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死神少女が生きてるだけ  作者: ゲパード
プロローグ
1/75

第一話「少女の最期」

 何もこんな状況で前世を記憶を思い出すことはないだろう。

 どんなって? 

 地下室で魔法陣の中心に供えられた状態でだ。


 これはどう考えても生贄だろう。

 同時に今生の記憶を思い返す。

 

 自分の今の名前はエリューという。生まれてからおそらく十四年程度の少女だ。

 黒い髪のわりかしちんまい子どもで、目鼻立ちはそれなりだった。

 この少女の人生はそれはもう悲惨なものだった。

 

 まず『私』はそれなりに裕福な家に生まれて、とりわけ魔法の才能があった。

 十歳のときに、故郷の街で妹と遊んでいたところを攫われた。

 それからは酷い有様だった。

 奴隷に身を落とした『私』は、魔法の才能があったことが災いしたのか、非道な魔法使いへと売り払われた。

 始まった地獄の日々。

 『私』の体は存分に活用された。魔法で体の至る所を弄り回され、実験台になって、そして魔法生物の苗床になった。

 そうしてエリューは完全に壊れてしまっていた。


 だから『俺』が出てきた。

 前世の『俺』はどうやら男らしかった。魔法なんてものがない平和な世界で生きて、そして不幸な事故で命を落として、この世界に生を受けた。

 前世の名前は覚えているけど、今この少女の姿でそれを名乗って違和感しかないので、あえて言うこともない。

 エリューという人格が完全に壊れきったから、前世の『俺』なんていう人格が出て来てしまったんだろう。

 その証拠にエリューを所有していた魔法使いは、壊れた彼女を用済みとして最期まで使いきろうとしたみたいだ。

 たぶん『俺』の下に敷かれているのは悪魔の召喚とかそういう生贄を要求する類の魔法なんだろう。


 今もエリューは部屋の隅っこで縮こまる子どものように、目立たないけれども確かにこの体の中にいる。

 でも彼女は身動ぎ一つせずにあるがままを受け入れていた。

 

 『俺』はそんなの絶対嫌だ!

 エリューの受けた悲劇はそれはもうおぞましいものだったけど、それを本のページを見るように知り得た『俺』はそれを他人事のように感じていた。

 

 エリューという体の中で『俺』と『私』が混ざり合わなかったからこそ、『俺』は強く死にたくないと思ったんだ。


「うぁ……あ……」


 とりあえず何かしなくちゃいけない。けれど長い間犯され続けたエリューの体は全くもってままならなかった。

 いや違う、これはたぶん魔法的な何かによって床に磔にされてるんだ。

 だから出来たこととといえばか細いうめき声を喉から吐き出したぐらいだった。

 声は随分高い、そりゃそうか『俺』は今十四歳の女の子の体をしてるんだから。


 今まで思考に集中していて気づかなかってけど、耳からは朗々とした詠唱みたいなものが入り込んでくる。たぶんこれが魔法の詠唱なんだろう。これが完成する前に何かをしないと……


 覚えてる限り全ての知識を総動員して、この状況をどうにかしようと試みた。

 『俺』のゲームやら漫画やらでの知識やちょっと聞きかじった程度の科学知識。

 『私』が十余年間で見聞きした魔法の知識。

 それらを総動員してみる。


 それで何か見つかったかと言えば、答えはノーだった。

 まな板の上の魚が再び海に帰る方法なんてあるはずない。


 気がついたら朗々とした詠唱の声は止んでいた。


 俺は断頭台に首を差し出す罪人の心持ちで、その絶望を味わう。


 はぁ、なんだよ。なんでこんなときに前世の記憶なんか思い出させるんだ。

 どうしようもないじゃないか。


 そして『俺』の体から何かが失われていった。

 力が抜けていく感覚。

 『俺』はこれを知ってる。なんせ二度目だからな。

 これが死ぬ感覚だ。

 そこでやけに冷静な『俺』はこの感覚に抗ってみることにした。

 都度二度目で、もしかしたらという希望的観測だったし、このまま何もしないのは悔しいという気持ちもあった。




 そんな風にささやかな抵抗を試みていると、気づかぬうちに俺の真上に何やら真っ黒なモヤみたいなのが出来ていた。それは瞬きする間にボロボロの黒い布のような物体に変わった。


 これはたぶん『俺』の命を使って召喚されたモノだろう。

 これが見えてるってことは、どうやらささやかな抵抗は功を奏したってことらしい。

 つっても激しく衰弱してて、つつかれた拍子に逝ってしまいそうな感じだけど。

 でも折角ならと『俺』は召喚されたモノをまじまじと観察してみた。


 黒い布みたいなのと、その内側で人間型なら足が伸びてるはずのところは真っ暗な闇が広がっていた。

 真下からなので全景がよくわからなかったが、一つ決定的なトレードマークが視界に入った。


 大鎌だ。

 

 人間の首なんてあっさりと刈り飛ばしてしまいそうな、それはもう巨大な鎌だ。

 それを見た上で黒い布のようなものはたぶんそいつが来ている外套だろう。

 そしてたぶん顔はドクロか、それとも赤い点が二つ浮いていてそれが目になっているか、おおかたそんなのだろう。


 これは死神に違いない。

 エリューの命を使って呼び出されたものだろう。


 俺は圧倒的な倦怠感に苛まれながらも真上に要る存在の動向を伺った。


 こいつはどうやら死神くさいが、呼びだした魔法は悪魔の召喚魔法のようなものらしかった。

 悪魔召喚は狡猾な悪魔と安全に契約を行うために、召喚と結界の両方を同時に行うことがほとんど。それは前世の知識でもそうだし、この世界での常識でもそうだった。

 今『俺』と死神を取り巻く魔法陣にもそういう結界機能があるらしく、死神の鎌はその結界に触れてはバチッという音ともに弾かれている。

 どうにもここから出るなんて出来そうもない。


 はぁ、死にたくないなぁ……

 俺はぼんやりとそう思いながら、真下に敷かれた魔法陣をチラリと見た。


 いや待てよ。


 この世界において魔法は呪文詠唱で行われる。エリューの十余年の記憶において見てきた魔法はそのほとんどが詠唱によって為っていて、魔法陣を用いるのは召喚に代表される高度な魔法のみらしい。

 事実魔法陣を用いた大魔法なんてエリューはここで魔法使いの奴隷になってからしか見たことがないし、それも二三回程度だ。

 

 つまりこの世界において魔法陣は精密機械みたいなものだ。

 悪戯に魔力を流せばどうなるだろうか。

 幸い『俺』の今の体は魔力には恵まれていたし、色々と体を弄くられた結果魔法関連の適正はかなり高くなってる。だから奴隷にされた挙句生贄になってるんだろうが。


 エリューは生きる気力を完全に失っている。それがあちらさんの認識のはずだ。

 でも『俺』が出て来た。それが誤算。


 さて、じゃあ魔力を流し込んでみようか。

 何が起こるかな!


 『俺』はその様子を見届けたたかったけれど、魔力を注ぐなんて体力を使うことをしたから、途端に体中から力が抜けていって、当たり前のように瞼が落ちていった。


 

 

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