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死神少女が生きてるだけ  作者: ゲパード
第一章 大鷲篇
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第六七話「解放者は語る」

遅くなりました。




 状況を整理しよう。

 

 自分たちは、明け方に『魔言』に操られたアルコン・リィゼ両名とそれに率いられた魔獣20匹余りの襲撃を受けた。

 戦闘の経過は省くが、こちらの受けた損害はバカにならない。


 ロッシさんは手足を空間破断に巻き込まれ、ズタズタに引き裂かれており、いくら第四階位の治癒魔法使いがいようと、しばらくは安静にしていなければならないとか。彼はこっち陣営の頼りになるフォワードだけに、彼が抜けた穴を埋めるのは厳しいだろう。


 オリヴィエさんは死人みたいにげっそりした顔色で寝込んでいる。そうとう無茶して魔法を使ったらしく、その反動のようで、誰かが魔力を補充しないと自然回復しないレベルにまで彼女の魔力は衰弱しているみたい。

 また彼女は右腕の肘の先からを欠損していた。腕自体は氷漬けで保管してあるが、それを治すのは他ならぬ彼女自身。手遅れになる前に一刻でも早く目覚めてもらわないといけない。


 ライラさんは前の2人に比べれば軽いものだけど、右手はくだんの溶岩ビンタでひどい火傷を負っていた。魔力もハウルスクの召喚に大分とが持っていかれ、十全とは言い難い。

 それに彼女の騎獣であるヒポグリフのピュゼロは、至る所をを魔獣に噛みつかれ、なんとか一命は取り留めているものの、飛ぶことは厳しい状態であった。


 あと自分は負傷はないように見えるけど、実際は一回死んでるからね?

 魔力は3割もってかれたし、ハウルスクとの契約でまたゴソッと2割くらい、馬鹿にならない量だよほんと。


 こっち陣営の負傷者はこんなくらいか。

 ユークさんとケイ君は幸いにも怪我も消耗もしていない。まぁ非戦闘員だから怪我しちゃいけないんだけどね。


 一方の敵陣営、つまりアルコンさんとリィゼさんはと言えば。

 アルコンさんは自分と契約したお陰で魔言の影響下から抜け出したのはいいけど、彼自身は一応右腕をロッシさんに切りつけられたようで、包帯を巻いている。また空間を砕くほどの大技のために、槍矢の片方に刻まれた《リープジャンプ》の魔法陣と《エグゾセンシヴ》の魔法陣を消費してしまったらしい。それの補充はオリヴィエさんが担っていたらしく、その補充がままならない今、彼は万全の状態じゃないということになる。


 一方のリィゼさんは未だに魔言影響下にあるようだけど、右手以外の四肢を《プリズムレイ・スペクトル》で撃ち抜かれて、立ち上がるのも厳しい状態らしい。もっとも今はケイ君の手練手管で寝かされてるけど。

 ユークさん的には、彼女を魔言の保菌者キャリアーにしておくことで、彼女をサンプルとして魔言の研究をしようという腹積もりらしい。

 やろうと思えば、アルコンさんとの契約を切って、リィゼさんとの契約に乗り換えることもできなくはないそうだけどね。


 ただこれが万人に効く魔言対策というわけじゃない。

 死神ほどの悪魔との契約なんて、それ相応の強さがないと契約が引きちぎれてしまう。それこそライラさんとハウススクのときのように。

 だからリィゼさんをサンプルに魔言の研究をしないといけないってわけですね。


 あちらさん方が送り込んできた20匹あまりの魔獣に関しては、ハウルスクが残らず平らげてくれた。

 マグマスライムの等級が2つ繰り上がるほどの量だ。あちらにしてもそんな量の魔獣を失ったとなれば相当の痛手だと……思いたい。


 とまぁ、双方の被害状況はこんな感じだ。

 こちらとしては大損害だけど……まぁ誰も欠けることなく、アルコンさんとリィゼさんを取り戻したし、得たものもある。


 だけど非常にマズいことが一つ残っている。


 そもそも自分たちは、今日ソフィーちゃん奪還のために、ヒューゲンヴァルトの北に広がる山脈に埋没した『大鷲』のアジトへ強襲するつもりだった。


 けれど今日の襲撃で、足になるはずだったヒポグリフのピュゼロとその主であるライラさんが負傷してしまった。

 それに戦闘員として付き添ってくれるはずのロッシさんも動けず、やはり戦闘ができるオリヴィエさんも意識不明。


 とまぁ、こんな具合に自分たちの、ソフィーちゃん奪還作戦はものの見事に出鼻を挫かれてしまった。

 アギラの言う「一週間後」までは余裕を持って3日ほどの猶予があるが、それでもヒューゲンヴァルト地方の端から端まで行くような道程は、人の足では土台無理があるし、そこらで馬を借りたとしてもやはり厳しいものがある。

 ありていに言えば、自分たちは苦境に立たされているわけだ。


 そんな自分達に希望があるとしれば、アルコンさん。

 ついさっきまであちら陣営にくみしていた彼には聞きたいことが山ほどある、その中から光明が差し込めばいいのだが……。


「じゃあアルコンさん、今の状況を説明しますね」


 部屋の中にいるのは3人。

 自分は先の契約を完遂し、床に敷かれた魔法陣にペタンとあぐらをかき。

 アルコンさんは契約で少し疲れたようにベッドに腰を沈め。

 そしてユークさんは少し離れたところで立ったまま自分達の契約を監督してくれていた。


 苦境に立たされた自分達に希望があるとしれば、アルコンさん。

 ついさっきまであちら陣営にくみしていた彼には聞きたいことが山ほどある、その中から光明が差し込めばいいのだが……。


 そんな淡い期待を抱いて自分たちは現状をアルコンさんへと話していった。



「……方法はないこともないぞ」


 全て話し終わったところで、アルコンさんはそんな言葉を返してきた。

 だがその表情は渋いもので、あまり明朗な解決策ではないのだろうと窺い知れる。


「俺達はどうやってここに襲撃しに来たと思う?」

「どうって……普通に歩いてじゃないんですか? 自分はそうしましたよ」

「それはまた……大変だったんだな。申し訳ないが俺には空間魔法があるから、登山はお手のものなんだ」

「あぁ、なるほど」


 つまりこういうことか。

 山へ向けて大弓を撃ち、その矢を起点に《リープジャンプ》。それを繰り返すことで驚異的な速度で登山ができると。オルゼでやりあったときに少なくとも1kmの距離は跳ぶことができるみたいですしね。

 それで確かにアルコンさんはお手軽に行き来できそうだけど、リィゼさんはどうやって……。


「そんで後はムグスール山頂に大きめの魔法陣を敷いて、ワープポイントにすればいいって寸法だな。リィゼも魔獣もそこをくぐって来てもらった」

「そういうことか。入念なことだ」


 疑問が補足される。

 別個に魔法陣込みの規模の大きい転送魔法を敷いたのね。

 想像より大掛かりだったけど、道理でお陰で自分たちは詰みかけた。


「あぁ、実際これを3日でやるのは骨だったぜ。それでだ。その魔法陣は今もムグスール山頂にある、あそこだあそこ」


 アルコンさんが山頂をちょいちょいと指差す。

 自分が鍛錬に精を出している間、あんなところで着々と準備が進んでいたなんてねと自分のことばかりで、手の届く距離にあった脅威に気づけなかったことを悔やんだ。


「それでその魔法陣は……」

「もちろん、エリニテスが根城にしてる、つまりのっとられた『オーロラ亭』につながってるってわけだ」


 得意げにアルコンさんはその手段を明らかにした。

 魔法陣はオルゼの街と直通。

 ということは、これでオルゼまでの道のりをショートカットできれば、大鷲のアジトへ期限までにたどり着けるかもしれない。

 なんだやっぱり希望の芽は潰えてはいなかった。

 か細い糸だが、まだそれは勝ちへと繋がっているじゃないか。


「そこで提案だ」

「……?」


 アルコンさんは彼らしい野性味のある笑みを浮かべ。


「エリニテスを暗殺してみないか?」


 実に大胆な作戦を持ちかけてきたのだった。



「暗殺……って、そんなことできるんですか?」


 自分はアルコンさんの作戦にそもそもの疑問を投げかけた。

 同時に自分の脳裏には先日の悪夢のような光景が蘇る。

 あいつは言葉一つで『血盟』のみんなを配下にしていた。あいつ自身の実力も未知数だし今挑みかかるのは得策じゃないようにしか思えない。

 それともアルコンさんは何かとっておきの秘策をもたらしてくれるというのだろうか?


「……勝算があるわけじゃねぇ。ただ奴は俺が寝返ったことを知らない。寝込みを襲うには十分だろ。これは時間が経ったら消えちまうアドバンテージだぞ。アギラと離れてる今が絶好の機会だろ」

「あー確かにそうですけど」

「ふむ、……だが流石にそれだけでは懸念材料を払拭しきれてはいないな。そのソフィーという少女を助けねばならないのば承知しているが、だからといって貴様らを捨て駒のように送り出すわけには……」


 アルコンさんが『魔言』の影響下から脱したことは単純な戦力の増減だけじゃなく、あちらの不意を打つための尖兵としても使えることは確かだ。

 けれどエリニテスの実力も未知数だし、周囲には『魔言』で操られた血盟員もいる。それらの要素が自分たちの決心を鈍らせていた。

 それに自分はエリニテスにこっぴどくやられたのが若干トラウマになっているのかもしれない。

 今の自分はあのときより確実に強くなってるけど、それでもあいつの前に立つと考えると足が竦んでしまう。


「なんだよ、じゃあここで次の襲撃にご丁寧に付き合ってやるってのか? 魔獣はもうあんまり残ってなかったと思うが、『魔言』で操られた奴はまだ何人もいるぞ」

「それならば、拠点を移せば、襲撃は避けられる」


 ユークさんは歯切れの悪い口ぶりで反論をするがそれが根本的な解決には繋がらないことは確かだった。


「だとしてもそれは逃げの一手でしかねぇ。状況は悪化するばかりだ。時間は解決しちゃくれねぇ。なぁ、余裕のある選択肢が取れる状況じゃねぇんだよ」

「……っ」


 アルコンさんは煮えきらずにいる自分達を諭しながら、呆れたように両手で天を仰ぐ。

 それに対して自分達は下唇を噛み締めるしかなかった。

 仕方ないとはいえ不甲斐ない。


「そうだな。じゃあ一つ面白い話をしてやる。『魔言』についての話だ」


 そんな自分達を見かねてか、あるいは一念発起させるためか、アルコンさんはさらにもう一つ話を切り出した。 

 その内容はとても自分には無視できないもの。

 『魔言』。それは自分達をここまで苦しめる大きな要因。

 自分は自然と体を前に乗り出してしまう。


「俺はあいつにかけられた『魔言』を一言一句覚えている、前後の会話も付け足しておくぜ」


 そうしてアルコンさんが語った、魔言に屈したときの状況は概ねこういうものであったらしい。



「あなたには強い言葉・・・・が必要ね」

「お前……エリューじゃねぇのか……?」

「あらいい質問。節約・・になるわ」


『私はエリューよ』

『……あなたとアギラは『大鷲』を狩る血盟の同士』

『このオーロラ亭で私達と共に死神を滅ぼしましょう』


「……あぁ、……そうだったな」



 アルコンさんはその3つの発言が己にかけられた『魔言』だと言い切った。

 そして、そんな二言三言でアルコンさんは唆されてしまったのかと自分は戦慄した。

 だがそんな風に悲観的な感想を持った自分とは裏腹に、傍らにいるユークさんは別な疑問を抱いたようだ。


「ふむ、妙にはっきりとそれが『魔言』だと言い張るのだな。なぜその48文字だけが『魔言』だと分かる?」


 言われてみれば。自分だったら『映唱の魔眼』で判別できるけど、そういう異能を持ってないアルコンさんがなんで?


「いや分かるんだよ。脳裏に焼き付いて離れない、これはまさしく『魔言・・』だよ」


 その理由は随分と感覚的なものだったが分かる気もした。

 人間の記憶や認識を歪めてしまうほど力のある、ある種異質な言葉だ。そういうものなのだろう。


「こちらの所見ではいまいち要領を得ないが……だとすれば」

「あぁ、あんたもそう思うか」


 そしてさっきのやりとりの中からユークさんとアルコンさんはもう一つ『魔言』について重要なファクターをつまみだす。


「エリニテスが魔言をかける前の発言をかんがみるに『魔言』は無節操に使えるものではないのだろう。彼女の魔眼が魔力を食い荒らすのと同じような制約がありそうだ」


 ユークさんと自然と目が合う。

 そうだ自分の魔眼と同じような制約があるとすれば、それは魔言への普遍的な対策への突破口になるかもしれない。


「そうだな。そしてだ」


 アルコンさんは唐突に立ち上がった。ここからが話の肝だと言わんばかりに。


「ここにいる二人はこのヒューゲンヴァルトで唯二の『魔言』が効かない人間だ」


 確かに自分と契約したアルコンさんはエリニテスに対するジョーカーになりうる存在だ。


「そこらに積まれた本は死神に対しての光明を照らしてはくれなかったんだろ?」


 ユークさんはオリヴィエさんと一日がかりでクームの図書館で書物にあたっていたがその成果は芳しくなかった。

 ともすればやっぱり……。


「というわけであらためて提案だ。方法は言ったこちらで既にに用意してある。だから……あの死神のとこへちっと顔出してみるってのはどうだ?」


 直接出向いてやる他ないってことですね。




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