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死神少女が生きてるだけ  作者: ゲパード
第一章 大鷲篇
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第四四話「汝は死神なりや?」

 

 

 

「えっと……」


 自分は真白に灼けた腕を見やって、それから体を少し起こして周囲の顔色を一つ一つ確認していく。

 オリヴィエさんは私の腕を見下ろして思案に耽り、ロッシさんが険しい顔で腰の剣に手をかける。ユークさんは顎に手を当てて自分のことを観察するように見つめていて、ピュゼロの方へ行ったライラさんがこっちの只ならぬ空気を察し、振り返って様子を覗き込んでくる。唯一事情を知るケイ君はさっき安心して既に意識を落とし、少し苦しそうに寝かされている。

 一つ分かることは、味方はいないってことだった。


 どうしよう……どうしよう……!

 誤魔化せるか? いや無理だろう。人間は光魔法でダメージを負ったりしないのだ。だから自分は今、悪魔かそれともアンデットかと疑われている。どちらも人類の敵だ。

 

 対応に困った自分は、ひとまず空気を和ませるためにおどけてみせることにした。そしてやんわりとカミングアウトするのだ。


「ば、ばれちゃいました、なんてね」


 返答は剣だった。

 瞬く間に抜き放たれた直剣が自分の耳元へと突き刺さると同時に、のしかかられる感覚、自分の背中が地面に打ち付けられる。

 何がどうなったんだと自分は目を白黒させ、数回の瞬きの後に理解する。


 ロッシさんだ。

 さっき言葉を聞いた瞬間、彼は自分に膝蹴りを自分の右肩に食らわせて押し倒し、「動くな」と言わんばかりに自分の耳元へ直剣を突き立てたのだ。

 一瞬にして自分は無力化されてしまった。いや元々満身創痍だったけど。


「な、何するんですかロッシさん……!」


 自分は当惑して彼にそう投げかけるも、ロッシさんは自分を冷ややかに見下ろしたままだ。じわりと冷や汗が染みだしてくる。もしかしてこれ、冗談では済まない感じになってしまったのでは……。


「エリューちゃん」

「は、ハイっ……」


 自分はオドオドしながらロッシさんの言葉を待つ。顔のすぐ側に剣が突き立っているせいで周囲の様子を伺うことすらままならない。


「君は悪魔か?」

「…………」


 自分は答えに窮した。そうだったロッシさんは元粛清部隊エリミネーター。邪教徒を狩る部隊に所属していた人間が、悪魔への敵愾心を宿していない方がおかしい。そんな相手に「ばれちゃいました」なんて発言は迂闊に過ぎた。自分は悪魔だという証拠でしかない。

 でももう口から飛び出た言葉は戻らない。

 ならもういっそ正直にあらいざらい話してしまうか?


 自分は思考を加速させる。対応を間違えれば一巻の終わりだ。マンティコアにあえなく敗れた自分が、それを無傷で倒してみせたロッシさん達に勝てるわけがない。……と思ったところで自分は視線を横にやる。

 そこにあるのはロッシさんの直剣だ。

 見たところ本当に何の変哲もない剣だ。何かしらのエンチャントがかかっているわけではないし、魔剣ってわけでもない。

 この剣で自分を殺すことはできても滅ぼすことはできないはずだ。

 仮に殺されて自分が哀れな骸を晒したとして、ケイ君がそれで黙っているとは思えない。おんぶにだっこで恐縮だけどその最悪になったらケイ君に託そう。


 だからむしろこの場で脅威になるのはオリヴィエさん。光魔法が使える彼女と敵対すれば、それこそ一巻の終わり。

 ライラさんやユークさんについての情報を自分は持ちあわせてないけど、少し話したところ二人とも人当たりのいい人だったし、そこまで危惧はしなくていいと……思いたい。 

 といった分析を経て自分はロッシさんへの答えを用意した。


「えぇ、自分は死神です。確かに悪魔です」

「エリューちゃん君は……自分が何を言っているのか分かっているのかい……? 冗談では済まされないよ……」

「分かってます。悪魔は滅ぼされてしかるべきでしょう。でもそれは人に害なす存在だからでしょう?」

「そうだ……何が言いたい……?」

「ふふ、簡単ですよ。私は悪い死神じゃないですよってことです」


 できるかぎり自分は不遜な態度でそう言った。

 自分の今言っていることは狼が羊飼いに向かって「私は羊を食べません」と言っているようなものだ。けれどその羊飼いはつい先日までその狼を犬だと思って可愛がってきてくれた。

 むしろ悪い狼エリニテスを追い払うことこそ自分の本懐だ。

 なら自分の正体が死神だったとして、受け入れてくれるんじゃないと自分は踏んだ。

 

「……君が悪魔なのはその聖痕が証明している。死神なのは君の大鎌捌きを見れば、まぁ納得できる。その上で、死神というのは狡猾なもの。率直に言って私はその言葉を信用することはできない」

「……確かにそうでしょう。死神は狡猾。身に染みて分かります」


 本物の死神であるエリニテスは、やはり狡猾だった。死神全体があんな感じだったとしたら、確かに対話を試みることは愚策という風潮になっていてもおかしくはない。

 けれど。



「だとしても、自分を、エリュー・ニッツァを信じてみてはくれませんか……?」


 

 自分は彼の目をしっかりと見つめてそう言った。

 そして同時この言葉はオリヴィエさんにも向けられていた。彼女は自分のことを友達と思ってくれているはずなのだ。

 所詮数日といえど彼らと過ごしたことは事実。この繋がりがあったからこそ、オリヴィエさんとロッシさんはマンティコアと対峙してくれたんだ。

 ロッシさんだって自分に剣を突きつけるのはつらいはず。


 ロッシさんは相変わらず膝に体重をかけて自分を押さえつけている。けれどその顔を先程までの冷酷さが剥がれ落ち、どこか当惑したような、苦渋を舐めたような、そんな複雑な顔をしていた。

 そんな彼に追い打つように、自分は唯一自由になっていた右手を跳ね上げ、顔の横に突き刺さった剣を掴んだ。仰向けの視界の中でロッシさんの顔が驚愕へと切り替わる。

 ロッシさんの剣。少し前の自分の大鎌みたいなナマクラと違って、ちゃんと研がれている代物。だからそれを掴めば、手は裂けるし、血液は滴る。けれどこれが自分の生の証。不死だろうが切られれば痛い、自分は人智の及ばないまるっきりの化け物じゃない。

 

「心配ならこの腕を切り落として構いません。それで自分に抵抗の余地はなくなります。痛いからほんとは嫌ですけどね。……これでも、駄目ですか……?」

「…………」


 沈黙がのしかかる。

 ロッシさんの中には確実に迷いが生まれているはずだ。

 もう一押し、何かあればきっと受け入れてくれる。

 そうだ、ロッシさんは経歴上死神という存在を受け入れづらいのは仕方ないかもしれないけど、けれど他の皆なら……。

 と思ったところで視界の端に誰かの足が入り込む。大分くたびれた革靴ローファ、そこから伸びる真白い足、ちらりと見えるローブの下端。


「ロッシ、……エリューは友達。死神だからってそれは変わらない」

「オリヴィエさん……、ですが……」


 助け舟を出してくれたのはやっぱりオリヴィエさんだった。

 彼女は死神だと分かった上で自分の味方をしてくれる。それも理由は友達だから。なんというか面映おもはゆいけど、やっぱりそう言われると嬉しい。あぁ、持つべきものは友なんだな。


「せめて事情を聞くくらいはしてもいい、それにエリューは満身創痍で抵抗なんて無理、質問すれば素直に答えてくれるはず、判断はそれからでも遅くない。そうでしょ?」

「え? あ、はい」


 意外と論理的な思考だった。それもエグめの。

 いや、元々滅ぼされる以外なら何されようが、それこそ拷問まがいのことをされることになっても素直に従うつもりだったけどね。


「しかし……死神のような上級魔神は会話するだけでも危険なんですよ。『魔言(まごん)』で精神をたぶらかされることだってありえますし」


 あーうん。骨身に染みてるよ。


「そんなことなら私達はとっくに立派なエリューの下僕のはず」

「っ、あーまぁ、確かにそうです……ね」


 オリヴィエさんいい返し! その通りだよ! 自分は魔眼しか使えないからね。

 それに話の流れはいい方向に向かっている。このままいけばロッシさんを説得しきれそうだぞう。

 

「それにエリューが死神なら何か特殊能力持ってるはず。それが何か分からせてくれれば証明になる」


 オリヴィエさんがそう言う。

 え? えっと、それは自分の場合『映唱の魔眼』になるのかな。片目だけだけど。


「えっと、魔眼があります。魔力を3分の1持ってかれるのでちょっと今は見せられませんけど……、『映唱の魔眼』って言って、音を視れる魔眼です。魔法詠唱を見たりとか……できます」


 そのことを聞くとオリヴィエさんは妙に納得した表情で頷く。

 そういえば以前オリヴィエさんのオルゼの街でやりあったとき、あのときが始めてだったけど、『映唱の魔眼』のお陰で《プリズム・レイ》を避けることができて勝利に繋がったんだ。


「成る程、エリューと決闘したとき、目の色が変わっているように見えた。あれは見間違いじゃなかった」


 思ったとおりオリヴィエさんは自分が『映唱の魔眼』を使ったときのことを覚えていてくれた。これで自分の死神としての能力は魔眼であると証人がついた。

 というか自分で自分の目を見る機会なんてなかったけど、やっぱり魔眼ってぐらいだから発動中は虹彩に変化が見られるっぽい?


「ほぉ、魔眼か。興味深いな」


 ここで事態を静観していたと思われるユークさんが話に入ってくる。


「魔法とは異なる超常現象の数々、それに体に刻まれた複雑怪奇な魔法陣も気になるところだ。ロッシには悪いがおれもこの少女を庇い立てするとしよう」


 これは、またいい方向に事態が転がっている。

 ユークさんは魔法に関する研究者だから、死神と相対するリスクを冒してでも研究をとったってことなんだろう。

 理由はなんであれ味方が増えるのはありがたい。


「えーっとオリヴィエと兄さんがそっちにつくならわたしもエリューちゃんの味方しよっかなーって」


 そしてライラさんまで味方してくれることになる。これでロッシさんは孤立無援といった形になる。

見上げるロッシさんの顔には苦渋が滲み出ていた。

 しばしの沈黙の後。


「……はぁ、仕方なしですね。私一人で我を通すのは利口ではありませんし。ひとまず事情を聞きましょう。死神であることだけでなく、何故クームの街にいるのか、何故マンティコアから狙われていたのかも含めて」


 そうして遂にロッシさんは折れてくれた。

 彼は剣を引き抜き、自分の上からどいてくれる。剣にはぬらりと赤い自分の血がついていたけど、彼は剣をブンとやって振り落としたみたい。


 よし、なんとか説得に成功した。

 自分が身を起こすと、全員の視線が集中する。

 なんだか少し緊張してしまう。

 まぁ、自分は悪いことなんてしてないんだ。きちんと説明をしよう。

 そう思いながらヒリヒリする体をよそに、自分は必死で話し始めた。

 死神のことと『オーロラ亭』に何が起きたのかを。

 

 

 

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