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死神少女が生きてるだけ  作者: ゲパード
第一章 大鷲篇
49/75

第四九話「密会」

 

 

 

「こんなところで会うたぁ……奇遇だな死神」


 目を疑って、それから「どうして」というところで思考が凍りついた。

 でも目の前でふんぞり返っている大男は紛れもなく『大鷲』のボス、アギラ・ダールだった。

 自分は背中の大鎌を手に取ろうとして、その手が小刻みに震えていることに気づく。怯えているんだ。

 アギラは……自分を殺した相手だ。胴体を真っ二つに分断され、頭に向かってあの特大剣が振り下ろされ、自分は息絶えた。

 二度とあんな目に遭うのはごめんだ。

 そういった恐怖から自分は無意識の内に一歩二歩と後ずさってしまい、後ろでつかえていたロッシさんにぶつかってしまう。


「どうしたんだいエリューちゃん?」


 よろめいた自分をロッシさんが支えてくれる。

 いや、そうだいまの自分はあのときとは違う。あのときは誰彼も出払ってて孤軍奮闘するしかなかった。けど今はロッシさんという頼りになる付き添いがいるじゃないか。

 彼ならどうにかなる……のか?


「お、ロッシじゃねぇか久しぶりだな」

「……アギラさん……! お久しぶりですね」


 自分の頭越しに会話が交わされる。

 あぁそっか二人は元粛清部隊(エリミネーターだから面識があるのか。


 ロッシさんは自分をそれとなく端に寄せて自分達を守るように前に進み出る。

 彼の手は腰の剣に添えられていた。いつでも抜けるということだろう。

 ピリピリとした空気が酒場に張り詰める。

 けれどそれは一方的なものだった。


「まぁまぁそんな殺気立つなよ。俺はここに酒飲みに来ただけだ」

「そんな言葉が信じられると思っているんですか」

「……まぁそうだろうな」


 そっけない返事の後にアギラはジョッキを傾け、ビールをグビグビと呑み干していく。明らかな隙だが、あまりにも明けっ広げすぎて何かあるのでは勘ぐってしまうほどだ。ロッシさんもそれは同じようで剣に手をかけたまま、動くことはしなかった。

 会話が途切れ、ビールが流し込まれる音と魔法灯から漏れるジジジという埃の焦げる音が鼓膜をひっかく。

 そしてドンッと乱暴にジョッキがテーブルに叩きつけられる。奴はまたロッシさんに視線を合わせた。

 

「──お前さっきアギラさん・・って言っただろ」

「!」


 ニタニタとアギラはそう指摘する。

 その言葉にロッシさんの体が強張った。確かに敬称がついていた。それが意味するところは……。


「アルコンの奴は喚き散らしながら斬りかかってきたってのによ。お前はそんな平然としてやがる。冷静というよりも……恨みが希薄なんだなお前は」

「そんなことは……」


 アギラの言葉にロッシさんはたじろく。

 奴が言っているのはおそらく『オーロラ亭』が乗っ取られ自分がそこから逃げ延びた後の出来事だろう。アルコンさんとリィゼさんは西の鉱山方面への護衛依頼を受けて、あのときはそろそろ戻ってくるかといった頃合いだった。そのときに『オーロラ亭』が乗っ取られ、二人が帰ってきたってことは何喰わぬ顔でアギラがいたってことだろう。後はアギラの言う通り、戦いになり……彼らは負けてしまったってことだ。それは先刻アルコンさんが襲いかかってきたことからも推察できる。


「俺はここに酒飲みに来ただけでお前らをどうこうするつもりはねぇよ。エリューだったか? お前に執心してるのはあくまでエリニテスだからな、俺的には今のお前ともう積極的に殺り合う気はねぇんだ。それはもう3日前か? そんときに十分楽しんだからな」


 アギラはおそらく自分やアルコンさんと同じ戦闘狂のきらいがある。だとしてアギラ的には先日の戦いで満足はしてくれたってことか。なんか目をつけられてる感じもするけど。


「そもそもそこらのアンデッド程度の不死性なら教会から坊主でも呼んでくりゃそれで終いだが死神レベルとなるとそうもいかねぇ。潰したけりゃ聖別された武器でも持ってくるか同格の悪魔とでも食い合わせるかだな。だがこいつらはそういう武器じゃねぇし、エリニテスの奴もオルゼで姫様ごっこしてるからな。だから今の俺にお前を滅ぼす手段はねぇよ。もっとも一回休みにするぐらいはわけねぇが……」


 アギラは側に立てかけてある直剣と特大剣を指差してそう言った。確かにあれで殺されはしたが滅ぼされはしなかった。今のアギラには自分に対する有効な手はないってことか。

 あちら側としては交戦の意思はないようだった。というかさらっといつでも殺せる宣言されてない自分? 一回休みにするって。うん、でも自分とやり合うつもりはないことは分かる。そこは安心か。


「まぁ相手してもいいが……このガキは当然、そこのねーちゃんも戦えないだろ。そんなのを庇いながら俺に挑むってのは愚かしいと思わんか? それにここは街のど真ん中だ。巻き込まれる奴も少なからず出るだろうな」


 アギラは側にいるソフィーちゃんと自分のさっきから自分の後ろで縮こまってるライラさんを指さしながらそう言った。確かにこの狭い空間で戦ったら二人を守りきれる自信はないし、そもそもアギラに勝てるビションも見えていない以上、奴の言う通り戦うことは確かに「愚かしい」だろう。

 あぁ理詰めでどんどんと戦う理由が削ぎ落とされていくじゃないか。


「まぁまぁ脅してるわけじゃねぇんだ。そっちだって聞き出したいことがあるだろ? このガキのこととかな」


 そしてトドメとばかりに奴はふてぶてしくもそう切り出した。

 確かに「このガキ」──ソフィーちゃんがアギラと一緒にいることはずっと気になっている。

 何の目的で奴はソフィーちゃんを連れてここシュテロンの街に訪れたのか。それを聞けば素直に教えてくれるのだろうか。


「座れよ。代金はこっちが持つ、酒の肴になってくれよ。というかガキの相手疲れてんだ、代わりに誰かやってくれ」


 それは他ならぬ『大鷲』との密会の誘いだった。





 柑橘系のさっぱりした甘みが喉の奥へと滑り落ちていく。

 グビグビとオレンジジュースを飲み干した自分はナナメ向かいに座る大男の様子を伺う。

 そこにいるのは怨敵アギラ・ダールその人だ。


 結局自分たちはアギラの誘いに乗ることにした。

 正直言って本気で襲いかかられたら自分達はひとたまりもないし、そんな自分達に向かってこいつが奸計を巡らすような回りくどいことはしないだろう。

 それにソフィーちゃんを放って尻尾まくって逃げるわけにもいかない。虎穴に入らずんば虎子を得ずとも言うし、またとないお誘いだ、というわけで自分と奴は同じテーブルに座っている。


 隣にはロッシさん。彼は油断せずに警戒しているようで刃のように細められた眼光はさっきのまま。ただ付き合いを断わりきれなかったのか波々と注がれたビールジョッキが彼の前には鎮座していて、存外とイケる口なのか2/3ほどは減っていた。

 そんな風にテーブルにはアギラのおごりだという料理や飲み物が並んでいる。

 中央の大皿には肉と野菜を油で炒めたものが盛られていた。これに明確な料理名はないだろう。ただ油にはこだわっているみたいで、ちょっとくどいながらも食が進む。ごはんが欲しくなる味だった。

 これがドワーフの料理か。オーロラ亭でも取り入れようかな。


「……」

「……」

「……」


 このテーブルにはこの3人だけ。

 いざ席についたはいいけど、どう会話を切り出したらいいか分からず、食器と皿がカチャカチャと鳴る音がよりいっそう気まずさを際立たせる。


 じゃあさっきアギラの隣にいたソフィーちゃんはどこに行ったのかといえば。

 自分は隣のテーブルに視線を向ける。


「おいしーねソフィーちゃん!」

「うん!」


 そこにいるのはソフィーちゃんとライラさん。

 どうやらアギラはソフィーちゃんの世話に辟易していたらしく、それならばとライラさんがこっちの話が終わるまで相手してくれていた。まぁ彼女はアギラと確執があるわけでもないし、『オーロラ亭』の関係者ってわけでもないから、立ち入った話に同席する必要もないよね。

 今彼女らが幸せそうに頬張っているのはチョロス。あの星型に練り上げた生地を楕円状に括ったドーナツの親戚みたいなやつだ。味付けが砂糖か蜂蜜かなんなのかは分かんないけど、二人が美味しそうにぱくついてるのを見ると自分が作ったわけじゃないのに嬉しくなってくる。


「おうジジイ、追加でもう一杯頼むぜ」

「あいよ」


 アギラがビールを飲み干したようで、ジョッキをドカっとテーブルに戻してマスターに追加で注文をかける。

 それを受けてマスターは大きな手でジョッキを掴み取り、そこにビールサーバーからの小麦色を波々と注ぐ。

 そしてそれをポンとカウンターに置いただけで、マスターはすぐに椅子の上へと居直ってしまった。取りに来いというわけではない。

すぐにそれは持ちあげられる。何に? 

 カウンターの内側から出現したゴーレムにだ。


 ただしどう見てもただのゴーレムじゃない。

 青緑色の燐光を放つ金属でできている体は水面のようにゆらめいていて、つまり水銀みたいのが寄り集まって人の形を作っていた。

 女性型みたいで体のラインをくっきりと形づくったそれはどことなく官能的な気がする。顔はのっぺらぼうだけど。

 素材はおそらく翠銀メルクリウスだろうか。錬金術によってのみ生み出される自然界には存在しない液体金属。青緑に薄く発光するその金属は魔力をよく通すのでゴーレムに向くのだとか。最もそれが素材に向くこととそのゴーレムを操りきれるかは全くの別問題だが。

 それでその翠銀メルクリウスでできたゴーレムは淀みない動作でテーブルでジョッキを送り届けると、にゅるりとした動作で踵を返し、カウンターの内側でどろりと解して消えてしまった。

 それを見届けてから自分は口を開く。

 さっきも見たから驚きはしないけど……。


「というかマスターさんは何なんですか? 明らかに普通じゃないですよ。やっぱり『大鷲』の関係者なんですか?」

 

 自ずと最初の質問はこれになった。

 あのドワーフのマスターは明らかに普通ではない。今のゴーレムウエイトレスといい、冷静に見るとこんな昼間から雰囲気作りのために魔法灯を使っているのも、その辺の心得があってのことだろう。


わしはただの酒場のマスターじゃよ」

「嘘ついてんじゃねぇジジイ。 ……そいつは闇鍛冶屋だよ。一応俺の大剣の生みの親でもあるがな。それに別に俺の味方ってわけじゃねぇよ。珍しい素材さえ積めばなんでも作る、節操のねぇドワーフだよ」


 素知らぬ顔で嘘をつくマスターの素性はアギラは語ってくれた。

 鍛冶屋? それにアギラの特大剣の製作者か。ドワーフだから鍛冶屋と言われればストンと落ちるのは確かだが……。


「……そいつの言う通り儂は鍛冶屋も嗜んでおる。少し前までは流れ者じゃったが、今ここヒューゲンヴァルトは少し面白いことになっておるのでな、それを見物に来ただけじゃ。儂から何かするつもりはないぞ。珍しい素材・・に興味がないといえば嘘になるがな」


 マスターの視線は椅子に立てかけた自分の大鎌に注がれていた。

 珍しい素材って……そういうことかっ。エリニテスに続きなんでこんな奴ばっかり……。

 これは自分自身だ。体を舐め回されているようなゾクゾクとした感覚が背筋を走る。


「おいジジイ」


 その瞬間に前方から殺気の奔流が自分の体を突き抜けて、後方へと駆け抜けていった。それが叩きつけられた先はくだんのマスターだ。


「おっと怖いじゃないか。なに、お前さんが目をかけた好敵手に手は出さんよ。この老骨、腕に自信はあれど、さすがにこの狂戦士は相手が悪い。惜しむらくはあと100年若ければあるいはといったところだが……いやそれでもせいぜい刺し違えるのが関の山か」


 けれどマスターはあの殺気を受けても飄々ひょうひょうとしていた。

 やっぱりこの人も並々ならぬ実力者らしい。けれどアギラとはそんな懇意にしてるわけでもないのか。

 というか……好敵手って言われた? やっぱりアギラにも目つけられてんの自分……、もうやだ……。


「まぁそんなわけで怯えなくても大丈夫だ。俺とあのジジイはいい感じに陰険だからなぁ。だからここでは腹割って話そうぜ」


 まぁそれならこの舞台自体が罠ってことはないのかな。アギラは演技ができるようなたちじゃなさそうだし。そもそもこの場所に自分達が訪れたのはほとんど偶然。そんな心配する必要もないか。


 じゃあゆっくりと質問をぶつけよう。

 自分は頭の中で疑問点をひとつひとつ挙げていって、どんな質問をすれば効率的に情報を引き出せるか思惟しいする。

 

「じゃあ気になることいえば……、そういえばあなた本人の目的は何なんですか?」


 そしてぶつけることにしたのは奴の目的についてだ。

 3日前に『オーロラ亭』が乗っ取られたときにエリニテスの目的が自分自身だということは分かったけど、アギラの目的については判然としない。

 今までの発言を総合して読み取ってもアギラは戦闘狂だということしか分からない。一体『大鷲』がここヒューゲンヴァルトで何をしようとしているのか。エリニテスを復活させて終いではないだろう。何か壮大な目的が……。


「俺の目的? んなもん強い奴と戦うことに決まってるだろ?」

「え? それだけ?」


 自分は思わずそう口走った。

 だってそうだろう。エリニテスは『魔言』を用いて『オーロラ亭』を乗っ取るなんて大事をやらかした。

 それの目的がただ強者と戦いたいがためだけだとはにわかには信じがたい。


「で、でもあなたは『大鷲』として何か目的があるのでは……、死神エリニテスの封印を解いたのも何かやることがあってじゃ……」


 自分は焦ったように言葉を吐き出す。

戦いたいだけなら悪魔を率いて『大鷲』で活動するなんて迂遠なことをする必要があるのかという疑問が湧き出てくる。それらすべてがただ戦いがためだけだというならそれこそ狂気の沙汰。まさしく戦闘だろう。


「俺がエリニテスを解放したのは興味があったからだよ。死神とやらの強さにな。それだけだ。あれは楽しい死合だったぜ。まぁそれで俺が勝って、アイツは死なねぇからな。その後契約して今に至るってわけだ」


 そしてアギラ・ダールは本当に狂っていた。

 悪魔を召喚する理由がそれと戦うためだなんて、常軌を逸しているにも程がある。


「そんなわけで俺の目的は今も昔もただ強い奴と戦いたいってだけだ。その点エリニテスとは一蓮托生ってわけじゃねぇんだ。あいつの熱視線はずっとてめぇに向いてるみてぇだからな」


 吐き捨てるように奴はそう言った。

 奴の目的は理解した。そもそもエリニテスとは目的を違えているなら、こんな密会の席を設けたことにも理解が及ぶ。

 だとして具体的に奴がこれから何をしようとしているのか。そのパズルのピースを自分は既に手に入れていた。


「……じゃあ『儀式』って何ですか。ソフィーちゃんを連れてこれから何をするつもりなんですか?」

「あぁ……? 何でそれを……」

「エリニテスから盗み聞きました。あなたは『儀式』で一月は手が離せないと」


 そう、自分は数時間前に魔眼ごしにエリニテスとアギラの会話を盗み視た。そのときに得た情報の中に『儀式』にアギラはかかりっきりになるというものがあった。おそらくそれが今こいつがシュテロンくんだりまで足を運んでいる理由のはずだ。

 そしてここがおそらく核心。この『儀式』の全貌さえわかれば奴が具体的に何をしようしているか分かるはずだ。ここさえ解れば……!


「……それを言ったらつまんねぇだろ」

「な……!」


 けれど自分の淡い期待はあえなく打ち砕かれてしまう。

 ここで自分はこの場所の主導権はあくまであちらにある。そうだ。なんでもかんでも聞き出せるわけじゃない。

 でもここで引き下がるわけにはいかない。自分は横のテーブルのソフィーちゃんをチラリと見やる。


「まぁでもヒントをひとつやるよ。儀式の場所は……お前が知っている場所だ」


 知っている場所……?

 自分の行動範囲はその実そんなに広くない。目覚めてたったの一年あまりで訪れた街はシュテロン、オルゼ、クームの3つだけ、後はスタート地点の『大鷲』アジトくらいか。その中で最もありえそうなのは……アジトだろうか。リッチーの遺した魔法技術が多数眠っているであろうあそこはうってつけなはず。


「そこで儀式が行われることにソフィーちゃんが関係しているのか」


 自分でもびっくりするような低い声で奴に確認を投げかける。自分が懸念することはそれだ。わざわざ手を焼いてまで彼女を連れてきたのだ、無関係ではあるまい。


「そうだ」


 それはあまりにも残酷な返答だった。

 儀式や悪魔というワードの飛び交う中でソフィーちゃんがその渦中にいることに、嫌な想像なんていくらでも浮かんでしまう。かつて生前の自分が受けたような末路を彼女が辿るような事態はなんとしても避けねばならない。

 けれど、ここでソフィーちゃんを取り返すことができるのかといえば、答えは否だ。状況が悪い上に、たとえロッシさんと自分だけでは無理な話だ。


「何この世の終わりみたいな顔してんだ? そのガキにとっても悪い話じゃねぇんだが。なぁ?」


 アギラは隣のテーブルのソフィーちゃんそう同意を投げかける。

 それに対してソフィーちゃんは一瞬きょとんとした表情を浮かべたあと、にかっと笑って。


「うん! おとーさんに会いにいくの!」


 酒場に無邪気な声が木霊した。

 けれどその言葉の内容は本来あり得ないはずのものだ。

 だって彼女の父親であり、『夜明けのオーロラ亭』のマスター、ラファロ・ニッツァは3年前に他ならぬアギラ・ダールの手で殺害されている。

 リエーレさんからそう聞いたし、ここシュテロンの冒険者ギルド跡には彼の墓だってあるのだ。


「ど、どうゆう……」

「悪いがこの先は言えねぇなぁ。確かめたきゃ、そうだな一週間後にでも俺たちに会いに来い。場所は分かるだろ?」

「それは誘ってるって……ことですか?」

「どうとでも受け取れ」

 

 これ以上は言えないってことか。まぁでも、何の対価もなしでこれだけの情報を得られたのはなかなかか。

 口惜しいがこの話題はここまでだろう。

 一週間と奴は言った。流石にそれを真に受けて動くつもりはない。だから自分達は十分な休息と準備をして、奴の言う期限よりも早く動くことになるだろう。具体的には3、4日後くらいだ。

 そんな算段を立てながら自分はようやく料理に口をつけた。

 不安は大量だけど、少なくとも3日前に『オーロラ亭』から逃げ延びたときのような、纏わりつくような絶望からは着実に脱していると実感できる。

 

「それにしてもあなたは変わりませんね」


 話題の切り替わり時を見計らってロッシさんが口を開く。

 見れば彼の雰囲気もだいぶ和らいでいて、今の声音もまるで昔なじみに話かけるみたいだった。


「そういえば。ロッシさんとあなたはは元粛清部隊(エリミネーターなんですよね?」

「あぁ、そうだな」

「えぇ、そうですよ」


 さっきの剣呑な空気とはうって変わって呑気な世間話でもしているような相槌が返ってくる。ここからの質問はただの興味本位だ。『大鷲』を打ち倒し『オーロラ亭』を取り戻すためにはいらない情報だ。

 けれど自分は気になったのだ。悪魔を呼び出してまで闘争を求める戦闘狂がどうやって出来上がったのか。


「そのときに何があったんですか? おおまかな話は聞いてるんですけど、詳しい事情とかは分からなくて」

「ほぉ、なら話してやろうか」


 そうして酒が入った二人は四年前の粛清部隊エリミネーターで起こった出来事をポツポツと語り始めた。

 

 

 

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