9話 襲撃
「おいおいおい、なんて数だよ」
現れたドラゴンの群れはざっと見る限り30頭は超えている。
ドラゴンは全長5メドルほど。
大きさから判断すると劣等翼竜かな。
「ドラゴ、一度馬車の方に戻ろう!」
その方が良さそうだな。
リオレスの提案に従おう。
馬車の方を見ると御者達が乗客を守る為、魔法障壁を張っている。
見た感じ強度が高そうな魔法障壁だ。
レッサードラゴンの攻撃程度なら暫く耐えられそうだ。
おそらく、御者を任されているのは学院の関係者。
さらに、非常事態でも臨機応変に対応できる腕を持つ魔法師か。
「ミレイ、馬車に戻るぞ!」
「分かったわ!」
魔法障壁があれば対策を講じる時間も稼げる。
まずはミレイの安全確保が優先だ。
リオレスを先頭に、ミレイ、俺の順で並んで馬車を目指す。
俺は魔法の鞄から愛刀を取り出し、戦闘に備える。
「リオレスッ!」
「分かってる!風よ、【風の防壁】」
俺が呼ぶ前には準備が出来ていたようだ。
リオレスが即座に魔法を発動させた。
ゴバァッー!!
急降下してきた1頭のレッサードラゴンが、俺たちに向かってブレス攻撃を仕掛けてくる。
だが、いくつもの風の層を高密度に圧縮し障壁を発生させる魔法が炎を通さずにシャットアウトする。
レッサードラゴンは風の防壁を突破させるべくブレスを吐き続けているが、ブレスはそう長くは続かないだろう。
俺は風の防壁越しにブレスが弱まるのを待つ。
そして、レッサードラゴンのブレスが弱まった。
今だ!
俺は一気に身体中へと魔力を行き渡らせ、身体強化魔法を最大出力で発動する。
「抜刀「閃」!【自在流・断頭】!」
直刀「閃」を抜き、地面を蹴って跳び上がった俺は風の防壁を突き抜け、地上3メドルを飛ぶレッサードラゴンの首を一太刀で斬り落とした。
断末魔をあげる暇も無く、絶命したレッサードラゴンが落ちてゆく。
ドサッ!ドスンッ!
頭と胴がそれぞれ音を立てて地面へと落ちた。
死体からは赤黒い血が流れ地面を濡らしている。
俺は静かに着地すると、追撃を仕掛けてくる他のレッサードラゴンに対応するべく構えを取る。
よーし、あいつらが馬車まで避難する時間を稼ぐぞ。
「リオレス、ミレイ!先に行け!」
「分かった。ドラゴ、頼んだ!」
リオレスは風の防壁を自分達の周りに展開させながら走っていく。
あの魔法なら馬車に着くまで身を守るには十分過ぎるな。
リオレス達は大丈夫そうだな。
俺は、身体強化魔法を使えば馬車までの距離なら一瞬だ。
2人がより安全に逃げられるように、少しドラゴンの数を減らそうかな。
レッサードラゴン程度のモンスター、1対1ならどうとでもなる。
4頭、いや5頭までなら同時に対処が可能かな。
俺の育った山にはもっと強いモンスターが嫌になる程いたからな。
そんな危険な山に年端もいかない子供を放り込む、人でなしの師匠と爺ちゃんはモンスターなんかより更に怖いけど。
しかし、いくら1頭1頭が大したことがなくても、流石にこれだけの数を全て1人で処理するのは現実的じゃないな。
しかも、
「あらら〜、また増えてるか?」
空を見上げると、レッサードラゴンは先程よりも数を増し、今や50頭はいるであろう。
そして、レッサードラゴン達が飛んでいる更に上空にでかい気配が1つ。
結構な高度にいるらしく大きさが良く分からないな。
だがレッサードラゴンより2回りぐらい身体が大きいかもしれない。
しかし、今のところ降りてくる気配はなさそうだ。
喫緊の課題は劣等種どもの退治かな。
「さてさて、お次のドラゴンは〜」
俺は、突っ込んでくるレッサードラゴンの片翼をすれ違いざまに一刀両断。
翼を奪われたレッサードラゴンは飛行能力を失い、地面に激突、胴体着陸する飛行機の如く地面に腹を擦り付けながら滑って行き、そして止まった。
竜ってのは例え下位であっても、その有り余る生命力と頑強な肉体の所為で部位欠損ぐらいでは止めることは出来ない。
片翼を失い怒り狂ったレッサードラゴンが首をこちらに向け反撃のブレスを吐こうとする。
「そのまま死んでいればいいものを」
俺は一瞬でレッサードラゴンの頭上へと移動し、脳天から刀を突き刺して息の根を止めた。
「1頭ずつじゃ埒があかないな」
再び空から襲ってくるレッサードラゴン。
今度はまた首を落とし一撃で仕留める。
何頭か倒すと俺に向かってくるレッサードラゴンが居なくなった。
どうやら、レッサードラゴン達は攻撃対象を馬車の方に集まる人々に定めたようだ。
リオレス達も御者が張っている魔法障壁まで辿り着いたようだし、俺も戻るか。
俺は、進路に重なったレッサードラゴン達を斬り捨てながら一気に馬車まで駆け抜ける。
「お疲れ、ドラゴ。ありがとう」
馬車へと戻った俺にリオレスが労いの言葉をくれる。
「ドラゴくんって強いんだね!ドラゴンを一撃で倒しちゃうなんて!」
「まぁ、ドラゴンって言っても劣等だしな。リオレスだって倒せるだろ?」
「僕の場合は一撃って訳には行かないし、連戦もきついけどね。1頭だけなら倒せるとは思うよ」
「あんまり謙遜しない方がいいぞ。リオレスならもっとやれるだろ?」
「買い被りだよ」
「でも、例えレッサードラゴンだとしてもドラゴンを倒せるんだから2人とも凄いね!」
初めての旅でいきなりドラゴンの襲撃とは、ミレイは何ともついてないな。
しかし、全く怖がっていないのは意外と肝が座っているからなのか、魔法障壁の中にいれば大丈夫だという安心感からなのか。
実際、レッサードラゴンの攻撃は悉く魔法障壁に阻まれている。
攻撃を受けても魔法障壁は安定しているし、暫くは安全だろう。
「だけど、レッサードラゴンを倒してしまって竜族は怒ったりしないのかな?劣等とはいえ、同じ種族だし」
「それは、大丈夫」
リオレスの問いに答えたのは俺でもミレイでもなかった。
「おっさん、誰だ?」
「おっ、おっさん?!俺はまだ29だぞ!」
「十分おっさんだな」
「くっ、君、だいぶ失敬だな!まぁいい。俺はこの32番馬車の御者だよ。名前はノイアー・スケアーだ」
成る程、この人が俺たちの馬車の御者か。
この馬車周辺を覆う魔法障壁を産み出している魔法師。
それにしても29歳には見えないな。
てっきり40歳近くかと思ったぞ。
身長は180センチぐらい、細身、髪の色は焦茶色。
どこにでも居そうな特徴のない顔立ちだが、どちらかといえばイケメンかな。
ただし、老け顔。
「俺はドラゴ、そっちがリオレス、女の子がミレイだ」
俺が3人分の紹介を簡潔に行い、リオレスとミレイが会釈する。
「ドラゴにリオレスにミレイね、取り敢えずよろしくな。君達は学院の受験生だろ?とんだ災難だな」
「災難ね、否定は出来ないな。ところで、さっきのレッサードラゴンを倒しても竜族が怒らないってのは、なんでだ?」
「ああ、端的に言えばレッサードラゴンは竜族じゃないってことさ。竜族ってのは知性と言語を有する種族だ。だから、知性も乏しく、言語も失ったレッサードラゴンは竜族たる資格がないんだとさ。彼等は竜族である事を誇りにしているから明確に区別をしている。だから、レッサードラゴンは「竜」ではなくドラゴンと呼ばれるのさ」
「へー、それは知らなかった」
「だから、竜族を相手にドラゴンって呼ぶのはやめておいた方がいい。彼等にとっては最大の侮辱だ。人間に対して「お前はウーキーだ」って言うのと一緒だな。逆鱗に触れたくなければ気をつけることだ」
ウーキーは人間大の猿型モンスターだな。
かなりおバカなモンスターとして有名だ。
同じ仕組みの捕獲用の罠をいくつか並べて設置したとしよう。
罠はカモフラージュなどせずにあからさまな状態だ。
にもかかわらず、餌に釣られたウーキーはいとも簡単に罠にかかってしまう。
更に、後から来た個体がすぐ隣にある罠に同じ様に捕らえられる。すると、罠に掛かったウーキー同士で、お互いを馬鹿にし合って笑っている光景がよく見られる。
そういったことから、「ウーキー」とは、欲望に忠実で後先考えないような人物や思慮の浅い人物、学習能力がない人物などに対する蔑称になっている。
ちなみに、ウーキーに食料を盗まれた冒険者はウーキー以下として笑い者になるらしい。
恐ろしい。
「な、なぁ、あんたら」
「ん?」
背後から声を掛けられたので振り向くと、知らない男がいた。
誰だこいつ?
すると、ノイアーが俺と男の間に割って入ってきた。
「お客様、何か御用でしょうか?」
話しかけてきた男はどうやら乗客みたいだな。
ノイアーが御者として対応する。
「の、呑気に話してる場合か?この魔法障壁だっていつまで持つか分からないんだ。は、早くここから逃げないといけないんじゃないのか!ガキの相手なんか、あ、後にしろよ!」
この男はレッサードラゴンの群れに完全にビビっているようだ。
しかし、自分がビビっているとは思われたくないのだろう、強気な口調で話そうと試みているが上手くいっていないな。
というか、お前の言うガキがレッサードラゴンを倒したところを見てないのかね、こいつは。
対するノイアーは至って冷静だ。
「お客様、ご説明をしますので落ち着いて下さい。まず初めに、レッサードラゴンの群れが現れてすぐに、私達はジェフティアへの救難信号を発しています。ですので、あと少しで応援が到着します。そして、この魔法障壁は移動しながらですと今ほど強度を維持できません。助かる為にはこの場で耐えるのが最善です。ですから、馬車の中でお待ち下さい。馬車の幌にも防御魔法を施してありますので、中にいればより安全です」
ノイアーは一息に説明して乗客の男に馬車に戻るように促す。
男はノイアーの迫力に押されたのか、反論もせずにすごすごと馬車へ戻っていった。
「なぁ、おっさん」
「おっと、ドラゴくん!また、おっさんと呼んだな。俺を呼ぶ時は名前で呼んでくれたまえ」
「じゃあ、ノイアー」
「むっ、目上の人物には敬称を付けなさいと言いたいところだが。まぁいいだろう、今の君はお客様。それで、なんだい?」
「ジェフティアに応援を要請したこと、応援が来ることは事実だろうが、この場で応援が来るまで耐えるのが最善とは思えないぞ」
ノイアーは涼しい顔で俺たちと話をしながらも魔法障壁を維持しているが、他の御者達には疲労の色が浮かんできている。
もう暫くは大丈夫だと思うが、レッサードラゴン達の攻撃が激しさを増せば、応援が来るまで凌げるかは微妙だな。
この数のモンスターに襲われることは想定外だったのだろう。
「だから、こちらから打って出る。君達に声を掛けたのはその為さ」
成る程ね。
俺とノイアーは目を合わせてニヤッと笑った。




