第一章 第二話 初めての契約、そして異世界へ
名前:景明 翔馬
クラス:勇者
レベル:1
体力:160
魔力:1100
筋力:36
速力:45
魔法力:11
取得スキル
超回復 従魔術(従魔 無) 鑑定 通訳
目の前に自分のステータスが写し出され、確認するが強いのか、弱いのかさっぱり分からなかったので、目の前のルフネ・エルファリアスと名乗る女神様に聞いてみた。
「これは強さ的にはどうなんですか?神様」
ステータスを確認しながら神様はフムフムと頷く。
「ルフネで構いませんよ景明さん」
微笑みながらルフネは説明を続ける。
「じ、じゃルフネ様と呼ばせてもらいます」
ドキドキが止まりませんよ、その微笑み。
「はい、ではステータスの方ですが、一般の平均的な者に比べて、魔力は10倍程ですがそれ以外は一般人並みですね魔法力が低いですが」
魔力はMPみたいなものか、そんなにあったのか、でも魔法力っていうのは?
「ルフネ様、魔法力は何ですか?」
「魔法力とは攻撃魔法を使った時の威力に関係するものですね魔法のセンスと言っても良いかもしれません」
んっ?となると俺は魔力はあるけどセンスはないのか!?
「って事は、魔力はあるけど魔法は使えないってことですか?」
「いえ、魔力は契約時に必要ですので景明さんが使う従魔術は使えます、その点は問題ありません、ですが他の魔法は修行次第ですが初めのうちは幾分劣るかと…」
「なら初めは強い魔物とは戦闘は出来そうもないな」
「そうですね、まずはある程度の魔物と契約し、育成しつつ魔法を覚え、後衛で戦うとした方が良いでしょうね」
「契約事態はどうすれば、出来ますか?」
「契約は魔物か精霊に触れ、術者を対象が認めれば契約完了です」
つまり、認められなければ契約は結べないのか…なかなか厳しい条件だな。
「さて、説明は終わりにしてそろそろ私の世界へいって見ましょうか」
パンッと手を叩いて次へ向かおうとするルフネ様
サービスタイムは終わりか、名残惜しい。
「そうですか……あの!」
「はい、何ですか?」
「また、会えますか?」
「すぐには、無理かもしれませんが、またいつかお会いしましょう景明さん、では門へ案内致します」
ですよね、そんな物事上手くは行きませんよね
そのまま俺はルフネ様の照らす光を頼りに後ろ姿を見ながら暗闇を歩いた後ろ姿も良いですね、素晴らしかったです。
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――――――
暗闇の先に門が見えてきた、巨大な門を照らす光が見えると周りに何かがいるのがわかった。
「何だ、あれは…」
その光景に俺は思わず立ち止まり、息を飲んだ。
門と言っていたが壁にあるわけでは無く、何も無い場所に文字通り門だけが立っていた。
門の前には立派な一対の角を生やし牛の頭が特徴的な2m近い人成らざる者、ミノタウロスと云われるギリシア神話に伝わるクレタ島の人肉を喰らう怪物、神話では牛の頭に人の身体とされているが目の前のミノタウロスの足は牛のそれだった。鎧の隙間から覗く身体は筋骨隆々であり黒く艶のある体毛が覆い、完全武装にハルバートを持っていた、まさに門番という雰囲気。
するとルフネ様は振り返り説明してくれた。
「彼の名はガルディアン、ミノタウロスでありこの狭間から私の世界への門番ですね」
なるほど、試してみるか.....鑑定と頭の中で唱えてみる。
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名前:ガルディアン
クラス:ミノタウロス、狭間の門番
レベル:104
体力:15040
魔力:1100
筋力:518
速力:200
魔法力:100
取得スキル
状態以上耐性 切断 斧術 大剣術 大盾術 突進 咆哮 鉄壁 回復術
無理、絶対に無理!こっち見て、フーフー言ってるし、俺なんかプチッ!!ってされるって。
「うん、絶対勝てそうにないですね……」
「あっ、鑑定使ってみましたか?便利ですよね」
「まぁ、俺じゃ勝てそうに無いのはよく分かりますね」
クスクスと笑うルフネ様可愛いな。
そんなやり取りをしているうちに門の前に到着する。
「ようこそお越しくださいました、ルフネ様」
「ご苦労様です、ガルディアン変わりありませんか」
ガルディアンは片膝をつき武器を置いた。
「ははっ!何事もございません、有り難き御言葉、このガルディアンより一層職務に励みます」
「ところでガルディアン、あなたはここの門番となってどのくらいでしたか?」
「はい、今年で1452年程になります、ルフネ様」
物凄く気の遠く成りそうな長さを守って来たのか、ということは…鑑定。
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名前:ルフネ・エルファリアス
クラス:創造神
レベル:鑑定不可
体力:鑑定不可
魔力:鑑定不可
筋力:鑑定不可
速力:鑑定不可
魔法力:鑑定不可
取得スキル
創造神の怒り 創造神の慈悲 創造神の眼 天地創造
うん、無理、指一本にも勝てないわ。
「ど、どうしました景明さん、土下座などされて」
「今までのご無礼、お許しください」
それはそれは、綺麗な土下座だったとさ。
「景明さん頭を上げてください、私もこんな風にお話して笑えたのは久しぶりで楽しかったんですよ、いつもは一人なので、も、もしよろしければ今後は気楽にルフネと呼び捨てにしてください」
「わ、わかったよルフネ…」
創造神だから気軽に話せる相手もいなかったのかな、だからって一人はつらい。
「じゃあ俺も、名前で読んでもらえないかな」
何だかむず痒い気分だったが悪くは無かった。
「はい、翔馬…」
何か俺がルフネに出来ることはあるだろうか…。
「それでルフネ様、此奴は何者ですかな」
「はい、こちらは私の世界の勇者になってもらう景明翔馬さんです」
ガルディアンは此方をジロジロと見ながら聞いてくる。
「小僧、お主何が出来る」
「俺は…従魔術を使う、出来るならあんたとも契約したいな」
「ブハハハハ!小僧なんぞに我を従える事など出来んわ!」
大笑いして歯牙にも掛けない様子にさすがに俺もカチーンと来た。
「ガルディアン控えなさい、翔馬は――」
慌ててガルディアンを一喝するルフネ、俺を気遣ってくれたのかな、でもこれはある意味チャンスだ。
「大丈夫だよルフネ気にしてない、ところで二つ質問なんだけど、俺の一つ目の能力はここでも使えるかな?」
俺の一つ目の質問にルフネは首を傾げるが、すぐに返答してくれた。
「ええ、ここでも使えますがなぜ今その質問を?」
俺はルフネの世界で勇者になる、その為には今こんな所で逃げるようじゃこの先やっていけない、ある意味ここが俺の分岐点かもしれない。
「まあ、俺にも意地があるってことで、二つ目の質問なんだけど、この門の番人は代わりはいる?」
段々と不安そうになりながらルフネは答えてくれた。
「ええ、あてはありますが、まさか…翔馬」
「そのまさかだよ、今ここでガルディアンと契約する!」
ここが勇者への第一歩だ。
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――――――
「この広さで問題ありませんか?」
巨体な門の前にサッカーのハーフコート程を光が降り注ぎ
戦う場所をルフネは提供してくれた。
「ありがとうこれだけあれば十分だよ」
「フン!小僧め、本気で我に勝てると思っておるのか、さっさと門をくぐれば良いものを、折角拾った命を捨てるとは愚かな」
余程自信があるのか、もう勝った気で何処かで聞いたような台詞を言っている。確かにこのミノタウロスに勝てるか、と言われれば…勝てない。
だか勝つ必要は無い、俺は創造神であるルフネの立ち会いのもとある賭けをガルディアンに持ちかけた。
それはもし"一撃でもガルディアンに攻撃を当てる事が出来たら、俺と契約を結び、俺が老衰で死ぬまで従う事"というものだ。
勿論賭けである以上俺の差し出せるものは俺の命以外無い。
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―――――――
「其では我には何の得も無かろう」
「それじゃ、別に止めても良いよ、こんな小僧との戦いで負けるのが怖いような門番とは契約したくたいから」
すると青筋をたて、ハルバートを片手で持ってこちらに突きつけてくる。
「小僧調子に乗るなよ!我を愚弄した罪その命を持って償って貰おう」
こんな賭けにもなっていない事は確かに愚弄していると言われても仕方がないが、俺にもルフネの世界では何が起こるか分からない状態では一人?でも優秀な仲間は増やしておきたい。
「たが、丸腰の小僧を倒したとあらば我の誇りに傷がつく、その門柱にある亡者共の武器から好きな物を選ぶがいい」
よく見てみると門の両側には彫刻のような物があり、それはまるで柱から這い出ようとする骸骨だった、その手にはそれぞれ別の武器を持っていた。
ちらりとルフネに見ると、「どれでもどうぞ」と言われたそれなら遠慮無く...どれにしようか。
門に近づくとその大きさに圧倒されそうになる。
―――――カチャ――――ガシャン!
武器を選んでいると門柱の上方、一体の骸骨が持っていた武器を落とす。
それは彫金を施された白銀の剣だった。
見た目は片刃、直身であり彫金のされた刀身は芸術品のようで鍔は無く持ち手には不自然な穴が幾つかあった。
武器を落としたであろう骸骨を見るとその骸骨だけが顎をカタカタと笑っているようだった。そして骸骨がゆっくり塵となるのが見えた。
鑑定――
――――――
――――
名前:白銀の直剣
武器スキル
自己修復 受け流し 液体操作
《この剣を使え》と今しがた塵になった骸骨が言っているように思えた。自己修復か…折れても使えそうだな。受け流し…これも俺のような素人にはありがたいが、この液体操作はなんだ?
そのままの能力か、だかここじゃ使えそうに無いな。
そもそもここには、水分が無い。
取り敢えず先のスキル二つで戦うしか無いが、他の武器は…。
取れなかった…と言うか他の骸骨達が離さなかった。
「仕方ない....これにしよう」
これにするしか無かったが仕方ない、素人の使う武器など
大して意味はない。持っているだけマシだろう。
「決まったようだな小僧」
「ああ、それじゃあ始めようか」
ルフネは俺とガルディアンの決着を見届けてをしてもらう。
「それでは此より試合を始めますが、ガルディアンへ一撃でも当てる事が出来れば翔馬の勝ち、ガルディアンは翔馬に参ったと言わせるか試合続行不能にすれば勝利とします....では始めてください」
試合開始の言葉と共に動き出したのはガルディアンだった。
――ドッドッドッドッ
こちらとの距離を瞬く間に詰め、ハルバートを勢いよく振り上げて頭を目掛けて振り下ろされる。
時間がゆっくりに感じた、すると自分の腕が勝手に動き出し剣がガルディアンのハルバートの斧刃を紙一重で受け流した。
「ぬぅ!小癪なだか次は避けれまい!」
「…………」
脳が考えるより早く剣が動いていた、まるでスローモーション映像を見ているようだった。
だが足は動かない、動きについていけない。
すると次は首を狙う横凪ぎの一撃が襲う、再び引き伸ばされる感覚、剣がハルバートを剣先で持ち上げ、凶刃は空を切りガルディアンの懐が開いていた。よく分からないが今しかないと俺の感覚が反応した。
「―――――――――!!」
ゆっくりと動き出す身体にまるで全身に重りでも付いているかのように感じる、ガルディアンが何かを言っているようだか聞こえない。
懐へ近づくとガルディアンの右足が俺を蹴り飛ばそうと迫っている。だがここで避ければ確実に次の一撃が来る、そうなれば次も避けれるとは限らない。俺は一か八か剣先を足首の鎧の隙間へ向ける、すると剣は隙間に吸い込まれるように入って行った。
引き伸ばされた感覚は元に戻り、代わりに腕の感覚が無かった。確認すると折れた剣ごと右腕が肩から先、吹き飛んでいた。ガルディアンの蹴りに耐えられなかったのだろう。
次に襲ったのは言葉に出来ない痛みだった。
「――――!!!!」
そのまま俺カゲアキは倒れ、のたうち回る。
痛い、痛い、痛い、肩が熱い。
血が吹き出し周りを朱に染める、だが次瞬間には修復が始まり、肩から先が徐々に元の形へ復元されていくと共に痛みは消えていく。
「――カハッ!ハァッ…ハァッ…ハァー…フーー」
やっと息を整える事が出来、腕の修復は手首まで終わっていた。
するとルフネは駆け足でこちらへ向かっていた。
「大丈夫ですか翔馬!?無茶が過ぎますよ!?」
「ああ…ごめんルフネ、でも今回はどうしても無茶しなくちゃいけなかったんだよ」
「次は気を付けてください、超回復があるとはいえ痛みはあるのですから…」
こんなに心配してくれたのは家族以外では始めてだった俺は嬉しかった。
次に完全に元に戻った腕を動かし感覚を確かめる。
今回の戦いで損傷した箇所の修復に多少時間が掛かる事が分かった、これはとても重要な情報であり戦いの中での幅が広がりや弱点でもある。この能力は今後要検証だな。
俺は持ち手だけになった剣を拾い、ガルディアンへと向かった。
「馬鹿な....我がこんな小僧に手傷を負わされるとは」
ガルディアンは苦々しい表情をして足首に刺さった折れた刃を引き抜いた。
正直一撃さえ通るとは思ってもいなかった、この剣とルフネに貰ったスキルのおかげだ。
「いや…あんたは恐ろしく強かったよガルディアン、俺が一撃入れられたのはこの剣のおかげであって俺の力じゃない…それでも俺はガルディアンあんたを仲間にしたかったんだ…挑発するような事を言ってすまなかった、もし気に入らないならこの話は無しで良い、ガルディアン返答を聞かせてくれ」
「その前に小僧、お前に聞きたい事がある」
「……?」
「お前が成したい事はあるか?」
「俺が成したい事か、正直に言うと俺はゆっくりと静かな暮らしがしたいだけだ」
「何だと?地位や名誉、国を興す事や女を侍らせたい等、他に無いのか」
「地位や名誉で腹は膨れない、国なんかは何処かの偽善者が興す物で俺なんか器じゃない、女は……侍らせたいけどそこまでの夢では無いかな」
「野心も上昇志向も無いと言うのか?」
「自分の力量位分かっているつもりだよ、身の丈に合わない事をすれば身の破滅になる」
「ならば農夫などで生計を立てればよかろう」
「でも何もやらない訳でもない、勇者なんて肩書きが自分に付いてるならやれる事を精一杯やってからゆっくりと老後を迎えたいだけだよ、ガルディアンもこんな何も知らない小僧に命令されるのは腹が立つだろうけど、改めてどうか手を貸してください」
後はただ頭を下げて頼むしか俺には思い浮かばない。
「………勇者の素質.....か」
顔を門の方へ向けてため息を吐くガルディアン、その後ルフネの方を向き膝を付く。
「ルフネ様申し訳ありませんが創造神であらせられる貴女様から拝命した門番の任、暫しの間暇を頂けますでしょうか」
ルフネは優しい笑顔でガルディアンへ返答する。
「構いませんよ、ただ理由を聞かせて頂けますか?」
もう分かってはいるが敢えて聞こうとするルフネは嬉しそうだった。
「はい、ある者がルフネ様の世界に向かいます。その者の命果てるまで剣となり盾となると契約致しました、その約定を果たす為暫しの間その者を主とし、仕えたいと考えます」
嬉しそうな表情のままカゲアキの方を向くルフネ。
「という事ですよ翔馬では早速契約を致しましょう、手をガルディアンの方へ」
俺は膝を付いたままのガルディアンの前に進み左手をその頭へ触れると心の中で従魔術と唱えた。
――――キィイィィン
二人の身体が発光し始め眩い光で覆われると音叉のような甲高い音が響く。
俺は反射的に瞼を閉じた。
少して恐る恐る片目を開けると光は収まり、左手を甲には牛を象った紋様が黒く浮き上がっていた。
「契約は無事に完了しましたね、これでガルディアンは正式に翔馬の従魔になりました、二人のこれからに幸多からん事を...」
「主よ、これより我が身命に賭けてあなたを御護り致しましょうぞ、それと先程の無礼の件は平にご容赦を」
「やめてくれガルディアン、まだ俺は命を掛けるには値しないが俺もガルディアンに恥じないような立派な主になってみせる、だからどうかその力を俺に貸してく欲しい」
俺はこの忠義に応えることの出来る主にならなくてはいけない、肩を並べて戦うのは無理かもしれないがせめて近くで戦うくらいには。
カゲアキは右手を出すとガルディアンも立ち上がり固い握手を交わした。
「ははっ」
「ではこれより門を開きます、二人とも私の世界をどうか頼みます」
「ハハッ!必ずや」
「ああ、やってやるさ」
―――――ゴゴ、ゴゴゴ
ルフネが右手を上げると空中に巨大な魔方陣が現れ巨大な門は勝手に開かれた。
中は空間が捻れて渦まく異様なものだった。
「申し訳ありませんが行き先はランダムとなってしまいます、心の準備が出来ましたら御入りください」
いよいよか、俺がどこまで出来るかは分からないがやれることやるだけだ。
そして…。
「ルフネ!君にまた会える日まで俺きっと自慢できる勇者になるから―――」
「きっとまた会えます、きっと―――」
そこで俺とガルディアンの身体は渦に吸い込まれる用に飲み込まれると同時に意識もそこで途切れた。
次話から異世界編です
読んで頂いた方、どうもありがとうございます