手でも暫くは持つか?
「ノイアーさん大丈夫ですかっ!う、腕がっ!!い、今、止血しますね」
私が障壁内へ飛ばされたのを見て泣きそうな顔をしたミレイちゃんが傍に来てくれたが、
「止血するのは待ってくれ!」
「えっ?!でも…」
「すまないが、このポーチの中に緑色の液体が入った試験官があるからそれを飲ませてくれ」
私は自分の腰に着けてあるポーチから魔法薬を取り出して貰う。
止血してしまうとこの魔法薬を使う意味が無くなってしまう。
はあ、もう起き上がる気力もないぞ。
「これですか?」
「ああ、それだ!」
「試験薬No.75ってラベル貼ってありますけど、これ飲んでも大丈夫な薬なんですか?」
「効能は万能薬レベル、それは間違いない。副作用は飲んでみなきゃわからん!」
「ええっ!」
「おぁっと、血を流しすぎた、早く飲ませてくれ」
目が霞んで来たぞ、ミレイちゃん早く、、、
「あぁっ!もう分かりましたよっ!」
唇に試験官が当てられる感触、そして口の中に流れ込んでくる魔法薬。
嗚呼、適度な甘さとすっきりとした酸味が効いた極上の味。
いや、美味しいのは認めよう。素晴らしい出来だ。
しかし!なぜオーフェンは副作用を無くすことより味に拘っているんだ。
魔法薬に求められているのは効能と安全性だ。その上で飲み易ければ文句はない。
優先順位が違うだろーが!!
全く、うちの連中は頭の出来が素晴らしく良いのに馬鹿ばっかりだ。
魔法薬の効き目は直ぐに表れた。
失った腕の切り口から肉が盛り上がり骨が伸びてくる。
腕がどんどん再生されていく。
「うわぁ~、グロいですねぇ~」
「ミレイちゃん、それは言わないで!」
ミレイちゃんが腕の再生シーンにドン引きしている。
というか、君はこういうことを出来るようになる為に回復魔法を覚えているんだろ。
いつか自分でやるんだから耐性付けとかないと。
そうこうしている内に無事に腕も生えた。
「ノイアーさん、副作用は大丈夫ですか?」
「ああ、取り敢えず異常はな、、、、、」
「ど、どうしたんですかっ?」
「い、いや、何でもない」
この場を何としてでも切り抜けてオーフェンにこの副作用を何とかしてもらわないと。
漢の沽券に関わる。
ガギンッ!!!
ビキッ!!!!
ガギンッ!!!!
ビキビキッ!!ピシピシピシ!
「おらぁっっ!!」
バリンッッッッ!!!!
ドートレスの攻撃に耐えきれず、とうとう魔法障壁が音を立て砕け散った。




