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死神少女が生きてるだけ  作者: ゲパード
第一章 大鷲篇
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第二四話「血盟会議」




 ギガントコボルトが西門で暴れ、それをアルコンさんが討伐した事件から一日が経った。

 奴の屍体はオリヴィエさんを叩き起こして凍りづけにしてもらい、西門の側に安置してある。

 あの憎っくき『大鷲』の魔獣が討たれたとあって、それを一目見てやろうと街の人達のみならず旅人までもが西門に詰めかけた結果、あそこは現在ごった返している、って氷屍体の警護を交代でやってくれてる冒険者さん達から聞いた。

 

 そんで今自分たちは『オーロラ亭』の屋根裏部屋に集っていた。いわゆる血盟員しか入れない秘密の部屋だ。


 そこに集められたのもやっぱり血盟員。

 まず宿側の自分エリューとリエーレさん。

 現在この宿に逗留してもらってる冒険者の中から、アルコンさん、リィゼさん、ロッシさん、オリヴィエさんのパーティー。

 それに昨日ギガントコボルトを持ち帰ってくれた強面コンビのゲオルグさんとブルートさん。

 以上8人がこの部屋に集ったメンバーだ。

 

 ケイ君がいないけど、これは下でカウンターをやってもらってるからだ。

 あとソフィーちゃんのお守りも兼ねてる。


 時刻は朝の10時、だけど生憎とこの部屋には窓がないから魔力式の照明が部屋を白く染めていて、時間を知らせるものは壁にかかった時計くらいなもの。

 この部屋は中央に向かい合ったソファーとテーブルしかないので、酒場から椅子を3つほど持って上がることになった。大人数で話せる場所とか作るべきかもですねリエーレさん。


 ソファーの片方にはリエーレさんが座り、もう片方にはリィゼさんとオリヴィエさんが座っている。

 持って上がってきた椅子はテーブルを囲むよう適当に置かれていて、それらにロッシさん、ゲオルグさん、ブルートさんが腰掛ける。

 んで残り二人、自分はリエーレさんのソファーの後ろに恭しく待機してて、アルコンさんはリィゼ・オリヴィエさんのソファーの肘置きに行儀悪く腰を下ろしている。

 

 ちなみに自分はウエイトレス姿だ。血盟員としての格好はこっちだし。


 ここで何をするかと言えば、現状持っている『大鷲』についての情報のすり合わせだ。

 リエーレさんにとってアルコンパーティーは昨日会ったばっかりだし、お互いに情報共有しておきたいと考えたんだろう。

 強面ズもいるのは先日のギガントコボルトの件についても話し合いたいからか。


 なんて思ってる間にアルコンパーティーの自己紹介が終わってた。


「なるほど、みなさんも多かれ少なかれアギラ・ダールと確執をお持ちなのですね。ふふ、何にせよ協賛者が増えるのは喜ばしいことですわ」


 リエーレさんはアルコンパーティーの身の上を聞いた後、顔の側で両手をペタっと合わせて朗らかに微笑んだ。

 

「ひとまず私達『真夜中のオーロラ血盟』が今現在掴んでいる『大鷲』についての情報を伝えるわ。エリュー」

「はい」


 自分はささっとリエーレさんの側までソファーを回りこんで屈み、テーブルに種々の資料を広げる。それは覚書であったり地図であったり手紙であったり書籍であったりと、色々だ。

 

「まず盗賊団『大鷲』の発生時期について、これは魔導暦856年、およそ4年前からここヒューゲンヴァルト地方で活動が見られ始めたわ」


 魔導暦っていうのはこの世界で広く用いられてる暦(紀年法)だ。

 なんでもこの世界で最初に魔法が見出された年を一年として算出され、今は860年目にあたる。

 まぁそんなこの世界の常識は置いといて、『大鷲』の活動開始は4年前から。自分がリッチーを陥れて儀式を失敗させ、結果的に自分が死神化し、昏睡していたのが3年間。目覚めてこの宿で過ごしたのが1年間なので、自分が死神化した直後にアギラ・ダールは主のいなくなった実験場に入り込み盗賊行為を働き出したということになる。


「盗賊行為を働いたのだから当然この地方の冒険者ギルドはクエストを張り出したのだけれど、これを受けた5組全てパーティーが行方不明。クエストはどんどんとランクが上がっていった」


 リエーレさんはテーブルに並べられた中からクエストの受注用紙と思われる張り紙が確かに5枚並べられていて、右にいけばいくほど質の良い紙、丁寧な書式になっていく。クエストのランクが上がっていったんだなって分かる。


「そして冒険者ギルドを疎ましく思ったのか、『大鷲』はオルゼの街のギルド施設を襲撃し、最初は抵抗していたギルド側も、度重なる襲撃の末かなりの数の犠牲者を出し、撤退に追い込まれた。そして冒険者ギルドは報復としてこの地方で有名な高ランク冒険者に征伐を依頼することになったの。それで『夜明けのオーロラ亭』の主人であり、……私の夫でもあるラファロ・ニッツァにもギルドから要請が届きました」


 リエーレさんは一通の手紙を指差す。その手紙には赤い封蝋の痕跡があった。今となっては粉々だろうけど、ここにあった封蝋には冒険者ギルドの紋章が印璽いんじされていたんだろう。


「ラファロ? もしかして『魔弾』のラファロ?」

「えぇ、そうです。ご存知でしたか?」

「ご存知というか……冒険者の間では有名な人ですよね?」


 リィゼさんはどうやらラファロさんのことを知っているみたいだった。

 周りの人を見ると他の人達も一人を除いてうんうんと頷いている。

 例外はオリヴィエさんで彼女だけは首をこてんと傾げる。とんがり帽子がズルっとずれる。あれ耳に引っかかって留まってるな。

 それはおいといて、自分もラファロさんについて詳しくは知らないなぁ。

 

「あぁそうだな。『魔弾』のラファロ。数少ないAランク冒険者の中でも珍しい銃使い。粛清部隊エリミネーターに配属される前、普通の騎士時代に吸血鬼相手の攻城戦に参加したことがあって、そのときに俺とロッシは会ったことあるが、アンデットの軍勢をパンパン撃ち抜いてく様に新人時代の俺達は憧れたもんだ、そうだよなロッシ?」


 アルコンさんは隣の椅子に腰掛けていたロッシさんにそう同意を求めた。ロッシさんは少し苦笑いしながら頷いた。

 それに続いておずおずとリィゼさんが話し出す。


「私は一応あの事件の前からちょくちょく冒険者として活動してたんだけど、そのときにちょっとお世話になったことがあるのよ……ルニア村も一応ヒューゲンヴァルト地方だしここの冒険者ギルドに昔は出入りしてたのよ私」


 え、そうなんですかリィゼさん?

 パーティーメンバーの3人も初耳だったみたいで一様に驚いた表情を浮かべている。

 彼女の言うあの事件とは『ルニア村の神隠し』だろう。それ以来生活基盤を失った彼女は冒険者として身を立てて、アルコンさんのパーティーに入ることになったんだっけ。

 それ以前にも冒険者として活動してたのかリィゼさん。もしかしたら冒険者歴はパーティーの中で一番長かったりするのかな。


「えぇ、それでヒューゲンヴァルトの冒険者ギルドはラファロを含め、手練の冒険者パーティーを派遣しました。結果は……今『大鷲』がのさばっていることからもお察しでしょう。失敗です。夫とその他の手練れ方は帰らぬ人となり、そうして『大鷲』からは当て付けのようにのように夫の銃と人差し指だけが送りつけられてきました。それがこれです」


 リエーレさんはテーブルから一丁の回転式拳銃リボルバーを取り上げた。

 渋みのあるメタルフレームと趣あるウッドストックがイカす代物だ。かなり年季が入っているようで、バレルに刻み込まれた彫刻エングレーブは大分擦れて削れている。

 この世界では銃はあまり普及していないんだと思う。というのも自分がウエイトレスを一年間やっていて目にした銃使いなんて片手で足りる数だった。

 考えつく理由としては、やはり魔法の存在だろうか。身一つ詠唱一つで遠距離攻撃手段を容易に確保できるとあっては銃の立場はないだろう。

 その上にこの世界の人たちは身体のスペックが高いわけで、そういう人らが弓やボウガンや投擲を行えばそれ相応の威力が出る。そういう意味でもわざわざ火薬を用いて弾を撃ちだす銃は劣ってみられるということか。

 戦闘力を持たない一般の人にはピッタリな武器と思うんだけど、銃そのものが高価で手が届かないとかそういうむず痒い事情もありそう。

 その中でラファロさんは何を思ってリボルバーを相棒にしてたんだろう。一回戦ってみたかったなぁ……。


「その後も『大鷲』は増長することなく適度に・・・略奪を働いており、それは今も続いています。冒険者ギルドを脅かすほどの力を持ちながら、目に余るほどの被害が出ていない。その上『大鷲』が略奪を働くのは一般の荷馬車や乗合馬車のみで、公的機関の馬車には決して手を出さない。薄情な話だけどお偉いさんは自分たちに被害が及ばないと動いてくれないってことね。……そう、だからこそ私達はこの『真夜中のオーロラ血盟』を立ち上げたのよ!」

 

 リエーレさんは力強くそう言い切った。そしてこの場にいる血盟員を見渡す。

 血盟員の各々は神妙な面持ちで頷いた。

 自分もリエーレさんの決意に満ちた目を見て、闘志じみた感情が滾る。

 それから彼女は「ふぅ」と一息をついて話に一段落を入れる。


「さて『大鷲』の発生から現在までをお話ししましたが、奴らが他の盗賊と一線を画する点は、皆さんご存知でしょうが魔物を従えているという点です。それもこれまで見たこともないような凶暴な魔物を」


 『大鷲』は魔物を従える。ちょうど先のギガントコボルトのような。

 昨日はアルコンさんだったから何とかなったけど、平均レベルの冒険者では瞬く間に捻り潰されていたことに疑いはない。それほどまでに『大鷲』の率いる魔物は恐ろしい。冒険者ギルドが撤退にまで追い込まれたというのがその証拠だ。

 

「アルコンさん、ロッシさん、お二人は元粛清部隊エリミネーターとお聞きしました。そしてアギラ・ダールが邪教に魅入られて粛清部隊エリミネーターから出奔したとも。あの魔物や盗賊はやはり邪教と関わりがあるのでしょうか?」

「あぁ、決して無関係じゃないだろうな」

「盗賊の男を圧殺したのは邪教で用いられる呪いと近しい感じがしましたし、ギガントコボルトに生えた3本目の白い手にもそれらしい特徴が見られました。関節も爪もないあののっぺらぼうな手はいかにも悪魔らしいですね」


 ロッシさんは自分の見解を述べる。

 ほう、やはり見る人が見ればわかるもんなんだな。

 邪教、悪魔、呪いやっぱそこら辺がキーワードか。


「やはりそうですか。とするとあの魔物は邪教の業によって操られて……?」

「……断定はできませんし、やはり違和感は残りますね。そもそも今回のはイレギュラーな事態に思われますし。そうですね最初にギガントコボルトと会敵したときはどんな様子だったのですか? 何か特殊なマジックアイテムで指示を出していたりとか……」


 ロッシさんは向かいの椅子に座る強面ズに質問を投げかける。

 それを受けてゲオルグさんが口を開く。


「いや盗賊は6人ほどの徒党を組んでいたがそういうアイテムの類は見なかったな。アイツらは声でギガントコボルトに指示を出してやがった。まるで完全に主従関係が出来ている感じだったぜ」


 ふむ、主従関係ねぇ? 

 でも実際の力関係は盗賊<ギガントコボルトでしょ?

 強面ズに薙ぎ払われて運良く気絶してた一人をこの街まで運搬してきたんだから、裏を返せば他の盗賊達は呆気無く死亡したんだろうし。

 うーん、なんか都合よく魔物を調教できるメソッドでもあるのかな……。


「……それに今回あの魔物を捉えたわけですが、正直言って私達は魔物の研究者ではないので、あの屍体から情報を引き出すことができません。皆さんの中に、あるいは知り合いでもいいです。魔物について詳しい方はいっしゃいませんか?」


 リエーレさんは眉をすぼめてそう問いかける。


 その実自分はあの魔物の出処に心当たりがある。

 あれはおそらく、自分が死神化した原因となり、内蔵を入れ替えてくれやがったリッチーが手を施したものだろう。思い出したくもないが、交配させられた記憶すらある。何とって魔物とだ。うぇ……ちっと気持ちわるい……。

 うん、でもあの実験場でアイツが魔物を強化・改造していたとしてさほど違和感はない。むしろしっくりくる。

 それで主のいなくなった改造モンスター達を、アギラがくすね取って盗賊行為に用いたのだろう。

 やっぱり魔物に命令を聞かせる手段については皆目見当もつかいないが。

 

「あーリエーレさん、そのことでちょっと心当たりがあるんですけど……自分とケイ君は以前『大鷲』で奴隷としてコキ使われてたって話はしましたよね?」


 自分はリエーレさんにそういう設定で通している。

 ケイ君にしたらこれは真実なんだけど自分に関してはすこし曲解した内容だ。

 それの辻褄をあわせるためのケイ君には、自分の身の上は地下で監禁されてて、色々な偶然が重なって出てこれたんだと言ってある。まぁ、あながち嘘ではないな。


「そこで高位と思われる魔術師メイジと会ったことがあるなって思い出しまして。自分の体に刻まれてるこれをやってくれた張本人です」


 自分は後ろを向いて、背中の開いた制服から覗く魔法陣をみんなに見せる。

 オリヴィエさんが舌を巻くほどのこれを見せれば、アイツが高位の使い手だってのは証明できるでしょう。


「確証は持てませんが、ギガントコボルトをはじめ『大鷲』の操る魔物はその魔術師メイジが調整したものではないかと、そう思うんだけど……」

「なるほど、改造された魔物ですか。いかにも邪教徒がやりそうなことですね。それに彼女の言葉を信じるなら表側に出てきていないアギラ・ダールの協力者がいるということになります」


 ロッシさんは自分の推測を素直に受け入れてくれた。

 対してリエーレさんは眉根を寄せて自分を訝しげに見つめてくる。

 な、何ですか……?


「……いえ、エリューちゃんはあまり昔のことを話したがらなかったから……」


 あーうん。実験体時代の記憶はなるだけ見ないようにしてたからなぁ。

 でも先日の事故でとびっきりヤバイ記憶を暴いちゃったから、今はちょっとくらいなら見に行っても大丈夫。ちょっと気持ち悪くなる程度だ。


「ちょっと色々ありましてね……」

「……? まぁエリューちゃんがいいならいいのだけれど……」


 リエーレさんはテーブルの側で屈んでいる自分の頭にポンと手を置いてきた。

 そんで優しく撫でてくれる。

 いや気持ちいいですけど、ちょっと恥ずかしいですよ……もう。


「……ん、話戻すけどいい?」

 

 少し綻んだ空気の中で今まで無口を貫いていたオリヴィエさんが口を開く。

 自分の好きなことじゃないとあんまり関わろうとしない人っぽいから、彼女のことを知っているパーティーメンバーとケイ君、自分の視線が彼女に惜しみなく注がれる。


「……さっき魔物に詳しい知り合いはいないかという話だったが、一人いる」

「それはほんとですかオリヴィエさん?」

「うん。私の学生時代の友達……全然連絡取ってないし今何してるか分からないけど、王都にいけば連絡はつくとは思う」


 ほーなるほど。こりゃ渡りに船だ。

 じゃあオリヴィエさんにその人呼んできてもらえばギガントコボルトについて詳しいことが分かるかもしれないのか。


「じゃあ申し訳ないですけどその人を呼んできてもらえますか? オリヴィエさん」

「……うん。了解」


 とするとアルコンさん達も一緒に王都に行く流れかな?

 

「……じゃあ明日にでもちょっと行ってくる。……誰か一人前衛が欲しい」


 パーティー内で「どうする?」という視線が交わされる。

 3人とも近接職ではあるっぽいよね。ロッシさんに関しては武器しか見たことないけど。


「あー正直言うと俺は名指しで護衛の依頼が入ったんだ。いい値段の仕事だったし乗っておきたいところなんだが……」


 アルコンさんがそう言う。

 先日派手に戦ったからどっかの商人さんから直々に依頼があったのだろう。

 まぁそんな珍しい話でもないな。


「とすると先輩はダメですよね。リィゼさんはサブヒーラーとしての役割がありますし、必然的に僕がオリヴィエさんと王都に行くのでいいんじゃないですかね」

「ん、そうね。じゃ私はアルコンと一緒に護衛依頼こなせばいいのね?」

「あぁ、それでいいだろ。な、オリヴィエ?」

「……うん、それでおっけー」


 どうやら話がまとまったみたいだ。

 そうなると近日中にアルコンさん達はこの宿を一時とはいえ離れちゃうのか。寂しくなるな。


「はいそれじゃあ、オリヴィエさんが専門家を連れてくるまでは突っ込んだ話もできませんし、今日のところはこれでお開きにしましょうか」


 リエーレさんの一言で会議は閉幕となり、それぞれが席を立った。



おそらく作中で語る機会はなさそうなので、登場人物の年齢と身長の大雑把な設定を置いときますね。


ゲオルグ(30)=ブルート(30)>>>アルコン(28)>リィゼ(22)≧ロッシ(26)>>リエーレ(36)>>オリヴィエ(19)>>>エリュー(14)>>>ケイティス(11)>>ソフィー(8)


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