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死神少女が生きてるだけ  作者: ゲパード
第一章 大鷲篇
20/75

第二十話「プリズム・レイ」

オリヴィエ戦を書き上げたら驚愕の18500文字だったので分割でお送りします。

この話は3話目、最後です。

分量はいつもよりちょっと多いくらいです。




「行って」


 オリヴィエさんが短くそう呟くと、10体のアイスゴーレム達は、俄然と動きを開始した。

 ダンダンダンッと氷山から降りてきたゴーレム達は平原に足をつけると、まず二体が襲いかかってきた。

 剣とスピア持ちだ。


「くそっ!」


 槍の刺突を身を捻って回避、剣のなぎ払いを大鎌の柄で受け止める。

 普段ならここで、大鎌を回して剣を弾きつつ蹴りつけて距離が空いたところに大鎌を振り下ろしたりするんだけど、片腕じゃあそれができない。


 やむなく、剣を受け止めるだけ受け止めて、後退する。


「ぅおっと!」


 いつの間にか真後ろに来ていたメイス持ちのゴーレムの振りおろしを、体を捻って躱し、その捻りを利用して回し膝蹴りを食らわせてやる。


 ガンッという硬い感触。むしろこっちが痛い……。

 一応相手はよろけて距離は取れたけど、自分の格闘じゃ倒せないなぁこれ。


 気づけば十体のゴーレムに囲まれていた。

 うぐぐ、絶体絶命。

 

 ガシャンッと背後から氷の足音。

 もはや後ろの様子なんて分からず、振り向きざまに片手でがむしゃらに大鎌をなぎ払う。

 ガコッという音と共に背後に迫っていたゴーレムの一体が倒れる。

 そしてガッシャーンという音をたてて、ただの氷塊と化した。

 どうやら頭部に大鎌がぶつかったらしい。刺さったとかではなく、ぶつかったというのがいかにも適当に薙ぎ払ったのだと物語っている。

 でもラッキーだ。


 なんて思っていたら、バアンッ! というまるで巨大な岩壁に叩きつけられたみたいな衝撃がやってきた。


 ふわりと吹き飛びざまに、その方向を見ると。大盾を構えたゴーレムの姿。

 あれで殴りつけバッシュられたのか。


 ドタンと地に転がると今度は三方から氷の足音。


 こいつら倒れた自分を囲んで殴る気か! 単純だけどそれ一番ダメなやつだぞ!

 近づく足音を迎撃しようにも、仰向けに倒れていてはもはや大鎌など満足に振れない。


 魔法でなんとかするしかない。

 自分は舌が千切れるかと思うほどの高速で詠唱する。魔力も調整なんてせずありったけ込める。


「“土よコーマ”・“其は荒ぶるエフズス”・“岩の牙となれデンテ”────」


 魔法名とか言ってる余裕ないかな!

 でも奇跡的に詠唱を完遂させれた。

 起点とか指定してないからイメージで自分の周りとしておいたけど、最悪これ手足は持ってかれるかも。


 なんて心配はどうやら杞憂だったようで、ガイィン! という硬い岩と固い氷がぶつかり合う音が響いて、自分の仰向けの視界には真上へと打ち上げられるゴーレムの姿が写った。

 

 発動させた魔法は《ロックグレイヴ》。

 地面から岩の牙を発生させる魔法だ。

 ただ、範囲指定が適当だったからさっき言ったように手足が巻き込まれたりする危険もあったし、数も指定してないから、一本しか岩の牙が発生しない可能性が高かった。

 そのために多量の魔力をつぎこんで、複数出てくれ、というイメージを持って発動させた。


 そして見事三方から自分にたかろうとしていたゴーレムは地面から生えた岩の牙に突き上げられ、宙を舞った。

 でも危なかった。出た岩の牙の数は五本だったけど、その内の一本は自分の股の間から突き出ていた。

 ちょっとずれてたら足を持ってかれていただろう。


 ってうぉぉおおお! ゴーレムがこっちに降ってくるー!

 そらそうか! 自分に向かってきていた奴を真下から突き上げれば、落下地点は自分の位置だもんね!


 股ぐらに生えた岩牙を蹴りつけ、後ろでんぐり返し。

 片手に大鎌を持ち、もう片手は凍ってるからすっごい器用なことしてんな自分。

そしてその余勢で立ち上がり、バックステップ!


 直後シャンデリアが落下したみたいな、けたたましい氷砕音が響き渡る。


「はぁ……はぁ……」


 綱渡りすぎる。

 これにオリヴィエさんの魔法の援護が来たらほんとに詰みだ。


 ん? なんで今の攻防でオリヴィエさんの魔法が飛んでこなかったんだ?

 自分はふと疑問に思った。

 あの状況では援護を出せば、まず自分を仕留められたろうに……


『しないんじゃねェ。できねェんじゃねェか?』


 もっともらしい仮説がバロルから提唱される。

 そう考えるのが一番自然か。


 今のゴーレム達は最初に現れた2体と違って動きにキレがある。

 それを10体。維持するだけで至難の業のはず。


 つまり今のオリヴィエさん本体には余裕がない……?

 自分は暗闇の中で光明を見た心地がした。


『安心は慢心に繋がってるんだぜエリュー』


 バロルの忠言がその安易な思考をたしなめた。


『10体を維持するのは大変だ。だが今お前はゴーレムを4体砕いた。おそらくそこに割かれていたリソースは……』


 自分は慌てて、氷山の上にいるオリヴィエさんへと目を向ける。

 ゴーレムとの戦闘に必死でそんな余裕はなかったけれど、彼女はどうしているんだ……?


「“────”・“────”・“────”・“────”」


 オリヴィエさんは氷山の上で今まさに詠唱を開始した。

 いいタイミングで気づけた。

 けれど、その声が聞こえない。

 単純に距離が遠いのもあるし、ゴーレムの足音がガッチャガッチャうるさいのも手伝って聞こえやしない。


 近づくべきか遠ざかるべきか、隠れるべきか引き付けるべきか。

 判断を過てばそここそがこの勝負の幕引きだ。


 自分は迫ってきたゴーレムの一体を大鎌で牽制して距離を取り、さっき自分で出現させた岩牙の影に潜り込んだ。

 この岩牙を魔法の遮蔽に使おうという案だ。


 自分は岩陰から顔を出してオリヴィエさんの様子を伺う。

 それと同時に、まぁ案の定というべきか、ゴーレム達は自分をそこから出そうと一斉に襲いかかってきた。

 しかし自分はそれへの対処も忘れて、オリヴィエさんの顔を凝視しつづけた。


 彼女は詠唱をしながら、不敵に笑っていた。

 まるで全てが手中にあると言わんばかりの、そんな表情だった。


 これじゃダメだ、という強迫感が自分を苛む。

 でもこの岩陰から出るのは、とても恐ろしかった。ここから出たら死んでしまう、そんな子どもみたいな恐怖にとらわれて自分は動けない。



 手早く《ロックブラスト》、石つぶてを放つ魔法で迫っていたゴーレムの一体を後退させる。

 オリヴィエさんの詠唱は続く。朗々と。

 そしてもう一度彼女の様子を伺う。けれど自分は警戒と恐怖の果てに、ついついオリヴィエさんの助言を忘れてしまった。


 魔力の流れを見るならば、瞳に魔力を集めねば、目を灼かれてしまうという、あのアドバイスを忘れて、彼女の詠唱を覗きこんだ。

 マジックアイテムの眼鏡をかけたまま。



「────っあぁ!!」


 戦闘中は意識して眼球に魔力を宿していたけれど、さっきの瞬間はついうちそのことを忘れていた。

 莫大な魔力光に目をやられて、頭がジクジクと痛む。

 さっきの《レイニーアイシクル》の比ではなかった。

 やってしまった。致命的な隙だ。

 

 眼球に何本もの針を突き刺されているような痛みが止まない。

 早く、早く快復しないと……


 自分は意味がないんだろうと分かりつつも、手当たり次第に魔力をかき集めて眼球に押し込んでいく。

 そうして何秒かが経った。







 パチパチと目をしばたかせると、いつの間にか右目だけは視界が戻っていた。


 だけどその視界はなんだかひどく違和感があった。

 近い感じを挙げるなら、水中でものをみたときみたいな、周囲の景色が波に揉まれて歪んでいるみたいな、そんなひどく歪で不安定な世界がそこにあった。


「なにこ────うぇ!?」


 思わず声をだすと、視界一杯が波で歪む。

 それに驚いて声を上げて、また一層視界が歪む。


 けれどそれはほんの一瞬で止んでくれた。


『これは……まさか……』


 うぐっ!

 バロルが呟くと同時にまた視界が波紋状に歪む。

 何なんだこれ……


 落ち着こう落ち着こう。

 今の脅威はオリヴィエさんの魔法。


 そうして、オリヴィエさんを岩陰から覗き込んで。

 

 先程みたいな波がオリヴィエさんにも纏わりついていた。

 いや違う、オリヴィエさんの口から、その波は発生していた・・・・・・


 オリヴィエさんの口から発生する波紋は、遠目に見るとある一点に集約していっていた。

 そしてその一点から一本の綺麗な線を描いて、流れ出ている。

 その線はまっすぐと伸びて、ゴーレムの一体に突き当たると、その内部で折れ曲がって、また別のゴーレムの体に入って屈折して、そして。


 自分の体を貫いて、また別のゴーレムのところに突き当たって折れ曲がり……

 その線を追う過程で、その線は何度も何度も折れ曲がって岩陰に隠れる自分を貫いていた。



 この線が何なのか、この波打つ視界はどういうことなのか。

 自分は薄らと理解した。



 この波はたぶん音なんじゃないか。

 それが視覚的に視えてる。

 理由は、さっき目を灼かれたとき魔力をありったけ目に詰め込んだから?


 とりあえず理屈はさっぱり分からんが、オリヴィエさんの詠唱のから伸びた線が自分をメタメタに貫いているというのは事実だ。


 そのいやに直線的な軌道と、やたら長いあの詠唱……

 開幕でオリヴィエさんがぶっ放した《プリズム・・・・・レイ》という魔法名。

 浮かび上がったのは……

 アイスゴーレムをプリズムとして利用して、直線的なレーザーを幾重にも折り曲げ、特定の空間内を滅多刺しにする、《プリズム・レイ》という恐ろしい魔法の姿だ。


 自分はなりふりも構わずと岩陰から離れた。


 視界を網目状に覆う線にかからないポジションを探し、体をほとんど地べたになげうったその刹那、



 光線が空間を串刺しにした。

 同時にグバァッッ! という空気が喰らわれる音が波となって右目に襲いかかる。

 


「う────!」

 あまりの凄まじさに咄嗟に右目を閉じ、ようやく回復した左目で様子を伺うと、空間に焼け付いた光線はさっき見た線とまったく同じ軌跡を描いているみたいだった。

 自分の予想は当たっていた……!

 いやまだ避けただけだ、決着はついていない。


 右目を閉じたまま、ぐわんぐわんする頭を振るって立ち上がり、オリヴィエさんを見据える。


 彼女はいつもは眠そうな目をまんまるに見開いて、口をあんぐりと開けていた。

 信じられないという感情がいかにも見て取れた。


 チャンスはここしかない。


 自分は引きずるようにして、最後まで手を離さなかった大鎌を振りかぶった。


 彼我の距離は15mほど、当然大鎌の射程ではない。

 本来の使い方なら、ね。


 大鎌を引きずったまま全力で体を前へと倒し、踏み込む。

 15m、やったことなんてないけど、たぶん届く。いや届いて。



 そうして自分は大鎌を投げつけた。


「────!」


 驚愕がまた別の驚愕に塗り替えられる。

 致命的に対応が遅れたオリヴィエさんに為す術はなかった。

 何か言っていたけどこの距離じゃ聞こえない。

 

 ゴッといういかにもな打撲音。

 命中だ。

 呷るような体勢で氷山の向こうへ滑落していくオリヴィエさん。


 頼む、これで終わってくれ……

 自分は誰とも知れずにそう祈る。

 そうして肩で息をして十秒と少し。



「そこまでだ」



 いつの間にか自分の目の前に現れたアルコンさんが、後ろ手に自分を制止していた。


「アルコンさん……!? オリヴィエさんは……?」

「氷山の向こうで気絶してる。この勝負はお前の勝ちだ。まさかオリヴィエに勝っちまうとはな……」

「え、え? 勝ったんですか? 自分が?」


 イマイチ現実味がない。

 というかまだ戦闘が続いているみたいな感覚だ。

 

「俺も信じられねぇが、お前も信じられてねぇのかよ」

「え、はい。なんというか必死でしたんで……」


 自分は要領を得ない感じで受け答えをする。

 

 あれだけの大魔法の応酬のラストがやけくそ気味に投げつけられた大鎌だというのはなんだか締まらない話のように思えた。


 けれど、そんな揺蕩うような現実感のなさは、アルコンさんに連れられて、氷山の向こう側へ回ったときに、ようやっと地に足をつけた。


 そこには確かにオリヴィエさんが意識を失い倒れていた。

 側ではリィゼさんが頭を持ち上げて介抱している。

 というか帽子外して猫耳丸見えですけどいいんですか。やっぱりあれはただの脅迫材料だったのかな。


 それはともかく、倒れている彼女の姿を見たことで自分があの恐ろしい使い手を倒したという実感がようやく湧いてくる。

 勝った。あの光と氷の嵐を自分は切り抜けたんだ。

 力を振り絞り、技を研ぎ澄まし、魔力を捻り出し、策を尽くした。

 そして勝利を掴み取った。

 自分は着実に強くなってる。そんな喜びと単純な勝利の喜びが咬み合って昇華されていく。


「っしゃおらぁ!!」


 自分はとても女の子らしからぬ声で歓喜した。

 湧き上がる感情を吐き出すにはこれが一番自然な形だったんだ。うん。


 湧き上がる感情を抑えきれず、わきわきと嬉しさを発散していく。 

 ギャラリーの人たちもこっちにやってきて口々に自分を褒めちぎり始めて、収集がつかなくなりそうなところで、アルコンさんが鶴の一声。


「んじゃエリューの勝利を祝って、『オーロラ亭』で宴会でもするかー!!」


 このあと元々営業する予定のなかった酒場を冒険者さん達が借り受けて、自分を主賓にどんちゃん騒ぎをすることになるのだが、それはまた別の話だ。




 そうして自分はこの狂騒の中で、あることをすっかり忘れてしまっていた。

 それは右目に写ったあの『波の世界』は何だったのかということだ。


『…………』


 ただバロルだけが、浮ついた空気の中で沈黙を貫いていた。

 そのことを自分は気にもかけななかった。




詠唱シーンがやたらめったら出てくるんでルビのミスがあったらご指摘ください。


いやぁしかし、純魔はロマンですねぇ……

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