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壊れた時計  作者: りりか
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《はる》

今からちょうど7年前__


長谷川はせがわみなみ、鈴木風馬すずきふうま黒崎葵くろさきあおい香月陽かづきひなたの四人は自分たちのランドセルを見せ合って、もうすぐ始まる小学校の話をしていた。


「ねえ見てー!みなみのランドセル、ピンクなんだー」

「えー、ピンク可愛くなーい。陽の赤の方がいいじゃん」

「俺の青が一番だ!」

「みなみのだよ!」

「陽!」

「俺!」


みなみ、陽、風馬の三人は自分のランドセルが一番いい、ときりのない言い争いをしている。


「葵は?」

「俺は黒」

「葵黒なの?かっこいいねー」


質問をしたみなみを押し退けて、陽は葵に近づいた。


「痛い陽押さないで」

「みな邪魔なんだもん」


陽はみなみのことをみなと呼んでいる。

この時はまだ、みなみのことをみなと呼ぶのは陽だけだった。


「陽が邪魔なの!」

「みなだよ!」

「二人とも落ち着けよ」


葵に言われ、二人は渋々口を閉じた。


「ねえ、今日も公園行こーよ!」


風馬は急に立ち上がり、ガキ大将のように言った。


「いいね!」

「行こー」


他の三人もランドセルをカーペットの上に置き、外へ向かった。



「長谷川!」

「うん!」


葵からパスを受け取ったみなみは瞬時に狙いを定め、曲げていた肘を伸ばしてボールを放った。

相変わらずみなみは、幼い頃からバスケの才能に優れていた。

元々バスケをしていたのは葵だったのだが、葵に誘われ、四人でバスケをするようになったのだ。


「葵とみな強いー!チーム変えようよー」


陽はつまらなさそうに口を尖らせる。


「じゃあみなみ風馬と組む!」


そう言ってみなみは風馬に走り寄り、風馬の手を握った。


「葵組も!」


陽はその様子を見ると、葵に近づいた。


「うん」


葵は持っていたボールを陽に渡した。


「どっちからやる?」

「そっちでいいよー」


葵の言葉に、みなみは余裕を見せつけるように言う。

今はまだ幼いため、どちらかのチームがボールを持った状態から始めるのだ。


「言ったな」

「おうよ」


何故か葵とみなみは、バチバチと火花を飛ばしあっている。


「絶対勝つぞ香月」

「うん!」


葵は振り向いて、陽にプレッシャーをかけるようにして言う。


「負けないもん!ね、風馬」

「え、あ、ああ……」


みなみも風馬の手をさらに強く握り、笑顔を向けた。


「香月パス!」


風馬にマークされ身動きがとれずにいる陽に、葵は離れたところから声をかけた。

陽は、葵に向かってボールを投げた。

しかし方向がずれてしまい、葵は慌ててボールを追いかける。

けれど葵がボールを掴もうとしたその時、横からみなみにボールを奪われてしまった。


「あ!」


葵は奪い返そうとするが、走ってきた風馬に邪魔をされてうまく動けない。

その間にみなみは、自慢の脚力を使って高く飛び上がると、ギリギリのラインでスリーポイントシュートを決めた。

みなみの脚力は本当に優れていて、周りと比べても一番高く跳ぶのはいつもみなみだった。


「よっし!」


みなみはその場でガッツポーズをすると、駆け寄ってきた風馬とハイタッチを交わした。


「次次!」


みなみと同じく負けず嫌いな葵は、ボールを拾いドリブルしながらそう言った。

またも先行は葵と陽のチームだ。

葵はあとでパスを受けとるために、陽にパスを回した。

しかし、葵のその正確なボールでさえも、陽は取り逃してしまった。

陽の取り逃したボールは、そのまま転がっていく。

そして、ベンチに座っていた男の子の足に当たってしまった。

本を読んでいたその男の子は、本から目を離して顔をあげると足元のボールを拾い上げた。


「はい」


少年は、陽にボールを渡した。


「ありがとう!」


陽はボールを受けとると、笑顔でお礼を告げた。

いつのまにか他の三人も駆け寄ってきていたようだ。

ちょうどそのとき、強い風が五人に吹き付けた。

それと共に、公園に咲いた満開の桜から、花びらが舞い落ちる。


「もう春だねー」


桜を見上げながら陽が言う。


「そーだね」

「桜きれいだね」


陽の言葉に、他の三人も満開の桜を見上げた。


「君、だあれ?名前は?」


みなみはボールを拾ってくれた少年を振り返り、そう問うた。


「え、僕の……名前?」


少年は驚いたように、目を見開いた。

そして少年は目を泳がせると、遠慮がちに言った。


「は……はる」

「はる?可愛い名前だね!」


みなみははると名乗る少年の手を取って笑った。

はるは肩をびくつかせ、怯えたようにみなみを見つめた。


「お友達になろう!」


みなみははるの手を両手で握り直し、そう言った。


「おともだち?」


はるは言葉の意味を半場理解していないながらも、小さくうなずいた。

それを見てみなみは嬉しそうに笑い、手を引いてはるを立ち上がらせた。


「一緒にバスケしよう!」

「バスケって……何?」

「みなみが教えてあげるね!」


みなみは陽の持っていたボールを貸してと言って奪い取ると、はるに渡した。


「今日も楽しかったねー」


夕日に赤く染められた帰り道。

ボールをドリブルして歩きながらみなみは言った。


「はるって運動苦手なの?」

「バスケやったことないの?」

「でもはるもすぐ上手くなるよ!」


みなみ、風馬、陽の三人はもうすでにはるのことを呼び捨てしている。


「そういえばはるって、名字ないの?」


風馬の不意な質問に、はるは目を丸くする。

少しすると、はるはゆっくりと首を横に振った。


「誕生日は?いつ?」


はるから一番遠い位置にいる葵が、身を乗り出して訊く。

はるは再び、首を横に振る。


「わかんない」


名字があって、誕生日を知ってて当然な環境で育った四人は、不思議そうにはるを見つめた。


「じゃあさ」


みなみは人差し指をたて、弾むような声で言った。


「今日をはるの誕生日にしようよ!みなみ達とはるが出会った日!エイプリルフールだから、嘘ついてもいいんだよ」


みなみは得意気に言った。


「いいね!」

「じゃあ今日がはるの誕生日だね」

「お誕生日おめでとう!」


みんなは口々に言った。

最初こそ目を丸くしていたはるだったが、みんなを見て、満面の笑みを浮かべた。


「ありがとう」


こうして、この日ははるの誕生日となった。

そうこうしているうちに、陽の家が見えてきた。

陽だけは、三人の家から百メートルほど離れているのだ。

陽は四人に手を振って、家の中へ入っていった。


「そういえばはるってさ」


陽の家を過ぎ、三人の家が近づいてきたところで風馬はぽつりと言った。

はるは何を言われるのか疑問を抱きながら風馬を見つめた。


「家、どこなの?」


はるは少し戸惑いながらも口を開いた。


「僕、お家ないんだ。すごく遠いところに住んでたんだけど、僕のお家じゃないの。そこを出たから僕、住む場所がないんだ」


そう話すはるの顔は、夕日によって影ができ、暗く見えずらい。

みなみははるの手を握った。


「じゃあみなみの家に来て!」


みなみは、嬉しそうな笑顔をはるに向けた。


「みなみの家で一緒に暮らそ!みなみ友達と一緒に暮らすの、夢だったんだ」


跳び跳ねながら言うみなみに、はるは戸惑いを隠しきれずにいた。


「あ、ずるーい。はる、俺の家にも来てよ!」


その様子を見ていた風馬がはるの腕をとって言った。


「俺の家にも来いよ。二人より家豪華だし」


医者の息子であり家がかなりの豪邸な葵は、二人を見下すように笑いながら言う。


「豪華じゃなくたっていいんだよ!みなみのママのご飯すっごく美味しいんだから!」

「俺の家の方が美味しいよ」


いつの間にかみなみと葵は、自分の家の食事自慢を始めた。

呆然と二人を見つめるはるに、風馬は笑いかけた。


「気にしないで。あの二人いつもああだから」

「みんな、優しいね」


はるは二人を遠目で見つめながら言う。

まだ明るい夕日が、四人のことを赤い光で包み込んだ。

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