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No.05「嘘のオリオン」





「すまん……見苦しい姿を見せてしまったな……」



「いえ……別に、大丈夫ですが……」



 転んで十分に泣き散らかした“統括の者”は、ようやく落ち着きを取り戻したようだ。ちまちまとした身体をゆっくりと立ち上がらせ威厳たっぷりに胸を張った。



「あらためて自己紹介しよう。ボクは“統括の者”宇宙の意思を代弁する、いわば宇宙の番頭であり、文字通り統括する役割を担っている」



 どうやら本当に目の前にいるキャラクターごった煮少女が、俺達をこんな不思議な空間に導いた張本人らしい。シンプルだがどことなく威厳と尊大さを感じさせる名前に、てっきり髭を生やした意味ありげな老人だとか、はたまた生物ではない光だとか像だとか、そんなイメージを抱いていたのでまだまだ現実は受け入れ辛い。



「さて、新たなオリオン君……いやさ、星音(しおん)と呼べばいいのだね? 」



「あ、はい」



星音(しおん)くん。君はブラックホールって知っているだろ? 」



「宇宙にある、なんか何でも吸い込んじゃう黒い穴……ってイメージしか知りませんが」



 俺のそんなフワっとした回答に、統括の者は「ま、そんなモンだよね」とでもいいたそうな、どことなく人をイラつかせる笑顔を向けて返した。



「ふむ。まぁそんなところで概ねは合っている。それで、そのブラックホールの中でも一際大きく……一際輝いているモノが今、この大宇宙、そして何兆何垓にも及ぶ平行世界を……まさに食らいつくそうとしているとしたらどうする? 」



「え? 」



 どうする? と言われても何がなんだか見当もつかない。ブラックホールだとかどうとか、そんなものはネットやテレビ越しに再現CGで見たことがあるというだけで、実在しているという確かな実感も無いのだから。



「キミ達オリオンを集めている理由は、まさにその時空をも超越して食らいつくそうとしているスーパーブラックホール……その名も“ブレーザー”を止める為なのだ」



「ブレーザー……? え? ……ホントに? 俺達がそれを止めるの? 」



「その通り。だからそっそく君達にはこれから別の平行世界に旅立ってもらい、4人目のオリオンをここに連れてきて欲しい。必要なオリオンは全部で7人だ。なぁに、3人も揃えば後はそこまで苦労はしないだろう」



 冗談でしょ? と言いたいところだった。宇宙はおろか海外旅行すらしたこともない俺にそんな大役を担わせるなんて正気かと思った。それに、そんな簡単な説明でトイレ休憩も無しに「4人目を連れてきて欲しい……」だって? 



 冗談じゃない! ブレーザーだとかなんとか知らないけど、一介のフリーターにそんなスケールのデカすぎる仕事を押し付けるなんて狂気だ。そもそもなんで俺なんかにやらせるのか? もっと適任者がいるだろう? 



 しかし、右と左を見渡せば、冗談めいた雰囲気なんていっさいナシの真面目ツラで話を聞いている、リオンとミリオンの横顔がある。本気にしているのか? こんな海外の無駄にスケールの大きいSF映画じみた話を。



「統括の者さん……」



 俺は挙手してとりあえずの質問することにした。



「なんだ? ああ、それとボクのコトはこれからは親しみを込めて“かっちゃん”て呼んでいいぞ。そっちの方がフレンドリーな感じが出ていいだろ? 」



 かっちゃん……クラスに絶対一人はつけられているであろう古来からの由緒正しきニックネームだ。確かにいつまでも“統括の者”と呼ぶのは面倒なので、俺はその言葉に甘えさせてもらった。



「それじゃ……かっちゃん? 質問なんだけど……」



 俺は一度大きく深呼吸した後、言葉を繋いだ。



「ブレーザー……? を止める。その為になんで俺達が集められたんですか? 同じ名前に、同じ顔の俺達を? それと、どうやってこんなちっぽけな人間達の集まりでバカでかいブラックホールを止めるんですか? そして俺達に襲いかかった棲処(パラサイト)って呼ばれてる化け物達は何なんですか? オマケに……かっちゃん、あなたのそのラノベ売場の棚がひっくり返ったみたいな格好は何なんですか? そもそもあなたは人間なんですか? それにまだ……」



 俺はとにかく頭の中で保留状態になっていた疑問を一気に吐き出した。心のどこかで現状を認めたくない一心で少しイジワルな気持ちになっていたのかもしれない。横からミリオンが「おいおい」と俺の質問責めをストップさせなかったら、まだまだ質問は続いていただろう。



「うむ……疑問でいっぱい。信じられない。という感じだな星音(しおん)くんは……そこまで詳しいコトを知りたいのかね? 」



「当たり前だと思いますが……」



 そう……ごくごく当たり前。そう思って言葉の雨を降らせたつもりだった。つもりだったんだけど……



星音(しおん)……そんなコトを聞いてどうする? 何が問題なんだ? 」



 隣にいたリオンが哀れみを持った顔を俺に向けてそう言った。



「おいおい……お前のところの世界じゃそれが当たり前なのか? 」



 ミリオンも小さな身体で俺を見上げて眉をハの字に曲げている……



「え……二人とも……不思議に思わないの? こんな曖昧な説明で? 」



 リオンとミリオンは黙って首を縦に降った。アレ? おかしいな? コレ……ひょっとしてこの場では……



 “俺が特殊”なの? 



星音(しおん)くん。君の世界では……“嘘”というモノが広く使われているらしいね。だから君は信じるということに慎重なんだ」



 かっちゃんの言葉に、俺は文字通り“ハッ! ”とした。頭をトンカチで叩かれたような気分になった。



 その通りだ。無条件に他人を信じることができれば、例え突拍子のない話だとしても「助けて欲しい」と言われたその瞬間に答えを返せるのだ。これこれが、こうで、あーで……といった“裏打ち”なんてほとんど必要ないのだ……俺がミリオンに質問をしても「今は言えない」の一点張りだったことも、単純に彼もその時点では“知らなかった”からだ。



 そうか……



 今のやり取りで分かってしまった。ミリオンには強大な力。リオンには水中生活に特化した肉体。それぞれその世界では当たり前に備わった突出能力を携えていて、それが俺の場合は……



 “嘘”なのだと理解した。



 俺はさしずめ“嘘のオリオン”。純粋すぎる仲間が敵に欺かれそうになった時……それを見破るのが俺の役割……きっとそうだ。



星音(しおん)くん。次元カルチャーショックに驚くのは無理もない。が、そこまで疑問に思うのなら別に構わない……懇切丁寧に……」



「いえ……いいですよ。大丈夫ですから」



 純粋な二人のオリオンの前で卑しく質問を投げかけた自分自身が恥ずかしくなり、半ばヤケクソになったのかもしれない。俺はとにかく今は詳しいことは知らないままで良いことにした。



「そうか……でも一つだけ、大事なコトを教えて上げよう。さぁみんな! ボクの身体をよく見てくれ」



 そう言ってかっちゃんは両手を広げて一生懸命背伸びをする。まるで遊園地のマスコットが子供の客を受け入れるような愛らしい仕草だ。



「ボクの身体はそもそも実体のない思念体だ。だけど君達とコミュニケーションを取りやすいように、こうして人間そっくりの身体を作り上げた。そしてさっきも星音(しおん)くんが質問したように、見た目に色んな要素がゴチャ混ぜになっている。それにはちゃんとした理由があるんだ」



「理由……? 」オタクカルチャー好きの自分に合わせてくれたとか? 



「実を言うとボクの身体は、これから宇宙を救う七人のオリオン達が“可愛い”と思っている要素をかき集めた姿なのだよ! つまり、探しているオリオンはこの身体の特徴の内のどれかを愛好しているハズなんだ」



「「「ええッ!? 」」」



 これには俺達3人のオリオンが揃って声を上げて驚く……



 金髪・緑瞳・白コートに白水着風スーツ・生足・牙・下駄・女児……なるほど、確かに主な要素は7つに分けられている……



「えっと……それじゃあ、俺は……髪かな? 」



 少し照れながらミリオンが言った。このパツキン好きめ! 



「私は……その……コートと……スーツだ……」



 リオン……あなた、真面目そうな雰囲気とは違ってマニアックな好みなのね……さすがは平行世界の別の俺。



 そしてニヤついて二人の嗜好を楽しんでいる俺に向かって、槍のようにとがった視線が向けられる。分かったよ、俺と同じ顔でそんなに睨むなって……



「俺は……生足好きだ。ニーハイだとかなんとかも履いていない……一糸纏わない太股が大好きで……」



 嗜好を告白した俺の言葉に、リオンが反応して競泳水着風のスーツの丈を引っ張って露出した肌を隠そうとしていた……大丈夫だリオン。さすがに自分自身に変な気は起こさないから……



「となると、今から向かう世界のオリオンは、牙好き、濃い瞳好き、下駄好き、もしくは子供好きということだね」



 かっちゃんのその言葉に「その情報が何の役に立つんだ」と申し立てたかったが、今はよそう。自分の嗜好をさらけ出した折井星音(おりいしおん)達が、全員もれなく真っ赤な顔でそわそわしているから、これ以上のやり取りには何の意味も無い……



 こういう趣味の話を大っぴらに話すことが苦手な点も自分にそっくりだ。まぁ、別世界の自分自身なのだからそれは当たり前なのだけど。



「それでは早速、キミ達には次元旅行をしてもらおうじゃないか! 」



 かっちゃんはそう言って「フンッ!! 」とおもむろに両手の人差し指を左右の穴にそれぞれ突っ込み始めた……?! 



 どうしたんだろう? シラフだよね? この人? 



「旅゛立゛ち゛た゛ま゛え゛……旅゛立゛ち゛た゛ま゛え゛……我゛が主゛、大゛宇゛宙゛の゛大゛い゛な゛る゛意゛思゛の゛元゛に゛、こ゛の゛大゛銀゛河゛を゛統゛括゛し゛、庭゛と゛す゛る゛力゛を゛与゛え゛た゛ま゛え゛……」



 鼻の穴を塞いで、フゴフゴともがきながら術の詠唱らしき呪文を唱え始めるかっちゃん。ここで笑ったら彼女の使い魔がどこからともなく現れてお尻をバットで殴られたりしないだろうか……



 よく見ると両脇の二人も必死に舌を噛んで堪えている。どうやらここは、俺も同じく腹筋を痛めながらわき上がる感情を堪えなければならないらしい……



「き……気をつけろよ……星音(しおん)……この術はな……グフッ……対象者が笑った瞬間……四肢が吹き飛んで爆死する術に変わっちゃうらしいから……な……」



「嘘だろリオン!? 」と声に出してしまったが、この場で嘘をつくオリオンは俺一人。つまりリオンの言葉は紛れもない真実……



「う……うう……」



「億゛乗゛の゛銀゛河゛、垓゛乗゛の゛平゛行゛世゛界゛、心゛は゛荷゛、魂゛は゛翼゛、今゛こ゛こ゛に゛、転゛移゛の゛力゛を゛所゛望゛す゛る゛……空゛間゛転゛移゛法゛72゛式゛:6゛章゛3゛節゛……ス゛ペ゛ー゛ス゛タ゛イ゛ム゛オ゛ペ゛ラ゛シ゛ン゛フ゛ォ゛ニ゛ー゛の゛系゛譜゛……サ゛イ゛バ゛ー゛コ゛ネ゛ク゛テ゛ィ゛ッ゛ク゛ワ゛ー゛ム゛ホ゛ー゛ル゛part゛34゛……こ゛の゛法゛を゛以゛て゛…………」






 ……長いッ!! 





 早く呪文を終えてくれ! そしてかっちゃん、鼻に指をつっこみながら足をピクピク痙攣させるのはやめてくれ! そのアクション、ホントに必要なのか!? 



「う……もうダメだ……すまねえ……みんな……! 」



 ヤバい! ミリオンがもう限界に達しているぞ! よせ! 笑うのはよせーッ! ブラックホールを消す前に、俺達がこんなところで消えちまってどうする!? 



「耐えろミリオン! 」「頑張れミリオン! 」



 俺達三人のオリオンは自然と三角形お互い向き合い、各々の口に手を当てて笑い声を防ぐ格好となった。共通の困難を乗り越える為……心が通じ合った瞬間である……



 そしてついに……長い長い詠唱が全て完了し、新たな世界へと旅立つ術がここに放たれる瞬間がやってきた! 



「……大゛い゛な゛る゛存゛在゛を゛以゛て゛汝゛を゛導゛か゛ん゛! 統゛括゛転゛移゛術゛“混゛沌゛の゛カ゛オ゛ス゛ド゛リ゛ー゛ム゛ハ゛リ゛ケ゛ー゛ン゛サ゛イ゛ク゛ロ゛ン゛”!! 」



 混沌とカオスで重複している上に、ハリケーンなのかサイクロンなのか……そんな疑問を抱いた瞬間……目の前は真っ白になり、身体がいくつにも粉のように分解された錯覚を覚え……やがて意識は飛んでいく……



 そして……幾千の時間が流れたかのような浮遊感の後に、背中にゴツゴツと堅い感覚があることに気が付いた。



「お……おい……大丈夫か? 」



 誰かの声だ……そして人肌の感触と共に、肩を揺すられる……



「ん……」



 目をこすりながら起き上がり、ぼやけた視界で周囲を見渡す……



 曇った空に、灰色のビル群。どうやら無事に平行世界へのワープは完了したようだ。最後の最後で耐えきれず笑ってしまった記憶があったが、どうやらそれはワープが発動した直後だったらしい。くわばら、くわばら……



「おい兄ちゃん、大丈夫か? 」



 さきほどから俺に声をかけてくれているのは、見知らぬルックスの見知らぬ男性……と思われる人間……らしき生物……どうやらこの世界の人間は、自分のよく知る世界の人間と風体はあまり変わらないようだ。



「あ、はい……大丈夫です」



 俺は知らない男の人に助け起こされ、現状を再確認する。



 場所は、開けた空き地のような場所。周囲にはリオンもミリオンもいない……全員バラバラにワープしてしまったのか? 



「無事で良かったよ……死んでるのかと思った」



「はは……」



 どうやら色々とこの人に心配をかけてしまったようだ。俺は手短に礼を済ませてリオンとミリオンを探しに行こうとした。



 しかし。



「いやーそれにしても今日は雲が重いなぁ……」



 そんな言葉を漏らしながら、こちらに背を向ける男性の姿に、俺は思わず……



「ほんとやべえ……」と呟いた。



 なぜならその人の越からは、トカゲを思わせる“尻尾”が生えていたからだ……








つづく






(お題)


1「トカゲ」


2「庭」


3「番頭」



 執筆時間【2時間30分】

 そろそろこれが1時間ライティングチャレンジである必要に疑問を抱き始めた昨今(*^-^*)


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