表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神少女が生きてるだけ  作者: ゲパード
第一章 大鷲篇
5/75

第五話「とある街にて」

ちょっと長めです



『クククッよかったじゃねぇか。死神の責務を果たせてよぉ。それも二人だぜ二人? ここしばらくはこれでのんびりできるなァ?』


 バロルが自分に念話で話しかけてくる。

 これまで聞いた中で一番機嫌が良さそうな声音だ。


「うるさい。黙って」


 自分は押し殺すようにしてそう呟いた。

 念話じゃなく口でそう言い返した。

 ケイティス君に聞こえるだろうが、それ以上にバロルの声が耳障りなのだ。


 当の自分はと言えば、最悪な気分だ。

 盗賊とはいえ、人を殺した。

 気が滅入るのも当然だったし、そして自己嫌悪に陥るのも必然だろう。


 あれから自分達は、盗賊のアジトからそそくさと離れた。

 外の小屋に繋いであった馬を一頭拝借して、それを駆ってできるだけ夜の内にあのアジトから離れる。


 これで盗賊団『大鷲』から自分達は逃げおおせたわけだ。

 

 馬に乗った経験はなかったけれど、馬が自分のことを見ると途端に萎縮して大人しく従ってくれた。たぶん死神の力のお陰なんだろう。

 それに夜目も効く。全くの暗闇じゃ何も見えないのは儀式場で知ってたけれど、少しの光源があれば何もかもがつぶさに見て取れた。

 闇を暴けるそういう目を死神は持ってるんだろうなぁ。あるいは月明かりへの感受性が高いとか。


 食料はケイティス君が、いくらか持ってきてくれていた。宴会の残りものだが、まぁ食べれる。でも三日は確実に保たない量でしかない。

 寝床はこの分だと完全な野宿になりそうだ。

 自分は不死らしいけれど、とても怖くて試せなんてしない。

 だから食べるし寝る。そのつもりだ。

 本当にヤバくなったら食料はケイティス君を優先するつもりだけどね。

 

 当面の問題は二人ともがここらへんの土地勘がないことだ。


 自分もケイティス君も魔法使いの実験台として連れてこられたから、ここは生まれ故郷とは全く別の土地みたいだし、自分に至っては年単位であそこから出ていない。 

 ケイティス君は何度か街に連れていかれたこともあるみたいだから、そのときの記憶を頼りに馬を走らせるしかない。

 そこで情報を手に入れて、盗賊の勢力圏から逃れるのだ。


 そんなことを考えている内に前に乗っているケイティスの体から力が抜けていることに気づいた。脱出が成功して気が抜けてしまったみたい。健やかな寝息が耳に届く。

 思い返せば自分がバロルに悪態をついたとき何の反応も返ってこなかったから、そのときにはウトウトしていたのかも。


 自分は馬を手綱を操って、止まれって命じた。馬はブレーキをかけられたように急停止して、自分とケイティス君は振り落とされそうになった。

 そして、馬から降りてケイティス君をそっと折ろす。


 周りはそこまで深くない森で、周りに生物の気配がない。


 自分は馬を座らせてその側にケイティス君を横たえ、バロルに話しかける。


「馬がやけに怯えてるし、従順なんだけど。これも死神の力のせい?」

『あァ、そうだろうな。生物としてのランクが違うからなァ。人間は鈍感だからさして気づかれねぇだろうがな』

「じゃあひとつ質問。ここで休んでて野犬なんかの動物に襲われる可能性は?」

『ほぼゼロだろうなァ。お前は腹減ってるからってドラゴンを襲って肉を喰らおうとするのかァ?』


 なるほど。そりゃそうだ。


「じゃあ。魔物に襲われる確率は?」


 これが重要だ。

 盗賊の勢力圏ではあるから、そこまで強力な魔物はいないだろうけど、やっぱり魔物は脅威には違いない。


 この世界ではファンタジー世界らしく、ゴブリンやコボルトといった魔物なんかが跋扈している。

 そいつらは非常に凶悪で、恐ろしい。

 それが自分のことを怖れて、襲ってこないのなら、幾分か気が楽になる。


『かなり低いだろな。だがあいつらは低いなりにも知性がある。そういのの中でとびっきりの馬鹿か、とてつもなく切れるやつか、そいつらが襲ってくることもあるだろうなァ』


 やっぱりか。でも大分安心できるみたいだね。

 自分はすぅすぅと寝息を立てるケイティス君を見つめて、周囲を見回す。

 やっぱり疲れたよね。ゆっくりお休み。

 自分はケイティス君の頬にそっと触れた。ほんのりと温かかった。


 夜の森だ。静かで、どことなく落ち着く。


 夜が深いけれど、自分の目はむしろ冴えていた。

 人間に比べれば、異形の化物の相手なんて随分楽なものだ。


 自分は皓々(こうこうとした月明かりが空から失せて、煌々こうこうとした陽光が、木漏れ日として降ってくるまで、そこに座っていた。







 ケイティス君が起きた。

 自分は結局寝なかった。それどころか眠くなることもなかった。

 手綱を握って、馬を駆って、ケイティス君の記憶を頼りに街へ向かう。

 街道らしき場所に出たのでそこから道なりに行けば、ようやく人工物を視界が捉えた。

 街門だろうか。それっぽい。


 日が登ったから、盗賊のアジトではこの子が逃げ出したことが分かって、ちょっとした騒ぎになっている頃だろう。

 時間的な余裕はまだある。日が落ちるまでに次の街へ出発すればいい。


 そして目当ての街についにたどり着いた。

 ケイティス君に聞くとこの街はどうやらシュテロンと言うらしい。まぁどうでもいいか。

 門もあるし、そこから街壁もちゃんと伸びている。

 

 そこで自分達は身分すらないはみ出し者だから、街に入れるのか心配になった。

 そしてその予想は当たっていたみたいで、門衛は馬を引いて門をくぐろうとする自分達を呼び止めた。


 でもそこでもケイティス君が一つ二つ口添えをすると門衛はすごすごと引き下がってしまった。

 ケイティス君ほんと頼りになるな。


 

 この街は、城壁もあるしやっぱりそれなりにしっかりとした街みたいだった。

 レンガ造りの建物が軒を連ねて、大通りでは市場が開かれ、威勢のいい声が飛び交っている。


 市場のある通りの前は乗り合い馬車の発着場になっているみたいだ。

 自分はそこの中で、客を受け入れている御者の男に話かけた。


「あー すみません。この馬を売りたいんですけど、どこに行けばいいでしょうか?」


 自分達を運んできてくれたこの馬だけど、ここでお別れだ。

 この子はお金に変わるのだ。うん。

 乗り合い馬車があるのならそれに乗った方が、自分達だけで移動するより安全だろうし、何より自分は今ローブの下には何にも着ていないのだ!

 ケイティス君にはたぶん気づかれてはいないと思うけど、もともと大人用のローブだから子供の自分には大きいサイズだし。

 でもこのままだとどんな羞恥プレイだよってことになるので、せめて服を買いたい。

 食料も結局、夜と朝の二食分で良かったから、まだ余裕はあるけど、持っておくに越したことはない。



 その御者さんに馬車の組合みたいなとこを教えてもらって、そこで馬を売り払った。

 子どもだからだいぶ足元を見られた気がするけど、40000シュペーってとこだった。

 シュペーは自分が知っている限り、この世界の貨幣単位で40000シュペーはごく普通の宿に一月泊まれるか泊まれないかといった程度の額だ。

 先立つお金としては中々のものではないだろうか。

 あとで服を購入したら、今着ているローブも売っぱらうつもりなので、懐事情は大分潤いそうだ。


「すごいお金……!」


 ケイティス君が自分が手でぶら下げた金貨袋を、手の平で何度もタプンタプンと押し上げて重さを確かめている。

 自分は奴隷落ちする前の家がわりかし裕福だからか、それとも前世での金銭感覚が残っているせいなのか、あるいは死神になったから俗世的な欲求に頓着しなくなったのか、ともかくこのお金を持っていてもさして舞い上がりはしなかった。


 自分は金貨袋をローブの内側に括り付けて、組合を後にした。

 取引は外でやったから、たった今ご主人様が変わってしまったあの馬が建物の裏手に連れて行かれるのが見えた。

 それを見送ってから、自分は少し浮ついているケイティス君の手を握って、服屋を探しに街の中心街へと戻った。



 服は流石に市場では売ってないだろうし、ちゃんとした店じゃないと駄目だ。試着できないと意味がない。

 そこで自分はさっきの組合の人にその場所を聞いておいたので、スムーズにそこに到着することができた。


 店の中に入る。

 服屋といっても、仕立てあげられた服で全てではなく、それらの素材となる布なんかも壁一面の棚に並べられていた。ここらへんはそういう方面の知識に疎いのでよく分からない。

 もちろん陳列された服も高い品質を保っているように見えた。


「いらっしゃいませ~ 何がご入用で?」

 

 店に入ると、直ぐに気づいた店員さんがやってくるけど、ケイティス君の身なりを見て露骨に嫌そうな顔をした。

 自分はいかにもな武器を持ってることだし、さしずめこの人には冒険者とその従僕みたいな感じに写っただろうか。

 でも自分が着ているローブに視線を落とすと、小さく息を呑んだかと思うと、途端に態度が軟化した。


 あーこのローブはあの魔法使いの使ってたものだけど、やっぱりすごい一品なんだろうか。

 こういう反応されると返ってすぐには手放しずらいなぁ。一度専門の人に見せた方がいいんじゃないか、これ。


 ともかく、上客として扱ってもらったようで、手をもみながら「どんなものをご所望でございましょう」と聞いてきた。

 自分には特に希望が無かったので、動きやすいものをとだけ告げると、店員さんはやけににフリルたっぷりのものを持ってきた。

 黒のゴスロリっぽいドレスだ。細部の意匠一つ一つについて述べていくとキリがない。 そのくらいのフリル地獄だ。

 ……いや無いでしょ。


「いや、もうちょっと────」

「あ、いえ、これは至玉の一品なんですよ。稀代の天才仕立師エルノア氏の作品で、フリルの一つ一つに精緻な魔法陣が刻まれていて、それらで体の動きを強化するんです。冒険者様の助けにきっとなりますよ。それにきっとお似合いです」


 普通の服屋かと思ったら、まさかのマジックアイテムが出て来た。

 このローブがそれくらいすごいものだということなんだろうか……それでさぞ名のある冒険者に違いないと……?

 まぁ、これの元持ち主はさぞ名のある魔法使いリッチーだったろうけどさ。


 でもこれを着るのは正直あり得ないと言える。

 こんなの現状必要としてないどころか、悪目立ちするに決まってる。ただでさえ大鎌で悪目立ちしてるのに。

 今だってこの店に入るまでの移動中ジロジロと見られた見られた。

 それにもう一つ、こんな女の子らしさの権化みたいなのを自分(・・が着るのは抵抗がある。

 なぜならこの体は確かにエリューという少女のものだけど、意識は男としての前世の記憶も持っているからだ。

 というわけで自分はこのフリル地獄を丁重にお断りして、改めて服を選ぶことにした。 今度は自分で。




 

 


 自分達はようやく服を購入し終わった。

 時間は太陽が天頂を過ぎたころ、大分時間を取られた。


 でもいい買い物だったと思う。

 動きやすく丈夫なシャツとショートパンツ。ちなみにマジックアイテムではない。

 今の自分はこれの上にローブを外套みたいにして着ている状態だ。前は開けてる。もう隠す必要はないからね。

 途中でやたらやれフリル、やれスカート、やれドレスを勧めてくるのを押し切ってこれを買った。

 あと大鎌の刃を剥き出しで歩くのは流石に危なすぎるので、即席でカバーを作ってもらった。こっちは棚に並んだ布の中から丈夫なのを見繕ってもらい、それを用いた。

 バロルはそれに対して全然反応がなくて、もしかしたら昼の間は眠っているのかも。

 しかしあの店員さんはやけに不服そうだったけど何だったんだ……


 それともう一つ

 ケイティス君にも服を買ってあげた。

 こっちは自分みたいに抵抗することができずに押し切られたみたいで、やたら小奇麗な服を押し付けられた。

 明るめのブラウンの髮を撫で付けられて、紺色のブレザーを羽織らされている。

 パッと見貴族のお坊ちゃまみたいだ。流石に蝶ネクタイとかはしてないけど。


 そしてこれにより、さっきまで姉と弟、あるいは冒険者と奴隷みたいだった自分達のイメージが、今では貴族のお坊ちゃまとその護衛、みたいになっている。


 まぁこれ結果オーライじゃないかな。

 この子を盗賊が見てケイティス君だとは分からないでしょ。


「なんか変ですこれ……」

「まぁまぁ、これで盗賊とばったりしてもたぶん大丈夫だよ」


 自分が諌めるもケイティス君は不服らしく、その内にうが~って言ってなでつけた髮をグシャグシャにしてしまった。

 折角サービスだってタダでやってくれたのに……

 ちなみにこの二着プラス大鎌カバーで、およそ4000シュペーだった。店の中では安い方だったらしいけどそれなりだ。だから残金は36000シュペーになる。


 ちょうど昼時だし、屋台かどこかで昼ごはんを確保するのもいいかもしれない。

 そんなことをケイティス君と話しあって自分達は、街門へと繋がる通りを尋ねた。

 朝は市場だったそこは、昼の今では露店へと様変わりしていた。


 その中でいかにも美味しそうな香りを漂わせていた。串焼き屋で足を止める。

 近くによれば匂いだけでなく、ジュワーッという音までもが食欲を刺激してくる。


「これは何のお肉ですか?」

「お、嬢ちゃんよく聞いてくれた。これは世にも珍しいロック鳥の肉だぜ? 程よい歯ごたえとジュワっと溢れ出てくる肉汁がたまんねぇんだよ。どうだい」


 ロック鳥。確か前世の記憶だと体長ウン十mを超える怪鳥だったはず。こっちの世界の自分(エリューの記憶でもちらっと名前だけは聞いたことがある。

 そんなのも食べられるのか。

 興味がそそられた自分は、買ってみることにした。


「おじちゃん。二つちょうだい」

「あいよっ!」


 屋台の前で、ちょっと待っていると、呼びかけられる声がして、顔の目の前に串が二つ分差し出された。

 改めて見ると肉の1ブロックが鶏なんかと比べると3倍くらいあるんじゃないかこれ。それに胡椒がまぶされて、皮までパリパリに仕上がっている。

 実に美味しそうで、一も二もなくかぶりついた。


 口の中で胡椒のピリッとした風味と肉汁のジューシーな味わいが交わって、ひたすら旨味を主張してくる。

 こいつは美味い!

 ケイティス君もご満悦のようで、頬に油をべっとりつけて貪っている。


「おいお嬢ちゃん」


 結構な大きさの1ブロックがすぐに消えてしまった辺りで、屋台のおっちゃんさんが声をかけてきて自分は、顔を上げた。


 目の前に差し出された三本目の串。

 ……? もっと買わないかってこと? うーん迷うなぁ。でも結構な量だし……


「サービスだ。お嬢ちゃんとお坊ちゃんはホントうまそうに喰ってくれたからな。それにお嬢ちゃんは美人さんだからな」


 マジか。こいつは嬉しい誤算! 

 自分は二本目を受け取って、幸せ一杯にロック鳥肉を頬張った。

 あ、半分はケイティス君にあげるつもりだよ? ……ホントだよ?




「そういえば。おっちゃん。冒険者ギルドってどこにあるか知りませんか?」


 二本目を半分まで食べたとこでケイティス君にあげて、自分は屋台のご主人に質問をする。

 自分があとこの街でやることは長期的な食料の入手と、様々な情報の入手だ。

 食料はこの市場で手に入るだろうとして、情報はそういうものの集まる場所で纏めて仕入れたい。

 そこで冒険者ギルドというわけだ。

 

 冒険者ギルドといえば、冒険者が集まる場所。当然情報も集まるだろう。この認識は前世の知識だったけど、ケイティス君にそれとなく聞いて、この世界でもその認識で通じることは確認済みだ。


 そしておっちゃんは少し言いづらそうに自分の質問に答えた。

 その内容はにわかには信じられないようなものだった。







 自分は街のはずれに足を運んでいた。

 さっき聞いたことがどうしても信じられなかったから、直接確かめにきたのだ。


「嘘でしょ……」


 そこにあったのは廃墟。

 崩れた外壁、落ちた屋根、あまりの破壊されように内装が外から見えてしまっている。

 だが中もひどい有様で、テーブルやカウンターはことごとく破壊され、掲示板は叩き折られ、そして天井を支えているはずの梁が真ん中に突き刺さって鎮座していた。

 その建物の入り口を塞ぐようにして斜めに垂れ下がった、おそらく看板だったものにはこう書かれていた。

 

 冒険者ギルドと。


 屋台のご主人は言った。「冒険者ギルドはここらへんからは撤退しちまった」と。

 そしてこうも言った、「この街にあるのはそれの廃墟だけだ」と。


「だから言ったじゃないですかエリューさん。本当だって」


 ご主人の話を聞いたとき、ケイティス君はその話をさも当たり前のように肯定した。

 それでも自分は冒険者ギルドが潰されたなんて信じられなくてここまで足を伸ばしたのだが、真実はこの通りだ。


 冒険者ギルドが盗賊に潰された? 普通なら逆だろう?

 狼狽している自分に向かって、ケイティス君は事の顛末を語ってくれた。


 曰く、この地域にもちゃんと冒険者ギルドは根付いていたみたいで、この廃墟はその頃から使われていたギルドの施設らしい。


 でも3年前にこの地域にとある盗賊団がやってきた。

 それはちょうどケイティス君が盗賊の下働きにさせられた時期と一致する。


 その盗賊は冒険者ギルドによって征伐クエストが出されたものの、幾つものパーティーが帰らなかった。

 それどころか、勢いづいた盗賊はこの冒険者ギルドに襲撃をかけ、完膚なきまで破壊され、冒険者ギルドは撤退を余儀なくされた。

 

 冒険者ギルドは報復と言わんばかりに当時名の知れていたAランクのパーティを差し向けた。

 しかしそれすらも盗賊は返り討ちにしてしまった。

 それで尻込みした冒険者ギルドはこの地から手を引くことを決定。

 かくしてこの場所は廃墟と化した。


 冒険者ギルドはこの場所から手を引く直前に、征伐クエストで亡くなったAランクパーティの墓を立てたらしい。

 確かに廃墟の前の芝生のスペースには墓らしき石碑がある。

 だがやはりと言うべきか、その墓も盗賊達の手によって打ち壊されたのだろう。

 石材が周囲に散乱していて、誰の墓なのかなんて読み取れやしなかった。


 これが事の顛末。


 今現在この盗賊はとある噂と共に怖れられている。

 魔物を従える盗賊だと。


「魔物を従える……?」


 自分は疑問を呈さざるをえなかった。

 この世界での魔物というのは人類共通の敵だ。


 薬や魔法などで従える技術は存在しているけれど、盗賊においそれと扱える代物ではないはずだったし、仮にそう技術を持っていたとしても、冒険者ギルドを襲撃して壊滅させたり、Aランクパーティーを返り討ちにするような高位の魔物を果たして盗賊が使役できるのだろうか。


 だが現実問題、冒険者ギルドは撤退してしまっている。

 自分達はなんて恐ろしい相手から逃げおおせたのだろう。


「僕は魔物、見たことあるよ。強そうな冒険者さんが見下ろせるような逃げ場のない場所で戦わされて、それで……」


 ケイティス君がかなりエグい話をしだしたので手で制して止めさせる。子どもの口から話させる話じゃないな、これ。


 どうやら魔物の件は確からしい。

 時間的余裕はまだあると思っていたけれども、すぐそこまで追手が迫ってきているかもしれない。自分は盗賊の評価を上方修正しないといけないと思いながら、ケイティス君の手を引っ張った。


 自分達は早足に冒険者ギルド跡を去って、ストリートへと戻ることにした。



某ダークファンタジーゲームの三作目が発売されましたね。今作はどんなロマン武器と出会えるのか……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ