表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神少女が生きてるだけ  作者: ゲパード
第一章 大鷲篇
4/75

第四話「外へ」



 ケイティス君が隠し扉へと行こうとしたのを、なんとか誤魔化しきった。

 巧妙に隠された魔法陣に気づかないふりをして、別なところをに魔力を注いでみたりしたて事なきを得た。

 そっちに行っても真っ暗な儀式場と白骨化した魔法使いしかいないからね。


 というわけでこの盗賊団のアジトからの脱出作戦発動だ。


 ケイティス君曰く、今は深夜らしいので見回りも一人か二人で、出口の警備も同じくらいみたい。

 その上宴会をやった後だからかなり緩んでるみたい。

 イージーモードだ。


 自分たちは少しばかり勇み足になりながら、それでいてこっそりと大広間を出て回廊に出る。

 大広間にはドアとかは無く、そのまま回廊に直結だ。

 あくまで地下遺跡だからね。

 回廊にはいくらかの木のドアが取り付けられていて、それと遺跡の石壁のミスマッチっぷりは、それが後から取り付けられたものだと主張していた。


「ふぃ~ トイレトイレ……あ?」


 回廊に出た私の目の前の扉が開いた。


 いかにも盗賊といった男が現れた。


 ラフな革の服を身にまとって、ポリポリと頭を掻いているそいつは、自分たちのことを見つけて首を傾げた。

 

 さっそくまずった!


「おー? ……ケイティスか。おめーの後ろに連れてる奴は誰だー?」


 その盗賊は酔っ払ってはいるようだが、前後不覚というわけではないようで、自分達のことをしっかりと認識できているみたいだ。


 どうする?

 ケイティス君は自分に頼ってくるくらいだから戦闘能力は極めて低いと考えていいだろう。

 ということは自分が戦わないといけない。でもそう思うと自分が手に握る鎌はガタガタと情けなく震えてしまう。

 仕方ないじゃないか。今生でも前世でもまともに戦ったことなんてないんだ。

 

 そういえば自分は大鎌を明らかに手に携えてるっていうのに目の前の盗賊からは敵意を感じない。どっちかというと疑惑の目線であり、そういう意味では酔いが回っているんだろうか。

 ひとまず人を呼ばれる前に、頭をゴーン!と刃の付いてない方で殴ろう。

 そう思ったのだが、自分の腕は鎌を胸の前で掴んだまま動こうとしない。

 動けと頭の中で念じても、そういう形の樹の枝みたいに固まってしまっていた。


「あ、えっとボスのお客さんです。冒険者さんなんですよこの人。ほら! すごい武器持ってる」


 自分が手をこまねいている内に、ケイティス君が前に出て来てまくし立てた。

 咄嗟に考えだしたみたいだったけれど、ボスのお客さんと聞けばこいつが下っ端の場合、これ以上つっかかってくることはないだろう。

 ボスに近い立場のやつだったら嘘だと看破されるかもしれないけど、一応下働きとはいえ盗賊団の構成員であるこの子はそこらへんを把握してる……と思いたい。

 

「あぁ? ボスの。すげー武器だなおい……まぁいいや」


 その盗賊は自分の持ってる鎌を一瞥した後、そそくさと去っていった。


 ボスのお客さんだったら下働きなんかに案内させるわけはないんだけど、そこまで頭が回らなかったみたいだ。

 でも出すものをだして冷静になられたらまずいので、のんびりはしていられないなぁ。

 

 自分は改めて大鎌を握りしめて、そして握ったところがじっとりと湿っていることに気づいた。

 たぶん自分が鎌で襲いかかろうとしてもあれは上手くいかなかっただろう。

 直前で逡巡したか、あるいはすっぽ抜けていったに違いない。


「ありがとケイティス君」

「いえ、面倒事は少ない方がいいですしね」


 この子想像以上にしっかりしてる。

 テンパる様子もなく柔軟に対応してたし、自分いらないんじゃないかな……

 

 しかし、いきなりこんな状況に飛ばれても踏ん切りなんてつくはずないよなぁ。

 鎌の裏側で殴ろうと思ったけどそれすらできなかった。


『チッ、腑抜けめ』


 バロルが念話で悪態をついてくる。なんだかいたたまれなくなった。言い返してやろかと思ったけど、その通りでもあったので、言わせておくことにした。

 自分は憂鬱な気持ちのまま大鎌を携えて、薄暗い回廊を進んだ。

 チラッと後ろを振り返るとケイティス君が「ふー」と息を長く吐き出しているのが見えた。

 彼がいなかったらほんとあぶなかったかも。

 ありがとうケイティス君。

 そっちは自分のこと頼りにしてるかもしれないけど、こっちの方が頼りしてっからねー。







 それからは見回りの巡回ルートも把握していたケイティス君のお陰で入口までたどり着いた。

 入り口になるこの場所は極太の石柱が左右に立ち並ぶかなり広く奥行きのある空間で、昔は神殿何かなんかだったのだろうか。

 それでその地下に秘密の構造がある、ロマンがあるね。

 自分達は太い石柱の一つの後ろに隠れて入り口を様子を伺っていた。

 

「やっぱり見張りがいますね」


 ケイティス君は声を潜めてそんなことを伝えてくる。

 無機質な石壁に囲われた先には切り取られた星空が覗いていて、あそこを抜ければ間違いなく外。こんな陰気な場所ともサヨナラだ。

 でもそれを阻む障害が当然ある。

 こっちからは腕や服の裾がちらっとしか見えないものの、盗賊団の見張り役が二人いる。


 あの二人をどうにかしないといけない。

 一人ならズブの素人の自分でもどうにかなるかもしれないが、二人だ。

 その上見張り役は流石に酔っ払ってくれてはいないだろう。


「僕が気を引きます。一応顔見知りレベルではあるので。その隙にエリューさんはやっつけちゃってください」


 やっぱりそうなるよね。

 一人はいけそうだけど。二人目を捌く技量なんてないぞ自分……


「じゃあ僕行ってきます。合図、そうですね……分かりやすく手招きでもします。それであいつらに襲いかかっちゃってください」

「りょ、りょうかい」


 でも一応死神だし。

 実は身体スペックは相当のものとか、そういうのないかなぁ。

 ……だとしてもセンスは着いてこないよねぇ……

 魔力はかなりあると思うんだけど、いかんせん專門知識がない。10歳のときに誘拐されてから勉強できてないわけだから攻撃的な魔法なんて覚えてない。

 バロルどうにかできないの?


『俺様は魔法なんてもんは使えねぇよ』


 え? でも儀式場で部屋を照らしてたのはこの世界で一般的な照明魔法だ。

 どういうことだろう?


『俺様ァお前の記憶を見て使えそうなモンを使っただけど、死神は本来魔法なんて使わねェよ、個体ごとに特殊な力があるからそっちに魔力を使うモンだ』


 そうだったのか。プライバシーもへったくれもないな。

 あ、でもその特殊な力って自分にもあるんじゃないの? ほら今自分死神なんでしょ?


『ケッ、そんな簡単に使えてたまるかよォ。俺様の魔眼と血呪をよォ。それに死神ならそれらは生まれつき使えるモンだ。それが分からねェってんなら使えねぇんじゃねェか?』


 うぐぐ。やっぱり頼れるのはこの大鎌だけなのか……

 そうしたやり取りをしながら盗賊へ向かっていったケイティス君の様子を伺う。


 ケイティス君は、少しひきずるような足取りで見張り達へと向かっていった。

 そして見張りと話しだした。さっきの一幕から見るかぎり話運びでヘマをすることはないでしょう。

 でもそんな彼の足は折りたたまれたように縮こまっていた。

 自分はハッと気付かされた。

 なんて頼りがいのあるショタだと思ってたけど、やっぱり怖いんだ。

 いや自分だってよそから見れば十分幼げ(ロリな気がするけど、それでもあの子よりは年上なんだ、しっかりしないと。


 パンッと頬を張って気合を入れる。

 

 うん。大丈夫、自分はやれる。

 これから死神として生きていくんだ。辛いこと苦しいことなんて数数多かずあまただろう。


「あ? 何の音だ?」


 ドクンと心臓が跳ねる。

 その呟きは自分の耳にしっかりと届いた。

 出所は今、ケイティス君が気を引いてくれている盗賊だろう。

 自分はさっき気合を入れるために自分の頬を叩いた。

 それが聞こえてしまったみたいだ……

 

「ちょっと様子を見てくる」

「あぁ」

「え、ちょっ────」

 

 見張りの一人がこっちに向かってくる。

 ザクザクとした足音が一つ響く度に自分の中の焦燥は燃え広がっていく。

 バクンバクンと跳ねまわる心臓が今にも胸を突き破り、飛び出してきそうな、そんな錯覚すら覚えるくらいに、今の自分は極限状態だった。


────見つかる見つかる見つかる


 さっきの決意なぞ何処へやら。

 自分は手に持った大鎌をひしゃげそうなくらい強く握りしめる。

 

────なんとかしなきゃ戦わなきゃ


 そんなことをを繰り返し唱える自分の体は、石柱に背をくっつけて、今にもへたり込みそうだった。

 足音が近づいてくる。

 見つかったらどうなるんだろう。

 あえなく捕まって、それから?

 たぶんケイティス君は前の自分と同じかそれよりもヒドイことをされてしまう。

 自分もたぶん、そうなる。

 また自分はモノ・・になるの?


────それだけは嫌だ。


「あぁあああぁぁぁああァアアアァ!!!」


 そんな結論に行き着いた自分は、恐怖を恐怖で塗りつぶして、咆哮した。

 がむしゃらに、かなぐり捨てるように、無我夢中で、体を動かして、鎌を振るう。


 石柱から飛び出して、目に入った盗賊の男目掛け、円弧を描くような軌道で大鎌の刃をぶつけに行った。


「なっ────」


 その盗賊は自分の襲撃に気づいたようで、元々手に持っていたサーベルを構えて、自分の大鎌を受け止めようとした。

 

 でも自分は思ったより人外だったらしい。

 防御として構えられたサーベルを、大鎌は小枝を折るようにポキリと断ち折った。

 

 それで大鎌は止まるはずもなく、刃先から盗賊の胸元に突き立って、背中側に刃が突き出て、後ろにあった石柱に磔にする。


 盗賊は血の塊を吐いた。

 それが大鎌の刃にかかってピシャッと弾ける。

 口元がモゴモゴと動いているが、血の塊を吐き出すばかりだ。


 どう見ても即死。

 盗賊は数回の瞬きの内に手から足から力が抜けていって、しまいにはダラダラと血を溢すだけのオブジェになっていた。


 あぁ、やってしまった。


『おォ? そうだよな。そうでなくちゃなァ?』


 バロルが何か言っているが、自分はそれに意識を割く余裕なんてない。

 殺す気なんてなかった。ただちょっと強く殴るだけのつもりで……


 いや。本当にそうだろうか?


 ツツッと血塗れの刃を滑る血が、柄を伝って自分の指に触れた。

 思考が冷えていく。

 ここでこいつに刃を突き立てのは合理的な選択だった。

 鎌の背面で殴ってもそれで確実に無力化できるとは限らない、それでもし抵抗されたら、自分は組み伏せられて、地獄へととんぼ返りだ。

 そう仕方ない。仕方ないんだ。

 

 自分は、そう言い聞かせて、鎌を引き抜く。グポッという音がした。

 死体は地面に倒れた。

 

 自分は首を横に回して、入り口の方を見る。

 盗賊の一人とケイティス君が自分のことを見つめていた。

 片方は放心していて、片方は狼狽している。

 狼狽している方をやればいい。


 たぶんおもいっきり振るだけでいい。

 唯一気をつけることといえばケイティス君に当てないようにするくらいか。


 自分は鎌を構え、地を蹴って走る。

 これは殺意じゃない。部屋に入り込んだ虫を潰すような、必要だからやってるんだ。

 仕方ないんだ。


 やや下目から袈裟懸けに鎌を振るう。

 そいつは逃げようとしたみたいだけど、鎌のリーチをなめちゃいけない。

 背中をざっくりと切られて、突き飛ばされるようにしてそいつは地面に倒れて呻いた。


 まだ息がある。


 自分は何か言っていたそいつの頭蓋に向けて刃先を振り下ろした。

 果物に包丁を突き立てたみたいだった。







「────さん! エリューさん!」


 誰かが自分のことを呼んでる?

 自分、何してたっけ?


 目の前にはケイティス君の顔。視界が妙に揺れる。

 何かと思ったら彼が自分の肩を揺さぶってるんだ。

 

「ケイティス?」

「あぁ、エリューさん! よかった。突然ボーっとしちゃって、目も虚ろだし。早く逃げないよいけないのに」


 あぁ、そうだ、自分達は盗賊のアジトからの脱出劇を敢行していたんだった。

 それで?

 自分はどうやら石壁を背にして座らされているみたいだけど、その石壁には(つた)やら(つる)やらが這い回っていて、いかにも遺跡の外って感じだ。

 つまり脱出は成功したんだ。


 そういえば大鎌がない。

 あれから離れると自分は体が動かせなくなるんだ。

 今ちょっと気だるい感じだから、ちょっとだけ遠くにおいてあるのかな。


 そんなことを思いながらキョロキョロとすれば、それは直ぐに見つかった。


 真っ赤な池の中に浸された自分の大鎌。

 それを視界に入れて、自分が何をしたのか、全部思い出した。


「…………ぁ」

「だいじょうぶですか? エリューさん。見張りを倒したあと、突然何を言っても反応しなくなるんですもん」


 たぶん大丈夫じゃない。あぁ、やってしまった。

 一人目は仕方ないで済むかもしれないが、あの二人目は駄目だ。

 

 自分は己が死神であることを思い知った。

 人間じゃないことを思い知った。

 夜空を仰いだ。

 満点の星空だ。外に出れたんだ。

 でも自分は全くもって晴れやかな気持ちになんてなれなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ