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ロリータ・ダンディズム  作者: 香茶
第二章 サンミュールに集う
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第十三話 エレナの抱負

 少しエレナについて話そう。俺が再び意識を覚醒してから、エレナの生活は激変し…といいたいところだが、しかしあまり変わらなかった。表面的に見れば俺が目覚めたところでエレナの外面がなにか変わるわけでもないし、ついでに言えば勘弁して欲しいことに独り言が増えてまたゴースト騒ぎが再熱したくらいだった。


 要は暇だった。やることがねぇ。軽い軟禁状態で外に行くのも厳しかった。そこで俺達が目をつけたのが魔法だった。俺はどちらかと言えば銃は剣よりも…ってくらいだが、目の前に魔法なるものがあって手を出さない奴はなかなかいないだろう。エレナは魔法に関して才能があるらしく、なんでもあの事件の時は少年を助けるために魔法を駆使して一人なんとかしたとかどうとか。じゃあ早速と俺も基礎を習ってやってみたんだが…。


 はっきり言おう。俺は全くこれっぽっちも魔法に関して才能がなかった。なんでも、この世界では魂に力…マナが宿り、それを駆使して発動するらしい。理屈はわからないが、俺はこの世界に輪廻転生したわけでもないし、そこら辺が関わっているんだろう。


 誰にでも向いてないことはある。俺はすっぱりと魔法行使を諦めた。だからといって何もできないわけじゃない。俺とエレナは一冊で土地まるごと家を買えるようなムダに高い魔導書をなんとかねだり、そして二人でああだこうだと騒ぎながら魔法の運用方法や、適切な使い方、そういう諸々を数年間もの時間を持て余して勧めた結果。どうやらエレナはかなりの腕前になったらしい。


 エレナの年齢が二桁になる頃には流石に様々な教育が始まり、その中には魔法基礎教育もあったが、あまりのエレナの腕前のせいか「ゴースト憑きに教えることなど無いようだ」と言って出て行ってしまった。二人してポカンと呆けたあと、腹を抱えるほど大笑いした。あれは痛快だった。


 というわけでエレナは魔法に関して非常に自信がある。魔法試験の最中でドヤ顔を晒しながら仁王立ちする程度にはある。元来人馴れしていないためか引っ込み思案なところもあるが、魔法となると話が異なるようだった。加えて、先にサンミュールに来たはずの弟ロシューダの姿が見えない。それもそのはずで、あいつは魔法が得意じゃあ無いのだ。魔法講義を受けるつもりもないのだろう。エレナとしては自由を手にした心地なんだろう。


 しかもエレナはちょっと女王様気質なところがある。上に立つことに憧れているのだ。前になんで昔城下に行ったとき、同年代の友だちができなかったのか聞いたことがあった。するとエレナはもじもじとしながら「だってあいつら悪いことするとゴーストエレナが襲ってくるだなんて言ってたんだもの、だから躾けてやったの」なんてのたまいやがったのだ。SかMで言えば、確実にSだ。




「どうかしら?これでおしまい?」


「あっ、ああ。これで終わりだ。次!ペッシ・アーカナルド!」


 余程予想外だったのか、試験官の中年男は吃りながら、それでもなんとか調子を取り戻して次の生徒の名を読み上げた。取り敢えずデビューとしてはなかなか文句ない。周りの生徒もざわざわとしきりにエレナについて話している。これでただのゴースト憑きからなかなかやるゴースト憑きぐらいに評価は変わっただろう。立場的にもこれで安々といじめられることもないと思いたいな。




 所変わってここは先の講堂の裏道である。周囲に人影はなく、イチョウにも似た樹木が点々と道脇に植えられている。エレナの試験が終了してすぐ俺たちはここに来た。というのもエレナが人混みに慣れていないというのと、流石に好奇の目線に耐えれなかったというのに加えて、単純に人前だと俺と話しにくいという理由があったのだ。


『驚いてたなぁ。これなら試験に落ちるなんてことはないだろ』


「さぁ。少なくともあのカイム・リューベックとかいう男は…私以上だったわ」


 エレナと恐らく同格らしいのが一人、そしてそれ以上だと思われたのはカイム・リューベックだった。あの端正な顔つきと蒼髪になんとなく見覚えがあるんだが、気のせいだろうか。それにしてもエレナ以上の魔法と一言にいても、その差はかなり開いているように感じるほどだった。ありゃあ強い。


『悔しいのか?』


「全然…すぐ追いついてやるわ」


 それは悔しいってことじゃないのかよ。やっぱエレナは魔法にだけはどこか意地がある。


『あとはスナレビーとかいうやつか。あいつ憎々しげにこっち見てたなぁ』


 たしかマレー・スナレビーか。少しそばかす目立つメガネ少年だった。ありゃあ多分エレナと同じくらい力量はあるな。終始エレナを睨みつけていたから相当悔しかったんだろう。しかしエレナ以上のカイムに対して執着していないようだった。カイムとは知人なのかもなぁ。


「ふん。私みたいなのが並び立つのが嫌なんでしょ。いい気味だわ」


 私みたいのが、なんて語って欲しくはないが、この首国サンミュールじゃあ間違った話じゃないだろう。知り合いの一人もいないのがまずやばい。俺ですら中高にあがるころ知人の一人二人はいたぞ!


『口に気をつけろよー。今んとこ味方はいないわけだからな』


「上等よ。別に味方なんて欲しくないわ。マニーだって言ってたじゃない。孤独になっても己の真実と向き合って進めって」


 たしかに、俺は言った。だがそれは無駄に敵を作れって意味じゃ決して無いんだが…。ただ実際味方というか友人をあまり作らなかった俺が言えることじゃないかもしれない。エレナのこの孤立思想をなくすにはまず友達作りだな。


 と、その時微かに石床を歩く靴音が微かに聞こえてきた。


『おっと、誰か来るぞ』




「あんた。あのゴーストエレナだってな」


「なに…?」


 やってきたのはあのマレー・スナレビー。小柄な身長に野暮ったいでかメガネ、そして鼻頭のそばかすが目立つ少年だった。制服が少しだぼだぼだ。合うサイズが無かったんだろう。スナレビーは腰に両手を当て、その小柄な体に似合わずふんぞり返って続けた。


「さっきの試験でのあれは…ゴーストの力を使ったのか?よく我が国の権威たるこの学園でそんな卑怯な手をとれるもんだ」


「…どういう意味、かしら?」


 エレナは伏し目がちに言った。引きこもり生活が長かったからか、エレナはこういう明らかな敵視の態度が苦手だ。せめてこんな可愛らし少年相手にはしゃんとして欲しいもんだが、こればっかりは慣れるしかないかもしれない。この学園生活で変わって欲しいと願うエレナの良くないところだな。


「どうやったかしらないが、あれはお前みたいな馬の骨が安々とできるような技量じゃない。いいか。つまり、何か不正を行ったってことだ。そもそもゴーストエレナが魔法に長けているという話も聞いたことがない。それが僕達スナレビーの情報網をもってしても得難い情報だということがあると思うか?」


 いや、知らねぇよ…といいたいが、なるほど。こいつはどうもプライドの高い奴らしい。なんとなく理解はしていたが、どうやら各国の王族や旧貴族、そして貴族達は交流が盛んらしく、どうもある程度誰がどういうやつかくらいは知れ渡っているようだ。最初から薄々感じていた疎外感は多分これだろう。うん。引きこもりすぎたな。そういや魔法に関しても部外者の前で使ったことなんて皆無だったし、社交界なんてものに出た記憶もないのだ。そりゃ馬の骨扱いも納得かもしれん。


「もう一度試験を受けるんだ。勿論不正はなしだ。お前に貴族としての矜持があるなら、自分の力だけでやってみるんだな」


「そんなもの…証明しようがないわ。不正かどうかだなんて」


 エレナはおどおどと後ずさる。実際、ゴースト?である俺が力を貸しているかどうかなんて外からじゃわからないだろうし、所謂悪魔の証明みたいなもんだ。俺は一切魔法は使えないがな!いやーしかし初日でこんな形勢に陥るのは見ていられない。


『ちょっと変わってくれないか』


 俺とエレナの精神はすぐに入れ替わることができる。以外に便利なのがものをうっかり落とした時とかで、瞬時に俺が入れ替わることでキャッチできたりする。大道芸人でも目指そうか。案外ビックリ人間の類でも通用するかもしれない。


 目の前のスナレビーからすれば、既に俺とエレナが入れ替わったことなんてわからないだろう。俺は少し姿勢を正し、スナレビーを正面から見つめた。それにしてもこいつエレナと身長同じなのか。


「なぁ、それは置いといて。貴族の矜持を語るなら、噂なんてくだらないものよりも自分で見たものを信じな。もし一番に立ちたいっていうなら、そもそも私なんか気にしている暇はないだろ?カイム・リューベックがいるしな」


「なっ…。違う!俺はっ」


 カイム・リューベックの名が出た途端、スナレビーは酷く狼狽し、体勢を崩した。当たり前だが何かしら因縁か何かあるらしい。


「まぁ応援はするぜ。嫌いじゃないんだ。上を目指そうってやつは」


 スナレビーは顔を赤くして、再び左手を腰に当て、右手でびしりと俺を指差した。


「ふ、ふん…。いいだろう。どうせ君のことはいずれわかる!そしてすぐに実力の差を思い知らせてやるからな!」


 そう捨て台詞を吐いてスナレビーは走り去る。うむ。向上心ある若き男子って感じで嫌いじゃない。むしろ貴族の中じゃ随分とまともそうな奴じゃないか。


『はぁ、疲れたわ』


「可愛いもんじゃねぇか。あいつきっと根は悪くないぜ。意外とああいうやつから友だちになれるかもしれないな」


『どうかしら…』


 エレナは関わりたくないといった雰囲気を隠さず、疲労感を露わにする。年寄り臭いぞ。


「まぁこういうことは今後幾らでもあるわけだ。どうするよ。一応目標とか、指針みたいなものを決めたほうがいいんじゃねぇか?」


『そう言われても私は特になにもないわよ?魔法を勉強することと…お父様に言われたように悪評を払拭することくらいかしら』


「まぁそれは重要だが、ほらあるだろ。友だち百人できるかな?とかな」


『えー』


「えーじゃない。あくまで例だ、例。」


『じゃあ…、卒業するまでに腰巾着をたくさん作るわ』


「え、えー…」


作者多忙につき、次回は水曜日か木曜日投稿になります。


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