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死神少女が生きてるだけ  作者: ゲパード
第一章 大鷲篇
19/75

第十九話「氷原を駆ける」

オリヴィエ戦を書き上げたら驚愕の18500文字だったので分割でお送りします。

この話は連続投稿の2話目です。

大体8000字、いつもの1,5倍強の分量です。


 眼前に広がるは大小含めて100ほどの氷矢。

 それを宙空に浮かべるオリヴィエさんの姿はどこか幻想的であった。


「じゃあいくよ?」

「っ……どうぞ!」


 短い確認問答。



 見えない手に支えられるようにして空中に留まっていた氷矢の内の十本ほどが、ブルブルと震える。

 そして飛来した。

 数は10いくら。速度は中々。


『捌けるか!? エリュー!?』

「大丈夫、やってみせる!」


 見たトコ、全ての軌道が計算ずくってわけじゃない。

 しっかり見て適切に避けて弾けば詰みはない、はず。

 命中ルートは4本。これならどうってことない。


 自分は大鎌を下から掬い上げるような袈裟懸けを放つ。

 軌道上にあった2本の氷矢はそれでパリンと割り砕いた。

 更に袈裟懸けに振り上げた大鎌をグルリと回し、変則の振り下ろしに派生、氷矢を1本はたき落とす。

 残りの1本を体を捻って避けた。


『エリュー! もう10本! 来るぞ!』


 バロルの報告を聞いて自分は即座に真横に跳躍、ローリングで接地。

 ザクザクザクッと自分の今まで居た位置に氷矢が突き刺さる。


 ローリングから起き上がって屈んだ姿勢から即座にダッシュへと移行、ザザザッ!と自分の真後ろで氷矢が突き刺さる音がする。


 自分は時には身を屈めながら全力疾走し、時には体の側面で大鎌を回して盾とし、時には大鎌を地面にぶつけて無理やりな方向転換をし、飛来する氷矢を捌きに捌く。

 それをしながら魔法を詠唱する。


「“風よアネモス”・“鋼鉄の雨をも退けしプルウィアヴェルテ”・“覆いを成せマンテルム”────《アロー・プロテクション》」


 発動させたのは矢避けの魔法。

 旋風を纏うことで飛び道具の命中確率をぐんと下げるものだ。

 難点は少し相手の詠唱が聞き取りづらいことか。

 まぁ、でもこれで攻勢に転じられるわけだ。


 自分は氷矢を背負うオリヴィエさんに向けて突撃する。

 真正面からの命中コースだった氷矢の一本が旋風にまかれて顔の側を掠めていく。

 よしイケる!


「……“吹雪いてパーゴマネモス”・“旅人の覆いを(カニトゥラも吹き飛ばすベンテルム”・“氷嵐の暴威をもってヒエムサペラ”・“握りつぶせコンテーレ”・────《ブリザードクラッチ》」


 オリヴィエさんが何かの魔法の詠唱をしている。

 驚くべきことに後方の氷矢を射出しながらだ。

 魔法を制御しながら詠唱を淀みなく唱えるなんて、さすがは純魔だ。


 しかし《アロー・プロテクション》中なので聞き取りずらい。たぶん吹雪の魔法だろうけど、詳細が聞けなかった。でもそれに気を取られて足をこまぬいたら全身から氷矢で滅多撃ちだ。

 あの魔法はそこまで信頼のおけるものではばいから、十も二十も氷矢を撃ち込まれたら突破されてしまう。


 氷矢の雨を駆け抜けていき、《アロー・プロテクション》を突破してきた3本ほどの矢を大鎌で弾いて、オリヴィエさんに肉薄。


『まさか……おいエリュー今すぐその魔法を解除しろ!』


 その段になってバロルの声が脳内に木霊する。

 切羽詰まった声音にただならぬことだと察したけれど。

 同時に見えた彼女の顔は不敵な笑みを浮かべていた。

 ゾクッとした悪寒。


 もう遅かった。


「何!? っいっつあ……!!」


 視界に大量の雪と氷が舞う。

 感じたの冷気か痛みか、それはきっと両方だ。

 顕現したのは吹雪、人間の身体をズタズタにする恐ろしい自然の暴威。その魔法だった。


 そして体のあちこちを鋭い氷片が切り裂いていく。

 オリヴィエさんが詠唱を終えてしばらく経つと、何の前触れもなくこの吹雪に自分は飲み込まれていた。何故気づけなかったか。


 それはこの吹雪はオリヴィエさんから放たれたものではなかったからだ。


 この魔法ブリザードクラッチは自分の《アロー・プロテクション》をオリヴィエさんが乗っ取って発生したものだ。

 取り巻く旋風はその内部にいる者を守る。

 しかし荒れ狂う吹雪はその内部にいる者を切り刻む。

 元々、己を対象に取っていた魔法ゆえにこの吹雪から抜け出すなんてことはできない。


 どうすればいいどうすればいい?


 有効な対策を思いつけないまま、雪が氷が風が、自分を蝕んでいく。

 氷矢による追撃だけは食らうものかと、吹雪に握りしめられたまま全速で後退しながら、飛来する氷矢を弾く。

 元々体の周りに旋風を張り巡らすものなので、吹雪の厚さ自体はそれほどでもない。視界は悪いっちゃあ悪いが何にも見えないわけではない。氷矢の迎撃自体は可能だ。


『エリュー! あくまでその魔法はおめェの《アロー・プロテクション》を上書きしたもんだ。おめェがそれを止めれば消える!』


 まじでありがたいぞバロル!

 バロルの的確なアドバイスを受けて、その通り意識を持って《アロー・プロテクション》を中断すると、《ブリザードクラッチ》は消えてくれた。

 晴れた視界で自分のことを見下すと、手や足や顔は相当数の切り傷を負っているけど、胴体は無事だ。

 これは着ていたローブのお陰だろうか。

 ローブ自体も若干の節々に切れ目は見えるものの無事に見える。

 元々自分は魔法防御力に補正がかかってるって判明したし、それとの相乗効果でダメージは大分減らせただろう。


 だけど、オリヴィエさんの攻めは尚も緩むことはなかった。


『エリュー前、ゴーレムだ!』


 えっと思ったときには、何か鋭いつららのようなものが自分目掛けて突き出されていた。

 すんでのところで体を捻って躱し、その勢いのまま回し蹴りを食らわしてやる。


 自分に襲いかかってきたのは氷でできたゴーレムであった。

 全体的にひょろ長くシャープなフォルムをしていて、両の手と一体化したランスがさっき鋭いつららと表現したもの正体みたいだ。


 それが二体。

 シルエットだけが人に似せられたアイスゴーレムはどことなく不気味だった。


 そのゴーレム達の向こうにはオリヴィエさんの姿が見える。

 戦闘開始時に彼我の距離は25mほどだったけど今は20mくらいだ。

 マジで3歩進んで2歩下がる状態である。


 手早くこのゴーレム達を倒さねば……

 焦りを踏み潰すようにダンッと一歩踏み込み、大鎌をなぎ払う。


 バックステップで避けられた、ゴーレムのくせにいい反射神経だ。

 スイッチするように横合いから、もう一体がランスを構えて突撃してくる。

 自分はそれをサッとよけながら、大鎌の刃を自分の今までいた位置に置いておく。


 そうして擦れ違うその瞬間に思いっきり大鎌を引いてやれば、見事にゴーレムは真っ二つだ。


 激情したかのようにもう一体が突っ込んできたので、今度は大鎌の柄でランスを横から叩いて逸らす、それと同時にゴーレムの胴体に回し蹴りを見舞ってやり、回し蹴りの勢いのまま、大鎌をなぎ払う。

 大鎌は後ろによろけたゴーレムの首にガッと引っかかった。

 そのまま思っきり引き倒す。

 ガッシャーンと甲高い音を立てて、ゴーレムはバラバラの氷片と化した。南無。


 よしスピーディーに処理できたぞ! 

 あのゴーレムはあんまり複雑な立ち回りは出来ないみたいだね。

 なんて感想を心に抱いて、いざオリヴィエさんへ向き直ったところで、思わず見上げて・・・・、口をあんぐりさせた。


 その魔法は《アイスインシャイント》という氷魔法だった。

 氷の壁を作る魔法だ。

 氷魔法で作られたそそり立つ壁は高さおよそ8mほど。

 それがUの字のように自分を取り囲んでいたのだ。


 その上、ガラスかと見紛うほどの透明度を有していて、壁の向こうにいるオリヴィエさんの様子も、楽しそうにやいのやいの言っているギャラリーの様子も、遥か先まで続く草原の光景もはっきりと見えた。


 自分がゴーレムと戦っている間になんてものを作ってるんですかオリヴィエさん……


 オリヴィエさんが壁の向こうでまた何らかの詠唱をしているみたいだけれど、壁越しだから上手く聞き取れない。


 くそっ後手に回ってばっかりだ、このままじゃ……


 そして詠唱が終わったらしいオリヴィエさんは突然杖を振りかぶってて、カーンッ! と目の前の氷壁に打ちつけた。

 その打ちつけられた地点から、青白い冷気の波紋みたいのが壁面を広がっていって……

 波紋が通った後の壁面からジャキジャキジャキッ!と無数の氷の棘が生えてきた。

 唯一オリヴィエさんの居る付近だけは針が生えてなくて向こうが見渡せるけど、これは彼女の側から視界を確保するためだろう。


 視界の全面に氷の棘。


 数えるのが億劫になるほどの無数の氷棘、それに囲まれ自分は狼狽えた。

 ま、まさかそれが飛んできたり、壁ごと押しつぶしてきたりしないですよね……


 Uの字状に包囲されてる訳だから退路はあるけれど……、なんか露骨すぎて怪しい……。


 なんて悩んでいると、壁に覆われた向こう側からまた幽かに詠唱が聞こえてくる。

 駄目だ駄目だ、前のめりに対処していかないと!


「いくよバロル。ちょっと手荒に扱うよ」

『あァ? 望む所だぜェ何か策があんのか?」

「うん。あの壁をぶっ壊してオリヴィエさんを殴る。過程は知らない」

『ハハハ、そりゃァ名案だな。安心しろ、俺様はこんな氷如きじゃビクともしねェよ!』

「心強いね。じゃあ、いくよ!」


 自分はオリヴィエさん目掛けて草原を蹴った。

 間に壁がある? あんなのぶっ壊せばいい。


 彼女は自分のその選択に少し驚いたようで、一瞬面食らったように硬直しながらも、すぐに立ち戻って、壁の向こうで何らかのキーワードをつぶやきながら、もう一度その大杖スタッフで氷壁を打ち据えた。


 いま一度波紋が氷壁を這う。

 そしてその波紋が通り過ぎた地点から順々に氷棘が射出されていく。


 それは万匹の羽虫が一斉に飛び立ったような、そんなおぞましくも壮観な光景だった。

 この中に身を置けば、全身に棘を撃ち込まれて即座に戦闘不能だ。


 というかオリヴィエさんほんとにこんな攻撃して大丈夫なんですか!?

 ヒーラーさんだから節操ある攻撃しかけてくるかと思ってたけど、今んトコ想像以上に容赦ないですよ! これ自分だからまだ大丈夫なカンジですけど普通の人なら即死しますよ。

 アルコンさんも審判的なでしょ!? これ止めてくださいよ!


 ま、まぁでもこの攻撃なら一応想定内。

 攻撃の最中の一瞬で対策を編み出す羽目にならなくてよかったかな。うん。


「“幽冥よエレボス ”・“我を対姿にウンブラ”・“折りたためプリィーカレ”────《シャドウハイド》」



 自分は大鎌を地面に転がして、できた大鎌の影に避難した。

 影の中には物理的な手段では干渉できない。氷の棘など恐るるに足らず。


 この状態で闇に解けずに維持するのは魔力をかなり持ってかれるので3秒ほど。

 影に隠れる魔法は闇魔法の中でもなかなか上位のもののうえに、扱いが難しい。影に隠れたはいいが、戻ってこれなくなった、なんて事故はよくあることらしい。

 だから丁寧に長く、具体的には6か7節くらいの詠唱が推奨されるんだけど、自分は緊急時だったので3節で発動させた。

 まぁ、自分は大丈夫でしょう。本体は大鎌だし、それを外においてきたから影の中で己を見失うことはないと思うんだけど、やっぱり怖い。

 

 体の感覚が無いし、そのうえ何にも見えない。

 これは確かに己を見失って帰れなくなる人が出るわけだ……。


 バロルー?外の様子はー? バロルー? バロルー?


 自分は不安になって何度もバロルに呼びかける、なんか「チッ」というすごくうざったそうな舌打ちが聞こえてきた。けれどそのお陰で自分は己を保てる。


『もう大丈夫だ。出てこい』


 バロルに確認を取って脅威が去ったことを確認してズルッと影から這い出す。


 頭の上に乗っていた十数本の針を振るい落して、周囲の様子を見渡すと、草原を覆っていた緑が、青白い氷棘に取って代わられていた。

 U字の壁内だけはまるで北国にいるようだった。


 針だらけで、まるで片付けてないときの自分の部屋みたいになった草原を、とっとっとっと渡っていく。


 まさ躱されると思っていなかったのだろう、壁の向こうのオリヴィエさん驚いたのと悔しいのがない交ぜになったような表情をしていた。

 でも自分が接近してくることに気付いた彼女は、焦りながらも詠唱を始める。

 自分が壁面にたどり着いたのと、彼女がカツンと氷壁を叩いたのはほぼ同時だった。


 今度の波紋は彼女の周囲だけに留まった。

 その円の中からは、10本ほどの槍が突き出されてきた。


「甘いですよ!」


 自分は迫りくる氷槍に対して、大鎌を振り回して断ち切り割り砕く。

 とっさに生成された氷は脆い。それとかち合うわれらが大鎌バロルはもともと死神の得物だったので、尋常の武器とは比較にならない強度と切れ味を誇る。……らしい、本人談である。


 ともかく、これでようやっと氷壁にとりつけた。

 向こう側にいるオリヴィエさんはもう気の毒なくらいに青ざめた顔をしている。


 純魔にとって相手とを隔てるものが壁一枚なんていうのはさぞ恐ろしいものだろう。


 さて、この氷壁をぶっ壊してやりますかぁ!

 自分は大鎌をこれでもかと振りかぶりながら詠唱をする。


「“大地よギー”・“我が大鎌にファルケス”・“見えざる錘をブルンブム”・“積み上げよフィーランム”────《エンチャントメガトン》」


 唱えたのは加重魔法。

 武器そのものの重量を加算して打撃力を増すエンチャントだ。

 当然振るう側にも負担がかかるから、攻撃の直前に発動させねばならない。


 ずしんっと重量を増した大鎌を支えて、しっかりと大地を踏みしめる。


 そして大鎌に渾身の力を込めて、氷壁へと大鎌の刃先を突き立てた!


 アイスピックの要領で大質量のインパクトが一点に集約される。

 ビキキッと氷壁にヒビが入る。


 さすがに一撃では無理だったか、と思うながら大重量と化した大鎌を緩慢にもう一度振り上げる。


「もういっちょぉ!!」


 大鎌を裏返し、今度は刃の根本の部分をハンマーのように振り下ろす、そして。



 草原にバリィィィンッ!というけたたましい音が響き渡る。

 忌々しい氷壁にホールが穿たれる!



 ようやっとオリヴィエさんと自分を隔てるものがなくなった。

 彼女は氷壁を砕かれ飛び散る氷片を茫然と眺めている。隙だらけだ。

 自分はちゃんと《エンチャントメガトン》を解除してから、氷壁のホールを抜けて、オリヴィエさんに迫る。


「これで……終わりです!」

「っ……!」


 さっき容赦のなさすぎる攻撃をされた恨みも手伝って、狼狽えるオリヴィエさんに大鎌を振るうのに一切の躊躇はなかった。

 純魔は近づけばもう何もできまい!


 大鎌をオリヴィエさんの胴体めがけて振るった!

 ……返ってきたのは固い、まるで氷に刃をぶつけたかのような感触。


「……?」


 大鎌が、地面から生えた人間台の氷塊に食い込んでいた。

 どういうことだ? 自分はオリヴィエさんに切りかかったはずじゃ……


「────《フロストタッチ》」


 側面からか細く届いた声と右腕に感じた一瞬の冷たさ。

 そちらへ向けば口の端を持ち上げたオリヴィエさんが自分の後ろへ抜けていくところだった。


 ギョッとして振り向こうとしたところで、自分の体からカシャッという氷の音がする。


 右腕が完全に凍っていた。


 それで動揺して自分は足を止める。止めてしまう。


 オリヴィエさんはどたどたした足取りでさっきまで自分が開通させた氷壁のホールを抜けて中へと駆け込んでいく。

 あわてて追いかけようとしたところで、氷壁全体にミシミシミシィッ!とヒビが入った。

 いやな予感を感じた自分は足をとっさに止める。


 氷砕音のオーケストラと共に崩れる氷壁。


 あっぶな! 深追いしてたら崩落に巻き込まれてたやつだよコレ。


そして解放された冷気の波が草原を吹き抜けてゆく。

 視界は白いもやで満たされた。

 これが去るまでは小休止ってとこかな。


『クソッあの娘やりやがらァ!』


 バロルの悪態のような賞賛のような、どちらともとれる声が脳内で響く。

自分はさっきの一瞬で何が起こったのか未だに掴みかねていた。

バロル視点での補足が欲しいな。


『あァ? しゃーねーな。……あの娘は壁の向こう側にデコイを置いてやがったんだ。氷魔法で形を作って、光魔法でそれが本物であるかのように見せられてた』


 マジかよ……オリヴィエさん万全の備えすぎるでしょ……

 ということは自分が切りかかったのは氷の彫像だったのか。


『そして傍に光魔法で透明になって潜んでいた本体がエリューおめェとすれ違いざまに接触して氷魔法をかけていきやがった』


 あのとき感じた冷たい感触とこのピクリとも動かせない腕はそういうことか。

これじゃ片腕だけで大鎌を振るわにゃならんじゃないか。

炎魔法で溶かそうかとも思ったけど、バロルに止められた。どうも表面が凍ってるんじゃなく内側まで完全に凍らされてるみたいで、元に戻すには手順を踏み時間をかけて解凍するしかないとのこと。


 腕は諦めよう。

 片手で大鎌を振る想定なんてしてなかったから、もうまともに近接戦をするのは無理だろう。

 一応片腕でも膂力自体はあるから振り回すことはできるけど、それはもう素人が武器振ってるのと変わらない。

 魔法メインでなんとか立ち回ろう。

 足は生きてるしなんとかなるなる。


 っとそろそろもやが晴れるな。

 自分は向こうにある氷山を見上げる。さっきまで氷壁だったものだ。


 ゆらりとその頂上に影が見えた。

 くたびれたとんがり帽子とローブのシルエットは疑うべくもなくオリヴィエさんだった。


「強いねエリュー」

「今の状況でそれを言われても皮肉にしか聞こえませんよ……」


 ため息をつきながらオリヴィエさんの賛辞に応える。

 氷山の上にいるオリヴィエさんとその下にいる自分、その位置関係はそっくりそのまま今の自分達の実力差を表しているように思えた。


「私はエリューを倒したって確信したシーンが二回もあった、一回は《ブリザードクラッチ》を食らわせて追撃に氷矢とゴーレムを向かわせたとき、二回目は《アイスインシャイント》から《ミリオンアイシクル》を放ったとき。でもそれで勝負は決まらなかった」


 《ミリオンアイシクル》っていうのはU字の氷壁に囲まれ、無数の氷棘を射出されたときのやつだろう。

 確かにそのシーンは冷や汗をかいた。

 なんとかなったけど、影潜りの魔法はもうちょっと慣らしてかないといけないね。

 

「でも、3度目はない」


 オリヴィエさんは泰然として、そしてきっぱりとそう言い放った。

 なにおう、と声を上げようとしたところで声が詰まる。


 何故か?

 そこに詰みの一手を差されたからだ。


 オリヴィエさんが立つ氷山。

 頂には彼女がいて、その周囲から立ち上がってくる者達がいた。

 ゴーレムだ。

 その数は10。

 先ほど見た両手がランスになったものだけではなく、剣やメイス、大盾など様々な氷の武具を持ったゴーレム達は、そのシャープなフォルムと相まって、まるで姫を守る騎士のようであった。


 自分は今片腕を凍らせられている。使えない。

 つまり近接戦闘ができない自分にとって、この状況は絶望だ……


「行って」


 オリヴィエさんのその短い言葉と共にゴーレム達は猛然と自分に襲いかかってきた。




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