魔女2
「こっちで良いんだな?」
そう言うと、ユリウスは俺の方を振り返ることもせず、すたすたと歩き出した。
奴は俺が差し出した片手を見ても、鼻で笑っただけだったんだ。
こっちは気を遣ってやってるってぇのに、なんて失礼な奴だ!
俺は差し出していた片手を固く握り締めた。
怒鳴り散らかしてやりたい所だが、残念ながらそうも出来ない。
元の身体に戻してもらうまでは、こいつを怒らせることもこいつと離れることも絶対にやっちゃいけないんだ。
そうじゃなきゃ、俺は愛するエリーズとの結婚が出来なくなるんだから…
(落ち付け…落ち着くんだ。
すべてはエリーズと結婚するため…元の男に戻るまでの辛抱だ。
なぁに、アレクシスを捕まえればそれですむんだ。
そんなに長くかかるわけじゃねぇ。
だから堪えろ…堪えるんだ…)
俺は心の中でそんなことを考えては、自分自身に言い聞かせて込み上げる怒りを押さえた。
そうだ…なるべくいやなことは考えず、エリーズのウェディングドレス姿や将来二人で住む家のことでも考えよう。
あいつとは、必要なこと以外極力話さないようにして、俺は楽しいことだけを考えて旅をしよう…
現実逃避もたまには必要なことだ。
そうでなくとも、今現在の俺の状況をまともに考えたら、絶望的過ぎて何もかもがいやになっちまいそうだったから。
(……おっ!?)
俺の前を歩いていたユリウスが不意に立ち止まり、俺の方を振り返った。
「ど、どうしたんだ!?」
「まだ遠いのか?」
「まだって…ついさっき出発したばかりじゃないか。
隣町まではまだしばらくはかかる。」
俺がそう答えると、ユリウスは眉間に深い皺を刻み、小さく舌を打った。
足でも痛くなったのか、疲れたのか知らないが、奴はやけに不機嫌だ。
これだから旅慣れてない奴は……
そう思って少し苛々したが、俺は何も気にしていない素振りをして歩き始めた。
ユリウスは大股で俺の脇をすり抜け、すぐに俺を追い越した。
(ちっ、行き先も知らないくせに…)
ユリウスの背中に向かって、俺はあっかんべーをして憂さを晴らし、再び、エリーズとの甘い夢を頭に思い描きながら奴の後ろを歩き続けた。