第五九話「魔獣の檻」
少し遅れてすみません。
あと、視点統一のためにカットした部分を活動報告に上げておきます。
僕の目を覚まさせたのは、騒々しい破砕音でした。
慌てて飛び起きた僕の頬にぴちぺちと何かが当たります。
そうして僕の目に飛び込んできた光景は一言ではとても表し難かったです。
まずベッドの上で片膝立ちになって剣を振るうロッシさん。
彼が剣を振るった対象はベッド。
そのベッドは上階の床板を綺麗に切り抜いて落下してきていて、それがロッシさんの剣でへし折れるようにして粉砕されていました。先程僕の頬に当たったのはベッドの木片でしょう。
そしてそのベッドを追うようにして、ワンテンポ遅れて落下してくるクリーム髪の女性。
リィゼさんは嫌に鋭く光るレイピアを垂直に構えて急襲してきていました。
つまりリィゼさんは上階の床をくり抜いてベッドを落とすことでロッシさんに先制をし、その上で自身のレイピアで仕留めるという公算だったのでしょう。
けれどそれは運良く早くに起きてベッドの上で剣の手入れをしていたロッシさんに迎撃されたということでしょう。
そこからの交錯は、一瞬でした。
粉砕されたベッドの隙間からねじり込むようにして突きを放つリィゼさん。
その刺突はロッシさんの脇腹スレスレに突き刺さりました。
ロッシさんは真上からの刺突を魔法のように絡め取って、僅かに逸らしましたのです。
剣をかばうように、最小限の接触だけで。達人技です。
気づいたときにはロッシさんの剣は左手に握られていて、それが《ルシアス貴流刺剣術》の技だということを意味していました。
「なんで避けれんのよ……!」
「いやいやギリギリでしたよ……!」
「…………」
「…………」
お互いに一瞬沈黙した後、レイピアが閃きました。
ヒュオッと恐ろしい風斬り音を響かせるリィゼさんのレイピアはロッシさんの首を狙って振るわれました。
それををロッシさんは屈むようにしてかわし、その隙を縫って、転がるようにしてベッドから降りて、僕のすぐ前、ベッドとベッドの間で半身になってレイピアを構えます。腰の据わったずっしりした体に対して前に伸びた腕からひょんとレイピアが飛び出したその異質な構えこそが《ルシアス貴流刺剣術》の構えなのでしょう。
「ほんと恐ろしいわねっ!」
「くっ……!」
それに対してリィゼさんも同じような半身になって片腕を前に突き出すような構えで、ベッドから降りつつ、刺突を放ちます。
そこから恐ろしい剣閃の応酬が始まりました。
リィゼさんがレイピアを差し込むように振るい、その剣筋をロッシさんは器用に持ち前の《ルシアス流》で致命傷を逸らしていきます。
リィゼさんのレイピアが膝を狙えば掬い上げるようにして絡め取り、心臓めがけての抉りこむような刺突ならば叩くようにしていなし、回り込むように脇腹を狙った一撃には払いのけるようにして騎士剣を振るい、致命の剣閃を捌いていきます。
二人は部屋の中をダンスを踊るようにして向き合って直線的なステップを踏み、剣と剣の弾ける音、擦れる音がその伴奏のように鳴り響きます。
その狭間で二人の息遣いや、剣戟に巻き込まれて断ち切られる調度品が床に落ちる音が聞こえてきます。
その様はまさに貴族様なんかがしばしば行う決闘のイメージに相違ありませんでした。
ですがそのダンスの主導権はリィゼさんにあるようです。
彼女の刺突をロッシさんは凌いでこそいますが、逆に言えば反撃に移ることができていません。
まるでリィゼさんのレイピアとまともに刃をあわせることをロッシさんは拒んでいるみたいで、有効なカウンターを差し込むことができていないようです。
まるでその銀刃が生半可な鉄など斬り捨てることができるような尋常ならざる切れ味を宿している、そんな感じがします。
それを裏付けるように今放ったリィゼさんの刺突をロッシさんは弾いて、壁に突き刺させました。それに対してレイピアはまるで水面を切り裂くかののごとく、一切の抵抗なく、木の壁に一文字の傷を刻んで再びロッシさんへと襲いかかります。
やはりあのレイピアの切れ味は尋常ではないようです。
その斬突をロッシさんは受け流しますがやはり防戦一方です。
「ケイティス! 盾を!」
そこでロッシさんが突然僕に指示を飛ばしてきました。
盾。それを捜して視線をさまよわせると、さっきまでロッシさんのベッドの上に無造作に転がしてあるのが見つかります。
襲撃の直前まで装備の手入れをしていたのでしょう、だからあんな上からの不意打ちの襲撃にも対応できたと。
だけどさしものロッシさんも、剣で迎撃することはできても盾を拾い上げる余裕はなかったみたいです。
あれがあればなんとかなる……?
僕は剣のダンスを回り込むようにして、ロッシさんのベッドに取り付き、彼の円盾を拾い上げます。
ロッシさんはそれを受けて、刺剣のダンスを踊りながらも、巧みに位置取りも調節し、半身になって空いている方の手をこちらへ差し伸ばします。勿論リィゼさんのレイピアをいなしながらです。
自分は慌てながらも確実にロッシさんの手へと盾の取っ手を押し当てます。
「そんなことしてる余裕はあるのかしら?」
そこへリィゼさんのレイピアが翻ります。
首を狙った殺意の高い薙ぎ払いでした。
ロッシさんはそれを受け止めてしまいました。
飛んだのは、剣の切っ先。
リィゼさんのあまりにも鋭いレイピアが、騎士剣の切っ先部分を切り飛ばしてしまったのです。
剣のリーチが生命線の刺剣対刺剣においてこれは致命的な事態です。
ですが。
「私の武器は剣だけじゃないです、っよ!」
ロッシさんは盾を受け取ると同時に、7割ほどの長さになってしまった剣をおもむろにリィゼさんへと放り投げます。
その実かなりの不意打ちだったのでしょう。
リィゼさんは大きく身を反らして、飛んできた騎士剣を躱しさざるを得ませんでした。
「《クロイツェム戦盾法》」
盾を両手で保持し、ロッシさんは流派を切り替えます。
そしてダンっと力強く飛び上がります。
「《────弾き飛ばす鋼の襲撃》」
彼が体をひねりながら盾を振るう先は、今しがた切り飛ばされた騎士剣の切っ先。
それ目掛けて、ロッシさんは思いっきり盾を振るいました。
カァンッッ! という硬いものと硬いものがぶつかる軽く甲高い音。
そうして弾丸のように弾き飛ばされたのは先程斬り飛ばされた切っ先。
それをリィゼさんは咄嗟にレイピアで切り払い、切っ先は更に両断されました。
反応できるのはさすがです、けれど。
「……してやられたわ」
剣を投げつけ、切っ先を打ち飛ばし、それらをもってロッシさんは突破口を切り開きます。
着地したロッシさんは円盾を両手で保持し、腰を落として振りかぶります。
「《────打ち砕く鋼の一打》!」
ゴッッ!と円盾がリィゼさんの体に叩きつけられ、彼女の体が吹っ飛びます。
彼女の足が床を離れ、ロッシさんの使っていたベッドに突っ込みました。ベッドは派手に粉砕され、彼女は大きく変形してしまったベッドの残骸にもたれかかるようにして呻いていました。
少し心配でしたが致命的なダメージではないようです。
「ケイティス今のうちに、上の階に逃げるんだ。ユークさんにも知らせてほしい!」
「え? あ、はい。でもなんで上に?」
「囲まれているからね。少しでも安全な方に」
「……? そういうことなら……」
よくわかりませんでしたが反抗する理由もないので僕は頷きました。
屈んだロッシさんが手を組んで、僕のために足場を作ってくれます。
リィゼさんはまだまだ戦闘できるでしょうし、この機会を逃したら僕はこの空間の隅で怯えているしかなくなってしまう。
それならせめて迷惑がかからないようにしよう。
組まれたロッシさんの手に足をかけると、ロッシさんはリフトのように僕を上に持ち上げ、それと同時にジャンプ。
先程リィゼさんが侵入してきた、そしてベッドが落ちてきた天井の四角い穴に手をかけます。
そしてなんとか僕が体を引き上げると同時に、下階からギャインという金属音。
見下ろせば、復帰したリィゼさんがまたロッシさんへと斬りかかっていました。
「ロッシさん……!」
「私は大丈夫! なんとかするよ」
そうしてまた剣劇が始まります。
綱渡りのようなあの戦闘に、僕はロッシさんの身を案ぜざるを得ませんでしたが、だからといって僕が残ってもあの剣劇に手出しすることなんてできません。
せめて状況を正しく把握しよう。できることをしよう。
そう思って僕は二階の床板をどたどたと蹴りつけユークさんの研究室を目指します。彼の部屋は2階の隅にあったはずです。
◆
ユークさんの研究室はもぬけの殻でした。
雑多な物が散乱した部屋の様子は変わりませんでしたが、そこに篭っているはずのユークさんの姿が見えず、かわりに部屋の中央にはスクロールが広がられていました、
物を押しのけて広げられたスクロールには魔法陣が描かれています。僕は魔法陣のことはよく分かりませんけどこれは今しがた使われたような感じというか空気感というか、そんなことを感覚的に感じ取りました。空気中の魔力の残滓とかそんな感覚です。
次に僕はためしに椅子に手を当ててみます。するとまだほのかにですが熱を感じ取れ、先の襲撃とほぼ同時にユークさんが動いたことがわかります。その回転椅子が机とは逆方向を向いていることからも、彼が急いで立ち上がったことが伺い知れます。
けれどどこへ彼はいったんでしょう……?
そんなことを思っていると、机の上に、椅子と正対していたであろう位置に一枚の紙片があるのが目に止まります。おそらくスクロールの端を破り取ったのであろうそれは机の中心にあって、まるで読んでくれと主張しているようでした。仮にメモとかならどこか端に貼り付けるでしょうから、おそらくそういうことでしょう。
僕は紙片を拾い上げ、そこに記された文字を読み上げます。
「えぇっと、“この事態を脱するにはあの炎の海を用意するしかない。おれは火消しの準備をしておく”」
どういうことだろう……と僕が首を捻り、その意味を測りかねているとその思考を遮るように、「ピュエッ!」聞き慣れた甲高い鳴き声が耳に届きます。
あれはライラさんの騎獣、幻鷲馬のピュゼロの鳴き声です。
そしてその鳴き声は何か鬼気迫るような印象を受け、僕は紙片を握ったまま、部屋の窓に駆け寄りました。
そこで目にした光景はとても恐ろしいものでした。
眼下に広がる畑や平原、そのいたるところに跋扈する獣達。
それらは一様に体のどこからか真っ白な腕を生やした魔獣たち。窓から見える範囲では6匹ほどでしょうか。威圧感のある体躯をした大熊や恐ろしい爪を持った大爪鼬、そして恐ろしいことに羽に雷を宿した雷鳥までもが魔獣化しているのが確認できました。
同時に先程のロッシさんの発言に合点がいきました。「囲まれている」というのは魔獣のことだったんだ。
そしてそれら内の3匹に群がられていたのがピュゼロでした。
背中にはライラさんが乗っていて、赤い髪を振り乱して、顔を蒼白にしていました。
ピュゼロの体を『御手』が抑えつけ、魔獣達の牙や爪が突き立てられ、焦げ茶色の羽毛に赤が赤く染まって抜け落ちていきます。
絶体絶命という言葉が脳裏をよぎります。
「ひッ────」
僕は凄惨な光景に思わず息を飲みます。
万事休すかと思わず目をそむけようとした僕でしたが、そこでピュゼロは最後の力を振り絞り、群がる魔獣を嘴で突き、馬脚で蹴り上げ、僅かに包囲が緩んだところで千切れそうな翼を羽ばたかせて、飛び上がりました。
そして力強くも痛々しい羽ばたきを一回。
ピュゼロは最後の力を振り絞って、この「宿り木」の建物へとまっすぐ突っ込んできます。
つまり僕のいるこの研究室めがけて。
「ちょ、ちょちょ待っ────」
僕が慌てて窓から飛び退くと同時に、ピュゼロは壁とガラスを突き破って突入してきます。
飛び込んできた一人と一匹。
ガラス片と木材が飛び散り、血で赤くなった羽毛が部屋の中をふぁさりと舞い散ります。
騒々しい音響が止むと、そこには痛ましく全身を血に染めるピュゼロが横たわり、彼が決死の覚悟で守ったライラさんは投げ出されて、積み上げられたスクロール束に受け止められていました。
「うう……ピュ、ピュゼロ! ピュゼロ!」
幸いにも怪我はなかったライラさんは起き上がるとすぐさま自分の騎獣のもとに駆け寄ります。
彼女は世界の終わりのような悲痛な表情で何度も己の騎獣に呼びかけますがピュゼロは
「ライラさん」
「ど、どうしよう……オリヴィエは戦闘中だし……ピュゼロぉ……」
「ライラさんライラさんー?」
呆気に取られている暇はありません。ここにあるあらゆる事態は急を要します。下の戦闘も、外の魔獣も、ピュゼロの状態も、です。
うわごとのように悲嘆に暮れた言葉を吐き出すライラさんにとりあえず気づいてもらおうと僕は声をかけます。
それを数度繰り返したところで。
「────あ、あれケイティス。君も逃げてきたの?」
「あ、はいライラさん。ロッシさんのおがげで下の戦闘から上手く逃してもらえました」
ライラさんは最初こそいっぱいいっぱいで僕の存在にすら気づいていないようでしたが、ようやく認識してもらえました。
「ケイティスぅ……ピュゼロが……、治療しなきゃ、でもオリヴィエは戦闘中だし……」
「大丈夫です。僕は一応水の魔法が使えます。命を繋ぎ止めるくらいならなんとかできる、かもしれません」
「ほんと? よかった……包帯とかは、そうだ確かエリューちゃんが死んじゃったときに一応持ってきたのがまだこの部屋にあるはずだよ」
そういって彼女は元々散らかっていたのが、先の突入でさらに雑然とした部屋の中を渡り、ベッドの辺りを物色し始めます。
幸運にもエリューさんが4日前に大怪我をしたときに一通りに救急キットが持ち込まれたみたいで、それをライラさんは掘り当てて、持ってきました。
とりあえずこれらあがれば僕の拙い水魔法と合わせてなんとか命を繋ぎ止める程度はできそうです。
「それも火急の事態ですけど、外もまずいですよライラさん。あんな数の魔獣、いくらロッシさんやオリヴィエさんが強くてもどうにもならないです……」
ピュゼロについてはどうにかできそうです。ですが当座の問題はそれだけじゃありません。
この宿はロッシさんの発言も加味すると、十数体の魔獣に包囲されていることになります。いやもしかしたらもっとたくさんの魔獣が外にはたむろしているのかもしれません。
それらの目的はおそらく確実にエリューさんを奪取するため、でしょう。
魔獣の包囲網で逃げられなくして、アルコンさんとリィゼさんという知己をあてがい襲撃を行う。仮にその二人が撃破されても制御を失った魔獣達が、宿を襲撃する。といったところでしょうか。
ピュゼロがこうなった以上、もはや空を飛んで逃げることもできません。あちらも雷鳥のような空の戦力がある以上、元々厳しかったかもしれませんが。
僕達は魔獣でできた檻に閉じ込めてしまったようなものです。
このままじゃあ全滅は必至です、何か手を打たないと……。
「そういえば……兄さんは……こういうときに兄さんなら何か名案が……! あ、あれそういえば兄さんは?」
そこでライラさんはようやくこの部屋の主が不在であることに気づきます。
ほんとどこに行ってしまったのでしょう。
「それが……僕がこの部屋に来たときには既にユークさんの姿はなくて、あ! でも書き置きみたいなのはありましたよ。僕には要領を得ませんでしたけど、ライラさんなら」
そういって僕はさっき見つけた書き置きをライラさんに手渡します。
「ほんと、ふむふむ…………」
ライラさんは書き置きがあると聞いて何か天啓のようなものを期待してか表情を明るくしましたが、その書き置きに目を通すと途端にしょんぼりしたような面持ちになり、そして書き置きから顔を上げたときには何かを迫られているように張り詰めていました。
あの書き置きの内容は確か“この事態を脱するにはあの炎の海を用意するしかない。おれは火消しの準備をしておく”だったはずです。それがどういう意味を持つのか……。
「……そっか。そうだね。やるしかない……よね。このままじゃ全滅だ」
ぽつりぽつりと、ライラさんは自分に言い聞かせるようにそう言葉を零します。
その表情は決意に満ちたというよりはむしろ義務感に追い詰められているようなそんな表情でした。自分ならなんとかする手段があって、それにはリスクを孕んでいるということなのでしょうか。
「あの子に頼るしかない」
そしてライラさんは誰にでもなく頷いてしまいます。
まるで決意を固めたかのように。
同時に僕はあの子? と僕は頭の中に疑問符を浮かべます。彼女が「あの子」というのはおそらく自分の契約している使い魔達のことでしょうか? 幻鷲馬のピュゼロ然り、角兎のエシャロット然り。
とすると何か強力な幻獣でも呼び出すということでしょうか。よほどのものでないと多勢に無勢な気もしますが……。
「ケイティス。ピュゼロを頼める?」
「はい。それは構いませんけど、えっと……」
僕は救急箱一式を受け取りながら、ライラさんの身を案じますが、何を言えばいいか分からず言葉は喉にひっかかったまま出てきません。
そんな僕を尻目に、彼女は散らかった部屋のどこに何かがあるか分かりきっているように迷いのない足取りで、いくつかのマジックアイテムやスクロールを取り上げていきます。
「このあたりがあればいいかな」
そういって彼女は一抱えほどのマジックアイテム等をベッドの上にばらまきます。
彼女はベッドのシーツを取り払い下のマットレスを露出させます。そしておそらく特殊なチョークをそこに押し当て、悪戦苦闘しながら、寝転んだ僕がすっぽり収まるくらいの大きさの魔法陣を描いていきます。魔法陣は少し角ばっていました。中央に描かれたモチーフは山型の図形から何かが溢れ出すようなもの。どこか火山の噴火を連想させます。
それが書き終わると、スクロールを広げて角ばった魔法陣の角に重ねました。
もちろんスクロールには魔法陣が描かれていて、ライラさんはそこに線を書き足して、今書いた魔法陣と連結していきます。出来合いの魔法陣を用いることで時間短縮を図っているのでしょう。なんというかすごく手際がいいです。
やがて最短の効率でかなり大規模な魔法陣が書き上がりました。どうやら召喚の魔法陣に見えます。
ここまで3分もかからりませんでした。それくらいテキパキとライラさんは作業を終えたことになります。
その間のライラさんはまるで別人のように真剣な面持ちで何かの準備を進めていっていました。
準備が終わると、彼女はすくと立ち上がりながら。
後ろ腰に手をあてて、体を伸ばすような動作をした後、「す~~~」と深く息を吸い込んで吐き出し深呼吸。
どれもこれも何かすごく大きなことをしようとしている自分を落ち着かせるような所作です。
そして彼女は魔法陣に手をつき、一つ息を吸い込み魔力を練り上げます。
そして詠唱が始まりました。
「“私の声に応えて”=“力を貸して欲しいの”・“あなたは”・“炎の海の”・“奥底に”・“沈殿し”・“やがて流れ出る”・“災火そのもの”」
詠唱とともに魔法陣に魔力が通され、赤く発光しだし、やがてボゥという音とともにシーツやスクロールが燃え盛りだします。
けれども、ライラさんはその中で物怖じせず詠唱を続けて、そして。
「“さぁ、ゴハンの時間だよ”────《ハウルスク》」




