最高で最悪の日12
*
「エリーズ!起きてるか!?
エリーズ!」
俺は、エリーズの泊まってる部屋の扉を叩いた。
「……誰?」
程なくして、扉の向こう側から聞きなれたエリーズの声が聞こえた。
「俺だ!」
「……俺?」
(あ…そうだった…)
今の俺は、今までの男の俺じゃないってことにはたと気付き、慌てて言い直した。
「わ…私…ステファンの妹の…」
「……ステファンの?」
俺がそう言うと、エリーズはやっと鍵を開けてくれた。
まだ起き立てらしく、ガウンを羽織り、全くのすっぴんで髪も乱れていたが、それがまた妙に色っぽい。
「何?私の顔になにかついてる?」
「え?……あ、そうじゃねぇんだ……じゃなくて、そうじゃないんです。
に、兄さんが言ってた通り、綺麗な人だなと思って…」
俺がそう言うと、エリーズの顔は不機嫌そうな表情に変わった。
何か気に障ることでも言ってしまったのか、それともこんな朝早くに叩き起こしたのがまずかったのか…
「……そんなことより、こんな朝っぱらから何なの?
ステファンに何かあったの?」
「あ、そ、そうなんです!
じ…実は、家族にものすごく大変なことが起きて、私ではどうにもならないので兄さんを呼びに来て…
兄さんはその用が片付くまで帰って来れませんが、なるべく早くに戻って来るからしばらくの間待ってて欲しいと、あなたに言付を頼まれて…」
話しながら自分でもいやになって来る程、ひどく曖昧な言い訳だった。
だが、今はこのくらいのことしか思いつかず、俺はエリーズがどんな反応を見せるかと、どきどきしながら彼女の返答を待った。
「……そう。
わかったわ。」
「え……それだけですか?」
あまりに素っ気ない彼女の言葉に、俺は思わずそう問い返していた。
「それだけって…他になにかあるの?」
「い…いえ…そういうわけでは…」
「じゃあ、もう良いわね?
私まだ眠いから失礼するわ。」
冷たく扉が閉められようとした時、俺はたまらなくなってエリーズの身体に抱きついた。
「な、何なの!?一体…」
彼女が驚くのも無理はない。
エリーズは俺を引き離そうとしたが、俺は力を込めてエリーズの身体にしがみついた。
これからしばらく…もしかしたら、考えているよりずっと長い間、会えないかもしれないんだから。
「エリーズ…兄さんが…あなたを誰よりも愛していると…
そして、兄さんの代わりにハグを…」
そう言った途端、エリーズは俺の瞳をじっとみつめ、その腕から抗う力が抜けた。
(ありがとう、エリーズ…
愛してる…世界で一番愛してるぜ…)
口に出せない想いの丈を、心の中で俺は何度も叫び続けた。