1-0 プロローグ
猪狩来人、十六歳、高校一年生。血液型はO型で身長は百七十一㎝ほどの青年だ。
来斗はある事件に関係する一人となる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
カーテンから朝日が薄く差し込む。外では鳥が騒がしく鳴いている。この薄暗い部屋で来斗は一人仰向けでベットに寝ていた。外の騒がしさに反し、寝相がいい。
「ピピピピッピピピピッピピピピッピピッ」
スマホからアラームが流れる。来斗は目を覚ました。アラームを止めようとするが、目が霞んでうまく止められない。
「やっと止まった……」
ベットから起き上がり、着替えをする。いつもより寒い朝だ。急いで着替えを済ませる。覚束無い足取りで部屋を出た来斗はそのまま階段を降り、リビングに向かう。
リビングに入ると、テーブルには朝食の準備ができていた。
「来斗、おはよう」
「おはよう」
台所に立っている母に眠たそうに返す。来斗は椅子に一人で座った。正面の窓から朝日が眩しく差し込む。右にはテレビが朝のニュースを伝えていた。
「いただきます」
今日の朝食の目玉焼きは程よい半熟だ。寒い朝に暖かい味噌汁が立つ。
「次です、高校生らが突然失踪するという事件が全国各地で相次いでいます」
テレビから流れるアナウンサーの言葉に耳を傾ける。
「来斗も気をつけなさいよ、この辺も物騒なんだから。」
「はぁい」
食器を洗い始めた母に心配されるが適当に返事をする。
(そんなに心配しなくてもどうせ大丈夫でしょ)
そんなことを考えながら、登校の準備を進めた。
「さっきのニュースのやつ、もしかしたらドッペルゲンガーのせいかもだってー」
寝坊した様子で妹が二階から降りてきた。妹は中学一年生だ。
来斗も学校の友人から同じような話を聞いている。もとからオカルト好きであった来斗はこの話に少し興味があった。
「そんなのあるわけないだろ、いいから早く準備したほうがいいんじゃないか」
「はいはいわかってます」
(ドッペルゲンガーって本当にあるのか気になるな)
準備も終わり、来斗はそそくさと家を出た。
「行ってきます、さむっ!」
自転車のサドルはキンキンに冷えていた。吐いた息が白く登る。重いバッグにバランスを取られながら、若干の憂鬱のなか学校へ向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その日の放課後、来斗はスマホの充電ケーブルを買いに家電量販店に寄っていた。昨日の夜に壊してしまっていたのだ。
(たまたま部活休みで助かった、さっさと買って帰ろ)
「お客様、何かお探しの物ございますか」
「あ、えっと、スマホの充電ケーブルが欲しいんですけど……」
店員に教えてもらって早く用事を済ませることができた。来斗は軽度の人見知りで、店員との会話にも若干の戸惑いがあった。
(来週は中間考査もあるし、今日は帰ったら昼寝しないようにするぞ)
そんなことを考えながらエスカレーターに乗り、一階に降りる。いつの間にか外は薄暗くなっていた。帰宅ラッシュの時間で店の前の道路も混み始めている。自転車置き場は入り口の裏にあるせいか、まして薄気味悪い。
(あれ、チャリ鍵どこ入れたっけ)
自転車のカゴに荷物を置き、右手を右足側のポケットに突っ込む。そのときであった。
「ヅザッ……」
「えっ……」
後ろから誰かに押されたかと思った途端、目の前が一瞬真っ白になったのがわかった。次に視界が開けた時には、全身に一気に力が入るほどの激痛が、腹部から全身の末端にまで走った感覚を覚えた。刃が自分の腹に刺さっていることにはっきりと気づいた。
「ぃっ……はぁ、ぁっ……」
(痛い痛い痛い……)
声が出ない。刃が抜かれ、来斗は背中から後ろに倒れた。黒い学ランの上からでも、赤黒い血が滲んでいるのがわかる。
(俺って死ぬのか――死にたくない、死にたくない――怖い怖い怖い怖い怖い……)
遠のいていく意識の中、来斗は必死にもがいた。全身に力を込め、いうことをきかない自分の身体をどうにか制御しようとした。
その時、一瞬であるが、自分を刺したであろう人物の顔が来斗の視界に入った。
(!!!!)
何も考えることができなかった。ただ、静寂の中に一点の緊張が走った。全身に込めていた力が更に強くなる。鼓動など既にどうすることもできない。来斗はこの状況どうにかを脱しようと、このことしか考えていなかった。死ぬことよりもだ。
(なんでだよ……)
その顔は薄ら笑いの表情を変えることなく、来斗に似ていた。
まだまだ至らないところはありますが、できるだけ定期的に更新していきたいと思います!