冒険者ギルド
「さて、ライト殿もやると言ってくれたので安心して進められるな。待たせたな。ジン殿」
「……ああ。だいぶ待たされましたよ」
ジンと呼ばれた勇者は王の言葉にようやくかという感情を隠さずに返事をする。
……というか、今の言葉的に僕が王の提案を呑むのは予定の一つでしかなかったのか。
「それで、さんざんそこの男の話の間も待たされて、一体俺に何をさせようとしてるんでしょうか?」
「うむ。さっきも言ったが聖剣の力を開放するには資格がいる。迅殿も、元の世界に戻りたいと考えるならそれは必須と言って良い物である」
「……それはそうだ」
不満を隠さずにいる勇者に王は言う。なんでも元の世界に帰るには聖剣の力の開放が必要らしい。
「そこで、こちらで冒険者に依頼を出し指導をしてくれる人を呼んでおいたのだ」
「……なるほど。しかしそれなら、ローグレスさんでは駄目なのですか?」
「……すまないが、私は少し忙しくてな」
勇者の問いに対して勇者の隣に待機していた男、ローグレス騎士団長が申し訳なさそうに断りを入れる。
「この一月の訓練の様子は余も報告を受けておるし、すこし様子も見させてもらっていた。さすがは勇者というべきか、一月でだいぶ成長しておる。そろそろ、次に進んでも良さそうだ」
どうやら勇者もここ一ヶ月ほど訓練を受けていたらしい。
そもそも、そもそもの話し。どれくらい強いんだろうこの勇者は。
「ジン殿とライト殿。二人にはそれぞれ一人ずつ冒険者を選んでもらう。そしてその二人から指導を受けてもらい、実力を高めてもらう」
冒険者の指導を受ける。言葉にすると単純だが、一般の人間にとってはそれは貴重かつリスクを伴う手段だ。依頼する側にとってお金の負担が尋常ではない。その上、そこで得られる経験が自身にとって良い物になるかどうかはその時次第だからである。
「どれくらい受けるんだ?」
「それは雇う冒険者に一任するつもりである。故に其方達の能力次第であるとしか言えん」
勇者の質問に変えた言葉は僕にとっても残酷な回答だった。
つまり、受けたからには認められないと村に帰ることもできないと。……僕、いつ帰れるんだろう?
「……なるほど。で? その冒険者って言うのは何処に行けば会えるので?」
「そこについては心配の必要はない。もうすぐ来る」
もうすぐ来る? ここに呼んだのか。僕が断っていたらどうするつもりだったんだろう?
そんな無駄な事を考えていたら後ろからさっきの大きいドアが開く音がした。
「失礼します。国王様。冒険者様達をお連れしました」
「ご苦労。下がって良いぞ」
「はっ」
どうやら、その冒険者達が来たらしい。どんな人達か気になったので後ろを振り返って見てみる。 すると、こちらに向かって歩いているのが二人いた。
「――!?」 「わー!」
それを見たとき、驚きが隠せなかった。セレナも驚きを隠しきれずに声が出ている。いや、あれを初見で驚くなという方が無理だと思うが。
「アグリアス。久しぶりだな」
「んー。国王陛下。依頼を戴きこちらにはせ参じました」
「久しいな。グラム。そして、よく来てくれたな。ラーク・ローデルス殿」
一人は赤い髪の男。見るからに実力のある冒険者といった雰囲気の男だ。こちらはいい。
そして、もう一人。問題なのはこいつだ。奇抜な服装を身に纏い白と黒に分かれている仮面や黒いシルクハットを被る見るからに怪しそうな男なのか女なのか判別しにくい人物――今の声的に男だと思うが。
「来てすぐで悪いが早速依頼内容の確認を」
「わぁかってるよ。要は後ろのガキどもの子守だろ?」
「ああ。頼むぞ二人とも」
「んー。はい。是非ともおまかせください!」
内容についてはあっちも理解しているらしい。さて、どっちの方が良いのだろう?
「セレナ。どっちが良いと思う?」
「うーん? どっちでもいいんじゃないかな?」
あちらが話している間に、セレナに小声で相談してみるがどっちでも良いと返される。……よし。
「さて、ジン殿とライト殿。どちらに指導されたいか指さしてもらえるかね? ああっ。心配はいらぬ。どちらの実力も余が保証しよう」
少し悩んだが、とりあえず赤い髪の方の冒険者に指を指す。
多分被るかなと思って勇者の方を見てみると、意外にも勇者はシルクハットの怪しい方を指さしていた。
「……うまく分かれたな。意外にも」
王が綺麗に別れたのを意外だという目で見ている。一体どっちに傾くと思っていたのかは知らないが。まあ、こんな所で手間取らなくて良かったと思う。
「さて、組み合わせも決まったことだ。後はそれぞれで行動してもらおう」
「……じゃあ行くぞ」
「ではでは、行きましょうか」
王の言葉の後に冒険者達が指名された方に近づき、付いてくるように言うのでそれに付いて行く。 部屋を出てしばらく歩き、王城の入り口らしき門を出る。青空を見て、二日しか経ってないらしいがえらく久しぶりに外に出たような気分になる。
「んー。では、私たちはこの辺で失礼させていただきます。竜狩り殿」
「ああ。せいぜい頑張れよ。奇術師」
王城を完全に出たところでシルクハットの冒険者はそう言ってこちらに軽く頭を下げ街中に歩いて行く。それに付いて行く勇者が僕達を通り過ぎる。
「……っち」
通り過ぎる時に、勇者から舌打ちみたいな音が聞こえた。なんだあいつ。僕のこと嫌いなのか? まあ、いかに勇者といえども僕もあんなやつ好きにはなれないが。
「……さて。今からギルドに行く。そこのガキは付いてこい。嬢ちゃんは帰れ」
「私も一緒に行きます! だめですか?」
「……どっちでも良い。ただし、来るならコイツと同じで終わるまでは逃げ出すなよ」
「はいっ!」
男に無愛想な言葉にセレナが勢いよく返事を返す。まあどっちかというと僕の方が逃げ出しそうだけど。
「あのー? そういえばお名前は?」
「……ああ。グラム。グラム・ディグラスだ」
男について行きながらセレナが男に名前を聞くと、名乗ってないのを思い出したかのように男はグラムと名乗る。
「私はセレナです。よろしくお願いします!」
「ライトです。よろしくお願いします」
「ああ」
こちらも名乗るが、特にこちらを見ることなく特に興味なさそうな返事をされる。
なんか少し居心地の悪い雰囲気だと思いながらしばらく歩く。
しばらくすると街の中でも特に目立つ大きさの建物が見えてきた。
「あそこだ。ギルドは来たことあんのか?」
「ないです」
「そぉか」
ここに訪れたことはあるのか聞かれたので素直にないと答える。その返事は予想していたのかそれとも別に答えはどうでも良かったのか一言だけ返される。
やはり、あまりこっちに興味は無いらしい。
グラムさんはこっちを特に気にすることなくあの建物の中に入っていくので、それに付いて行く。あちこちに様々な格好の冒険者が居り何かが張られている壁を見ていたり、手前のテーブルや奥の酒場で談笑していたり皆が自由にこの場所にいる。
「おい。止まってるな」
思わず止まって見回してしまっていたらしく、少し先にいたグラムさんの声に慌てて付いて行き、のまま受付にまで辿り着く。
「冒険者ギルドへようこそ! ってグラムさん! 今日はどんなご用ですか?」
「後ろのガキ二人の登録を頼む」
「畏まりました! それではそこのお二人さん。こちらへ!」
何枚かお金らしき物を受付に渡し、目的を伝えるグラムさん。それを受け取った受付の人に呼ばれたのでそちらに行く。
明るい声が印象的な職員だと思ってる、とこっちに何か透明な板を差し出してくる。
「これは?」
「登録魔版です。こちらにお二方の情報を登録させていただきます!」
なんでもこれに手を乗せるとその人のについて記録されギルド管轄の冒険者になれるらしい。なんか王都に入る前の門で使った掌紋石版に似ているなこれ。
そう思いながら、手をかざす。すると、わずかに体から何かが抜けたような気がした。
「……はい。完了です! では次そちらの方お願いします!」
「はいっ!」
次にセレナがその板に向けて手をかざす。
「………はい。こちらも完了です! ……では、こちらの書類にご記入をお願いします!」
どちらも登録が終わったらしく、次に紙となんか鉛筆らしき物をを渡され記入を求められたのでそ内容を確認する。
右下に謎の枠があったが思ってたより書く内容は少なく名前と種族だけで良いらしく、それを書いていき書き終わった紙を受付の人に渡す。
「……はい。では、親指をこちらにつけ、この枠に親指を押しつけてください!」
そう言ってなんか小さい容器を出されたのでそれに親指を付ける。そして、さっきの謎の右枠に付けた親指を押しつける。
「……はい。問題は無いようです。登録は完了です! では次にギルドの制度について簡単に説明をさせていただきます!」
二人とも登録が終わったのを確認した受付の人が説明に入る。
「冒険者にはランクが存在します! 上からS,A,B,C,D,E,F,Gの七段階に設定されており、基本的にはすべての人がGランクから初めていただくことになっています!」
ランクって七つもあったのか。せいぜい五つぐらいなのかと思っていたので、意外だった。
「通常ソロの場合、自身のランクを超える依頼を受けることはできません! しかし、パーティで挑む時際にランクの最も高い人の依頼に付いて行く事は可能になっております!」
ランクに高い人に付いて行くのは可能なのか。まあ、指導の時とかそうできないといろいろと困るだろうしな。
「注意しなくてはいけないのは、Gランクの方は一ヶ月、Fランクの方は三ヶ月に一回は依頼を受けないと冒険者登録を破棄させていただきます! また、問題を起こした冒険者につきましてはこちらから処分を出させていただきます! 場合によっては即時登録破棄となってしまう恐れがあるのでお気を付けください!」
そんな決まりがあるのか。まあ冒険者って割と問題起こす人も多いらしいしそれなりに厳しいのはしょうがないのだと思っておこう。
「昇格につきましては、後で配る冒険者証に条件が記載されているのでそちらをご覧下さい! また、冒険者証を受付に提示すれば昇格試験が可能か調べることもできますので、是非とも声をお掛けください!」
昇格するためには条件なんてものもあるらしい。Cランクってどのくらいかかるんだろう? いつ頃村に帰れるのか心配になってきた。
「以上です! 何か質問はございませんか?」
「ないです!」
「ありません。大丈夫です」
他に聞きたいことはないか聞かれたかが今は聞きたいことすらよくわからない。まあ、気になることができたら聞けばいいかと考えてると、受付の人が僕とセレナに何かを渡してくる。
「こちらが冒険者証です! 依頼を受ける時にはこちらを提示してもらいます! 無くした場合の再発行は例外なくラー金貨一枚とさせていただいていますので無くさないでください!」
「おー! かっこいいー!」
これが先程話に出てきた冒険者証らしい。セレナが輝いた眼でこれを見ているが、これがラー金貨一枚か。高いなぁ。絶対に無くさないようにしよう。
「このまま依頼を受ける事も可能ですが本日はいかがされますか?」
「いや……。今日は受ける気ねぇんだ」
「そうですか! では、なにかありましたらこちらにお尋ねください!」
早速依頼を受けるのかと思ってたが、そうでもないらしくその場から立ち去るグラムさんに付いて行く。
王都の中心から少し離れた宿が多い区画に入り、その中のほかより少しだけ大きな広場みたいな庭がある家で立ち止まる。
「あの……。ここで一体何を?」
「ああ。 とりあえず説明からするかぁ」
こんな所に連れてきて何をするのかと若干不安に思って来たので聞いてみると、やっと説明をしてくれるという。ようやくだ。
「さて、お前らを強くしなけりゃならないが、ゆっくりやってると時間がかかり過ぎちまう。そこで、この宿に部屋を取ってもらう。一部屋でも二部屋でも構わねえが。その費用はてめえらがギルドで依頼を受けて稼いできてもらう」
いきなり衝撃的な事を言われた気がする。ここに泊まる? 時間を無駄にできないのはわかるが、いきなりそれは難しいと思うのだが。
「そして、それ以外の時間に俺が訓練をつける。ここまでで質問は?」
「あの、僕達泊まっていた場所があるんですが……」
「宿ならこっちに移せ。知り合いに泊めてもらってんなら後で事情を話してこい」
どうやらルルードさんの家から移動してこなければいけないらしい。心配掛けたであろうあの人に更に申し訳なくなる。
「もうねえか? ねえなら早速訓練に入るが」
こちらにもう質問がないか確認したグラムさんは、先程見えた大きな庭に足を進め、下の土に適当に円を描き、その円の中心に立つ。……? 何をする気なんだ?
「さて、ここから俺を出す。それが最初の訓練だ」