第6話 認めるのもやぶさかではありません
私が悪いのですか。
「シーツの下に何か着ているようには見えませんでした。素っ裸に見えたんです。れでぃーの前で、素っ裸にシーツ一枚巻きつけただけの姿で現れたと思ったんです。素っ裸にシーツ。それで女の子の前に現れたんです。 わぁ変態、って心の声がポロってもれても無理ないと思うのですが」
食後に紅茶とクッキーをごくごくモグモグいただきながらメイドキャサリンとお喋りします。
「それは、確かに……カーティム様、本当に素っ裸で赤ずきん様の前に?」
「い、いやそれは……それ以前に、素っ裸、素っ裸、素っ裸と、君たちには恥じらいがないってものを持ち合わせていないのか?」
「成人男子、もしかして話を逸らそうとしていますか?」
逃がすまじ、と突っ込みを入れました。だって素っ裸です。変態です。
「……っ、そんなことよりも、認めたんだろうな?」
………。
クッキーに手を伸ばしました。紅茶のカップも手に構え。
モグモグごくごく。モグモグモグモグモグモグモグモグごくごく。
モグモグモグ。ごっくん。
「何をですか?」
「私と、昨日の狼が同一の存在であることを、だ!」
おーかみ? 私は首をひねりました。心当たりがありません。おうかみ、おー紙?
「紙?」
「お・お・か・み・だ! ……昨日、君は私のことを『ワンちゃん』だとか呼んでいただろう。それのことだ! でも断じて『ワンちゃん』ではない。犬じゃない。私は魔に生きる誇り高き者、ワーウルフだ」
「わーうるふ」
「ワーウルフ、だよ。確か人界では人狼とも呼ばれていたはずだ。聞いたことくらいならあるだろう」
結局、おおかみなのかワーウルフなのかはっきりしてほしいです。……ああ、狼ならそういえば聞き覚えがありました。確か近くの山でそれっぽいのを見かけたことがある気がします。でも、あのワンちゃん……いえ、狼さんの方が素敵でした。
ああ、でも。でも。でもっ……!
……人がせっかく目をそらしていたことを突き付けてくるなんて、ひどい人です。
「夢をぼろぼろにするようなことを……」
「は?」
子供の夢を壊さないでほしいのです。あんな素敵なワンちゃん――ではなく、狼さん? が、イコールで目の前の口うるさい成人男子と結ばれてしまうなんて……。
「はぁー」
ため息が肺の奥から出てきます。私の幸せが逃げていきます。成人男子のせいです。
あのとき、狼さんから成人男子へ目の前で変身されてしまいました。二人? が私にウソをつく意味もありません。何よりも、狼さんと成人男子のもつ魔力は同一です。冷静になってみれば疑う方が馬鹿らしいのです。
もういっそ泣きたいです。生まれて初めての食べ物以外への感動だったんです。それなのに。嗚呼それなのに。
あの狼さんは確かに素敵でした。どこもかしこも本当に素敵でした。でも、目の前の成人男子と同じなのですね……。
ああ、でも、でも……落ち着くのです、私! どこもかしこも、と思ってしまうのはきっと恋はモウモクみたいなことになっていたからです。先生も言っていました。好きって気持ちでいっぱいになって相手を見失うのは馬鹿なことですって。好きって気持ちは相手を知るところから始まるんだって。だからちゃんと食べ物を食べるだけでなく、作り出す過程も勉強していつか素材から料理を作れるようになりなさい、そして自給自足ができるようになりなさい、それが誰にとっても迷惑のかからない一番の道だって。
……先生、私、がんばります。
お空の上から見守っていてください。
決意を新たに成人男子を見つめます。見つめます。見つめます。
……はぁー。
「なんだ」
「気にしないでください。はい。あなたと狼さんのイコールな関係を認めるのもやぶさかではないのです。はい」
ごくごく。ぷはー。
もぐもぐもぐ。
「認めたならいいが……いつまで食べ続けているつもりなんだ、君は」
「気にしないでください。ただのやけ食いです」
やけ食いができるという幸せを噛みしめながらやけ食いをすることで胸のもやもやを晴らそうとしているのです。
モグモグごくごくモグモグモグモグモグごっくん。
「それにしても君のマナーは本当にひどいな。口いっぱいに物を詰め込むな。カスを散らかさない。……ああもう、言ってる傍から!」
「そんなことよりも狼な成人男子」
「その呼び方だけはやめてくれ!」
泣きそうな声で頼まれてしまいました。
仕方がありません。
「成人男子狼さん」
「……ああ、そういえば名乗っていなかった。私の名前はカーティムだ」
「カーティム狼様」
「ミックス禁止」
わがままです。お金持ちはわがままと相場が決まっているので我慢します。ご飯をくれるお金持ちには親切に、です。
私はちょっと考えて、目の前の男性の呼び名の中から一番好きなものをチョイスしました。
「狼さん」
「カーティムだって……何?」
私は狼さんの目をしっかりと見つめて話を本題に戻しました。
「結局、シーツの下は素っ裸だったんですよね?」