第一章 第六話 疑念と不安
この世界で初めての街レティセンシアへ到着し、門番に賄賂を渡して何とか街中へ入る事が出来た。
ここで作戦の全容をざっくりと説明しよう。
えっ?何で今さら?
そりゃ最初から知ってたらつまんないじゃないか。
えっ?大体予想出来る?
気にせず説明するよ。
①盗賊の溜め込んでいた財宝を没収する
②街へ潜入する
③街の騎士団に協力を仰ぐ
④領主の部下を減らす
⑤領主の屋敷に潜入
⑥領主に人質として捕まっているナターシャの母親と騎士団長の救出
⑦領主の暗殺
⑧部下の殲滅と新しい領主に現状の改善をさせる
以上の七つをの目標とする。
現在①②をほぼ成功、③を進行中
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その男は屋敷の地下にいた。
ロナルド・ランドール
南大陸の王国"クルエルダー"の辺境伯の地位にあり、魔王国"エフィアルティス"とを唯一結ぶ"嘆きの草原"の目と鼻の先にある街であり、魔王軍との国境で最前線になる為、国王からある程度の権力を与えられている。
だが。
いつの時代も権力者とは腐敗する生き物だ。
それは異世界でも変わらない。
夜も更けて警備以外は寝静まった頃。
「フゥ…フゥ…フゥ」
ブクブクと肥え太り、欲望を溜め込んだような身体をゆっくりと動かしながらロナルドは地下室に続く一本だけの地下通路を進むと鉄の扉が見えてくる。
「フゥ……扉を開けよ」
ロナルド辺境伯の後ろには口髭を生やした四十代位の騎士鎧を着た男が控えている。
「はっ…」
男は返事を返すとロナルドの前へと移動して鉄の扉の鍵穴へ鍵を差し込むと重たい金属の擦れる音が通路へ響く。
開鍵された扉を男は引くと蝶番が甲高い金属音と共にゆっくりと開かれる。
開かれた扉の奥は石造りの八畳程の部屋で中央にはベットが置かれている以外は蝋燭が幾つかあるのみで他には部屋の四隅に上から垂れ下がる鎖の先に付いた手錠で片手を拘束された四人の女がいた。
ロナルドが部屋へ入ると騎士鎧を着た男はいつもの事のように扉を閉める。
扉が閉まるとロナルドは歪んだ笑みを浮かべる。
「ンフフフ…どうだ少しは素直になったか~」
ロナルドは扉近くの左隅に繋がれた狼耳の女性にの前へと立つと力無く座り込み下を向く顔を手で持ち上げる。
「ンフフフ、大分おとなしくになってきたな」
「……この……下衆……が……」
「薬を打たれてまぁだ、そんな口をきく元気があったとはなぁ~見上げた精神力だ」
ロナルドは狼耳の女性の頬を平手打ちすると女性はまた力無く下を向く。
「さぁてこっちはどうだぁ~、リ~ナぁ~顔を私に見せておくれ~」
ガン!!
「何なのだ?おい、何かあったのか」
ロナルドは入口からの音を不審に思い、ヨタヨタとその脂肪の塊のような身体でゆっくりと扉へ向かう。
「おい、聞いておるのか答えんか!」
ガアァァン!
鉄の扉はその音と共に中央が蹄の形に盛り上り蝶番より外れ、部屋の中へ倒れる。
「ブギャァア!何だ、重たいぞ、誰か早く助けんか!」
扉の前にいたロナルドは倒れてきた扉の仰向けで腹から下が下敷きとなる。
すると入口から男とミノタウルスが入ってくる。
男はロナルドの顔の近くでしゃがむ
「おい!何故ここにお前のような平民がおる!まぁそれは後で良い、早くこの扉を退けんか!」
「失礼ですが、ロナルド辺境伯様ですか?」
「そうだ、それより早くこの扉を__へぶう!ぶげっ!」
男は思い切りロナルドの顔を二回殴り、その衝撃で奇妙な声をあげて気絶してしまった。
「フゥ、夜分遅く失礼しました。まったくこの部屋は……胸糞悪くなってくる。ガルディアン回復術を頼むよ」
「承知しました、主よ」
男とミノタウルスは近くの狼耳の女性に近づくとゆっくりと顔を上げて問い掛ける。
「……あなた……は……?」
「もう大丈夫だ、今助ける」
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地下室での出来事から遡る事十時間程前。
現在太陽は真上にある。
時間は十二時頃だろうか…。
今俺は馬車の御者席に座りレティセンシアの街へ入った所だ。
街の大通りは左右を露店が並び馬車は対面で通れる広さだ。
しかし人が昼間だと言うのにかなり少ない、と言うか露店の店員も何だかみすぼらしい格好で通りを通る人達も何だかやさぐれているような目付きだ。
「それであんた~何処さ行けばいいだか」
「ああ、悪いけど騎士団の拠点か詰所は近くにありますか?」
少し考えるとお爺さんは思い出したように話し出す。
「ああ~、そんならこの通りをもう少し進んだとこを右さ曲がった所さ、騎士団の拠点があるだ」
「なら、そこまでお願いします。そこで下ろして貰えれば」
「カゲアキ、この格好のまま行くの?」
「私も着替えたいです…このまま他の団員に見られるのは……ちょっと」
「あたしも流石に恥ずかしいかな」
残念だ、非常に残念だ、大事な事だからもう一度確認するが残念だが……サービスタイムは終了のようだ。
「そうだな…お爺さん、この馬車を拠点の近くに停めて貰えますか、少し着替えますので」
「ああ構わねぇだよ」
少し行った所で大通りを曲がり路肩のような所でお爺さんは馬車を停めてくれた。
大通りを出ても其れなりに露店も点在していた。
「あれが騎士様の拠点だべ」
前方には周りより少し大きめの木造の屋根に壁は石造りのガッチリとした建物が見える。
三人は馬車の中で着替えている。
勿論外からは布で隠して見えなくしている。俺とガルディアンは周りを何時でも武器を抜けるように馬車を降りて警戒しておく。
因みに俺も破れた服は荷物袋にしまって村人のような服を着ている。
ガルディアンもフード付きのマントで牛の脚も隠れて全身を見えないようにしているので問題無いだろう身長以外は。
しばらくして着替えを終えた三人が馬車を降りてくる。
三人ともフード付きのマント着用だ。
「お待たせしました」
「やっぱりこっちの方があんなのよりしっくりくるよ」
「まさかあんな格好をするとは……」
ナターシャは平然としているがリアレスさんとネルトさんは恥ずかしかったようだ。
似合ってたけど他の男に目に晒されるのは嫌だな。
俺は御者の席へ行きお爺さんにこっそりと金貨を三枚を渡し、偽装用に銅貨を三枚渡す。
老人が金貨を持っていると襲われたとあっては申し訳ない。
「こちらが代金の銅貨です」
「こりゃどうも、あんたらも気を付けなせぇ」
「お爺さんも俺達の事は内密に」
お爺さんに耳打ちするとニカッとシワシワの笑顔を浮かべて頷いた。
「ああ、おらも良い経験させて貰っただ」
「では俺達はそろそろ行きます」
「ああ、おらも行きますだ」
御者席から下りて動き始める幌馬車に手を振るとお爺さんも振り替えって手を振ってくれた。
良い人だった。
四、五分程歩き拠点に近づくと入口は閉まり明らかに騎士では無いような者が五人立って武器を構えているのが見えた。
俺はガルディアンに金の入った袋を一時持っていて貰うようにして、近くの露店へ立ち寄ると店には少し萎れたリンゴのような果実が並んでいた。
「いらっしゃい、アプーの実はどうだい兄ちゃん」
四十代半ばの風貌で頭にはバンダナのような物を巻いている店主はアプーの実と呼ぶリンゴらしき物を売っている。
萎れているが確かに僅かだが甘い香りが漂って来る。
「そうだな…これとここの二つとこの二つの五つをください」
なるだけ萎れていない物を選び、ついでに情報収集をするために店主に話を聞く。
「少し聞きたいんですが、この店はいつも此処で露店を?」
「そうだな、かれこれ二十年以上この場所で商売してるぜ」
「そうですか…なら昨日はあの拠点で何かありましたか」
「兄ちゃん、何かあったってもんじゃないぜ…大きい声じゃ言えないが騎士の団長様があそこに見えてる奴らの仲間に連行されちまったんだ」
「へぇ…団長様が連行ですか」
店主はさらに小声で話を続ける。
「噂によるとここの領主様が有ること無いことでっち上げて騎士団を潰すために動いてるって話だ。団長様は明日にも絞首刑になるそうだ、そのせいで領主様が集めたゴロツキとか冒険者崩れ、傭兵崩れなんかが街でデカイ顔をし始めて商売もあがったりだ」
「随分と急な話で、きな臭いですね」
「それで明日まで騎士団は拠点で謹慎、そのあとで解散、盗賊討伐で出ている部隊がいるが帰って来たら明日の死刑執行まで街の外で待機させるってあそこの奴らが言ってたぜ」
既に部隊はほぼ全滅しているからな、来ることは無い。
「それにしても何で領主はそこまで騎士団を潰したいでしょうね」
「あ~噂だと一月位前か…領主様の屋敷に王都から流れてきた魔法使いが色々と領主様を煽てて焚き付けているらしいな」
話を聞くとその魔法使いは何かと衝突する騎士団長が気に食わない為に領主を操って騎士団を潰そうとしているのではないかとのことだ。
魔法使いは初耳だな、と言うかナターシャも言っていなかった。
「ありがとう、中々面白い話でした。この実はいくらですか」
「おうよ全部で銅貨三枚だぜ」
俺は小さい金袋から銅貨を五枚取り出して店主に渡す。
「おい兄ちゃん二枚多いぜ」
わざわざ伝えるとは正直なおっちゃんだ。
「それは情報料ですよ、それじゃ」
「おう、そうかいなら遠慮なく毎度あり」
店主は所々欠けている歯を見せて笑い銅貨を懐にしまう。
俺は麻袋に入れて貰ったアプー実を持って四人の本へ戻る。
「主よ、何を話していたのです」
「ちょっとした情報収集だよ」
麻袋から一つアプーを取り出してガルディアンへ渡す。
ガルディアンは俺から受け取ると豪快にかぶり付いてリンゴで表すと蔕の部分以外を三口で平らげてしまった。
「うむ、少し萎れているが美味ですな」
「何か判りましたか」
「まぁ、大体は皆から聞いた話だったよ」
ナターシャ、リアレスさんネルトさんに順にアプーを渡す。
三人共シャリシャリと音を立てて食べるのを見て、俺も残り一つを手に取り囓り付く。
「それじゃ、それ以外も何かわかったの?」
「そうだね、団長は明日にも処刑されるらしい」
「何ですって!」
リアレスさんは狼狽して、食べていたアプーの実を思わず落としてしまった。
「ならば、決行は今夜にも急がねばなりませんな」
「そうだね、準備は足りないだろうけど急ごう。拠点の入口はあそこの門だけかい」
俺はリアレスさんとネルトさんに問い掛けるとリアレスさんは我に帰ったように顔を上げる。
「あたしら騎士団しか知らない通路があるよ」
「そこまで手が廻っていなければ通れる筈です」
隠し通路か…それなら正面突破しなくても良さそうだな。
問題はナターシャが魔法使いの事を何も言っていなかった事か…。
「ナターシャ…君は何時からグズ貴族の所にいた?」
「どうしました突然…」
「いや、単なる疑問だよ他意はない」
ありますとも他意、何故魔法使いの事を黙っているのか。
「……一月程前でしたでしょうか、それが何か?余り思い出したくないですが…」
丁度この街に魔法使いが来た頃か…。
「ゴメン、ナターシャを不快にするつもりじゃ無かったんだ」
「ならどういうつもりですか」
眉を潜めて不快感を顕にするナターシャがカゲアキを見る。
「…ナターシャの母さんが何時から人質になってしまったのか…早く助け出してあげないと、と思って」
「…そうでしたか、私の方も失礼しました」
「いや俺も配慮が足りなかったよ、ゴメン」
疑問は追及したいが俺みたいな小心者の童貞には美女の不快な顔をされると此方の精神がクラッシュしてしまいそうだ。
出来るなら知り合った女性には笑っていて欲しいという、身勝手で自己満足な考えで他人が聞いたらキモいとか言われるとは思うけど。
でも美女の笑顔はドキッとするよね。
「と、取り敢えずさ、拠点に急ごうよ」
ネルトさんがナイスフォローしてくれた事に心の中で感謝して、二人の案内で更に小道へと入り、入り組んだ道を拠点よりも離れて行くと足首程の高さに伸びた雑草が囲む木造の小屋の前で二人が止まる。
俺は金袋を担ぎながらだったので結構疲れた。
此処まではガルディアンとナターシャに誰かに尾行されていないか警戒して貰っている。
「ここは私達騎士団が緊急避難用の通路に繋がっている小屋です」
「騎士団創設時から在るらしいけど使われた事は無いってあたし達は聞いてるよ」
「私も場所は知っていましたが中に入るのは初めてですね」
「それじゃ拠点までの地下通路は分からないのかい?」
「いえ、通路の方は一度通った事があります」
「えっと…確かに中には、あっと…これだ」
ネルトさんが地面に落ちていた鎖を引くと小屋の扉とは別の所が、ガチャっと開く。
勝手に入れないように仕掛けているらしい。
中は随分と掃除されていないのか埃に覆われていたが一人が生活出来るような古びたテーブル、ベット、棚が置かれていた。
「ケホッ、ケホッ、随分と手が入っていないようですね」
「それで通路とやらは察するにこの床の下にあるのか」
「はい、このベットを動かし、て、……ネル、手伝って」
「うん、分かった…せーの」
リアレスさんはベットを動かそうと押すが動かずネルトさんに手を借りるが動かない。
「ガルディアン、一緒に手伝おうか」
「待たれよ主、主の手を煩わせる迄もありませぬ」
ガルディアンはベットに近づくと二人を離れさせる。
「…フン!」
軽々とベットを持ち上げて別の場所へ置く。
流石は筋力518だ、頼もしい。
ベットの下には薄い板が置かれ、その下には石階段が地下へと続いているが暗く奥は見通せない。
「暗いな、何か灯りになるものが必要か」
俺は小屋の中を見渡すがランタンの用な物は無かった。
「問題ありません、入口のこの魔方陣に魔力を注げば……」
地下への階段近くには埃を被っているが小さい魔方陣があり、そこにリアレスさんが魔力を注ぐと等間隔に壁へ取り付けられた証明が淡い光を発して地下道を照らす。
何となく魔力と言っているが俺は魔力?流れ?がよく分からない。
超回復を使う時も、ふんぬ~~って感じで力を込めるだけだったから謎だ。
それはさておき、地下へ降りて行く三人を見た後、俺はガルディアンに近寄って手招きガルディアンに屈んでもらい小声で伝える。
「ナターシャはまだ何か俺達に隠しているようだ」
ガルディアンの方も小声で返答してくる。
「先程の露店で何か?」
「ああ、店主の話だとグズ貴族の側には一月程前から魔法使いがいるらしい」
「では先程の主の質問だとあのダークエルフが貴族に使われるようになった時期と同じ__」
「カゲアキ、ガルディアンどうかしましたか」
いつの間にかナターシャは俺達の近くまで来てこえを掛けてきた。
「いや、拠点でガルディアンをどう説明しようかと思ってね」
ナターシャは少し訝るようだったが納得したように「分かりました」と階段を降りていった。
「………」
「………」
俺は無言でガルディアンを見て口パクで"注意"と伝えるとガルディアンの方も理解したようで無言で頷いた。
聞かれたか…。
ナターシャは確か盗聴のスキルを持っていた。
可能性は高いだろう…。
俺とガルディアンは不信感を抱きながらも地下への階段を降りる。
地下は一度通った事のあるリアレスさんとネルトさんに先導して貰い地下道を進む事になった。
地下通路はレンガ造りでアーチ状、高さ三メートル程のトンネルが続き、幾つか枝分かれしていた。
幅は意外に広く四人が横並びで余裕を持って歩ける位だ。
ジメジメとしてカビ臭く、水滴が所々降ってくる。
距離的に拠点が近付いて来た頃。
「此処で挟まれたら大変だな……」
口は災いの元とはよく言ったものだ。
待ってましたと言わんばかりに、前方に何かが見えきた、盾か?
「そこのお前達!止まれ!」
通路の先には騎士鎧の団体の一列目が中腰で大盾で壁を造り、二列目が盾の間から此方に向けて槍を構えていた。
距離は数十メートル程だ。
団体は此方から見て四人一列で四列程…十六人程が前にはいた。
「みんな!あたしだよ、ネルトだ」
ネルトさんがフードを取り、顔を見せると団体の二列目の一人が顔の鎧を上にずらしてよく顔を確認した。
「ネルト!?何故お前が此処にいる、レイモンド達と盗賊討伐に出た筈だろう!」
男は驚きと共に疑問を問い掛ける。
「私もいます!リアレス・アリアージュです!」
「何!リアレスもだと!?どういう事だ…」
ネルトさんとリアレスさんはフードを脱ぎ、騎士鎧の姿を現す。
「レイモンド隊長以下部隊の他の方は、私達二人以外盗賊の襲撃を受けて.....亡くなりました!」
リアレスさんが届くように声を張り伝えると団体の方からザワザワと驚きの声が聞こえてくる。
「そんな訳があるか!レイモンドは俺達と歴戦を乗り越えた男だぞ、他の団員も盗賊に遅れを取るような者達では無い!」
「本当です!私達も駿での所を助けて頂き何とか…」
何も無いレンガ造りの通路に声が反射して響く。
「後ろ奴らは何だ、フードを取れ!」
俺は前で必死に団体に話掛ける二人より前に出てフードを脱ぎ、更に前へと進む。
「何だお前!そこで止まれ!」
すると俺の後を追うようにガルディアンが付いてくる。
その後ろをナターシャ、そしてリアレスさんとネルトさんが付いてくる。
こんな所で足留めされてる暇はない。
「俺達は敵ではありません、寧ろあなた方の味方ですよ」
「来るぞ!攻撃用意!」
「皆!この三人はあたしらの_」
距離は三メートル程に近づいた所で俺は歩みを止める。
「こんな事をやっている暇は無い、そちらもそうでしょう?」
俺は腰に差した白銀の剣を床に置き、その場で胡坐をかいて座る。
「おい、武器を置いたぞ、拘束しろ!」
二列目のさっきから喋っている男が一列目の四人に指示する。
一列目の盾持ちの騎士と二列目な槍持ちが中央を開けるように壁側に避けると三列目の剣持ちの四人が俺の前を半円状に囲む。
左隣にはフードを被るガルディアンが控えている。
すると後ろからリアレスさんとネルトさんが俺と剣持ちの騎士の間に立つ。
「この方々は怪しい者ではありません、私達二人を命の恩人です!」
「捕まえるなんて間違ってるよ!」
剣持ちはそれぞれ顔を見合わせて戸惑っているが二列目の男が更に指示を出す。
「そもそも、お前達二人だけが生き残ったと言う事自体が怪しい、構わん全員拘束しろ!」
あ~…いるよね、何を言っても意味が無い奴って。
「待って下さい!私達は大切な話をするた_」
「弁明なら牢屋で聞いてやる、お前達早く拘束だ!」
剣持ちが剣を鞘へ入れて二人がリアレスさんとネルトさんを二人が俺を拘束しようと手を伸ばす。
__バアァン!
ガルディアンは片足で思い切り床石を叩くと石が割れて窪んでいた。
「先程から黙って聞いておれば、主は話があると言っておるだろうが、馬鹿者が!」
するとその後ろからナターシャも俺の右隣に移動し、二列目の男に告げる。
「貴方では話になりません、上官を呼びなさい」
二人がフードとマントを脱ぎ捨てると騎士達は明らかに狼狽えていた。
「何故、こんな所にミノタウルスとダークエルフが!?」
すると四列目の奥から一人が前へ進んで来る。
「道を開けろ、お前さん達には手に負えんじゃろう」
「なっ!副団長、何故こちらに!?」
「何故も何もワシが出んと締まらんじゃろうが」
「締まらないって…あなたは…」
二列目の男が項垂れている。
騎士達が左右に避けて中央を通る男が此方に向かってくる。
顔には古傷が多数あり、髪は所々白髪が目立つ一目で分かる他とは違う雰囲気を出す老練な騎士と言う印象だ。
背中には自分の得物の飾り気の無い無骨な大剣を背負っている。
他とは一線を画す実力のようだ。
名前はオーウェン・ダリス
「ほぉ、なんじゃミノタウルスに小僧にダークエルフとはまた珍妙な組み合わせじゃな」
オーウェンは顎に手を当てて此方を値踏みするような視線を向ける。
そしてそのまま俺の前へと来て座ると俺が置いた白銀の剣を片手で持ち上げて観察するがバチッと電気の様な物が流れ、それに驚き手にしていた剣を落とす。
「ふむ、見事な剣じゃな、素晴らしい"魔彫金"が施されておる」
"魔彫金"?
初めて聞くワードに?が浮かぶ
「何ですかそれは」
「なんじゃ、知らずに持っとったのか…まぁそれよりも…」
剣を俺が拾うと、オーウェンの雰囲気がガラリと変わる。
「お前さん達の話とは何じゃ…」
「ッ……」
先程の軽い雰囲気とは違いまるで獲物を狙う捕食者のような。
そんな鋭い視線が俺に向けられる。
さてどう答えようか…。
「ふむ…見たとこ、そっちとこっちのダークエルフとミノタウルスは腕が立つようじゃが…お前さんからはなーんも感じんな」
何故此処に俺のような奴がいるのかとても不思議なように顎に手を当て考えるオーウェン。
「人は見た目通りとは限りませんよ」
「ほぉ……小僧は何が目的なんじゃ?言っとくが神託のように従者を連れて勇者の真似事なら他所でやるんじゃな」
「貴様!主は_」
怒るガルディアンを俺は手を出して制する。
「そういえば此処に来る途中で聞きましたが明日は騎士団長が処刑されるそうですね」
「………」
「明日までもう時間が余り無いですね」
腕を組んで考えるように目を閉じて顔を上に向ける。
「それで何が言いたいんじゃ小僧」
「結論から言うと、ロナルド辺境伯が居なくなれば良い…」
「まさか!?小僧…辺境伯を…じゃがな」
その場にいる話を聞いた騎士達は動揺していた。
人質を取って人を操り、自分の言うことを聞かなければ処刑するという奴が説得して変わる訳が無い。
ならば殺るしかない。
「つまり小僧はここに来たと言う事はワシ達と共に辺境伯を討つ為か…」
「ざっくりとは、そうなりますね」
「じゃがそれをワシ達が協力を拒否したらどうする」
「結果は変わりませんよ、騎士団が拒否したら明日以降に実行するだけですね」
「ワシ達が拒否して、ここでの情報を辺境伯に流すとは考えんのか?」
「その時は目的を変えるだけです」
「ほぉ」
オーウェンは顎に手を当て考える素振りを見せる。
「腹の探りあいをしてる暇は無いんですよ…殺るか、ここで忠誠を尽くした男を信じて待つか。あなたの答えは?」
「……ワシ達はどの道、解体されるだろう、ならばもはや忠誠もクソもないじゃろう」
「答えは?」
「ああ、ワシ達も小僧に協力しよう」
オーウェンは立ち上がり右手を出している。
俺も立ち上がり白銀の剣を腰に差してその手を強く握り返す。
「オーウェン・ダリスじゃ、よろしく頼むぞ、小僧」
「カゲアキ・ショウマです、こちらこそ精強な騎士団の皆様がお味方となれば力強い」
さて何とか協力を得られそうだがまだまだやることは多い。
次はどうするか…。