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死神少女が生きてるだけ  作者: ゲパード
第一章 大鷲篇
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第十四話「確執」




 やってきてくれた暫定血盟員の4人パーティーだけど、なんか屋根裏部屋に案内するのはめんどくさいので、すぐそこの酒場にあるテーブルで話すことにした。

 あんま昼間は人がわーっと来るわけじゃないし、もし来ても酒場の奥まったテーブルなら耳に入ってしまう心配も少ないだろう。

 

 簡単な飲み物、流石に昼間っからお酒はどうかと思うので林檎ジュース、を出す。

 その間アルコンさんは他のパーティーメンバーに事情を説明していたみたいだ。


「なるほどね。大方の事情は把握したわ」


 自分の目の前で腕組みをしているクリーム髪の女性がうんうんと頷く。


 というかやってきたパーティーメンバーを頭の中でもう一度整理してみよう。


 アルコン・エクエスさん

 まず灰髪に碧っぽい眼をした、シャヴァリーさんの知り合いで元騎士の人。

 得物は、あれ大曲剣かな? 湾曲した刃渡り1m30cmくらいの武器。自分の大鎌の刃とおんなじくらいのサイズだ。でかい。ちょっとしか事情を話さずここに来ちゃったみたい。


 リィゼ・ファルケンスさん

 クリーム髪で、また綺麗な緑色の瞳をしてるんだけど、さっきからそれは細められてばっかだ。明らか機嫌が悪い。このメンバーの中では一番年少者っぽい? 10代後半くらいかな。

目が刃みたいに細めれると同時に、腰のレイピアに手をかけるのやめてください。


 ロッシ・トライジョンさん

 この人は容姿についてはなんだかすごく平凡だ。若干紫がかかった黒髪に臙脂色の瞳だけど、顔形が平凡に平凡すぎて逆に印象に残る。

 武器はパッと見たところ円形の盾と片手剣?……モブみたいな武装だなぁ。

 さっきからアルコンさんとリィゼさんの言い合いに両方からから賛同を求められてはどっちにも賛同してる。流されやすいのかな。


 オリヴィエ・フーさん

 それと対比するようにこっちは印象的。魔女っぽい紫色とんがり帽子を被っていて、その下にはミント色の髪に真紅の瞳と、見事なコントラスト。身にまとうローブは地味めなので上下で印象の乖離が甚だしい。

 この人はなんというか無関心? アルコン・リィゼさんがやいのやいのの言い合いをしてても、我関せずで本を読んでる。

 

 以上4人が今しがた『夜明けのオーロラ亭』にやってきたパーティーだ。



 ここでクリーム髪の女性、リィゼさんがテーブルに手をついて立ち上がった姿勢でこう言い放った。


「じゃあ帰りましょうみんな。『大鷲』の相手なんて荷が重すぎるわ」


 うんうん……

 って、えぇ!?

 帰っちゃうんですか!?

 せめて一泊くらいしてってくださいよ!


「まぁ僕はどっちでもいいですけど……」

「……賛成、めんどくさい」


 リィゼさんに続いて、ロッシさんとオリヴィエさんが賛同を表明する。


「おい、待て待て。不意打ちみたいな形でここに連れてきたのは悪かった。悪かったが、遂に見つけたんだよ」

「見つけたって何を?」


「アギラ・ダールの居場所だよ」


 アギラ・ダール、その名前が出た瞬間この空間に剣呑な空気が張り詰めた。

 さながら冷やされた塩水が衝撃を受けて瞬間的に凝固するように。

 その名前はシャヴァリーさんから『大鷲』のボスだと聞かされた名だ。

 元騎士団の粛清部隊エリミネーターにいたという、とすると元騎士のアルコンさんには何か確執があるのだろうか?


「っ! それは……本当なの?」

「あぁシャヴァリー、騎士団にいたころの同輩なんだけど、そいつが面白い名前が見つかったって俺に手紙を寄越してきたんだ」

「それがもしかして……」

「『大鷲』のボスはあのアギラ・ダールだ。そうお前の村を滅ぼしたアギラ・ダールだよ」


 村を滅ぼした……? リィゼさんの?

 アギラ・ダールについて我ら『真夜中のオーロラ血盟』が知り得ていることは少ない。

 分かっていることといえば、先日シャヴァリーさんからもたらされたものですべてだ。


 歯がゆいことだが自分達は『大鷲』に対して馬車の護衛や奴らの操る魔物への対策の周知といった、後手の対応しかできていない。

 二度相手の本拠地へ腕利きを偵察に送ったが、それっきり音沙汰無しだ。

 それからリエーレさんはどうしても慎重に事を進めざるを得なくなった。

 話が逸れたが、ともかくアギラについて情報を持っているなら、立ち去るとしてもとりあえず話をしてもらいたい。


「不躾を承知でお聞きいたしますが、アルコンさんやリィゼさんはアギラ・ダールとどのような確執がおありなのですか……?」

「あぁ、そうかアイツ隠れるのが上手いからな、ずっとアイツのことを追ってた俺でも奴と『大鷲』のボスの間に繋がりを見出すことができなかったしな。ま、とりあえず話そうか」







 アギラ・ダールはシャヴァリーさんの話通り、元騎士団の団員であり、そして粛清部隊エリミネーターに所属していた。


 粛清とは、厳しく取り締まり、不純・不正なものを除き、整え清めること。また、不正者・反対者などを厳しく取り締まること。また政治的には、政治団体や秘密結社の内部で、政策や組織の一体性を確保するために、反対者を追放や処刑などにより排除して純化をはかることの意である。

 ヴォロス王国騎士団の粛清部隊エリミネーターはこの中で前者の意味での粛清を敢行していた。

 その対象となる不純・不正なものは、この場合は異教徒や邪教徒になる。

 例を出せば自分のかつてのご主人様だったリッチーなんかがそれだ。

粛清部隊エリミネーターは、そういった後ろ暗い連中を誅するための部隊であったらしい。


 アギラ・ダールはその部隊の副隊長であり、アルコン・エクエスはその隊員であった。


 アギラは元々人を殺めることに快楽を見出していた。

 だからこそ、それを危険視した当時の粛清部隊エリミネーター長によって側に置かれ、監視されていた。

 当時の粛清部隊エリミネーターの隊長は『鉄槌』のクーシェの二つ名をもって謳われた女傑であり、彼女ならばアギラ・ダールをも御しきれるだろうと騎士団には判断された。


 しかしアギラは隊長の予測を上回る狂気を宿していた。

 アギラは粛清部隊エリミネーター粛清・・を行ううちに、向こう側の力に魅入られてしまったのだ。


 そしてアギラは隊長を抹殺し、その首を土産にして邪教徒の仲間入りを果たす。


 騎士団は公ではない部隊での不祥事ゆえ、その全てをもみ消した。

 表立って捜査することができなくなったアルコンは騎士団を抜け、冒険者としてアギラを追うこととなったという顛末らしい。

 

「なるほど。それがアルコンさんとアギラの確執なんですね」

「あぁ、俺とあとコイツもな」


 アルコンさんは隣にいたロッシさんをピッと指さした。

 うん? どういうこと?


「僕も一応粛清部隊エリミネーター所属だったんですよ。なんか意外だってみんなに言われるんですけど」


 意外ですはい。

 ロッシさんは見た目も武器も地味で、なんかそこら辺のモブ兵士みたいだからほんと意外。


「へぇーそうだったんですね。じゃあリィゼさんとオリヴィエさんの二人は……?」

「私はアギラ・ダールが4年前に起こした『ルニア村の神隠し』の数少ない生き残りよ」


 何だそれは、知らないぞ?

 いや、奴隷としてこの地域に連れてこられて、色々あって3年間眠ってて、なんて成り行きの自分が知るはずはないか。

 でも詳しく聞いていい話なのかな。生き残りって言ってたし、そうとう重い話なのでは……?

 

「あぁ、エリューは知らないわよね。いいわよ別に気持ちの整理はついてるし」


 『ルニア村の神隠し』

 その名の通りルニア村という村で起こった、集団行方不明事件のことらしい。

 ルニア村はリィゼさんの故郷であり、彼女はそこで農業の手伝いをしながら独学で魔法を学び、時たま襲ってくる魔物を退けていたらしい。

 そんな彼女は深夜に突然、頭を鉄塊で押しつぶされている感覚に苛まれた。それは後でアルコン達と出会ったときに、幻術を無理やり抵抗レジストしたときに生じる痛みだと知るのだが。

 ともかく彼女は酷い痛みに苛まれながも、窓に齧りつくようにして、外の様子を伺った。

 そこで見た光景は、虚ろな目で馬車に乗り込み村人達とそれを先導する、目深にローブをかぶった邪教徒達であった。

 

 彼女は魔法への抵抗が高かったため、ただ一人神隠しに遭わず、それなりの戦闘力もあったため、自力で近隣の街へたどり着くことができた。

 それから彼女は冒険者として身を立てながら、この神隠しについて調べていた、そのときにアルコン達と出会ったということらしい。


「でもその邪教徒達がアギラである確証は無いんじゃないですか?」


 自分は素直な疑問を口にする。

 目深にローブを被っていたなら人相の判別は不可能なんじゃないのか?

 だけどもそんな疑問をアルコンさんは氷解させてくれた。


「あぁ、ちょっと言葉足らずだな。アイツは目立つ得物を持ってんだ」

「何よ? ……えぇそうね、奴の武器は四角い特大剣ね。それを背負ってるのは見たわ」


 一瞬剣呑な空気が流れる。リィゼさん自分の隣でレイピアに手をかけるのやめてくださいほんと。

 それにしても。


「特大剣? ただの大剣よりさらにおっきいんですか?」

「あぁ刃の長さがこんぐらいあるんだ。元々は処刑剣だったとかそんな話だ」


 アルコンさんが手を大きく広げる、成人男性がそうして見える長さは1mを優に超えて1m50cmといったところか。刃だけでその長さ。その上に刃先は長方形、そんな感じの包丁あるよね、たぶんあんなんだろう。

 そりゃ目立つね確かに。


 三人分の成り行きを聞いたところで、最後に残ったのはさっきから会話に口を挟まずにずっと本を呼んでいるオリヴィエさんだ。

 自分は隣のリィゼさんの更に向こう、長方形のテーブルの短い方の辺に椅子を寄せて、本を読みふけっている彼女に声をかえることにした。


「オリヴィエさんはどういう経緯でアルコンさん達と行動を共にしているんですか?」

「……かたき」


 え?

 なんかすっごい物騒なワードが聞こえたような……

 まっさかー、年上は年上だろうけどちっこいし、大人しそうなこの人からそんな言葉が口をついて出るわけが……


「あーオリヴィエは『鉄槌』のクーシェの娘なんだ……」


 『鉄槌』のクーシェといえば、さっき言ってた粛清部隊エリミネーターの隊長の名前だったはず。

 そしてオリヴィエさんはその『鉄槌』の娘さんということは……


「お母さんのかたきってことですか……?」

「そう」


 オリヴィエさんは短く、それだけ答えた。

 

 まぁ、そうだよね。仕事で敵対している邪教徒なんかにやられたのならまだ割り切ることができるけど、『鉄槌』のクーシェさんが亡くなった原因は裏切り・・・だ。

 奴に憎しみの矛先が向くのは何ら自然なことだろう。

 

 ────しかし、ということはこのパーティーは誰しもがアギラ・ダールとの確執を抱えているということか。

 なるほど『血盟』のメンバーに入るってもらうにはちょうどいいじゃないか。

 その炎が何を糧に燃え盛っているかなんて知らないけれど、あの盗賊団を地に落とすことができるなら何でもいい。発起人のリエーレさんだってその内側にある炎は少しは黒ずんでいるだろう。


「事情は分かりました、その上で一度質問をさせてもらってよろしいですか」


 自分は隣に座っているリィゼの顔を覗き込むようにして問いかける。


「な、なによ?」


 リィゼさんは分かりやすく狼狽えた。さっきの弧月のような鋭い目つきとは大違いだ。

 責められると弱いのかな?


「本当に『血盟』に入らずに、帰ってしまわれるのですか?」


 自分は少しだけ意地の悪い笑みを浮かべていたと思う。

 答えなんて分かりきった質問だ。

 リィゼさんは「う゛」となんだかどもった声を漏らし、少しばかり頬を紅潮させながら目線を泳がしている。

 大方自分の先程の発言を撤回するのがこっ恥ずかしいのだろう。

 

 それから彼女は「────っ」と喉を擦り上げるような声の後、意を決したように口を開いた。



「えぇ入ってやりますよ、何? その……『血盟』ってやつに! 入ればいいんでしょ!?」



 リィゼさんは自分が思い描いていたセリフを相違なく言ってくれる。

 うわーこの人煽り耐性ひっくいなぁ。


 それはおいといて、他の三人を見やると異議はないようだ。


「ふふ、ありがとうございます。こちらとしても血盟員が増えるには嬉しいです」

「あー! その営業スマイルやめて! すっごいバカにされてる感じがする! もういいわ、ほら! 酒よ酒持ってきて!」

「ふむ、お客様申し訳ありません。まだ酒場は営業時間外でございまして…………お客様自身も先刻そう認識しておられましたよね?」

「うがー!!」


 うんうんリィゼさんとは何だか仲良くやれそうだ。

 いやーこの人達も血盟員になったわけだし、近い内に自分と戦ってもらわないとなー

 あ、でも会場の設営や人の出入りなんかはリエーレさんがやってくれてたし、少なくとも帰ってくるまで待ったほうがいいかなぁ。

 

 ……なんか自分最近バトルジャンキーっぽくなってるような気がするなぁ。





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