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2つの聖剣  作者: わさび醤油
序章  始まりの王都
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勇者召喚祭 2

 店を出て活気溢れる道を五分ほど歩くと、目的地である劇の会場に到着した。早速中に入り劇のチケットを買おうと売場の列に並ぶ。やはり人気があるのか列は長くしばらく待つことになりそうだ。


「……そういえば、これ何の劇なんだ?」

「えー!? ライト知らないのー!?」

「……悪かったな」


 並んでいる間、ふと気になったので、セレナに何の劇なのか聞いてみるとなぜかとても驚かれた。そう驚かれても劇を見たいとしか聞いてなかったので内容は知らないのだが。


「えーっとねー。うーん。あっ! ちょっと待ってて!」


 説明をしてくれそう出会ったセレナだが、自分の説明力ではうまくできないのか。それとも、自分もよく知らないのかはわからないがとにかく言葉に詰まる。おでこに指を当てムムムとうなりながら悩んでいると何かを見つけたらしく、列から出て、どこかに走って行った。何だろう? トイレかな?


「おまたせー! これだよこれ!」


 どうやら、売場の右側に置かれていた宣伝用の紙を持ってきたようだ。セレナからそれを受け取りそれを見てみる。


「……太陽フルガの勇者?」

「そう! よく詩人さんが聞かせてくれたやつ!」


 太陽フルガの勇者。それは、この世界に無数にある勇者伝説の中でも特に人気のある話の一つである。騎士見習いであったロッドが太陽神フルーレの祝福を受け黄金の聖剣を与えられ、たった一人で旅に出る。そして、幾多の冒険を繰り返し最後には魔王を倒すという物語である。勇者伝説の中でも最初期の物とされ、その後の多くの勇者伝説の原型になった一つであるとされているこれをやるのか。


「……でも、これ祭り中にやる物か? この時期にやるのってだいたい仲間と一緒に魔王を倒す系のやつが多いって聞いた気がするけど」

「なんかねー。勇者様が召喚された記念にこれをやろうって声が多く上がったんだってー」


 思わず出た疑問にセレナが紙に書いてあったらしく答えてくれた。……なるほど。いくら有名な勇者伝説といっても作り話である最初の三つの一つをこの勇者召還祭でやるのかと思ったが劇団内でそういう意見があったのか。まあ人気作だしなあれ。


「ライトあの話大好きだったもんねー。聞き終わった後はいつも僕は勇者になる! って言ってたし」

「……恥ずかしいからそれいうのやめてくれ」


 セレナが昔の事を思い出すが本当にやめてほしい。あんな自分がどのくらいちっぽけな存在かもわからずに大口を吐いていた恥ずかしい過去は思い出したくないのだ。勇者なんて僕にはなれるわけはないのに。なんだか気持ちが沈みかけていた時に都合良く購入の順番が回ってきたので、会話を切りお金を払ってチケットを二枚買い、奥の劇場へ向かう。劇場へ着くと、もうだいぶ席は人で埋まっていた。チケットで指定されてる席に行き、腰を下ろす。セレナとすこし話していると、天井の明かりが少しずつ消える。


「始まるね?」

「ああ。」



 光が消え、舞台が始まる。城の一兵士であるロッドが仕事で森の泉の調査に行き、その泉のそばにに刺さっている抜けない石を引っこ抜く。その中に封印されていた女神フルーレに魔王の復活が近いことを知らされる。世界の危機であるこの事態に女神はロッドが抜いたその石に自身の力を込め黄金の剣に変える。そして、自身の加護を与え魔王討伐をロッドに頼みこむ。ロッドはそれを快く引き受け城の兵士をやめ世界を巡る旅に出る。虹色の洞窟。灼熱の浮雲。厄災級ハザードモンスター。様々な困難を途中で会ったエルフのエルと共に乗り越えていく。そして、長い旅の果てにたどり着いた魔王との決戦。世界を巻き込みかねないほどの魔王との戦いの最中、ロッドを庇い消滅するエル。彼女に託された最後の魔力で見事魔王に勝利する。しかし、ロッドは戦いで限界を迎えており直後にすぐに力尽きてしまう。生と死の狭間にて、女神と出会い魔王討伐の感謝の印として彼女の蘇生以外の望みを一つ叶えると言われる。ロッドは、生を求めず愛したエルと共に眠ることを望む。女神は世界で一番美しいとされる緑の丘に墓を建て二人の亡骸と黄金の剣をそこに運ぶ。そしてここに眠る二人の英雄に対して祈りを捧げながら、幕が下がる。




「すごかったねー! 特に最後の魔王との決戦!」

「ああ。ロッドとエルの関係もうまく表現してたしな」


 劇場を出て再び街を歩きながら、さっきの舞台について感想を言い合う。その人物が取り憑いてると思えるほどの熱演や魔道具をうまく使うことでより幻想的に表現される舞台。それらはまるで、本当にその場面に立ち会っていると錯覚させられるほどにのめり込ませてくれていた。


「……まあ、できれば黄金の竜の討伐の所もやってほしかったけどな」

「あそこは長いし他よりも暗い話になっちゃうからしょうがないよ! まあ私は魔王城突入前夜をやってくれたから満足したけどね!」


 お互いに思ったことを伝え合う。つい会話に熱が入ってしまうがしょうがないのだ。娯楽の少なかった幼少期に詩人が聞かせてくれた物語。それは僕の、いやあの時一緒に聞いていた僕達三人にとって特別である物語を舞台で見ることができたのだ。


「もうちょっとで中央で勇者様のセレモニー始まるから行こう?」

「……ああ」


 嬉しくないはずがない。だから、この胸にあるもやもやはきっと何でもないのだろう。


「そこの若いお二人さん。すこし見ていかないかい?」


 ふと、声を掛けられる。思わず声のする方を見ると、お店がひとつあった。どうやら、声を掛けてきたのはそこの店のうさんくさそうなおじさんらしい。少し尖った耳の形が見える。どうやら人族ヒューニストではないらしい。めずらしい。


「ちょっと見ていかないかい?」

「わー! きれーい!」

「……魔石売りか?」

「そうさ。まあ鉱石の方がメインだけどね」


 どうやら魔石屋らしい。もう残りのお金は少ないが、まあ見ていくだけならと並んでいる商品を見ると、加工された綺麗な石が並んでいる。


「おおー! 魔力が籠もっている!」

「……お嬢ちゃん。もしかして、魔力の流れが見えるのかい?」

「うーん? なんとなく感じるんだー」

「それはすごい! 修練なしで感じれる人は少ないからねー」

 

魔石に関してはほとんど知らないのでもしかしたら偽物をつかまされる可能性も考えたが、どうやら問題はなさそうだ。どうやらうさんくさいのは外見だけらしい。セレナの感は大体当たるのだ。


「おじさん! お土産用におすすめある?」

「お土産かい? 何人分だい?」

「一人!」


 セレナがお土産に良いのはないか聞いている。おそらくだが、ギルガへのお土産なのだろう。あいつ魔力籠もってる物好きだし。


「……ならこれはどうだい?」

「おおー! ってあれ? 三つ?」


 おじさんが進めてきたのは並んでいる物ではなく後ろに飾られている小さな魔石だった。


「これはどんな魔石なの?」

「これは、奇跡ミラクレの魔石。まあ言ってしまえばお守りさ」


 セレナが魔石について聞くと、おじさんは説明してくれる。


奇跡ミラクレ? 知らない効果だな」

「この辺じゃほとんどないものだからねぇ。そもそもこれを付加するぐらいなら他の強化アップ系統を付ける方が便利だからね」


 聞いた限り、そこまで一般的な効果ではないらしい。


「これは神秘の森ミスリックに住むエルフに伝わる試練に昔使われた物でね。大切な人を本当に救いたいと思いながら魔力を込めれば、奇跡を起こすらしいのさ」


 なるほど、エルフが、それも神秘の森ミスリックで作られた物なのか。だったら聞いたことのない効果も理解はできる。エルフは魔力が人より身近な存在で発展しやすいらしいし、あそこには妖精の国もあると聞く。ならば、こんな複雑な効果を生み出す事も可能であろう。


「すっごーいねそれ! でもなんか高そうだよこれ」

「まあ、実際少し値は張るよ。でも、これを使うために買う人は少ないし、観賞用にするには小さい魔石だから皆買おうとはしないんだよ」


 おじさんは困ったように言う。確かにこれ買うなら並んでいる他の魔石を買う方がお得ではあろう。だが、そんなことはどうでも良さそうに目を輝かせるセレナ。どうやら、お気に召したようだ。


「おじさん! これおいくら?」

「そうだねぇ。いつもは一つでラー銀貨二枚なんだが、今日は祭りだしこれ三つでラー銀貨三枚でいいよ」


 安っ。そもそも、まともなお店で魔石を買うときなんてリル金貨を使う時の方が多いくらいなのにラー銀貨三枚でいいのか。なんか心配になってきた。


「なんでそんなに安いんだ? 質的にももっとするだろこれ」

「ここの魔石はおじさんが自分で獲って加工しているから値も適当なんだよ。そもそもこの商売が趣味みたいなものだしね」


 まじか。全然そんな風に見えないが。まあでも、嘘をつく理由も特にないしそうなのだろう。人は見かけによらないな。


「ライトー。一緒に買わない? これギル君のお土産にしたい! 一人一つでなんか良いし!」

「……まあ、ギルガは魔石とか好きだしな。買うか」

「やったー!!」


 どうやら、ギルガへのお土産はこれで決まりのようだ。まあ神秘の森ミスリックの魔石ならあいつも気に入るか。いや、セレナが買っていっただけで十分入るだろうし気にしなくてもいいだろう。僕とセレナが財布に残している金で魔石を買う。


「毎度あり。いやーもう二年近く売れ残っていたこれが売れるとは。これも太陽フルガの勇者のお導きなのだろう。うん。というわけでこれに入れてやろう」

収納袋ストロージ? 良いのかこんな袋」

「いいさいいさ。容量も小さいし、さすがに魔石を剥き出しにして持ってる訳にはいかないだろう。祭り中は人攫いやスリなんかもあるかもしれないしね」

「……ありがとう。良い買い物だったよ」


 商品を受け取り、手を振って店を去る。本当に良い買い物をしたと思う。


「さて! そろそろ広場行こっ!」

「そうだな」


 喜ぶセレナと共に広場へ向かう。到着するともう人が大勢集まり、いるだけで疲れる空間になっていた。

さすがに前方のステージには行けそうにないので、広場の後方に浮いているステージを映している投影画面に近づく。


「さあっ!! バラービットさんの花魔法で作り出す空中アートはいかがでしたか?? この後はー!! 皆さんお待ちかねのー!! メインイベント!! 今年!! この国に召喚された勇者様と!! 我らが人族ヒューニスト最強!! “雷槍” ローグレス騎士団長がこのステージに来てくれるぞ!!」


 広場に、耳が潰れそうなほど大きな歓声が響く。この今年の召喚祭に参加している人の多くはこれを見に来たと言っても不思議ではないほどに興奮している。当たり前だ。勇者なんて一生に一度見られない人の方が多い幼少期の憧れ。理想。聞いた伝説はみな違えども、勇者という者に、聖剣という物に、ほとんどが夢を見た英雄なのだ。さらにこの国最強とされる騎士団長まで見れると言われたら盛り上がらない訳はないだろう。


「いよいよだねー! 勇者様!」

「……ああ」


 今か今かと待ちわびているセレナに対してあまり喜べない自分。何故だろう? 勇者を見るのは楽しみだったし、見てみたいとは本当に思っていたはずなのに。


「準備が整ったようでーす!! ではー!! 登場していただきましょうー!! 勇者ジン様と騎士団長ローグレス様どうぞー!!」


 司会がゲストを呼ぶ。すると、ステージの横から二人の人が出てきた。片方は知っている顔で白い鎧を身につけており、金の髪と青い瞳を持つ男。騎士団長ローグレス。ならば、もう片方の見たことがないその男こそが勇者なのであろう。歓声がいっそう強まる。


「――静まれ」


 たった一言。鎧の男の決して大きくはないその一言で歓声が一気に収まる。その男の絶対的な存在感に思わず息を呑む。これが闘王アグリアス直属の聖騎士団“ライトニクス”最強の男か。


「先程紹介されたローグレスだ。今日は、この召喚祭のメインステージに招いてもらえた事を感謝する」


 騎士団長が慣れた様子で言葉を続ける。強くもけっして怖くはない彼の言葉に一気に張り詰めた場の緊張をうまくほぐれていく。


「――私の話ばかりではそろそろ飽きてくるだろう。そろそろ、勇者様にも一つ言葉をいただこうか」


 場の緊張もすっかり無くなった頃、騎士団長は会話を切り、勇者様に繋げる。注目が一気に後ろに立っていた男に向けられる。一つ呼吸を置いた後、一歩二歩と前に出てくる。この国では珍しい黒い髪のその少年だ。足が止まり、一回深呼吸をする。


「ど、どうも。さ、先程しょ、紹介されたく、黒崎じ、迅です」


 ゆっくりを口を開くと、言葉を振るわせながら名乗る勇者。どうやらだいぶ緊張しているようだが大丈夫なのだろうか?


「い、一応、今回しょ、召還された勇者らしいです。が、頑張りたいと思います」


 ……大丈夫なのか? 思わず心配になる。


「ははっ。どうやら勇者様は緊張しているようだ。まあ、このような場は初めてらしいのだ。皆大目に見てくれると助かる」


 騎士団長がフォローを入れる。初めてでこんなに人のいる舞台に立たされるのならそりゃ緊張する。逃げ出さずに続けられるのはすごいと思う。いや、それができるから勇者なのか。心の奥が少しもやもやしてくる。さっきも感じたこれは、なんだ? 

 話していく内に、だんだん慣れてきたのか話していくにつれて噛む回数も減っていってる勇者様。


「――俺は魔王を倒すため全力で努力しよう。この剣に恥じないように!」


 勇者が手を上に掲げる。そこには、剣が握られていた。黄金の剣。何者よりも、頭上に浮かぶ太陽フルガと同じくらい輝いているその剣はまさしく伝説の聖剣なのだろう。見ているとさっきのもやもやが大きくなってる気がする。もう見ていたくない。


「……セレナ。悪い。先にルルードさん家に帰ってる」

「おおー! え、どうしたのライト?」

「……ちょっと疲れただけだ。気にせず、楽しんでくれ」

「う、うん」


 盛り上がっているセレナに声を掛け先に帰る。頑張って人の多い広場を抜ける。ああ、本当に何だろうこの気持ちは?



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