惑わしの森12
*
「うまいな、これ。」
「野兎なんだ。
奴ら、数が少ない上にすばしっこくて、なかなか捕まえられないんで、たったこれっぽっちなんだけどな。」
アランは、野兎の干し肉をふるまってくれた。
そのお返しに、俺達は豆の缶詰をアランに食べさせた。
「ところで、あんた…いつからここにいるんだ?」
「……さぁ……」
「さぁって…どういうことなんだ?」
「俺自身、あれからどのくらいの時が流れたのかよくわからないんだ。
この洞窟に来て、もう一年近くは経ったと思うけど、ここに来るまでに一体どのくらい森の中を彷徨っていたのやら…」
「そ、そんなに長い間いるのか!」
「まぁな、もちろん、居たくて居るわけじゃないぜ。
きっと、ここにはやっぱりなんらかの術がかけられていると思う。
話に聞いてたよりもずっと広いし、俺もかなりの間出口を求めて彷徨ったが、どんなに頑張ってもこの森からは出られなかった…」
アランは今までとは違い、とても重苦しい声でそう言った。
やはり、そうだったのか…と、俺の気分も沈んだ。
そのことは俺も薄々感じていた。
ここが話に聞いてた大きさとはとても違うような気がしていたんだ。
でも、よく考えてみれば、そもそも生きて帰った者がほとんどいないようなこの森だ。
実際、どのくらい広いのかなんてわかるはずもない。
本当は噂よりもずっと広い森だったんだと思っていた。
いや、そう思い込もうとしていた。
術がかけられてるとは思いたくなかったんだ。
だって、もしそうだったら、ユリウスにも出口がわからなくなるってことで…
それはつまりここから一生出られないってことになるから…
「君は、なぜこんなところに来たんだ?
ここが危険な場所だってことは知っていたんだろう?」
「あぁ、それはもちろん知っていた。
だが、俺は山育ちだ。
小さな頃から山に慣れ親しんでいる。
だから、大丈夫だって過信してしまったんだ。
実際、ここでは危険な目にもあったが、山育ちだったことで俺はなんとか生き延びた。
普通の奴ならきっと死んでただろうな。」
「……ここに来た理由は?」
ユリウスの重ねての質問に、アランは苦笑した。




