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第19話 探検あんど捜索開始

 侵入者さんは歩くのが早いです。ですから、私はちょっと小走りに後を追いかけます。もうちょっとゆっくり歩いてくださいと言おうかとも思ったのですが、また担がれそうな予感がしたのでやめました。あの苦しみと恐怖はこりごりです。

「最初はどこに行くのですか?」

「赤ずきんはいつ食事を止められるかわからないときに、まず何から食べる?」

「一番おいしそうで一番お腹いっぱいになりそうなのを食べます」

「そーゆーことだ。カーティたちがいつ帰って来るかわかんないしな。とりあえず、目当てのところだけでも探しとこうと思ってさ……よし、カーティの寝室」

 確かにベットがあります。クローゼットもあります。あと机とか椅子もあります。本棚もあります。

「んー、一番怪しいのは……」

 侵入者さんは本棚へ近づき、中の本を片っ端から取り出して行きます。何をしているのでしょう。不思議に思いましたが「ほら、お前も」と言われとりあえず手の届く範囲の本を同じように取り出していきます。後で戻せばいいことです。

 にしても本と言うのはかさばって重いです。私の届く場所にあるものは特に大きくて重くて分厚いものばかりだったので、ついつい床に下ろすのが面倒になってきてしまいます。

 ……えい。

「うぉっ!」

 ついには持つことすら放棄して本棚から引っ張り出したままその重さに運命を委ねてみたりしました。それを間一髪よける侵入者さん。素晴らしい反射神経です。

「あーかーずーきーんー」

 ぐいと赤ずきんの上から頭を押さえこまれて怒られました。はい、了解です。次からは落ちる位置をちゃんと予測して落とします。

 そして、下から二段目の本を取り出していると、奥に空間がある場所を見つけました。覗きこむと、なにやら飲み物が入っていそうな瓶発見です。取り出してみます。

「お、見つけたか」

 なんだかとても綺麗な青色です。瓶入りです。こんな色の飲み物見たことがありません。

 私の手から瓶を取り上げた侵入者さんは、それを見て二ヤリと笑いました。

「よくやった赤ずきん! これすごい高いし、珍しいし、しかも美味いんだ」

「……そうなんですか?」

 それはぜひとも飲みたいです。微かな匂いから察するに、飲んだことはないはずです。未知の味に期待です。

「あいつ食い物に関しては結構こだわりあるだろ? 絶対、こんな風に隠してると思ったんだよ。台所とかは基本的にキャサリンの領地だしなー」

 侵入者さんはウキウキとした様子で飲み物を取り出して、本を戻していきます。

「とりあえずこれは確保。で、他はなさそうか?」

「ちょっと待ってください」

 おいしそうな飲み物ゲットで期待が高まります。全神経を集中します。自力で食料調達していたのは伊達ではないのです。さきほど昨日今日で狼さんを怒らせるのはダメと考えたような気がしなくもないです。ですが、ごめんなさい狼さん。未知への期待には勝てません!

「あの引き出しです!」

 ベットの横の机の引き出しから、なんとなく食べ物のある気配がするのです。飛びつくように引き出しを開けると、ちょっとした紙とかペンの奥に小さな缶がありました。

 手に持って見るとカラカラと音がします。開けようとして見ましたが、がっちりと固定されています。それもなんと、魔術で。

「……なんでしょうか」

「貸してみろ」

 促されるままに侵入者さんに渡すと、侵入者さんはなんと力ずくでその缶を開けてしまいました。腕力だけで魔術を打ち破ってしまったようです。びっくりです。

 それにしても勝手に開けてしまってよかったのでしょうか。少なくとも私の常識では、魔術で封印されているものは開けるとひじょーに問題のあるものなのです。もしかしたら魔界では魔術で封印を施すのはごく普通のことなのかもしれませんけど。なにせ魔界ですし。

「……いいんでしょうか」

「いいんじゃね? ほら」

 開けた缶を手元に戻されると、小さな丸いものが入っていました。これが甘い匂いの正体のようです。見たことのない食べ物です。

 食べたいです、と期待を込めて侵入者さんを見ると、侵入者さんはすでにその丸いものを口に入れたところでした。

「ん、食わないのか?」

 もちろん食べるに決まっています。

 口の中に入れると甘い味が広がります。でもちょっと固いです。ガリガリ噛み砕いていると、侵入者さんが笑いをこらえるような顔でじっと見つめてきました。

「お前、飴噛んでんのか?」

「あめ?」

「飴。今、食べてるやつ。これ噛むんじゃなくて舐めるんだよ」

 早く言って欲しかったです。

 すでに粉みたいになってしまった飴を口の中で転がしますが、あっさりとなくなってしまいました。残念です。

「ほら、口開けろ」

 言われるがままに口を開けると、飴を放り込まれます。

「ほれ、二つ目」

 また反射的に口を開けました。二つ目です。

「三つ目〜」

 むぐ。

「んじゃ、四つ目――」

「んー、んー、んー」

 もう入りません。

 バタバタと手を振ると、侵入者さんはけらけらと笑いながら、手に持った四つ目となる予定だった飴を自分の口に入れました。あぁ……。

 もう入らなかったので仕方ないのですが、食べられてしまうと未練が募ります。

「お前、口ちっちゃいなー」

 確かに、侵入者さんの口は大きそうで羨ましいです。開いた口から鋭く尖った歯が覗いて、ガリ、と飴を砕きました。

「あ、ぐ」

 あ、と声を出しそうになって口から飴が飛び出しそうになりました。慌てて手で押さえて必死で舐めます。美味しいです。美味しいです。美味しいですけど……噛むものじゃないといった本人がなんで飴を噛んでるんですかと言いたいのですっ!

「ま、食い方なんて好きにすりゃいいんだよ。自分の好きなように食うのが一番うまい」

 その意見には同意です。でも納得いきません。

「人生の先輩として、赤ずきんに正しいことを教えてやっただけ。飴は噛むものじゃなくて舐めるものってのは本当だ」

「むぐ」

 では、と思い噛もうとしますが、口の中が飴でいっぱいいっぱいでうまく噛み砕けません。仕方なしにコロコロ転がします。

 侵入者さんは缶の蓋を閉めて元の場所に戻し、そして先ほど見つけた瓶を手に取りました。

 ……あれ?

 私は再び引き出しの中に戻されてしまった缶と、変わらず綺麗な青色の飲み物を交互に見つめます。

「もうなさそうだし、行くか」

 持っていかないんですか? と缶のある場所を指差します。

「あー、あの飴玉はそんなに珍しいもんでもないし、腹の足しにもならないからな」

 確かに腹の足しにはならなそうです。でも、あるのとないのだとある方がいい気がします。

 次に、飲み物を指差します。

「こっちは持ってくぞ。貴重だし、うまいし。それにしてもさすがカーティって感じだよな。絶対つまみが置いてあると思ったのに飴しかないなんてさ」

 つまみ?

 何かひっかかる言葉です。つまみ、はい。おいしいです。先生がたまに食べていました。一度手を出したところ、丸一日食料調達の上、すべて没収という泣きたくなるような罰を受けました。忘れられない出来事です。でもなぜここでつまみが出てくるのでしょう。

 聞きたいです。なのに口を開けようとすると飴玉がぽろっと落ちてしまいそうです。

 いつになったら無くなるのでしょうか。ちょっと泣きそうです。おいしいのは幸せです。口の中に食べ物があるのは幸せです。だけど疑問を口に出せなくて辛いです。

「おい、そろそろ時間がまずいし、さっさと出る――」


『いやぁぁぁっ! どこに連れてく気よっ!?』


「………」

 侵入者さんが無言で固まり、私に視線を落とします。私の手は私の口をしっかり押さえています。はい、私の声ではありません。それに、私の声はこんなに『低く』ありません。

 それに今、私は話せないのです、何も聞けないのです。

 だから、どうしてその飲み物に先ほどまでなかったはずのものが――口が……いいえ、ぷるぷると震える唇がついているのですかと聞くこともできなかったのです。

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