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第17話 ここがいい

 屋敷に戻ると、メイドキャサリンが出迎えると同時に怪我の手当てと食事の用意とお風呂の準備はできております、とにっこり笑いました。さすがメイドキャサリンです。

 部屋に入り、椅子に下ろされると、メイドキャサリンが私の傷を丁寧に確認していきます。一つ一つ痛みがないかなど聞かれ、やさしく触れられます。

 一通り終わると、メイドキャサリンは様子を見守っていた狼さんに笑いかけました。

「今すぐ手当が必要な傷はないようなので、まず先にお風呂で泥などを流す方がよろしいかと思います」

 改めて服を見ると、着たときはキラキラさらさらふわふわだったドレスはビリビリぼろぼろグチャグチャです。砂だらけ泥だらけです。でも、私を抱き上げている狼さんも似たようなことになっています。侵入者さんもです。

「俺も風呂入りたい」

「申し訳ありませんが、お風呂はひとつしかご用意できませんでした」

 メイドキャサリンは侵入者さんに深々と頭を下げます。この屋敷にはお風呂がいくつかあるみたいなのですが、村ではお風呂があるのは村長さんの家だけでした。つくづく変です。

「じゃ、一緒に入るか」

「そうですね」

 そうです。お風呂が二つも三つも四つもある必要はありません。みんないっぺんに入ってしまえばいいのです。ただでさえ、ここのお風呂は私がいっぱい入れそうなくらい広いのですから。

 名案と私と侵入者さんがうなずき合うのをよそに、狼さんは私をメイドキャサリンに押し付けて侵入者さんの首根っこを掴んでどこかに行こうとします。

「おい、どこ行くんだよ。風呂はそっちじゃないだろ」

「当り前だ。女性と同じ風呂に入ろうだなんてよく言えるな君は」

「女性って、ガキだろうが。しかも人間だし。意識する方がおかしいって」

「なんと言われようと私の主義に反する。ところでファラはどうしたんだ」

「適当な部屋に寝かせてきた。あいつ頑丈だからすぐ回復するだろ」

 う、とちょっと体がこわばります。それに気づいたメイドキャサリンが視線を向けてきますが、なんでもありませんと首を振りました。

 すぐ回復する、ということは屋敷の中とはいえ油断は禁物ということです。次も侵入者さんが都合よく表れてくれるとは限らないのです。

 口を引き結ぶ私の頬を、いつの間にか近寄っていた侵入者さんが引っ張りました。

「……ひたひでふ」

「ガキのほっぺはよく伸びるなー」

「何やってるんだ君は……」

 面白がる侵入者さんと呆れる狼さん。そして見守るメイドキャサリン。緊張感が薄れます。

 侵入者さんの手をぺちぺち叩いて抗議すると、侵入者さんは頬を引っ張ったまま私に顔を近づけました。

「大丈夫だから、安心しとけ」

 ふへ、と言葉にならない声が漏れました。




 無事お風呂と手当と晩御飯を済ませた後はもう寝るしかありません。

 思いのほか手間取った手当と、疲れた晩御飯でした。

「赤ずきん本当によく食うな」

「侵入者さんもです」

「私に言わせれば二人とも食べすぎだ」

 侵入者さんの食欲は私の陣地を侵さんばかりの勢いだったもので、思わず私も真剣になってしまいました。真剣になるあまりここ数日のマナー特訓が頭から抜けかけて二人揃って狼さんに怒られたりと、とても疲れました

「赤ずきん、俺はジグザだって」

「言うだけ無駄だ。私も何度注意したか」

 食後のお茶をだらだら飲んで就寝時間です。

 おやすみなさい、と解散して部屋に戻ります。部屋に戻ったら一人きりです。ちょっと気を引き締めて部屋に戻りバタンと扉を閉じれば侵入者さんと二人きりです。

 あれ?

「じゃ、寝るか」

 当たり前のように侵入者さんが言うのでよしとしました。侵入者さんはお客様と違って私を食べる気はないみたいなので、、一人でいるよりも安心です。安全です。そういえばさっき言っていた大丈夫は、一緒に寝るから大丈夫ということだったのでしょうか。

 ともかくさぁ眠ろうと二人揃ってベットに足を向けた途端、今バタンと閉じた扉がバタンと開かれました。

「ジグザっ! 部屋は用意してやっただろうが!」

「赤ずきんがどうしても俺と一緒に寝たいって」

 侵入者さんはいけしゃあしゃあと嘘を言いました。でも当たらずとも遠からずなので適当に頷いておきます。

「ほら、赤ずきんも頷いてるし」

「な……」

「合意の上なんだから問題ないだろ?」

「変な言い回しはやめてくれ。赤ずきん、なんでよりにもよってこいつなんだ。一緒に寝たいならキャサリンに頼みなさい。今はまだ気を失っているが、ファラでも……」

 それだけは嫌です。

 私はぶんぶん首を振りました。

「お前、人見る目ないよなー」

 侵入者さんの意見に全面同意です。

「何を言って」

「ともかく、赤ずきんは俺と一緒に寝たいって言ってんの。わかったらさっさと出てけ。俺たちはもう眠い」

 ふぁ、とあくびをする侵入者さんにつられて私もあくびが出ました。

「しかし」

「なんだよ、カーティ。もしかして一緒に寝たいのか? でもさすがに三人はなー」

 侵入者さんはベットを振り返り考え込みます。

「じゃ、俺が譲ってやるよ。仲良く寝ろよ、おやすみ」

 これで万時解決、と侵入者さんは部屋を出て行きました。出て行く時、軽く私の頭をポンポンと叩いて行きました。これで大丈夫、というように。

 そして、狼さんと私が残されました。狼さんはちょっと呆然と侵入者さんの後姿を見送っていましたが、はたと私とベットを見比べ、慌てて侵入者さんを追いかけて行こうします。

「私が言いたかったのはそういうことじゃ――」

 狼さんの言葉は途中で止まりました。私が力いっぱい狼さんに抱きついたからです。

「眠いです」

「あ、赤ずきん?」

「眠いです。一緒に寝てください」

 一人じゃ、眠れないのです。今日は。

 狼さんは驚いた顔で私を見下ろします。私は狼さんを見上げます。じーっとじーっと見上げます。いや、でも、しかし、とか色々言っていましたが、ひたすらじーっと見上げます。

「……わかった」

 狼さんはため息をついて頷いてくれました。嬉しいです。勝利です。

 一緒にベットに入って横になります。広い布団は相変わらず二人入っても余裕です。

 狼さんにすり寄ります。あたたかいです。眠いです。

 狼さんが一緒なら、たぶん安心です。

「今までこんなことなかったのに、いったいどうしたんだい」

 狼さんは肘をついて私を見下ろします。

「………」

 お客様のことを言おうかと考えましたが、それよりも睡魔が勝ちました。

「赤ずきん?」

「おやすみなさいですー」

 ほかほかします。幸せです。

 いつか私が食べられて、誰かの血となり肉となるのなら、それはやっぱり狼さんがいいのです。

 そんなことを思いながら、私は眠りにつきました。

 そして少し懐かしい夢を見ました。

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