No.06「汽車と尻尾」
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星音くん。どうやら平行世界へのワープが完了したみたいだね。おっと! 驚かないでくれよ。ボクは統括の者だよ!かっちゃんだよ! 今ボクは君の頭に直接語りかけている。
色々と言いたそうな感情が伝わってくるよ。とにかく、今から君がするべきコトを教えるよ。
まず、ここは君の住んでいた地球よりも平均気温が10℃も低くなる未来を歩んだ世界だ。ワープ直後で気が付いてないかもしれないけど、相当な寒さのハズだよ。
君はこの寒冷世界で4人目のオリオンを探さなくてはならない。今さっき君を助けてくれた人間としばらく行動を共にし、この世界の折井星音の手がかりを探れ。
心配するな、"力"のオリオン「ミリオン」くんと、"水"のオリオン「リオン」ちゃんも後で合流できる。彼らには別行動をとってもらったんだ。
ということで分かったかい? とにかくその男と共に、夕方までに4人目のミリオンと接触するんだ! 宇宙の意思の予言によればそうすることで道が開けるそうだ。
そろそろボクのパワーが限界が来そうだ。伝えるべきことは伝えたよ。それじゃあ頑張ってくれたまえ! 大宇宙の未来の為に…………
ぶえっくしッ!!
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「へえ、君……尻尾ないんだね? 怪我かい? それとも病気? 」
「は、はい? ……まぁ……そんなとこです」
倒れていた俺を起こして助けてくれた“尻尾人間”はそう言って、一緒に歩いてどこかに案内してくれている。
彼の名前は「河ガイ 望木」というらしい。自分が住んでいた日本における人名比べて、微妙に変なニュアンスが平行世界らしさを実感させる。
望木さんはとても良い人らしく、俺がこの世界の人間では当たり前に持っているであろう“尻尾”を持たず、この街に慣れていないと分かるやいなや……最寄りの繁華街まで案内してくれるのだという。もしかしたら哀れみを持たれたのかもしれない。
そして自分が薄着であることに見かねて、リュック(らしき鞄)からコットンらしき素材のコートを取り出して着せてくれた。本当にありがたい。どんな世界にでも優しい人はいるものだな……としみじみ思った。
「機関車に乗ろう。それで“井曽代駅”まですぐだから」
井曽代駅……どうやらその場所はこの世界における日本でも、各地から大勢の人間が密集する場所なのだと望木さんは言った。多分“新宿駅”のような場所なのだろう。
望木さんの奢りで切符を買い、駅員が一人だけの殺風景な駅から機関車に乗り込む。基本的にここまでの世界の風景は、自分が住んでいた世界と大差は無い。行き交う人々の腰から尻尾が覗いているコト以外は……
その尻尾は望木さんの物を見て、初めこそトカゲのようだと思ったがよく見ると、それはレザーらしき素材でできた“尻尾カバー”なのだと分かった。カバーの隙間からはシロクマを思わせる真っ白な体毛がフサフサとはみ出していた。この世界における帽子のようなオシャレアイテムなのだろう。
汽車に乗り込み、発車する。電気を使った車両はこの世界には無いのだろうか? どうやら見た感じ、自分が乗っている車両以外も、列車は全て石炭を使った蒸気機関車だ。
かっちゃんが言うにはこの世界の平均気温は自分の世界よりも10℃も低い。その影響で石油の消費量が多くて枯渇も早くなり、この世界で石油はさらに貴重な存在になっているのかもしれない。つまりは発電の大多数を占める火力発電が難しい。だからアナログな蒸気機関車が重宝されているのかもしれない。
プォォォォーーーーッ!!
汽笛が鳴り、汽車が動いた。俺にとって初めての異世界旅行が始まる。
ガタゴトと揺れる車内の窓を覗くと、街に面した海……(とおもわれる巨大な水面)に氷山が浮いている。この世界ではこんな光景も当たり前なのだろう。
「どうした……星音くん。随分と珍しそうに外の景色を見てるじゃないか」
望木さんは異世界探訪に夢中になっている俺の姿がよほど気になったらしい。奇異な物をみる瞳でコンパートメント席の向かいに座る自分をジっと見つめている。
「……ん? あ、ハイ! 実はその……自分、あんまり外に出たコトがなくて……」
「ふーん」
望木さんは無表情でそう言い捨てて、それから特に何も言うこともなく黙ってしまった。
ここでもう一つ俺はこの世界において気が付いたことがある。
それは、ここでは誰もが“表情が少ない”ことだ。
望木さんはもちろん、すれ違った人々、駅員にいたるまで全員マネキンのように表情が少ないのだ。オマケに会話する際も、声がボソボソでボリュームが小さく、話しかけられる度に俺は「はい? 」などとついつい、言葉の頭に付けてしまうのでなんだか申し訳ない。
なぜこの世界の人間は表情に乏しいのか? その理由の一つはすぐにわかった。
それは、彼らに“尻尾”があるからだ。
表情が少なく声も小さい代わりに、彼らの尻尾はまるで独立した生物かと思うように、揺れたり、立ったり、身体に巻き付いたりとせわしなく動き続けている。つまり自分の感情を表現するのに“言葉”以上に尻尾によるサインを大事にしているのだ。
そして寒冷地では、言葉をしゃべる際に冷気をなるべく体内に取り込まないよう、なるべく口を開かない発声方法になるのだとどこかで聞いたことがある。自分の世界における“東北弁”がそうらしい。
気温が寒いので、体温を下げない為にフサフサの尻尾が生え、それを使ったコミュニケーションが発達し、表情は少なくなり、言葉は必要最低限に済ませるようになった。という流れなのだと思う。
「星音くん」
「……ん? は! はいっ? 」
望木さんが相変わらずのポーカーフェイスで話しかけてきた。尻尾は自分の腰に巻き付けている。腹巻きみたいで暖かそうだ。
「ちょっと外に出てるから、ここから出ないようにね」
そう言って彼は、俺だけ残してコンパートメント席の個室から出ていってしまった。トイレだろうか? などと考えながら呑気に構えていたら、ほんの2~3分でこの部屋に戻ってくる。どうやら二人の仲間を連れてきてくれたらしい。同じく尻尾が生えて無表情の男が二人追加され、窓際に追い込まれてしまった。
「あの……なんですか? この人達? 」
表情ないので怒っているのか、楽しんでいるのかすらわからない。ただ、望木さんと後の二人を含めた三人の尻尾を小刻みに左右に振っているということ。
「えーと……なんでしょう? これからババ抜きでもするんでしょうか? 」
俺の言葉に反応はない。徐々に恐怖心が沸き上がり、脇汗がジワリにじみ出る。
「よし……やれ」
望木さんのその淡泊な言葉を皮切りに、後から入った二人が俺の両腕に突然掴みかかった!
「うっ!? ちょっと! 」
とっさのことで俺はどうすることもできずにされるがままになり、いつの間にか両手を手錠のような物で拘束されてしまっていた。これってピンチってヤツだよね?
「星音、お前は"尾無し"だ。怪我や病気のせいじゃない先天的なモノだ。正真正銘の悪魔の使いだ」
「へ? 」相変わらずのボソボソ声立ったが、しっかりと意味は理解できた。尻尾の無い俺はどうやら、彼らにとって悪魔扱いらしい……となると、このままどこかに連れられて拷問されたりしちゃうワケ……?
「そんな……こりゃ……ホントやべえぇぇぇぇッ!! 」
俺が大声を出すと、三人は必死にその声を封じようと俺の身体の上にのしかかる。ちくしょう! かっちゃんに言われた通りのコトをしただけだってのに、なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだ! 恨むぞ!
このまま俺はよくわからない異世界の、よくわからない尻尾人間に、よくわからない理由で拷問され、処刑され……ひっそりと命を落とす運命なのか?
「やめとけ、お前ら」
その時、希望の光が輝いた。三人の男に取り押さえられている俺の鼓膜を揺する、誰かの声がかすかに聞こえた。この声は聞き覚えがある……というよりも……!
「ウッ! 」「グホォォオッ! 」「イギュッ!! 」
望木達は、悲鳴を上げてそのまま動かなくなってしまった。床にうつ伏せに取り押さえられていた自分は状況が掴めなかったが、ただ一つ危機が去ったことだけはわかった。
「大丈夫か? 」
「は……はい」
助けてくれた男に手を借りて起きると、危機一髪のところで自分を救ってくれたヒーローの顔を拝む。
「あ! 」
そして俺は喉から肺が飛び出すほどの驚愕と共にその顔を目に焼き付けようとした……というよりも元から焼き付いている・
そう……その男の顔は、もともと俺の顔と瓜二つだったのだから……
見つけた……4人目のオリオン!
つづく
(お題)
1「夕方」
2「汽車」
3「氷山」
執筆時間【1時間50分】
世界観に苦戦(´ω`)




