あの町へ6
*
「大丈夫か?しっかりしろ!」
「う、うう…」
目が覚めた時、あたりは夕暮れに包まれ、俺の前にはユリウスがいた。
ゆっくりと半身を起こす…
「ユリウ…ス……」
俺は思わず自分ののどに手をやった。
そう…俺の声は元通りの男の声に戻っていたからだ。
「ユリウス…俺……」
胸のふくらみもなくなっていた。
折り曲げられたズボンは、脛のあたりまでしかなく、ぶかぶかだった服もぴったりになっていた。
そっと、股間に手を伸ばす…
あった!あるべきものがそこにはあった。
「や、やった…!
俺…男に戻ったんだ!!」
俺は思わずユリウスに抱きついていた。
ユリウスは嫌がりもせずにじっとしていた。
「……おまえにはすまないことをしたな。」
「え?」
ユリウスには似つかわしくないその言葉に、俺は一瞬我が耳を疑った。
「あ…カエルに変わる呪いも解いておいたから、もう心配はない。」
「そ、そうなのか、ありがとう。」
俺がそう言うと、なんとなく気まずい沈黙が流れた。
「ステファン…」
ユリウスが俺の名を呼んだ。
今まではずっと「お前」呼ばわりで、名前を呼ばれたことはほとんどなかったから、なんだかちょっとおかしな気分だ。
「なんだ?」
ユリウスは、俺の目をじっとみつめ…そして、ゆっくりと口を開いた。
「……おまえには本当に世話になった。
アレクシスをみつけてくれてありがとう。」
「ユリウス……」
そんなこと言われたら、調子が狂うじゃないか…
「俺の方こそ大変なことをしてしまってすまなかったな。」
ユリウスは小さく首を振る。
「すぐにエルフの里に戻るのか?」
「あぁ…こっちにはずいぶんと長居をしてしまったからな。」
「そうか…じゃあ、達者でな。」
「あぁ…おまえもな。」
俺達は、お互いの身体を強く抱きしめた。
大嫌いだったはずのユリウスが、今はまるで親友みたいに思える。
「じゃあな!」
「エリーズとかいう女と幸せにな…」
ユリウスはゆっくりと町はずれの方へ歩き出した。
「ありがとう!」
「またいつか……」
「あ……」
手を振るユリウスの姿が急に薄くなり、そして、空気に溶け込むように掻き消えた。
(ユリウス……)
なんて言ったら良いんだろう…
ほっとしたような寂しいような…そんな切ない気持ちが胸の中を埋め尽くした。
意地悪でわからず屋でいつも不機嫌で…
そんなエルフがいたことを、俺は、きっと、一生忘れない…
俺はユリウスがいなくなった場所をずっとみつめてた。
(あ……!)
そうだ、こうしてはいられない!
早くエリーズに会いに行かなきゃ!
「エリーズ!!」
俺はその場から駆け出した。
エリーズの待つ宿屋を目指して…!