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「うぎゃっ!」
猫が尻尾を踏まれたときのような声が聞こえた。
「いた~い。もう今日は踏んだり蹴ったり。とほほ。」
この気の抜けた声は、間違いなくお嬢様のもの。
声のした方を振り向き、目を開けた。
なんだ、明るくなっている。
いや、夜のように暗いが、かがり火があるのか。
「こらっ!おめたち、この神聖な場所でなんばしよっとか!」
野太い、田舎言葉が浴びせられる。
4~5人のずいぶんと薄着の屈強な男たちが、鈍く光った長剣を突きつけてきていた。
「おめ、そこばなんとおもっちょるとか!はよう祭壇からおりれ!」
気付けば小さな子供の高さぐらいの、大きな石の上に寝そべっていた。
「・・・・・・・は?」
これはなんだ?
たしか、バブルガム宮殿の離れの塔に、お嬢様を追いかけて・・・・。
すとん、と石から降りる。そこには鼻を押さえてうずくまるお嬢様がいた。石から落ちて、また鼻を打ったのか、一所懸命ハンカチを鼻に突っ込んでいる。
タピストリーはどうした?
日食になったはずでは?
辺りを見回すと、人ふたりほどの大きさの石が円形に並べられている。建物は見当たらない。見えるのは、綺麗な星空と地平線。遠くに森がある。
ここは、どこだ?
「あやしいやつらばい。それにこの女、変な髪の色しとる。」
「南の鬼のやつらがこんな髪のいろしとる。残酷な太陽の神と同じ色ばい。」
早口で、変なイントネーション。聞いたこともないほどのひどい訛りのある言葉。
言っている意味もよくわからない。
男たちは、黒や焦げ茶色の髪を長く伸ばし、ひとつに束ねている。体毛も濃い。顔の彫りも深い。兵士なのだろう、胸当てやすね当てを身につけ、幾何学模様のついた盾を持っている。
この蛇が絡みついたような幾何学模様は見覚えがある。
それにこの草原にそびえる円形の巨石群は、ストーンサークルとすれば。
「キルト人・・・。」
その昔、この小さな島国の北に暮らしていた「月の女神の民」。
男たちはノーマン式でない、両手で剣の柄をつかみ、肩の高さまで持ち上げた剣を突き出す妙な構えで、じりじりと近づいてくる。
「え?なに、この人たち?」
お嬢様がいたことを思い出し、あわてて背後にかばう。
「えーっと・・・。これは夢?」
この男たちの殺気を感じていないのだろうか?いつもののんびりとした調子だ。
「私は夢は見ません。」
「うっそー。でも、あたしの夢にはガウディが結構出てきて、ピンクのカバに乗ってたりするけど。」
「もし私が夢を見ても、ぜったい、あなたは出てきません!」
ビビはおもむろに手を伸ばすと、ガウディの頬をつねった。
「痛い!なにするんですか!」
「痛がってる。ということは、これは夢じゃない?」
「どういう確かめ方ですか!」
「夢の中のガウディって、何しても痛がらないんだよねー。」
脱力。
もう、色々面倒くさい。
「ということは、この人たちは外国人?」
「恐らくキルト人ですよ。」
「ああ、ハムの人。」
思いっきり無視してやった。
「なんとか彼らを落ち着けなければいけませんね。私もなるべくリボルバーを抜きたくない。」
上着の左胸に手を入れ、愛用の回転式連発拳銃があることを確認する。
「私にまかせて!」
ビビは、ガウディのかばう腕をするりと抜けると、男たちの前に立ち、左手をさっとあげた。
「ハロー。アイアムア、プリンセス。メーデーメーデー。」
「だからあなたは黙っててください!」
ビビの腕を無理やり引っ張った。
「いいですか。こういう危機的状況の場合、相手を刺激する行動は一番してはいけないことなんです!。」
「えーと、、、。こういうことになるのね、ガウディ先生。」
「そういうことです。」
ふたりののど元には鋭い刃が突きつけられていた。
もはや両手を挙げて、彼らに抵抗しないことを伝えるしかなかった。
ガウディの言うキルト人の男たちに脅迫されて、ふたりは剣を向けられたまま、森を歩いた。
森は意外に小さかったのか、歩きつかれるほどの距離ではなかった。
突然、木立の間から青白い光が差し込んでくる。
木立が開けた所から目に飛び込んできたのは、今までに見たことがないような光景だった。
「なんと、素晴らしい・・・。」
そこには、明らかにアンガリア帝国にはない様式の建築物だった。
左右対称の平べったい、地上を這うようにどこまでも回廊が続く白壁の城だ。
「これがキルト様式か。」
お嬢様も先ほどからやけに静かだ。この異国情緒あふれる雰囲気に圧倒されているのだろう。
「ガウディ、なんであたしの友好的挨拶が通じなかったんだろ。あの人たち照れてんのかな?」
彼女に文化的な感慨を求めた1分前の私よ、呪われろ!
「失礼、このような地上の楽園を作り上げた偉大なるお方の名を教えていただけないだろうか。」
情報を得るためには、下手に出なくては。
「おめたち、そげなこつも知らんと神殿にいたのか。」
リーダー格らしき男が呆れたように振り向いた。
「無知なもので、お恥ずかしい。」
「だったら教えてやる。我が月の女神の末裔であられるウラン一族の方々だ。我らをひきいて南の鬼どもとの戦いにも何度も勝利をかちとっておられる。」
「なるほど。」
自分たちの偉大な王のことを口にして、興奮しているのか、やけに口数が多い。
「今の族長様は、ギムネマ様だ。ギムネマ様は、そりゃー勇敢なお方で。」
が、急に顔をしかめて、話すのをやめてしまった。
「ところで、ここはなんという地名だっただろうか。」
男は怪訝な顔をしたが、すぐに応えてくれた。屈強で野蛮な姿をしているが、根は素直で素朴な人々のようだ。
「エリンギバラだ。おめ、そんなこつもしらねのか?田舎もんだな。」
キルト人、幾何学模様、ストーンサークル、エリンギバラ・・・・。
背筋がゾクリとする。
まさか、ここは・・・・。
そんなことがあってたまるか!
「エリンギバラ?そんなところあったっけ?」
お嬢様が、小声でおそるおそる尋ねてきた。
また怒られると思っているのだろうが、少しは異変を感じ始めたようだ。
「正確には、19世紀のアンガリア帝国には存在しません。」
「どういうこと?」
「エリンギバラは、800年前に太陽王によって滅ぼされています。今の地名は、ファーフです。」
「ファーフって、あの鮭が獲れるところの?あそこって、かなり北の方の街だよね。」
「それから、上質のジャガイモが採れます。いえ、そんなことより、彼らが本当にここがエリンギバラだといっているのならば、とんでもないことですよ。」
「鮭もジャガイモも食べられないの?そんなの困るよー!」
「我々は、少なくとも800年前、もしくはそれ以前にいることになります。」
鉄の心臓を持つと噂されているガウディでさえ、正直混乱しているというのに、このお気楽令嬢はといえば、
「800年前かー。あれ?なんでそんなところにあたしたちいるの?」
と、しごく真っ当な疑問を、あれ?今日月曜日だったっけ?というぐらいのレベルではなしている。まったくの、いつもの調子だ。
ある意味すごい。
「まあ、まだそうと決まったわけではありませんよ。どこかのいたずら好きのお方が、我々のうろたえる姿が見たくてこの壮大なスケールの舞台を用意されたのかもしれませんし。」
「ずいぶんと手の込んだいたずらだよねー。超ひま人。そんな人いるかな?」
「私も自分で言いながら、あまりの稚拙な仮説に呆れましたよ。忘れてください。」
そんなに言うほどのことではないのに、難しい顔をしているガウディがおかしくてつい、口元が緩んでしまう。
信じられないほど生真面目な男。
(あーだからガウディって飽きないのよねー。)
よほどにやにやしていたのだろう。
それを見たガウディは、眉を寄せ口をへの字にしていた。
アーチ型の柱が続く回廊をしばらく歩かされる。どこまで行っても同じ光景。
それがやがて、闇色に染まっていく。
明かりのない閉ざされた空間かと思ったが、目の前に現れたのは大きな中庭だった。
建物の中に自然を取り込んだ形になっている。
ここからも星空がよく見渡せる。
入り口の反対側には大理石で作られた玉座があり、背後には三日月が描かれていた。
その横にある円形の入り口から、黒地に銀の糸で月を象った刺繍がほどこされたローブを羽織った中年の男が苛立ちげに入ってきた。
ずいぶんと意地の悪そうな顔をしている。
「大神官さま。」
「ラジウム大神官様。」
ふたりを連れてきた男たちがひざまづき、地面に頭をこすり付けるように低頭した。
「このような時間に私を呼び出して、何事かと思えば、こんな卑しいものたちに会わせるためだったのか?」
男にしては妙に高い神経質な声で、隣に控えていた背の低い老人をにらんだ。
「い、いえ、見回りをしていたらいつのまにか怪しげなものたちが神殿を荒していたとの知らせがありましたもので。処分について大神官様にお伺いしようと。」
ラジウム大神官と呼ばれる男は、ふんっと鼻を鳴らすと、呆然と突っ立っているビビとガウディをちらりと見た。
「打ち首にしろ。」
「し、しかし、もし南のやつらの手のものでしたら、問題に・・。」
「神聖な場所を侵したものは、女神に捧げろといつも言っているだろう。ばかものめが。」
「あ、あの、しかし。」
「しつこいぞ。刑はすぐに、執行はあやつらにさせよ。」
大神官は面倒くさそうに、低頭したままの男たちを指さした。
ビビは思わずガウディの上着の裾をつかむ。
ガウディは胸のリボルバーに手を伸ばしかけた。
「お待ちなさい。いくら大神官とはいえ、勝手なまねは許しませんよ。」
夜空に、綺麗な鈴の音が響いたような声だった。
神官達が入ってきた入り口と左右対称に位置していた入り口から、月の女神かと思うほどの美女が現れた。
足元まで届きそうな艶やかな赤茶けた髪。それをまとめる様に、頭の上には円形の王冠が乗っている。ほっそりとした手足。長身に黒いビロードのマントが映える。何よりも印象的なのは、情熱的な新緑の大きな瞳。
「これはこれは、ブリギッド様。」
大神官がぺこりと頭を下げる。
しかし、顔を上げると好色そうな目で美女をじろじろと見ている。
「女神官達に聞きました。神殿に侵入した茂名たちがいると。」
その声が響くだけで空気が張り詰めたようになる。
「許すまじき行為です。しかし、どういったものたちなのかも調べずに打ち首にするとは、少しゆきすぎではないですか。」
「しかし、月夜の神殿への侵入は死罪に値しますし、やつらはおそらく異教徒の卑しき民かと。」
「ラジウム大神官。父上がご病気になられてからというもの、あなたの勝手な降るまいには目に余るものがあります。」
「姫君。私は決してそのようなことは。」
大神官はどこか彼女を小馬鹿にするような態度。
「もうよい、お前は下がりなさい。これは命令です。」
悔しそうに姿を消した大神官を横目で見送ると、美女はビビたちのほうに近づいてきた。
「ガウディ、すっごい綺麗な人だね!お姫様みたい!」
はしゃぐビビに対し、ガウディは、ぼーっと美女を見つめていた。
いつもなら、語彙力が乏しい、とかみたいじゃなくて王冠をかぶっているから王妃か王女だろう、などというツッコミがなかった。
男の理想とする女性が、黒いローブをはおって歩いている。
ほっそりとしているのに、出るところはでている。
楚々として、儚くて、なのに全てを包み込むような暖かさを持ち合わせている。
そして、姫君と呼ばれていただけはあって、高貴な、威厳に満ち溢れた顔をしている。
お互いの顔が確認できる位置にまで近づいてきた。
「こ、これ!おめたち!姫様の前じゃぞ!ひざまずかんか!」
男たちが焦ってふたりをどなる。
しかし、ふたりはその言葉に従わなかった。
なぜならば、ビビはひざまづくのは女王陛下の前で、しかもひざを折るような形でしかしたことがなかったし、ガウディに至っては、悲しい男の性かな、ただ美女にみとれていただけだった。
「姫様!そのような下賤のものたちに近づかれてはなりません!」
侍女達があわててやってくる。
「よい。わたくしも大罪を平気で犯したものたちの顔をおがんでみたいのです。」
ガウディを見た姫が、はっと息をのんだ。そのままじっと、固まったままガウディを見ている。
「あ、あの・・・。我々はですね、その・・・。」
ガウディの口調もしどろもどろ。
「ああっ!生きて、生きておられたのですね!生きて私の元へ戻ってきてくれたのですね!愛しい人!わたしのアーサー!」
大輪の花が一気に咲き誇った様な笑顔を浮かべて、美女はガウディの胸に飛び込み、ひしっと抱きついた。
もう離しません!といわんばかりに抱きついているお姫様。彼女以外は、時間が止まったように固まっていた。
「我々は、タイムスリップをしたのでしょうね。」
いつになく上機嫌で、口数の多いガウディに対し、ビビはむっつりしている。
あのあと、ふたりはなぜか最上級の客人扱いを受けた。
美しい侍女たちに連れてこられた客間は、落ち着いた調度品で整えられている。
素朴な造りではあるが、丈夫なベットがあったり、繊細な模様の大きなカーペットが引かれている。
中央には大きな一枚板でつくられたテーブルがあり、そこで温かい食事もすませた。
「もうここまできたらこれを現実だと認めざるをえませんね。」
それについては同感だ。
この満腹感は夢では得られない。
せっかくのガウディとふたりで夜を過ごしているのに、ちっともうれしくなかった。
もしかしたら、朝まで一緒にいられるチャンスでもあるというのに。
このガウディの嬉しそうな顔といったら!
男ってみんなこうなの!?
いままでどんなにがんばっても得られなかったガウディの関心を、あのお姫様は一瞬で奪っていった。
確かにあんなに綺麗な人に愛しい人!って抱きつかれたら嬉しいだろう。
でも!でも!
絶対あたしのほうがガウディのことを知ってるし、好きなのに!
ビビが不機嫌なことにさえも気付かないことにさらにイライラがつのる。
まるでビビの事などお構いなしに一人で話をしている。
「私も十代の時にいくつかタイムスリップものの空想科学小説を読みましたよ。猫が鈴を鳴らしたり、ラベンダーの匂いをかいだりするやつですがね。」
ガウディにも少年時代があったんだ。想像できない。
「まあ、そういう超自然的なきっかけがあってタイムスリップは成立するわけですが、我々の状況を考えると・・・。」
やっとガウディはビビの方をちらりと見た。
嫌そうに眉をひそめる。
「まず、日食が考えられますが、この現象は年に1度は起こることなので主な原因になるとは考えられませんね。むしろこれに様々な偶然が重なった結果、時空に歪ができ、我々はそこに落ちたということに一応仮定すれば。」
そんなことどうでもいい。
今はこのむしゃくしゃをどうにかしたい。
「お嬢様の鼻血でしょうね。あの時、タピストリーにお嬢様の鼻血が落ちたことが何らかの要因でしょうね。」
ガウディは頭をかかえた。
「はあ。鼻血でタイムスリップ。我々は人類史上最初で、おそらく最後の鼻血タイムスリッパーですよ。」
その後も一人で、我々のこの時代への介入の影響で未来が変わってしまうか否か、とかそもそもここは同じ次元の世界なのか、などをぶつぶつと議論していた。
ビビは、小説は読んだことがなかった。
特に本が嫌いなわけではないが、幼いころおじい様に聞かせてもらっていたおとぎ話があまりにも印象的で、物語が味気なく感じたのだ。
それは今でも変わっていない。
特に好きなのは、月の女神の話。
大昔、月の女神はもともと人間の女だった。
弓使いの名人の夫がいたが、ある日夫が10個あった太陽を9個打ち落としてしまった。
そして打ち落とした太陽から不老不死の妙薬を手に入れた。夫はそのせいで得意になり、不真面目で傲慢な人間となってしまった。
それに嫌気が差した妻は、酒を飲んで眠ってしまった夫の懐から不老不死の薬を奪うと、自分でそれを飲み干し、月へと舞い上がった行った。
この話をおじい様はおもしろおかしく聞かせてくれた。
内容は決して子供が喜ぶようなものではない。
でも、いまでも心に残っているのは、彼が本当に心を込めてビビに話してくれたからだろう。
どんなによくできた物語よりも、深い愛情に満ち溢れた時間は比べることさえできない。
ギイーーー。
部屋の扉がノックもなしに開かれる。
侍女があけた扉から、夜着に着替えたブリギッドが入ってきた。
すかさずガウディは超紳士的にすっと立ち上がった。
あわててビビも立ち上がり、ガウディのそばへ行こうとしたが、テーブルの脚で左足の小指を強打してしまった。
声が出せずにしばらくうずくまる。
そのあいだに残りのふたりは話を始めていた。
「先ほどはあのような失礼なふるまいをしてしまって、ごめんなさい。」
「ああ、いえ、私もあのような神聖な場所へ知らずとはいえ勝手に入ってしまって、申し訳ない。」
「その、あなたを私の知り合いと間違えてしまって・・・。」
ブリギッドはほんのり赤くなった頬を両手で包むと、恥ずかしそうにうつむいた。
「いいえ。ちっとも構いませんよ。よほど似てらしたんですね。」
ガウディはあのとろける笑顔でこたえた。
「はい。とっても。」
恥らう姫をガウディはにこにことみつめていた。
「ところで、あなたは一体何者なのです?ただの民には見えないし、キルトの有力者ならば一度はあったことがあるはずですし。神殿で何をしてらっしゃったんです?」
痛みから復活したビビがすかさずこたえる。
「私たちはタイムスリっ。」
ガウディに思いっきり口をふさがれる。
左の鼻にはまだハンカチが入っているのに、口をふさがれたビビはタコのように真っ赤になった。
「ふぃひむっ!!!わうひいっ!」
「わたしは・・その・・・・。ドルイドです。」
「まあ、ドルイド?でも最近ではその役割は神官が果たしているはず。私、ドルイドってもういなくなったものだと。」
「はぐれドルイドです。」
ガウディはやっとビビの口から手を離すと、ブリギッドに向き合った。
「どこにも属さない魔法使いです。ただ、月の女神に祈りを捧げ、私を必要としてくれる方のもとへ向かう旅をしているのです。」
「まあ。そうでしたの。」
ガウディのどんな人もすぐに納得してしまうスーパー説得力はここでもいかんなく発揮されている。
ブリギッドはガウディの言うことを信じたばかりか、尊敬のまなざしさえ浮かべ始めた。 ドルイド?魔法使い?何のことやらさっぱりわからない。
ビビはあいかわらず蚊帳の外だった。
「では、しばらくこちらに滞在していただけないかしら?黒のドルイド。」
「もちろん、よろこんで。」
なにやらよい雰囲気。
「お名前をまだうかがってませんでしたね。」
「ガウ・・・・、いえ、ガーディアと申します。」
「ガーディア、我々はあなたを歓迎します。」
姫はひざを折り、頭を垂れた。
ガウディは姫の手を取ると、ふたりはしばらく見つめ合った。
そこへ呼吸困難から立ち直ったビビが割り込む。
「ねえ見て見て!鼻血で世界地図ができてるよ!」
たしかに、ビビの鼻を塞いでいた木綿のハンカチは見事に地形を形成していた。
「ここがエウロパ大陸で、ほら極東もちゃんとついてる!」
しかし世紀の大発見も相手にされず、ビビはすねて隣の寝室に向かってふて寝した。