ああ、死んだと思ったら
ああ、終わったと思った瞬間、世界が反転した
気が付くと真っ白な世界にフワフワと浮いていた
ああ、私....透けてると手を翳す
思えば録でもない人生だった
まぁ、私自身録でもなかった
何度人生やり直し出来たらと思った事か
まぁ、やり直すなら産まれる瞬間からやり直したい
まぁ、死んで霊体となった今となってはどうでもいいけど
死んだらどうなるんだろう?生まれ変わりとか有るんだろうか?それともあの世とかが有るんだろうか?
まぁ、録でもない私に待ってるのは録でもない事だろうけど
どの位録でもないかと言うと最悪を通り越して矯正しても改心するかどうか微妙な位に録でもない
その録でもない本人が言うのだから間違いない
世の中の為に死んだ方が良いと思える位には録でもないんだ
でも、死後の世界って味気ない
まぁ、運が良い事に痛みも無く死ねた事はラッキーだったのかも知れない
録でもない私は録でもない死に方しか残って無いだろうと思ったから
何だが色々考えるのも疲れた
一生このままフワフワと浮かんだままなのだろうか?
一生のこと消えてしまったら何も考えなくて良いのかも知れない
でも、一つだけ
あの子はどうなったんだろう?
それだけが心残りかな
願わくば私と言う人生
やり直し出来たら
次の人生......
と思った所で真っ黒い闇に一気に飲み込まれた
体中が痛くて痛くて、息苦しい中身動きすら取れなくなった
どの位時間が過ぎただろう突然何かに押し出される様に身体が動く。それと同時に強い圧迫から解放されると共に強すぎる光りが襲い思わず瞼をギュウと閉じる
そして思わず叫んでしまう
「オッギャぁぁぁ(眩しっ!)」
何か掴むものと手足をばたつかせると騒がしい声が耳に飛び込んで来る
「生まれましたよ!可愛らしい女の子ですよ!」
おめでとうございますと声が掛かり、何だ何だと目を開くより先に温かなお湯で全身を洗われる。それがまた気持ち良くてウットリとする。
「はい綺麗になりましたよ、お母さん」
そう言ってフワリと優しく乗せられた場所は柔らかくて気持ち良くて再びウットリとまどろむ。そうするとウトウトと睡魔が襲う。それに何だが凄く良い匂いだし.......と私は睡魔を貪る
「おやすみ、私の可愛い赤ちゃん」
そう言って額に優しく誰かが触れた気がした
意識が浮上し、瞼を開けるも私の視界は何も見えなかった。見えないと言うより霞んで映るのだ。霧が掛かった様に何もかもがぼんやりと映る。
そんな中、声が掛かる
「あら、起きたのね」
フワリと身体が持ち上げられる。それはもう大事そうに、そぉっと抱えられる私。優しく話し掛けられ、その人物をジーッと凝視する。まぁ、凝視してもぼんやりとして見えないんだけどね
「まぁ、じっと見てるわ......もうすぐパパが来ますからね」
そぉっと頬を撫でられ思わずビクリとする
パパっ!?と驚愕する私を尻目にドアが開く音が響き渡る
「あら、来るのは一時間後だって聞いたのに、よっぽど貴女に会いたかったのね」
そう言ってフフフと笑う声がすぐ近くで囁かれる
「そうだよ、俺と君の可愛い赤ちゃんに会いたくて飛んで来たんだよ」
目の前に大きな影がさし、顔を覗かれてる事が分かる
どうやら覗いてるのは大きな男の人で低い声なのに優しく話し掛けられてるのが分かる
「ああ、目元が俺にそっくりだ」
「まぁっ!口元は私に似てるわ!」
幸せそうに話す二人の男女に見えない目をパッチリとする
どうやら私は赤子らしく手を伸ばし、必死で見て見るもぼんやりと見えるだけで見えない。勿論幸せそうに話す男女もぼんやりと見える
「抱っこしてみる?」
「したいけど......何だが怖いな」
どうやら仲が良い夫婦の様で私の薄汚れた心でもポォと暖かくなる
私の両親もこんなんだったらよかったなぁと思いながら頬を擦り寄せる
そぉっとそぉっと男性に抱っこされジッと見つめる
「笑った」
と呟かれ、自分が微笑んでた事に気付く
「小さいな」と男性の声が響き、手の平に触れられる少し大きな指先をギュウと握り締める
すると落ち着くのはどうしてだろう....
眠気がユックリと私を染めて行くと同時に夫婦の柔らかな声が掛かる
「この子の名前は優愛に決めた」
「ええ、そうね前から言ってた名前ね......優しく愛に満ちた子に育ちます様にって......アナタが決めた名前ね.....」
その名前を聞いた瞬間、一気に浮上する私の思考
その名前は私の元々の名前
ああ、どうやら私は.......また私に生まれたのかも知れない
でも、たまたま同じ名前を付けられただけなのかも知れない
少しも優しく無かった一度目の私
愛に満ちた子何かじゃなかったし、最低最悪だった
私は両親のこんな優しい声なんて聞いた事無い
こんな仲の良い姿なんて........知らないっ.....
その日から私のボンヤリと霞む世界が暫く続く
ボンヤリとした世界は愛で満ちていた
私の全く知らない世界
優しく話し掛けられ、柔らかく触れられ、宝物の様に扱われる日々
だから私は.......私に何て生まれ変わって無い
確かに人生やり直せるならって何度も考えたけど
こんな両親など知らない私は、今のこの現状が信じられない
愛に溢れた今の生活に戸惑うって言えば良いのかも知れない
寝てしまおうと逃げに入ったのはどうしてだかわからない
逃げ癖が付いてるからなのかも知れない
眠る私の頬を両親がソッと撫でて、可愛い子って囁くからゾゾゾと背中に寒いモノが駆け巡る
柔らかな布を掛けられ部屋を出て行く両親
ホッと息を吐き出し「あうぅ(嘘だ)」と呟くも「あう」とか「ううぅ....」と言葉にならない声しか出ない
シーンと静まり返る室内に赤子特有の声だけが響き渡る
「本当だよ......君はもう一度君に生まれ変わったんだよ」
すると突然第三者の声が掛かる
幼い子供の声にビックリし、声を上げてしまう私
「ギャッ」
すると私の声が聞こえたのかパタパタパタと足音が近づいて来る
どうやら泣き出したと両親が勘違いしたのか勢いよく開かれる扉の音に再び身体を硬直させる
「アナタっ!もう!優愛がビックリしちゃうじゃない!」
「あ、ああごめん......優愛、驚かせたかな?ごめんよ」
優しく抱き寄せられ、ホッと息を吐き出した
先程の声は何だったんだろうと頭を悩ませるも、襲い来る眠気に逆らう気力を奪われる
背中をポンポンと優しく叩かれ私は深い夢の中へ旅立つ
赤子は良く眠るモノでこの時の私は殆どを寝て過ごした
でも、頻繁に起きる私に両親は寝不足になりながらも優しさは変わらない
どんなに泣こうが惜しまない愛情に戸惑いながらも胸がホッコリと温まる
その事にやはり私の両親が前の両親と結び付かなくて私は考えを放棄した
私の悪い癖は疲れたり、飽きたりすると考えを放棄する事だったと思い出す
それと直ぐに逃げ出す癖も同時に思い出す
やはり一度死んだ位じゃ性格は変わらないらしい