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死神少女が生きてるだけ  作者: ゲパード
第一章 大鷲篇
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第十三話「はじめてのおるすばん」




「じゃあ私達はシュテロンの街に2、3日滞在するから、その間のことお願いね」

「まかせたぞー」

「はい任してください」


 自分たちはオルゼの街から発つリエーレさんらの馬車の見送りに来ていた。

 明日はラファロさんの命日らしく、妻と娘であるリエーレさんとソフィーちゃんは隣町へお墓参りに行くのだ。

 一年前乗合馬車で彼女達と出会ったときも、その用事でシュテロンの街に行った帰りだったんだよね。たしか。

 ちなみに今手配してもらった馬車は乗合馬車じゃなくて『夜明けのオーロラ亭』が商業組合とかなんとかに用意してもらった馬車らしい。さすがに懲りたみたいだ。万一とはいえあんな不運なイベントに遭遇したくないよねぇ。

 あと宿に泊ってる冒険者さんが護衛についてくれるみたいで、護衛代は格安!

 

「いってくるぜエリューちゃん!」

「リエーレさんの身の安全は保証するぜ!」

「あぁ、はいはい」


 護衛は以前些細な言い合いを仲裁して飲み比べ勝負にしてもらった強面さん二人組だ。

 この二人はやり手の冒険者さんだし血盟員でもあるので信用できる。

 ……ちょっと暑苦しいけど。


 というわけで自分とケイ君の二人にはイベント、はじめてのおるすばんが発生したというわけだ。







 朝早くにリエーレさんらが出立したので、時間はまだ朝方。『夜明けのオーロラ亭』前では定期市が催されていて、活気のいい声が飛び交っている。

 

 現在宿は馴染みの冒険者さんに番をお願いしてある。お客さんが来たら適当に引き止めておいてくれ、みたいな感じに指示してある。まぁたぶんこんな早朝には来ないでしょうってことで、少し市を見て回ることにした。

 野菜や果物などの食料品から武器やマジックアイテムなど実用的なものが多く、宝石や装飾品など観賞用途のものは全然見受けられなかった。

 やっぱりここにも『大鷲』の影響が出てるんだろうな。


「ケイ君なんか足りないものあったりする?」

「いえ、リエーレさんはそれを見込んで昨日の内に買い出しは済ましておいてくれてますよ。三日は持つって言ってました」

「そっかー。じゃあなんかテキトーに見てから宿に戻ろっか」


 そうしてキョロキョロと軒先を見て回る。

 この定期市はこの街の住人以外にも他方から来た商人さんなんかの姿も見られる。

 このような商人達が商う物、その中でも特にマジックアイテムは掘り出し物が多い、っていう認識だ。

 

「んー面白そうなものはないかな?」


 自分の戦闘スタイルは、大鎌によるカウンター寄りの変則的な戦法に、人一倍の量を誇る魔力による補助だ。

 というか自分は髪の爪も伸びなくなってるので、筋力なんかも上がらない可能性が高い。

 技術を磨くのはもちろん、魔法やらマジックアイテムなんかの外付けの支援は重要だ。


 それはそうと大鎌は両手でしっかりと保持しないといけない武器だから、片手が塞がるようなアイテムは使えないけど、指輪やブレスレット、ネックレスなんかの装飾品タイプならそつなく採用ができる、そこらへんを探してみよう。


「これってどんな指輪ですか?」


 自分はふと目に入ったとある指輪を取り上げて、商人さんに効果のほどを聞く。


「あぁ、それは悪魔除けの指輪でさぁ。道中凶悪な悪魔に襲われることだってあるでしょうし、いかがですか?」


 あーなんか触るとピリピリする。……あぁそういえば死神も悪魔の一種だったか。

 ……え? この程度なの? ほとんど意味なくない?

 すごく微妙な顔をしながら自分は大人しく指輪を戻した。


 他のものも色々見てみたけど、ごく小さい火を生み出したり、明かりになる指輪やら、かなりしょぼいものしかなくてがっかりした心持ちになった。

 自分の場合この程度なら魔法で代用できるからなぁ。


「ん? これ眼鏡ですか?」


 その中で自分は眼鏡を見つけた。

 赤いアンダーリムの眼鏡だ。よく見るとフレームには細かく魔法陣が刻まれているみたい。

 この世界でも絶対数は少ないとはいえ眼鏡の人はいることはいる。

 だから眼鏡自体も珍しくはないのだけど、こういうマジックアイテム屋さんに置いてあるのだから、何か特別なものなのかと勘ぐってしまう。


「それはとある宮廷魔術師がお使いになったといわれる眼鏡のレプリカですね。魔力の流れを視ることができるとされています」


 説明が伝聞系ばっかなんですけど。

 ほんとに大丈夫なの?

 魔力の流れが見える、か。自分に魔法を教えてくれた人はそれを当たり前にように語ってたけどなぁ。

 その宮廷魔術師さん、ほんとに宮廷魔術師なのかな?


「へぇ~とりあえずかけてみていいですか?」


 商人さんは渋る様子もなく了承してくれたので自分は眼鏡のテンプルを開いて、それをかける。

 鏡とかはないみたいだから、隣で興味深そうにマジックアイテムを眺めるケイ君に感想を求めた。


「どうどう? ケイ君?」

「似合ってますよ。エリューさん元々きれいですけど、その眼鏡着けるとどっちかというと可愛らしい感じがしますね」


 ちょっ! ケイ君さらっと歯の浮くようなセリフを言うね!

 自分はなんだかこっ恥ずかしくなって、ケイ君の頭をガシっと掴んで、うりうりと揺さぶる。


「な、なんですかエリューさん。やめ、やめてくださいよぉ。というか魔力が見えるって話なんじゃないんですか? お洒落用じゃないんでしょう?」


 あ、そうだった。

 改めてレンズ越しに市場の景色を見渡すと。度は入ってないみたいで、視界の隅っこにフレームが映り込む以外は何ら変わりはないみたい。

 んー? 魔力の流れが見える? 魔法とか使ってみたら分かるのかな? 

 

「ケイ君なんか適当な魔法使ってくれる?」

「あ、はい。りょーかいです。えぇぇと……」


 ケイ君は少し逡巡した。


「“水精のネロ”・“ささいな悪戯キャントリップ”」


 選ばれた魔法はほんとに初歩の初歩である、手の平で少量の水を躍らせる魔法だ。用途はほとんど無い。

 あーなんかうっすら見えるか? ケイ君が詠唱する度に、手の平に魔力が集約していくのが見える。

 まぁ本格的に魔法戦するときならつけててもいいかな。

 詠唱時点でどこに魔法が発動するか分かるし。

 一応買っとこう。まぁケイ君に可愛いって言われたしね、うん。


「これくださいますか?」


 商人さんに2000シュペーを渡して自分達は『夜明けのオーロラ亭』に戻った。







 宿に戻った。

 でも料理の仕込みはケイ君のお仕事で、自分はカウンターで暇を持てましていた。


「はぁー暇だー」


 誰もいないのはまずいし、カウンターにいないとね。

 朝に買った眼鏡はずっとかけている。折角買ったし。

 格好はウエイトレス姿じゃなく私服、ラフなシャツとホットパンツ。一年前、シュテロンの街で買ったのとはまた別のやつ。

 なんか女の子っぽい服装を自分で選んで着るのはちょっと躊躇いがあるんだよね。

 ウエイトレスの制服はある意味着させられてるから別なんだけど。


 一応、この服装でいるのは、お客さんにまだ酒場は営業してないよって知らせるためでもある。

 仮に自分がウエイトレス姿でカウンターに座ってたらそういう勘違いをするかもしれないからね。

 

 それから常連さんが何回か出入りしてたけど、なんかケイ君と大体おんなじニュアンスのことを言われた。

 眼鏡にあってるよーって。

 死神の力のせいで髪を切ったりすることがなくて、こういう社交辞令的なイベントは久しく一種の新鮮さすら感じる。


 それはさておき、さっきからこの眼鏡をかけて、いくつか魔法を試してみてる。

 

 この世界の魔法については、流石に学者や研究者じゃないから仔細までは分からないけど、声に載せた魔力で空間に魔法陣を描いているってのが概説らしい。

 だからよく目を凝らすと、声に乗った魔力が魔法陣を形づくっているのが見えなくもない。


「“火よフォティア”・“水よネロ”・“土よコーマ”・“風よアネモス”………………“眇たる魔象を成せキャントリップ


 壮大な詠唱をしても後ろに“キャントリップ”ってつければ、滅茶苦茶しょぼい魔法になる。

 役に立たない豆知識だと思ってたけど、まさか使うときが来るとは。

 自分の手の平で四属のエフェクトがうねって弾ける。綺麗だ。それだけだ。

 ちなみに自分は全属性の魔法に一応適正があるらしい。これは死神の力じゃなくて、実験体時代の調整の賜物だろう。今も体に刺青みたく刻まれている、いっそ芸術的な魔法陣も中々どうして捨てたもんじゃないなと思える。


「“炎よフロウガ”・“泉よピギ”・“大地よギー”・“大風よフルトゥナ”────“眇たる魔象を成せキャントリップ”」


 今度はもう一段すごいキャントリップ。いや所詮キャントリップだけど。

 眼鏡を通して視ると、手の平で四属性分の魔力がそれぞれぐっちゃぐっちゃに噛み合わさって、目が痛い。目眩ましくらいにになるかと思ったけど、眼鏡を外すとやっぱり綺麗なだけだこれ。

 《フレイムビロー》で作った炎の海とか見たら失明するんじゃないだろうか。この眼鏡。

 じゃあ次は更に凄いキャントリップだな。


「“焔よムルキベル”・海よテテュース────」


────カランッカランッ


 ドアを押し開けたときのベルの音が耳朶に響く。

 おっ、お客さんか。

 自分は詠唱を取りやめて、お客さんの応対に移る。

 入ってきたのは4人組の冒険者パーティーさんだった。

 珍しいことに男2女2で綺麗に半々だ。男比率が高いこの業界では稀なパーティーだろう。

 先頭の男の人がさっそくカウンターにとりついてきた。 碧眼を子どもみたいにキラキラさせながら。

 灰色の髪をしたその人は、見た目だいたい二十代後半くらいなので、なんだか少し面食らってしまう。

 


「おーお嬢ちゃん従業員かい? アイスサインくれ!」



 ………………アイスサインってなんだ?


 ……あぁ、もしかして血盟のお客さんなのでは?

 何か目がキラキラしてたのは、こういう秘密の合言葉とかに憧れてたとか?

 でも符合が間違ってるし、今は真夜中・・・じゃないんですけど……


 一応シャヴァリーさんが「冒険者の知り合いに血盟のことを教えた」って言ってたけど、この人達かなぁ……?

 あのときの会話劇を思い出そうとする。

 しまった名前を失念した。

 リエーレはちゃんと覚えてるんだろうけど、自分はそのときシャヴァリーさんと戦えることで頭がいっぱいだったからなぁ。

 どうしよう。とりあえず肉料理の方のアイスヴァイン出しとくか?

 って! まだ朝だからアイスヴァインも仕込みは今ケイ君がやってるとこだよ!

 出せないよ! 


「すみません。アイスヴァインはまだ仕込みが終わってなくて」


 自分はペコペコと平謝りしながらそう答えた。

 その灰髪の人は「え゛」っていう声を漏らす。

 見てられないと言った調子で後ろにいた女の人が前に出て来た。

 さらさらとしたクリーム色の髪をおろして、そのうちの一部を三つ編みにして頭の後ろで結いあげてる。草原の緑のような瞳が印象的だ。


「だから何なのそれアルコン? 宿屋の酒場なんてまだ営業してないわよほら」

 

 あ、はい、そのとおりです。まだ営業してないです。チェックインとかはできるけどね。

 酒場エリアは椅子がテーブルの上に上げられてて、お客さんはいない。

 あーでも逆に言えばここで血盟のことをぶっちゃけて喋っても問題ないのか? この人らが完全に部外者だったらまずいけど、少しカマかけすればいいかな?

 ちなみに「掃除してようか?」 なんてケイ君に聞いたら「エリューさん一人でやらせると散らかしそうですね……」なんて、やんわりと大人しくしてて言われた。悲しい。

 閑話休題。

 その女性は不服そうな灰髪の人、確かアルコンって呼ばれてたっけ?その人の手を掴んでカウンターから引き剥がそうとして、抵抗されてる。


「ちげーよ! ここでアイスサインを頼むと、頼むと……どうなるんだっけ?」


 ふむ、血盟のお客さんっぽいね。シャヴァリーさんの名前を出して反応があればご案内するかな。

 これじゃ白昼のオーロラ血盟になっちゃうけど。


「あーお客さまはもしかしてシャヴァリー・オランフォードという名前に心当たりがあったり……しないですか?」

「お、それだそれ。シャヴァリーから紹介されたんだ。俺たちも『大鷲』の討伐に協力しに来たんだよ」


 おー予想は当たってたか。

 マニュアル対応しなくてよかった。


「なにそれ聞いてない。どういうこと?」

「僕も聞いてないですよそれ、まぁいいですけど」

「わたしも……あ、盗賊退治依頼受けたとは聞いた……かも」


 この人──アルコンさん、PTメンバーに事情ぐらい話そうよ。

 3人とも血盟について初耳っぽいよ?

 

 まぁ何はともあれ血盟員が増えたぞ。

 シャヴァリーさんが「実力は保証するって」言ってたし、これは楽しみかも。


 でもなんか仲悪そう……

 リエーレさんが帰ってくるまでの3日間、ちゃんと切り盛りしないといけないのにもう暗雲が……

 トラブルとか起こさないでくれるといいなー





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