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この異世界は何度目か。  作者: 佐々木ジクス
第一章『突然の異世界』
3/11

1-2 新たな暮らし

 自己紹介も済んだ。いろいろ際どい質問をされると思っていたが、あまり深くは訊かれなかった。


(三人とも食べるのゆっくりだな……いや、俺が急いで食べ過ぎただけか)


「そういえばライトってこれからどうするの?」


 リエスがまだ飲み込めないパンを口にしながら訊いてくる。


「ん、何もかんがえてなかったなぁ……」


「そうなの! ていうか今更だけど、何しにアリシナまで来たの?」


(ここってアリシナって言うのか、てか待て待て、この質問そのうちされると思ってたけど答え考えてなかった!)

「えっと……ある事情で住むところがなくなって旅に出たんだ」

(流石に無理矢理すぎたかな……)


「だから何も持ってないのね、大変だったでしょ」


 三人とも心配そうに来斗を見る。手に持っていたスプーンのようなものからスープが一滴落ちた。


「あぁ……まぁね」


 来斗が少し苦しそうに笑いながら答える。三人には申し訳ないが、本当の事を言っても信じてもらえないだろうし、あながち間違いではないだろう。


「それじゃあ、一人で暮らせるようになるまでここに住んだらどうだい?」


 ミルリスアさんが優しく微笑みながら来斗に提案する。


「え、いいんですか⁉︎」


「ああいいよ、そのかわりしっかり働いてもらうからね、二人もいいかい?」


「いいよー!」


 これからどう暮らしていけばいいかなんてまったく考えていなかった来斗にとっては、全身が熱くなるほど嬉しかった。その時ふと、この世界に来る前の家族の顔が浮かんだ。まだ、前の世界のことを落ち着いて考えることができていなかった。


「ありがとうございます……」


 来斗は涙目になりながらこう答えた。自分でもいろんな感情がありすぎてわからなくなっていた。鳥のさえずりが容赦なく来斗の耳に流れてくる。


「ライトなんで泣いてるの⁉︎」


「なんでもないよ」


 いつの間にか溢れていた涙をぬぐいながら答えた。前に泣いたのは相当前のことだ。


「それじゃあ、ごちそうさまでした」


「ごちそうさまでした」


 皆が片付けを始める。来斗も手伝う。リアスとスミアは腰ほどまである長く綺麗な銀髪を揺らしながら淡々と片付けを進める。ミルリスアさんも銀髪だ。来斗の髪色は少し茶色がかった黒で、長さも平均的。

 来斗は皿を洗おうと蛇口をひねった。いつもより水が冷たく感じる。


(ここって水道も通ってるんだ……)


「それじゃあ早速だけどライトも入れて三人で街に行ってもらおうかね」


「はぁい」


 ミルリスアさんの提案に二人が返事をする。


「街……ですか?」


「東から来たんだったらライトも通ったはずだよ、ここから歩いて一時間半くらいだからすぐさ」


(一時間半……もしかして時間も同じ考え方なのか)

「あ、あの……一日って何時間ですか?」


「え、どうしたんだいいきなり、二十四時間だろ、もしかしてそのニホンってとこだと違う数え方なのかい?」


「いや、同じですけど……てことは一時間は六十分……?」


「そうだよ」


 来斗は何度も質問するも、ミルリスアさんは優しく微笑みながら返してくれる。それが来斗にとっては逆効果であった。


「ですよね、なんかおかしなこと訊いてしまってすみませんでした」


「いいんだよ、困ったことがあったらなんでも訊いてくれていいからね」


「ありがとうございます」


 そうこうしているうちに片付けが終わった。食器棚は綺麗に整頓されている。いつの間にか鳥のさえずりも小さくなっている。


「そうだ、今日はライトに車を引っ張ってもらったらどう?」


「く、車ですか⁉︎」


「おばあちゃん、いきなり引っ張ってもらうのはダメじゃない?」


「んー、ライト、体の調子はもう大丈夫かい?」


「え、あ、まあ……」


 いろいろよくしてもらったから断るわけにもいかない。しかしさすがに車を引っ張ると聞いて驚く。これから何をされるのか心配だ。


「じゃあ決まりだ、リエス、あとは頼んだよ、せっかく男なんだから働いてもらわないとね!」


 ミルリスアさんが大きく笑う。リエスとスミアは小さく笑っている。来斗は苦笑い。


「頑張ります」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 朝食のすぐ後で本調子ではないが、リエスとスミアは元気そうだ。スミアはスキップをしながら道を進んでゆく。内容は聞き取れないが何かを話しているようだ。


(朝ごはん急いで食べ過ぎたかな……)


 振り返ると、昨晩は暗くてようく見えなかったが、木造の平屋がそこにあった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 二人に連れられて家から少し離れた畑の小さな倉庫まで来た。その中には収穫された野菜(?)が入ったカゴがたくさん並べられていた。カゴは黄色でプラスチックのようなものでできているようだ。どうやらこれらを運ぶらしい。


「それじゃあ皆で車に積んじゃおうか」


「はぁい」


(お、車か……どんなやつなんだろ……)


 その『車』と呼ばれるものは、倉庫の裏にあった。


(あ、そうだよな、こうゆうやつだよな、よかったぁ……)


 それは人力車の構造に似ていて、人が乗るところが軽トラックの荷台のようになっている。来斗は自動車のようなものを想像していたが、この車を見て安心した。


「よいしょっと」

(この野菜っぽいの、キャベツみたいだな)


 カゴを二十くらい積んだだろうか、荷台がいっぱいになった。一つのカゴにはキャベツのようなものが六玉くらい入っている。車の人が押すであろう部分が柵にかけられていて傾かないようになっているが、今にもバランスを崩してそうなくらいだ。


(これ、今までリエスとスミアで運んでたのか、すごいな)


「それじゃあ、ライトにこれを引っ張ってもらいたいんだけど大丈夫?」


「うん、全然大丈夫だよ」


 高校では科学部に所属していたが、足腰には根拠のない自信があった。

 手をかけるところは金属でできていて、錆びてしまっていた。手が少しチクチクする。


「よいしょっと」

(思ってたより軽いな)


 両側にある大きな車輪を後ろに転がして方向転換をする。昨日の雨のせいか、まだ若干道がぬかるんでいる。


「よし、出発だぁ!」


 スミアの掛け声で三人は街に向けて歩き出した。なんだか楽しそうだ。リエスはカゴを持っている。中身は財布のようなものがはいっていた。

 ふと、街に行って何をするのか聞いていなかったことに気づく。


「ねぇリエス、何をしに街に行くの?」


「そういえばまだ言ってなかったっけ、今日はこの『キベツ』を売ってそのお金で買い物をする予定」


「え、キャベツ?」


「ん? キベツがどうかしたの?」


「あ、キベツ……ですよね、なんでもないです」


 リエスとスミアは不思議そうな顔をする。来斗がさっきから変な質問ばかりしているから当然のことだ。

 それにしても、目の前からは煌々と陽の光が差す。


「また訊くんだけどさ、あれって太陽だよね?」


「え、タイヨウ……何それ?」


 どうやら来斗が太陽だとを思っていたあの星は太陽ではなかったようだ。


「じゃあ、あれってなんていうの?」


「ホントにいろいろ変わってるのね、サーンって言うのよ」


「へぇ、なるほど……ありがとう」

(ちょっと面白い名前だな……そろそろ質問するの一旦やめておくか)


 前方から差すサーンの澄んだ光に、隣を歩く二人の鮮やかな碧の虹彩が輝いていた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 それからはいろいろな話をした。リエスとスミアはとても仲がいい。息が白くなるほど寒いのに不思議と暖かく感じる……。


(って、あれ⁉︎ いるの間にか学ランじゃなくなってる⁉︎)

「あの、いつの間に僕着替えたの?」


「え、もしかして今頃気づいたの⁉︎ その『ガクラン』ってのは知らないけど、私が寝てる間に着替えさせてあげたんだよ!」


 どうやらスミアが着替えさせてくれたようだ。来斗は少し顔を赤らめる。


「そうだったのか、ありがとね」


「あはは!顔赤くなってるー!」


「えへへ……」


 紺色のズボンにグレーのシャツのようなものを着ている。家を出る前には黒いコートを着せてもらっていた。

 三人が横に並ぶと丁度いい感じの身長差だ。来斗は百七十一㎝ほどだが、リエスは来斗より十㎝と少しくらい下だろうか。スミアさらに十㎝下って感じだ。

 こうして来斗の二日目が始まった。街まであと少しだ――。

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