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第1話 おばあさん、死す

 私の村は、とても豊かです。

 私の村の近くには魔物さんがたくさんいます。そういう場所だからです。でも、私の村は豊かです。魔物さんに守ってもらうからです。

 私は、赤ずきんです。

 今年の、赤ずきんです。

 私の村は魔物さんに守ってもらうから豊かです。でもその代りに、毎年一人、魔物さんたちにあげる約束になっています。魔物さんはその一人を食べて、一年村を守ってくれます。今年は、私の番です。私が、魔物さんに食べられる赤ずきんです。

 赤ずきんは、昔、最初に魔物さんに食べられた人が真っ白なずきんをしていたのだけど、魔物さんがその人を食べた後に血で真っ赤に染まってしまったそれを形見として返したから、赤ずきんだそうです。最近では目印にもなっているので、最初から赤ずきんです。

 私の村は、豊かです。でも、私のお腹は今、豊かではありません。

 どうせ食べられてしまうのだからと、ご飯をケチられたからです。ひどいです。

 お腹がすきました。

 私は、これから魔物さんのところへ行きます。でも、ちょっと寄り道です。お花畑は確か、こっちの方でした。

 発見です。お花畑。きれいです。おいしそうです。もちろんお花をむしゃむしゃ食べるわけではありません。蜜をちゅうちゅう吸うのです。

 ちゅうちゅうちゅうちゅう。

 ……足りません。

 でも仕方ありません。私は歩きだしました。せっかくなので何本かお花を持ちます。歩きながらちゅうちゅうちゅうちゅう。

 ……お腹がすきました。

 腕いっぱいに抱えたお花の蜜を全部飲みほす頃、ようやく魔物さんのところへつきました。魔物さんは、山のてっぺんのお家にいます。別にここに住んでるわけではないらしいです。人間ごときが魔界に来ることはできないから、わざわざ迎えに来てやってるらしいです。だったら村まで来てほしいです。足が疲れました。

 こんこんこん、家のドアを叩きます。

「こんにちわ、赤ずきんです。おばあさん、赤ずきんが来ました」

 ちなみに、魔物さんはおばあさんです。お年寄です。顎が弱いです。だから、赤ずきんはまだ幼い女の子でなきゃいけません。顎が弱いですから。成人男子は無理だそうです。

「おばあさん、赤ずきんが来ましたよ」

 こんこんこん、返事がありません。魔物のおばあさん、遅刻でしょうか。お年寄りだから、足腰弱いです。ちょっと遅れてもしょうがないですね。

「おじゃましまーす」

 ドアを押したらあっさり中に入れます。この家にはカギがありません。本当は返事を聞いてからお邪魔しなきゃいけないのですが、仕方ありません。足が疲れているのです。

 部屋の中にトコトコ入ります。イス発見。パン発見。ワイン発見。

 お腹がすきました。

 でも、勝手に魔物さんのパンを食べたら怒られそうです。ワインを飲んだら怒られそうです。

 考えます考えます考えます。

 よく考えました。

 私は、魔物さんに食べられます。パンが私に食べられます。ワインが私に食べられます。

 結局、パンもワインも魔物さんのお腹の中です。無問題。

「いただきます」

 つつましやかに感謝をささげて、パンにかじりつこうとしたその時!

 ドアがバタンと開きました。チッ。

 でも、現れたのはおばあさんではありませんでした。見たことないけど、妙にこじゃれた格好をした成人男子です。なんだか都会のにおいがします。おしゃれさんです。

「……おや、君は」

 声もなんだか気取っています。気にくわないです。どうせ私は田舎育ちです。

「こんにちは」

 でも、ちゃんとあいさつします。あいさつは人間関係の基本です。大事です。

「こんにちは……その手に持っているのはなんだい」

「パンです」

「君が持ってきたの?」

「ここにありました」

「……食べようとしているように見えるのだけど?」

「おばあさんの手間を減らしてあげようと思ったのです」

 だって、おばあさんは顎が弱いのです。このパン、何日前に作られたかは知りませんが固いです。私が食べて柔らかくなったころに消化吸収。完璧です。

「……ああ、うん。なんとなくわかった。もしかして君が今回の赤ずきん……」

「正解です」

 成人男性はその場に黙り込みました。私はパンにかじりつきました。もぐもぐもぐ。感動です。おいしいです。まともなメシ、最高。

「……おばあさんは死んだよ」

 もぐ、ごくん。

 いきなりの言葉に、パンがのどに詰まりかけました。嘘です。余裕で飲み込みました。しかし大変です。おばあさんが死んでしまったそうです。では、私は誰に食べられればいいのでしょう。

「おばあさんの遺産は私が受け継ぐことになっていてね、赤ずきんの話も聞いていたからこうしてやってきたわけだけど」

 つまり、わたしを食べる権利もこの人が持っているということですね。どうしましょう、この人は顎が強そうです。でも、私は知りませんでした。おばあさんが食べるパンだと思ったのです。善意の行動です。それに、パンがこの成人男子のお腹に入ることには変わりありません。無問題。

「お悔やみ申し上げます」

 もぐもぐもぐ。成人男子は止めません。おいしいです。

「お悔やみも何も、君……」

 成人男子は私をじっと見て動きを止めました。まさか今更止める気でしょうか。あとちょっとで満腹なのです。冥途の土産に数か月ぶりの満腹感ぷりーずです。

 もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ。

 すぴーどあっぷする私の顎。限界への挑戦です。

 成人男子は私のところへ近づいてきます。パンを取り上げられてしまうかもしれません。慌てて抱え込みました。成人男子はパンを無視して、私を持ち上げました。

 んぐっ。

 さすがにびっくりします。マジでのどに詰まりかけました。

 成人男子は、ムム、と眉をしかめます。そして、私を手に持ったまま、はぁーっと溜息を吐きました。なんだか失礼なことを言われそうな予感がします。

「私はグルメなんだ」

 やっぱり失礼です。

「いくら女性でしかも子供とはいえ、こんなに痩せっぽっちで意地汚いものを……」

 超失礼です。

「食べたら腹を壊しそうな気がする……」

 失礼にもほどがあります。温厚な私もマジギレ三秒前です。

「ああ、そのパンは全部食べていいから。」

 こんないい人見たことがありません。

「食べたくないなあ。でも食べないとなあ。とりあえず、家においで。食べるにしても、もうちょっとなんとかなるだろう。きっと、たぶん」

 もぐもぐもぐもぐ。

「パン以外にも美味しいもの食べさせてあげるから、ついといで」

 もぐもぐごくん。

「行きます」

 今日の私はラッキーです。

初投稿なので至らない点も多いかと思いますが、よろしくお願いします。

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