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友人関係

「学年3位、ね。付け焼き刃にしては上出来すぎるくらい」


 午後になって採点結果が出たため確認してみれば3位の位置に私の名前、その右にクラスが書いてあった。テスト問題のレベルが前世で言う中学生レベルだったから、むしろ点数が採れない方が問題だけど。

 1位はレオン、2位にハース、私と同じ3位にセレナの名前があった。

 

「成り上がり風情が……」

「汚い手を使ったのよ、きっと」


 それを快く思わない人間は当然少なくない。昨年も努力はしていたとはいえ、精々3、40位がいいとこだったし。まぁ、ひそひそ陰口は無視すればいいだけなので放置だ放置。

 見覚えのある名前がないか辿っていけば、7位にサラ、25位にシルビア・セストリアの名前がある。どちらも私と同じクラスだ。

 シルビア・セストリア……サマーケイル国の貴族でクロードルートのライバルキャラ。気さくで分け隔てない性格で、お転婆。主人公の友人でもある。


「ルーナ!今年も同じクラスですわ!」 

「シルビア、今年もよろしくお願いします」

「ええ。ルーナの順位、先程見ましたの。3位だなんて素晴らしいですわ」

「ありがとうございます」

「それでお願いなんですけれど、今度私に勉強を教えてくださらないかしら?数学がどうしても苦手ですの」

「私でよければ、いくらでも」

「まぁっ!嬉しいですわ」


 シルビアは入学してすぐに話しかけてくれた人物で、ルーナの事情も理解した上で貴族の世界の常識を教えてくれた。

 

「シルビアさん、早いです……。ルーナさん、ごきげんよう。お休みはいかがでしたか……?今年も同じクラスですので、よろしくお願いします」

「ごきげんよう、ナタリア。とても充実していましたわ。こちらこそ、今年もよろしくお願いします」


 ナタリア・クレメント。スノーティア国の上級貴族、クレメント家の令嬢。人見知りで臆病。そして……ドジっ子である。

 頭は悪くないはずなのに、張り出された順位は67位。一学年70人程度のため、下から数えた方が早い。

 

「ナタリア、あなた……」

「うう、聞かないでください……」

「回答欄には上から順に記入するはずですのに、この子ってば左右交互で記入してしまったんですって」

「もったいない……」

「またやってしまいました……私もうだめです……」


 回答欄を間違えるのは勿論、なにもないところで躓く、転ぶ、購入するものを間違える、教科書を取り違える。正直"目を放すな危険"だ。


「こんなところ、留学してくるクロード様に見られでもしたら私死にます……」

「あら、クロード様って第一王子でしょう?珍しいですわね?」

「見識を広げるために留学してくるそうです……フォールウィングの者は、皆もう知ってます」


 この大陸では、各国の第一王子は自国の教育機関のみで教養を終える者が圧倒的に多い。

 教養は自国でも身に付けられるし、わざわざこの学園に通わせる理由がない。一方第二王子以下はこの学園に通う者が殆ど。

 時には国王の補佐としての社交性を身に付けるため、時には結婚相手を探すため。貴族ならばこれに国外のパイプや騎士団なども絡んでくる。そして何より、学園での交友関係は一生物といっても過言ではない。

 そういう私も、あわよくば結婚相手見つかればいいなー……程度の気持ちを持ってる。攻略キャラ?ライバルキャラと仲良くしてればいいと思うよ。ルートに入るとか御免だわ……いや、レオンルートに入ってセレナとくっつければいいか。レオンルートの友情エンド希望。


「さて、教室に行きましょう。あまりここにいてもご迷惑ですから」

「そうですわね。ナタリア、足下には気を付けなさって」

「は、はいっ!」


 主に3人で過ごすことが多いため、自然とナタリアの面倒を見るのは私たち二人の役目だ。


「そういえば……ルーナ、クラブはお決まり?」

「まだですが、手芸クラブが気になっています」

「そうなんですか?」

「意外ですわ。ルーナは体を動かすことがお好きでしょう?まぁ、今のところ昨年のは抑えていらっしゃるようですが」


 本来のルーナ・ムーンクォーツの性格と、今の私の性格はかなり異なる。ゲームのルーナは今の私ほど礼儀作法は身に着けていないし、下町で育ったためアクティブだ。一年間あっても敬語が使える程度で、マナーなどはまだまだ素人に毛が生えた程度。それを私が前世でのゲームの知識と、"いいところのお嬢様"をイメージして補っているとなれば、昨年に比べて大きく変わっていると感じられてもおかしくはない。


「えぇ、でも色々な事に挑戦してみたいので。それと、昨年のことは忘れてください」

「忘れませんわ!昨年のルーナは騎士のようでしたもの!」

「私もそう思います」

「ん……?」

「暴れ馬を容易く手懐け、初めてのはずのフェンシングでも堂々とされていましたし、先輩からナタリアを背に庇ったあの姿はさすがに惚れそうでしたわ」


 あれ?なんだかおかしいことになってる気がする。まて、本当におかしいことになってる気がする。

 暴れ馬とかただ馬具が窮屈そうだったから無しで乗ったら意外と簡単になついたし、フェンシングで堂々としていたって単にそういうザ・貴族の武道!に興味津々だったのと、下町育ちだからそういうのはひるんだら負けだと思ってただけ。それと、最後のはナタリアが転んで飲み物ぶちまけて、先輩の制服汚したのを庇っただけだよね!?


 いやちょっとまて、ゲームでこんなに勇ましくなかったはず。いや、現実だからねとか言われたらそれで終わりだけど何か引っかかって……


「あの日のルーナは……本当に、かっこよかった、ので」


 そうかわかった二週目かっ!!


 ゲームでは、魅力以外であればカンスト済みのステータスを任意で周回に持ち込むことができ、人間関係にも僅かながら影響を与えるのだ。いや、確かに私一周目で"勇気"が真っ先にカンストしたけど!!

 因みに、ステータスは"学力""勇気""武道""技術""魅力""作法"の6つ。今の会話ならすると間違いなく勇気は強くてニューゲームだ。学力はずるに近いのでノーカウントで!!


 勇気のカンスト周回は確か殆どのライバルキャラの好感度を上げる、だったはず。そうだ、いつだったか忘れたけど記憶の中の友人も言っていたはずだ。

 あれ、私もしかして今百合系のルート進んでる?まさかそんなルートないよね?助けてくれ友人。


「大袈裟ですよ」

「ルーナが男性でしたら婚約を申し込みましたのに」

「残念、です……」


 まって、残念とか言わないで!!私の性別は女でいいの!女がいいの!!


「はぁ……それはさておいて、早く教室に入りましょう」


 一つため息をついて話題を切り替える。目の前にはすでに教室があった。

 

「そうですわね」


 そういってシルビアはドアに手をかける。今日から一年間、波乱万丈ともいえる沢山の事件に巻き込まれるであろう私自身と友人を想う。できる限り、私は不干渉でいたいし、出来のいいだけのお嬢様を演じたい。けれど、二周目という謎の経験値がそれを許してくれなさそうなのでとりあえず、死亡バッドエンドルートにだけは落ちないようにしよう、そうしよう。


「お二人とも、改めて今年もよろしくお願いします」

 

 にこりと笑って、扉をくぐった。

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