No.09「オリオンVSオリオン」
目の前で闘気を漲らせる4人目のオリオン「オーリイ」。彼はこの世界でカルト協会を運営しているもう一人のオリオンに相当な因縁を抱いているようだった。
こちらから話しかけて仲間として迎え入れるのは困難に思える。かっちゃんのいうように、一度力付くで連れ込む以外に共闘のキッカケは掴めないようだ。
「悪いが少しばかり乱暴な手を使わせてもらうぜ」
ミリオンはややぶっきらぼうにそう言うと、小さな足を思いっきり踏みしめて弓で放たれたかのような勢いでオーリイに突進する。恐らく彼にもかっちゃんの声が届いていたのだろう。躊躇なく力付くで取り押さえる為に、迷いなく攻撃を仕掛けた!
「うおっ!? 」
しかし、その攻撃はオーリイには届かない。さきほど俺を助けてくれた時のように、ミリオンの突進はヒラリと紙一重で回避されてしまった。
「すごい勢い、まるでロケット花火だな。しかしそれも当たらなければ、攻撃ではなく単なるパフォーマンスだな」
「何を! 」
ミリオンはヤケになって何度も攻撃を仕掛け続けるが、一行にその拳がオーリイの身体をとらえることはなかった。
「くそッ! なんで当たらねえんだ!? 」
そう、まるでオーリイはミリオンが攻撃するタイミングを予め知っていたかのような体裁きで攻撃をかわしていた。予知能力でも持っているのか? と思うほどに
「次はこちらから仕掛けさせてもらうぞ」
オーリイはミリオンの動きを全て見切ってしまったようだ。ピンボールのように壁から壁へと飛び交う小さな身体を正確に目で追い続け、ここぞというタイミングで拳を突き出した!
「ううッ!? 」
「ミリオン!? 」
オーリイの拳打は、少しも振りかぶることなく最小限の動きでコンパクトに繰り出されていた。ミリオンをそれを目で追うことしか出来ず、アクションフィギュアのような身体のボディにクリーンヒットさせてしまった。
「危ない! 」
吹っ飛ばされたミリオンはリオンによってキャッチされ、固い地面や壁への衝突は回避することが出来た。胸部のクッションが効いていたことも幸いだった。
「ぐっ……ありがとよ……」
「大丈夫か? 」
「胃の中のモンが飛び出しそうになったコト以外は大丈夫だ……! アイツ、かなり強いぞ」
10倍の重力で育ったミリオンの一撃がオーリイに当たりさえすればこっちのモノなのだが、なかなかそうも上手くいかないらしい。その回避能力に加え、プロボクサーのように予備動作の無いパンチから見て、俺は彼……いや、この世界の住人について一つ分かったことがある。
ミリオンが“桁違いのパワー”、リオンが“凄まじい肺活量”を当然のように備えていることと同じく、オーリイには“精密な観察力”が備わっているのだと俺は推測した。
おそらくこの極寒世界の住人は、寒さ故に会話による情報伝達の際には極力口の動きを小さくする必要があった。冷たい空気を体内に取り込まない為だ。
その為、声そのものの音よりも、その小さな口の動きだけを“よく見て”何を言っているのかを判断する必要が出てきたのだと思う。だからオーリイはミリオンの身体全体の動きを“よく見て”次の攻撃に予め備えることができたのだ。プロ野球のバッターは、ピッチャーの投げた球そのものよりも、投げるピッチャーのフォームや腕の振りを“よく見て”球種のおおよその見当を付ける。という話を聞いたことがあるが、それと同じことなのだろう。
「こっちからいくぞ」
オーリイは拳を構えつつこちらに突進してきた。「このやろう! 」とミリオンは再び彼に飛びついて応戦する。おそらく彼はこの場でオーリイの攻撃を一身に請け負う役を買って出たのだろう。同じ折井星音だから、言わずとも分かる。
そしてミリオンは俺達にこう託したのだ。
『俺が引きつけている内に、なんとかコイツを押さえる方法を考えろ! 』と……
「わかったぜ」俺はリオンを呼び寄せ、小言で作戦会議をすることにした。
「俺を助けた時みたいに吐息で吹き飛ばせないか? 」
「スマン、アレは屋内で炎型の棲処を相手にしたから上手くいっただけで、屋外のここではせいぜい強風にあおられた程度の威力しかない……でも……」
「でも? 」
リオンはほんの少しだけ逡巡して黙り込んだが、すぐに意を決してこちらに顔を向けた。なんだか少し顔が赤くなっているのは気のせいか?
「一瞬……ほんの一秒程度でいい。オーリイに隙を作ってくれれば何とかする方法はある」
「本当か? 」
「ああ……ただ……」
「ただ? 」
「いや、何でもない! とにかく頼む! オーリイの動きを少しだけ止めてくれ!! 」
「お、おう! 」
リオンの鬼気迫った提案に圧倒された俺は、とにかくオーリイに隙を生じさせる方法を思案する。
今はミリオンが必死に立ち向かって防戦一方の展開を繰り広げている。今なら背後から忍び寄って羽交い締めにすることくらい出来そうに見えるが、オーリイには元々基礎体力も持ち合わせている上、優れた観察眼と尻尾も携えている、ハリネズミのように背後の防御も完璧だ。ただ単純に忍び寄っただけではコンマ一秒の隙すら作れずに返り討ちに遭うのがオチだ。
無尾種協会の折井星音のフリをしてオーリイの気を引くという作戦も考えたが、既に俺自身がそうでないと分かっている以上、あの優れた観察力の前では難しいそうだ
何か一つ……オーリイの平常心を奪うような+αが欲しいところだ。そう、どんな人間も思わず正気ではいられなくなるような言葉や動きだ。しかしそれが思いつかない。
くそう、こんな時に限ってかっちゃんからは何の助言もない。俺達をこんなことに巻き込んでいながら無責任にもほどがある。戻ったら根ほり葉ほり聞かせてもらおう。そして……
そうか!
ここまで来て、俺はようやく思いついた。そうだよ、ほんのついさっき目の当たりにしていたじゃないか。誰だって動揺してしまう“あの動き”を見ていたじゃないか!
「リオン、わかったぞ! 」
「え? 」
「今から俺が隙を作る! その後は頼んだぞ! 」
「あ、ああ! わかった! 」
俺の作戦が上手く行けば、一秒どころか一分だって隙を作ることが出来そうだ! 待ってろよミリオン、今助ける!
「フンッ! 」
「うぐあッ! 」
シャープな右ジャブが再びミリオンを捕らえた。小さな身体が吹き飛ばされ、リオンが再びキャッチする。
「グッ……やべえ……これ以上は無理だぜ……」
「大丈夫、星音が何とかしてくれるハズだ」
オーリイは、今度はお前の番だ! とばかりにゆっくりとリオンの方へと歩み寄ろうとする。彼の注意は今俺には向けられていない! チャンスだ! この機を逃してはならない!
「おい! オーリイ! こっちを見ろ! 」
「なんだ……うっ!? 」
オーリイは俺の姿を見て目を大きく見開き、尻尾の毛を逆立たせた。そうやら上手くいったみたいだぞ。
「旅゛立゛ち゛た゛ま゛え゛……旅゛立゛ち゛た゛ま゛え゛……我゛が主゛、大゛宇゛宙゛の゛大゛い゛な゛る゛意゛思゛の゛元゛に゛、こ゛の゛大゛銀゛河゛を゛統゛括゛し゛、庭゛と゛す゛る゛力゛を゛与゛え゛た゛ま゛え゛……」
「お前……一体なんだそれは!? 何を考えてる?! 」
俺はかっちゃんによってこの世界に送り届けた“統括転移術・混沌のカオスドリームハリケーンサイクロン”の詠唱をマネして披露して見せた。こうして両手の人差し指をそれぞれ鼻の穴に突っ込み、両足を痙攣させて呪文を唱えれば、予想通りに動揺してうろたえてくれた。
「今゛だ゛リ゛オ゛ン゛! 」
「な!? 」
リオンは俺の合図よりも先に、すでに行動に写してくれていた。素早くオーリイとの距離を詰め、そのまま正面から抱きついて押し倒してしまい、そのまま……
「リ、リオン!? 」「リオン!? 何を?! 」
俺もミリオンも揃って驚き、声を上げた。
リオンが言う「何とかする」その行為は、俺が見せた奇天烈な詠唱以上に衝撃的だった。なぜなら……
「ヂュウウウウウウッ……」
リオンはなんと、オーリイの口に自らの唇を覆い被せ「キス」をし始めたからだ。
「うぐッ……ふごっ……! 」
実直な印象を受けたオーリイも、さすがにこの一撃には冷静さを保てず……一切反撃することなく腕をピクピクと震えさせ、やがてパタリと居酒屋の泥酔客のように動かなくなってしまった。
「ふぅ……」
そして何事もなくオーリイから唇を離すリオン。口の端から滴り落ちた唾液が、妙に俺の平常心を揺さぶった……雌雄同体とはいえ、ベースは女性……自分の顔を持った人間ではあるものの、やはり思うことは思ってしまうのである。
「な……何をしたんだ? リオン……」
ミリオンは俺の詠唱・リオンのキスと立て続けに起こった予想外な事態を飲み込めないまま質問した。リオンも少し照れながらそれに答えた。
「く、口を合わせて彼の体内にある酸素を思いっきり吸い込んだ。こうすれば少しの間気を失わせることが出来るから……」
「そうなんだ……」「へぇ……」
俺もミリオンも、あえてキスという行為の深い意味までは探ることはしなかった。それぞれの世界で文化も違うので、お互いの口を合わせるという行為がどういう立ち位置にあるのかは分からない。だけど、みんなの反応を見る限り、どの世界でもやはり“特別なモノ”には変わりないようだった。
「そ、それじゃあミリオン! 倒れたコイツを運んでかっちゃんのところまで帰ろう! さぁ、急ごう! 」
リオンが何となく勢いで恥ずかしさを誤魔化している風にも見えたが、とにかく今はオーリイを運ぶことが先決だ。ミリオンは持ち前の怪力でヒョイっとオーリイの身体を持ち上げてくれ、準備は整った。後はこの世界から脱出する為のワープゲート“銭湯の水風呂”まで急げばいい。
「よし、行こう! 今のうちに! 」
俺達は路地裏を進んで“例の銭湯”を目指して進んだ。オーリイが目覚める前に、急がなかればならない。
路地裏は鬱蒼としていて、人気は全く無い。地元の人間ですら殆ど通らないのだろう。あちらこちらにもゴミが散乱している。どこの世界でもゴミ問題は等しく抱えているのだろうな……などとしみじみ思っていると、先を走るミリオンが突然立ち止まり、俺は思わずそのまま転んで背負われたオーリイにのしかかりそうになってしまった。
「きゅ……急に止まってどうしたの!? 」
「星音、アレを見ろ」
リオンがゆっくりと指を差し示した先から、水に落とした墨汁のように闇を散らして現れる一人の女性の姿があった。
「まさか……」
リオンはその女性の姿に何か心当たりがあったようだ。コンビニで総理大臣とはち合わせたかのような驚きに満ちた顔をしている。
「知ってるのか? リオン」
「ああ、この人……さっき無尾種協会の電波ジャックに映ってた人だ……間違いない! 」
「と、言うことは……やべえな! 」
ミリオンもリオンの言葉の意味を理解したようだ。担ぎ上げていたオーリイをそっと地面に寝かせ、臨戦態勢をとった。
「あの女は……棲処だ! 」
つづく
(お題)
1「野球」
2「居酒屋」
3「針鼠」
執筆時間【2時間】
今年も残すところわずか……




