プロローグ トト・カーン・ハーラの述懐 1
私の名は、『トト・カーン・ハーラ』
これは約2000年前、私がまだ幼い時代の話だ。
この世界、『セルミラーレ』には私が生まれる遥昔からあまたの種族が共存しておる。
人族、エルフ族、ドワーフ族、鳥人族、獣人族、魔族、そして私が属する竜人族。
これら人種と呼ばれる7種族。
そして、精霊族、竜族、巨岩族、霊族、水人族、樹人族ら言語と知性を有する人の形を取らぬ6種族。
合わせて13種族の王達によって世界は平和的に治められていた。そして、その王達を人々は殊更に敬意を込めて十三賢王と呼び、讃えていた。
私が産まれて間もなく、この世界に純粋な悪、邪悪を超え極悪さえ可愛く思える『悪』が突如として出現した。そして、それは巨大な力を持って人々の殺戮を始めた。
最早各国の軍隊のみでは太刀打ちできないと判断した王達は、自らの民を守る為、自身と精鋭達で『悪』を滅ぼすべく共に戦った。
しかし、その存在の力は想像を絶するものだった。
相手はたったの1人。
しかし、エルフ族、ドワーフ族、鳥人族、巨岩族、霊族の王達は最初の戦いでたった滅ぼされてしまった。
残った8人の王達は深手を追いながらも結界によって『悪』を封じ込めた。
だが、封じたはいいが『悪』を滅ぼす手立てがない。
結界が破られれば再び暴れ始めてしまうだろう。
結界を維持するエネルギーも長くは持たないと王達が焦る中、魔族の王子が結界の中へと飛び込み『悪』との戦いを繰り広げ始める。
8人の王達は我が目を疑った。その王子の父でもある魔王でさえも。
突出した力はないが謙虚で勤勉、家臣達には慕われ、王位を継いでも国の統治は無難に行える程度には優秀。
しかしながら、王としての資質は凡庸である。
それが魔王による王子の評価であった。
ところがその王子が13の王達をして結界に封じ込めるのがやっとだった『悪』と互角、いや僅かながらに優勢に戦いを進めているのだ。
そのあまりに激しい戦いで結界が破れぬよう王達とその側近は全力を尽くした。
一人、また一人と結界の維持に力を使い果たした者が倒れていく。
そして、いつ終わるともしれぬ戦いは42日にも及んだ。
決着の時が近づいた時、戦いを見守った者たちは皆、王子が勝ったと思ったそうだ。
しかし、結果は違った。
そこで何が起こったかは私には計り知れぬ。
ただ、魔族の王子が亡くなり、手負の『悪』は去った。
幼い私が知り得たのはただそれだけだった。