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2つの聖剣  作者: わさび醤油
勇者召喚
1/19

太陽の勇者 召喚

「おれはいつかゆうしゃになる!」

 

 ふと思い出す。これは確か幼稚園の頃だったか。タイトルは忘れたが小さな頃に見たアニメか聞かせてもらった物語の中にでも勇者がいたのか。

 そんなことは忘れてしまったがその叶うはずのない夢らしき物を心から回りに誇らしげに言っていた気がする。……ああ。そんな自分の小さな頃の夢にでさえも、いつから、こんなに、どうしようもなくイラつくようになってしまったんだろう?



 ……目を覚ます。ひどくいらつく夢を見ていた気がするが、あまり覚えていないということはどうでもいいのだろうと切り替え、とりあえず今の状況を確認する。……そうだ。授業中だった。

 そう思ったとき、今の回ってない頭には煩わしく思える終了のチャイムがなる。黒板に書いてある課題を写すと、ホームルームが始まり特に何もなく終わる。

 教室でこの後の予定だとか部活に行くかだとか話している会話一つ一つがどうにも癇に障る。

 誰ともしゃべることもなくすぐに教室のドアを抜け下駄箱に行きそのまま帰宅する。


「……つまんね」


 帰りの電車に乗るために帰り道を歩いている時、黒崎迅はふと呟いた。

 回りの音に紛れるほどに小さな音で発していたそれはホームにちらほらといる他の人には発したことすら認識されなくとも自分にははっきりと認識できていた。無意味に呟いたその言葉に更にイラつきどうしようもない気持ちを高めさせていた。

 特に話す友達もおらず、特にいじめられることのないこの平和で何もない学校生活を送る。それを恥じることとはどうとも思っていないのに思わず吐いた言葉はまるでそれを自身が否定しているようだと感じてしまったからだ。


「……コンビニ寄ろ」


 どうしようもない気持ちを抱えて歩きながら、このイラつきもいつもの癇癪であると自分で割り切る。

 駅に着いたらいつものようにコンビニで何か食べよう。そんなことを考えながら、通り道で唯一止まらなきゃ行けない可能性のある踏切が見えてきた。

 渡れるかなと考え出した時、警告音が鳴り出す。急いで渡ってしまおうかと一瞬思ったが電車の時間にも多少余裕はあるし、まあいいだろうとゆっくり歩いた。

 踏切が閉まったのを確認した時、ここの踏切が割と時間がかかることを思い出した。


「あーあ」


 踏切前に着いたとき、軽く後悔し、けれどもどうしようもないので再び開くまで待っていると、後ろから人が来るのがわかった。

 別に、見ていたわけでもない。ただその人物が鼻歌を歌っておりそれ聞こえたからだ。

 曲自体はわからないが何が楽しいのかまるで理解できないほどには気分がよさそうであった。

 後ろで止まるにしても横に並ばれるにしてもこちらの気分が悪くなりそうなそれを続けながら、イヤホンでも付けてしまおうかと考えていると、その少女は止まるわけでもなく踏切の中に入っていった。


「……え?」


 それを見て、自分でも意外だと思うぐらいに一瞬驚いた。

 その少女は自分でも知っている制服を着ていた。うちの制服だ。割と自信のあるその視力で、この不良女が見知っているやつか見てやろうと顔を確認すると、同じクラスの委員長だった。

 まあたしかにここの電車は通るの遅い。しかし、あの真面目そうな彼女がそういうこともするんだなと意外に思っていたところで、彼女は通り抜けるわけでもなく止まった。……止まった? なぜ?


「♪♪」


 彼女は、そのままホームにたって列車を待っているかのようになんともなさそうに鼻歌を歌い立っている。そこにいれば、絶対に引かれ死んでしまうと言うのに。電車が来る。

 早く声をかけなければ。早くこちらに引きずり戻さなければ。そう思った。そう考えた。


「――っ」


 だが、声が出ない。体が動かない。なんとかしなければと思うのに。まるで動く気がないかのように何をしてもぴくりとも動かない。電車が近づく。

 ふと少女と目があった。笑っている。こっちを見ていない。ただ笑っている……何故?なぜ? なんで? どうして? 怖い。こわい。コワい。


「――おいっ!」


 どうにもならないと固まっていた時、後ろから怒声が聞こえ、男の人が全力で黄色と黒の境界線を越えていった。少女の体を掴み、全力で外側へ投げ飛ばした。

 電車が近づく。男も全力でこちらに跳ぶ。――電車が通り過ぎた。なんと間に合った。二人とも助かった。それでも自分は動かない。


「――何をやってるんだ!!」


 少女に向けて怒鳴る男。息も乱れているのも気にせず叱る。

 その怒声に反応するかのように自分の足が勝手に動く。その場から離れたい。そんな心に反応するかのように人生でこれほど必死になったことはないと言うほど全力でやけくそに走った。

 あの怒声が自ら死のうとしていたあの少女よりも助けられず動けなかった自分を強く責める声に聞こえた。

 必死に走った。気づけばどこかもわからない場所に来ていた。暗い日影だ。息を整える。死にそうだ。胸が張り裂けそうだ。しばらくして落ち着いてきた。辺りを見渡すと、そこは河川敷だった。上には橋が架かっていた。知っている場所だ。


「――はあっ。 ――はあっ」


 落ち着いてきたはずなのに息の乱れが止まらない。怖かった。あの男の怒声が。あの少女の笑みが。そして、なにより、人が死のうとしているのに止められず止めようとも動けない自分が、何よりも怖かった。

 精一杯見ないようにしてきた自分の醜い部分を正面から見えた気がした。それがたまらなくどうしようもなく恐ろしかった。

 ひざの力が抜け崩れ落ちる。そのまま蹲り、目を閉じた。いろいろな物から目を閉じ続けた。そうあろうと努力した。

 何分たったか何時間たったか自分ではわからなかったがすべてが暗くなっていった。少し落ち着いた。

 そろそろ帰ろうとふと思い、たった何時間かですぐに立て直せてしまう心の嫌気がさしながら腰を上げる。その瞬間、地面から光が溢れる。


「――!?」


 動けない。またかと再び泣きそうになりながらがむしゃらに体を動かす。今度も全く動かない。

 光が、何か形になっていく。よくアニメやら漫画やらで見る魔法陣に似ていると思った。

 だからどうしたと再度動こうとした瞬間光が爆発する。そして飲み込まれる。

 意識が飛びそうになる。

 その光から一瞬だけ人が見えた。顔も身長も目の色も髪の色もなにもわからないなとわずかに思考したが、刹那、光が更に強くなり、そして。


「どうか、どうか力をお貸しください」


 そんな声が聞こえた気がして、意識を失った。

 光が消失し、その橋の下に残ってるのは、誰のかもはっきりしない鞄一つであった。





「――様!」


 何か聞こえた気がする。また授業中に寝てしまったのか?

 いや、今日はもう学校は終わったはずだ。


「――者様!」


 それとも、布団に入ったままだったか。いやそんな記憶はない。

 いつもの、うるさい母さんの声とは違う。そもそも家に帰った記憶がない。

 誰かが呼んでる。まあ何にせよ起きなきゃ。


「勇者様!」


 ほら呼んでる。……呼んでる? 呼んでるのか? というか勇者様?


「お目覚めください勇者様!」


 目を開けてみると、そこは知らない場所であった。

 わずかな見える程度の明るさで、そこまで広くなくそれでいてある程度の清潔さが伺えるほどにはキレイな床。

 体を起こし前方を見渡してみると、そこは驚くべき程になにもなく壁についてる明かりが光っているほかには人が数人いるだけの部屋だった。


「よくぞお目覚めくださいました勇者様!」


 混乱する頭の中を整理しようとして、さっきから勇者なる者を呼んでいるそのきれいな声が聞こえる方に目を向ける。

 そこには、案の定こちらに目に向ける日本ではあまり見ることのないであろう鮮やかな金髪の女の子がいた。妙に派手で綺麗な見たことない服を着ている。背は自分より小さいだろう。おおよそ155センチぐらいか?たぶん年下だろう。

 そんなことを考えながら観察するとまたしてもその少女がこちらに声をかけてくる。


「……あのー勇者様?」


 他の人がいるのかと思い、思わず後ろを確認するが誰もいない。……もしかして俺?


「もしかして俺のこと?」

「他に誰がいるんですか?」


 とりあえず確認すると、それが当たり前の事であるかのように返される。……よくわからない。そもそもここはどこだろう? 何でこんな所にいるんだろう? というかこの娘は誰なのだろう? 

 更に訳がわからなくなって整理しようと頭を回そうとする。


「召喚は成功ですね!」

「やりましたね!姫様!」

「さすがです!」


 女の子の後ろに立っている鎧を着た男達が喜んでいる。……はっ?鎧?


「どうなってやがる?」


 まるでたまに読むファンタジー系のライトノベルに出てくるキャラクターのように現実離れした格好を前に、つい思わず口から出てしまったその言葉は正しく自分の心情を表していた。

 そんな俺の気持ちなど見ていないかのように軽やかでそれでいてけっして軽くない声で娘は語り出す。


「ここは王都マルギス。アルカディアの中心にある王宮内です。あなたは勇者として召還されました。」


 ……はい? 王都? 勇者? アルカディア? 召還? もうどうしようもなかった。

 いきなり台本の立っていない劇に立たされた役者にでもなった気分であった。

 そして思い出す。ああ!そういえばあの時見えた魔法陣みたいな物!


「どうか、どうか魔王を倒し世界をお救いください!」

「……まじ?」


 あまりに突拍子もないその願いにもう考えるのはやめた。

 どうせ夢であろう。そう思って自分を腕を全力でつねってみる。その痛みで目を覚まし、このなにもかもがわけのわからない空間が崩れいつも通りの現実へ戻るだろうと。もしかしたら今日会ったことも全部夢だったとそんな希望を込めて。……超痛い。……まじかぁ。


「……どうなされました?」

「……なんでもない」


 いきなりあちらには自分の腕をつねりだした変人に見えたであろうに、本当に心配してくれている様子でこちらに声をかけてくれるその娘に言葉を返す。これは少なくとも夢ではないと、ようやくまともな不安を感じることができた。







「……はあー」


 今日何度目かわからないため息を吐きながら先程の少女、いやその後ろに着いている男達の言葉からお姫様であるのだと思われる彼女から「一緒来てください。着いた場所でどうして召還されたのかの説明をさせていただきます」と言われたのでまあたぶん選択肢はないんだろうなとしょうがなくついて行く。

 通る廊下は自分が今まで見たことのない豪華さを感じれる。そしてなによりも、廊下を照らすべく左右の壁に付けられている明かりに目が行く。

 別に変なところはないなと最初は思ったのだがよく見てみると、透明なガラスのような物の中にただ光が浮いている。浮いているだけなのである。

 何かに線のような物で繋がっている様子がないそれを見るたびにここは現実ではないのだという錯覚に見舞われる。もう何も考えたくないと思って思考を止めて付いていく。

 どれくらい歩いただろうかとふと思ったとき前を歩いていた姫様みたいな人が足を止める。


「こちらの部屋です」


 そう指した部屋のドアはとても大きく重々しい雰囲気を漂わせている。たぶんこのドアだけで自分の持つすべての物を合わせてもその価値には届かないだろうと適当なことを思っていると、後ろから着いてきていた鎧の人たちがこのドアをゆっくり開ける。

 それを眺めていたが、中が見えてくると思わず目を見開いていた。


「……すっげぇ」


 それは十五年間生きてきたなかでもっとも綺麗だと思える空間であった。

 前にまっすぐ敷かれている赤色の絨緞。天井に吊してあるシャンデリア。

 目に映るすべてが自分にとって違う世界の物であると感じてしまう空間に思わず息を呑む。……ここに入るのか?


「失礼します。国王様」


 唖然としていた俺の横でそう言いこの空間に堂々と足を踏み入れる姫様らしき人が、少し歩いた後なかなか足を踏み出せなかった俺に対して声をかけてくる。


「どうなさいました?勇者様」


 そう言われてここで止まっているわけにもいかないと自分の足に力を入れ前に進む。

 ものすごく高価そうな赤色の絨緞を踏むたびに罪悪感を感じながら進んでいくと何段かの段差が見える。

 その上の少し先には椅子が二つある。

 その片方には仮装かと思うほどには豪華な服を身に纏い、この訳のわからない空間よりもなお押し潰されると感じるほどの迫力を感じさせる男が座っている。

 これはあれか。玉座というやつなのか。ならば、それに座っている人は王なのか?


「……予言通りだな。ご苦労であったティア。」

「はいっ」


 玉座の男が、こちらに声をかける。いや、ただしくはこちらでそれに笑顔で返している姫様にだろう。

 自分の名前ではないそのティアという名称をこの隣の姫の名前かあるいは愛称であると判断する。


「そして、よく来たな。異なる世界の勇者よ。余はアグリアス。アグリアス・ルーグレットである。世の代で勇者に巡り会うことができたことを誇りに思おう。そなたの名は?」

「く、黒崎迅です。あ、ありがとうございます」


 そう言ってアグリアスと名乗ったその男は今度こそ俺の方へ声をかけてくる。

 とても重々しく萎縮してしまいそうになる迫力を持つその声に思わず反射で返してしまう。


「さて、まずは説明がいるだろう。おそらくティアが世界を救えなどと勇者殿には大して説明をしなかったであろうからな」


 ……全くその通りである今の状況をぴたりと当てる王様。それに驚きながら、そしてちらっと見た隣の姫が一瞬こちらに向けすぐにそらす。

 たぶん図星だったからかこちらを見てきたのだろう。そう考えながら、王に向けて聞きたいことを聞いてみる。


「あ、あの俺はなんでここにいるんですか?そもそもここは何処なんですか?」

「この世界はアルカディア。そしてここは我が国ルーグレットの中心に位置する王都マルギスである。かつての勇者の言葉を借りるならそなたには異世界とされる場所である」


 異世界? つまりは俺は違う世界に来てしまったということか。

 まるで意味が分からないが、さすがにこの場で冗談を言うようには見えないのでとりあえずそうなのであると留めておく。


「そなたは勇者として魔王を倒すべく勇者としてこの世界に呼ばれたのである」

「……冗談だろ?」


 勇者? 魔王を倒す? 千歩ぐらい譲ったとして異世界に来てしまったというのはどうにか納得しよう。けれど、そんな小説の主人公が言われそうな言葉を自身に語られると、ある程度の呆れとそれ以上に何故俺なのだというイラつきが心に宿った。


「何故俺なんだ?」

「それは知らん。そなたは我々が呼んだのではない。世界が、聖剣が呼んだのだ。我々はあくまで予言に従い召喚を安定させる役目をしただけなのだ」


 世界が呼んだというそのあまりにも途方もない話に思わずふらつきそうになるが、なんとか持ち直しあちらは知らないという事実だけを受け止める。


「帰る方法は?」

「それも知らん。しかし、歴代の勇者達は魔王を倒すと世界から選択を迫られる。それにより帰還するかこの世界に残るか選べると残している」


 どうしようもない。なんでもこの世界から自分の世界に帰るには魔王を倒すしかないらしい。……いや、あちらの言うことを鵜呑みにすればである。

 まあとりあえずは信用しなければ思考するための最低限の情報ももらえないであろうと質問を続ける。


「戦わなければいけないのか?」

「強要はせぬ。しかし魔王は聖剣でしか倒せないと言い伝えられており、事実聖剣のない者が倒せたという記録はない」

「……嘘だろ」


 どうやら戦わなければいけないらしい。事実上そう宣告されたようなものだ。

 冗談じゃないぞ。そもそも俺の身体能力は並程度。どうあがいてもそんな世界を滅ぼすとか言われている魔王に勝てるとは思えなかった。


「勝てるわけないだろ!!」


 思わずそう叫ぶ。隣の姫がびくっとなるのが見えた気がした。しかし、そんなことは気にしていられない。

 しかし、玉座に座りながらこちらを見る王は特に反応することなく更に言葉を続ける。


「問題ないはずである。もしそなたが本当に勇者であれば聖剣と女神の加護がその身に宿っているはずである。歴代の勇者もその力を使い、この世界になじみ強くなっていったと云う。少し試してみるといい」


 ためしてみるといいと言われてもと途方に暮れそうになる。

 そんな時、隣でさっきからこっちを何もフォローも自己紹介もしなかった姫様が口を開く。


「がんばってください!」


 なんと腹立たしいことか。心の奥底で燻っていたであろういらつきが急に出てきた。

 それを強引に心の底に押しつけ、剣で出ろと念じてみる。……出ない。もっと強く念じてみる。……出ない。めちゃくちゃ力を込める。やっぱ出ない!


「剣よ、出ろ!!」


 つい強く叫んでしまう。恥ずかしい。そう感じる前に一瞬体が熱くなる。なんだ!?


「――ほう」

「――すごい!」


 なんだと思い、周りを見ると姫と王がこちらを見ている。いや、正しくはこちらの下の方を見ている。

 一体何だと思い、下の方に目を向ける。


「……何これ?」


 最初に目に映ったのは輝きであった。黄金の輝き。

 金をよく見たことがない自分でもこれはすごいと言えるほどの金色の刃。どこぞのおもちゃの剣のように厨二心をくすぐるような、それでいて痛いとは感じないほどに洗練された装飾が柄に施されている。

 そんな剣を自分の左手がいつのまにか握っていた。これが聖剣か。

 重さすら感じないそれを振ってみると妙にしっくりきた。それに少し体が軽くなった気がする。


「見事である。それが聖剣か。それにそなたから感じる魔力量も上がっている。おそらくこの世界で初めて自身の魔力を行使したことで魔力が体になじんだのだろう」


 自身でもよくわからない状態を王は冷静に考察する。いや、心なしか声が軽い気もする。

 とりあえず持っていても邪魔なので消えろと念じると今度は簡単に消えた。


「どうだ、一つ提案がある。条件を呑んでくれるなら剣の基礎とこの世界の知識を学ぶ機会をこちらで提供しよう。この世界では最低限自衛できる力が必要だと余は考えているが」

「……条件とは? もし呑まなければ?」


 王は取引を持ちかけてくる。その対価は今自分に必要な物を手に入れられる願ってもいないチャンスだったが、条件とやらが気になるので聞いてみることにする。


「なに、簡単なことだ。今からおおよそ三十日後に勇者召喚祭という祭りが行われる。それに勇者として、参加してもらいたいのだ。もちろん断ってもらってもかまわん。その場合は、必要であろう分の資金を渡し旅だってもらう」


 ……選択肢なくね? そう思わせる二択であった。

 さては選ばせる気ないなこの王と少し文句を言いたかったがこちらにとってもそう悪いことではないように思える。人前に出るのはすごい苦手だがまあなんとかなるだろう。


「わかりました。それで頼みます」

「そうか。ではこの王城に滞在するための部屋が必要だな」


 王に了承の意を伝える。なってしまった物はしょうがない。

 とりあえずはここでこの世界について知ろうとこれからの計画を練っているといい加減我慢できなくなったのかとなりの姫が声を上げる。


「私が、部屋に案内します!」

「……いや、侍従に案内させ『わ、た、し、が!』……う、うむ。では一緒について行ってやれティア」

「はい!!」


 やけに押しが強い姫に王も困ったように対応していた。……なんか急に気が楽になった。

 思わず息を吐くと後ろから声をかけられ思わず振り向く。


「勇者様のお付きをさせていただきますセラと申します。どうぞこちらに」

「――はいっ」


 セラと名乗ったその銀髪の美しい女性の誘導について行く。

 異世界は容姿のいい人ばかりなのかと、どうでもいいことが心に浮かんでいた。そんなくだらないことを考えながら部屋を出る。すると、その後ろから慌てた様子で姫がついてくる。


「はやいですよお」


 なんかこの姫様ホントに偉い人なのかと思えてしまうその言動にげんなりしながら歩く。

 長くもないけど短くもない時間。見慣れないすべての物を、まるで知らない場所に来た子供みたいにきょろきょろ見ながら歩く。


「こちらのお部屋です」


 セラが止まった場所にあるドアを開ける。

 中に入ると、そこはテレビで見るようなスイートルームみたいに豪華な部屋があった。


「なにかありましたら、そちらの机においてあるベルを三回ほどお鳴らしください。食事はこちらでお持ちいたします。今日は召還でお疲れだと思いますのでゆっくりお休みください。訓練や勉学に関しましては明日から説明させていただきます」


 そう言って、セラは部屋から出て行った。

 とりあえず今日は休もうと考えベッドに座る。


「では、私もこれで失礼いたします! 今日はお疲れでしょうしまたゆっくり話しましょうね!」


 姫は妙に上がっているテンションでそんなことを言いながら部屋を出る。

 ……あの姫なんで来たんだとか思っていると不意に眠気が襲う。疲れたしもう寝よう。

 そう考えベッドに横になろうとすると再び部屋のドアが開く。


「忘れてました!」


 ……また姫か。本当に帰ってほしい。そう心から思う。


「名前を聞いていませんでした! 私はルーグリット王国王女。ティア・ルーグリットです!」

「……どうも」


 そういえば自己紹介されてなかったなと思い出しながら言葉を返す。笑顔でこちらに名前を言ってきたティア姫に言葉を返す。それを聞いて満足したのだろう。


「はい!よろしくお願いします! ではゆっくりお休みください! また今度お話しましょう!」


 そう言い残し、再び部屋を去っていた。

 ドアが閉まるのを確認して、貯まっていた分を吐き出すぐらいに大きなため息を吐く。


「……はあっ」


 今日何度目かはもうわからないほどに吐いたため息に嫌気がさしながら、これからのことを考える。

 そして今考えても情報が少なすぎると言う結論に至ったので、次目を覚ます時これが全部夢であったらという期待を込めながら目を閉じ意識から手を離した。







 まとめました。

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