記憶の中の私
――とある王国の下町に一人の少女がおりました。
少女の名前はルーナ。なんの力も持たない、身分の低いただの平民でした。
ところが、彼女貴族の血を引いていたのです。
彼女の母親が死んだと思われていた貴族令嬢であったことが発覚したのは、彼女の母親が亡くなる直前のことでした。
ルーナが一族の血を引くと知った現当主は、ルーナをムーンクォーツ家に迎え入れることにします。死んだと思い込み、当主にとって妹であるルーナの母親の捜索を諦めてしまった兄としてのやるせなさがあったこと。
そしてなにより、当主には子供がいなかったのです。
当主はまず、ルーナを学園にいれました。王族、貴族のあり方や作法の勉強、そして……婿探しも含めて。
ほぼ知識のない状態で放り込まれてしまったルーナは勉学に励み、マナーを覚え、1年間で可能な限りの知識を身に付けます。
そして迎えた学園生活2年目……彼女の主人公としての物語が始まるのです――
「概要長い!簡潔に!3行で!!」
「実はお嬢様 学園生活で 目指せ婿とり乙女ゲー」
「はい、ありがとう。なんでまたこんな説明くどいかねぇ……」
「でもかなり面白いよ。オススメなのは留学生ルート」
「システムめんどくさくない?ステータス上げに好感度上げ、回数指定イベントに、テストだってガチのクイズじゃん」
「うん。だからめっちゃ重くてローディングも長くてさー……システムはなれればそんなに。ルーナも他の乙女ゲームと違って守られキャラじゃないから見てても好感持てる」
「あー……守られキャラは私も無理」
「それに、ドロドロ少なくて見やすいんだよね……少なくて」
「ないとは言わない」
「もち。乙ゲーにドロドロないとかほぼないわー」
「知ってた」
熱くゲームの内容を語って聞かせる少女、それに答える少女。
彼女たちは一体何者なのだろうか、そう思考を巡らせる。
「ルーナはさ、秀才だけど天才ではないんだよね。だからプレイヤー次第で成績も悪くなったり良くなったり」
また彼女が私の名前を告げた。私の名前を呼ぶあなたは、
「それ面白いね。タイトルは?」
答えるあなたは、
「タイトルは"ベスビアナイトの歌"ってやつ」
誰なの……?
「了解覚えた。全クリ目指すわ」
「隠しはあっても逆ハールートはないよ」
「おけ」
ふと、目があった気がした。ゲームを勧められていた方の女の子。私と同い年くらいの……黒髪の、彼女の名を私は知ってる。
当然会ったことはない、当たり前だ。だって、彼女は……
「月菜なら、全力で推すと思うサブキャラもいるんだわ。二週目からだけど」
「サブかい!攻略できたらよかったのに」
「ほんと、惜しいキャラクターでねぇ?あ、これ以上はネタバレ禁止。面白味半減だし」
「とりあえず誰かのルートクリアするまで待ってよ?」
"私"だから。