ヒ ト リ
---------ねぇ、こんな噂知ってる?
え?なになに?どんな噂?
うんとね、この学校って、前はお墓だったんだって。
へぇー、そうなんだ。
それでね、夜中にたびたび出るんだって!
え?出るって、まさか......
そのまさか!幽霊が今でも夜中に出るんだって!!
じゃあ、忘れ物とかできないね!
そうだねー。
そんな話を、クラスメイトの女子が話していた。
全く、どこからそんな話が出てきたのか、甚だ疑問である。信憑性の欠片もない話をどうしてこうも信じることが出来るのであろうか。
その時は、俺はそう思っていた。その時は。
そんな噂話なんてとっくに忘れていたある日、俺は授業中寝ていたせいで宿題のプリントを学校に忘れてしまった。
気づいたのは夜10時。まだ学校は空いてるだろうか.....。
そう思いながらも学校に来た俺は、思わずほっとした。
偶然外に出ていた警備員さんと遭遇し、中に入れてもらえたのだ。
誰もいない夜の学校に、2つの足音が響く。
昼間の喧騒とは打って変わり、異様に不気味だった。
しばらく歩くと、警備員さんが話しかけてきた。
「知っていますか?」
「何をでしょうか」
「この学校は、以前お墓だったことを」
「それって、本当の話だったんですか?」
2人の歩く速度は変わらない。ただひたすらに、静かな学校に足音が響く。
変わらぬ調子で、警備員さんは話す。
「こんな仕事についてると、否が応でも見えてしまいましてね。
あなたには見えませんか?」
「俺には、そういう類いの性質は持ってないので」
「そうですか。あなたはそうだったんですね」
........なにか、話が噛み合ってないような気がするのは気のせいだろうか。
俺の背中に、言いよれぬ恐怖感が迫ってくる。
俺のことなどまるで気にしていないように、警備員さんは話し続ける。
「そうなんですか。いやはやこれは年配の方に失礼を申しました」
「さぞや大変だったと伺います。えぇ、今はすっかり平和ですよ」
「そんなことまであったのですか。心に響きますね」
立て続けに1人で喋り出す。
恐怖を感じた俺は、即座に反転して来た道を逃げようとする。
が。
「オバアサンノハナシハサイゴマデキクモノダロゥ?」
肩を警備員さんにつかまれた俺は、確かに見た。
目が無く空洞になり、真っ赤に染まったお婆さんが、警備員さんの背後にいるのを。
俺は警備員さんの手を振りほどき、一目散に駆け出した。
しかし、いくら走っても出口が見えてこない。思えば、警備員さんと歩いている時も、かなりの時間かかっていた。
なんとか逃げ出そうと、窓ガラスに駆け寄る。
しかし普段はすぐ開くはずの鍵が、錆び付いているように開かない。
そこをよく見ていると、たくさんの赤い手が、鍵を締めていた。
このままでは開かないと判断した俺は、屋上に向かうべく階段を駆け上がった。
屋上に辿り着いた俺は、夜の風に揺れていた。
上から各教室の窓を見ると、いづれも赤い手が張り付いている。
するとその時、足音が扉のすぐ近くから聞こえてきた。
一歩一歩、恐怖を煽るように上がってくる。
俺は思わず後ずさる。しかしすぐに柵にぶつかってしまった。
やがて、扉が開かれる。そこから出てきたのは--------------
-------そこで目が覚めた。
夢だったのか.........そう思ったが、俺の肩にはしっかりと赤色の手形が着いていた。
その日は学校を休み、近くの神社に行った。
神社についた俺は、神主さんを探す。
すると、
「来るなぁ!この死に損ないがぁ!!」
俺を睨みつけて神主さんが怒鳴った。
俺はどうすればいいか分からず、その場で待機していると、神主さんはお供を唱え始めた。
俺は手を合わせてひたすらに、出ていけ!と念じ続けた。
どれくらいそうしていただろうか。
神主さんに肩を叩かれた俺は、思わずその場に座り込んだ。
神主さんに神社でゆっくり休めと言われ、肩を見てみると朝の血痕は消えていた。
しばらく休んでいると、神主さんがやってきた。
神主さんによると、あれはかなり危ないヤツらしい。さっきのも、追い払っただけで成仏してはいないのだそうだ。
その後神主さんに怒られ、最後にこう言われた。
「あんたは常に誰かに見られている。しかも、大勢の人にだ」
神主さんに感謝し、俺は家に帰る。
見られているというのは少し見当がついている。
------------そう、この話を読んでいるあなただ。