あの町へ12
*
「この山を越えたら、すぐだ。」
山神の祠へは、十日程の日数がかかった。
夜になり、その晩は、ふもとの小さな町の宿屋に泊まることになった。
「ちょっと聞きたいんだが…
三か月程前に、エリーズって女がここに来なかったか?
金髪で、背が高い別嬪なんだが…」
「エリーズさんなら来たよ。」
「ほ、本当か!?」
「あぁ、宿帳にそう書いてあったし、ここには若い女の泊り客は滅多にないから、よ~く覚えてる。
確か、山神の祠に行きたいとか言ってたな。」
「そ、それで、その他には何か言ってなかったか?」
「祠の先の町のことをあれこれ聞かれたよ。
多分、祠に行ってから、そのまま山を越えて向こう側に向かったんだと思う。」
「そ、そうか、ありがとう!!」
やった!
エリーズの手がかりがついにみつかった!
山神の祠の向こう側に行けば、きっと、またエリーズの足跡がみつかるはずだ。
「手がかりがみつかって良かったな、ステファン。」
「ありがとう、アラン…」
「エリーズがみつかると良いな。」
「そうだな、頑張って探すよ。」
俺達は、宿で食事を摂りながら、他愛ない会話を交わした。
「なぁ…やっぱり、ステファニーはユリウスとデキてたんだと思うか?」
「え?いや…そうは思わない。」
「じゃあ、なんで俺を置き去りにした?」
「それは……」
なにかないか?
アランの心の傷を少しでも和らげることの出来る嘘が…
その時、稲妻のように俺の頭にひらめくものがあった。
「多分…ステファニーは、あんたとは結婚できない訳があったんじゃないかな。」
「だから…それは、ユリウスとデキてたからじゃないかって思うんだ。」
「俺は違うと思う。」
「違うって…じゃあ、どんな風に思うんだ?」
アランは真剣な顔で、俺をみつめた。
「あんた、話してくれたよな?
その二人は村の守り神であるフクロウを探して、あちこちを旅してたって…」
「あぁ、その通りだ。」
「今時、守り神だのなんだのって…そりゃあ、相当に閉鎖された村じゃないかって思うんだ。」
「まぁ、確かにそうだよな。」
「ってことはだぜ…村にはきっと古いしきたりもいっぱいあると思うんだ。
たとえば、余所者とは結婚してはいけないとか…もしくは、守り神であるフクロウの世話を任されてる者は、言ってみれば、巫女と同じようなものじゃないか。
だから、一生、結婚せずにフクロウの世話をしなきゃならないとか…そういうしきたりがあったんじゃないだろうか?」
アランは驚いたような顔をして、じっと何かを考え込んでいた。