装備は見た目も大事
「到着!」
フレアに連れられて、中々立派な集落に連れられた賢治。
広場では市が開かれており、人々の声でにぎわいを見せていた。
「ここが、村の中心部なのか?村って言うよりかは……街じゃないか?この大きさは」
「まぁな。規模だけで言うと、おじさんの言う通り街とそう変わりはしないかな」
立ち並ぶ家々は煉瓦で建てられており、ひときわ高い建物には十字架が掲げられている。教会なのだろう。
他にも、ドーム型の大きな建造物も見受けられた。
例えるなら、中世ヨーロッパの町並み。しかし、どこか近代的な様式も混ざり合っており、大変特殊な町並みである。
「ところで、おじさんは違う世界から連れてこられたって言ってたよな?」
「ん?あぁ、そうだが」
二人は、歩きながら会話を続ける。
「私の勘だけどさ。おじさんは意味もなくこの世界に連れてこられたわけじゃないんじゃない?」
「どういう事だ?」
「だからさ。何かしらの目的があって、連れてこられたんじゃないかって思うんだよ」
「目的だって?じゃあ何か?その目的とやらを俺が達成できれば晴れて、無事に元の世界へと帰れるってことか?」
「そういうこと」
「……どうだろうなぁ」
賢治は、渋い顔をしながら腕を組み直す。
「実はさ。この世界に流れついた異世界の人間が、無事に元の世界へと帰ることが出来たって話を耳にしたことがあるんだよ」
「何だと!?」
フレアに食い入るかのように顔を近づける賢治。
「まぁ、あくまで噂何だけどな。確か、その噂だと……その人間はこの世界を旅して、行く先々で悪いモンスターを倒して回ってたらしい。そんで、魔王と呼ばれる一番強いモンスターを倒したと同時に、その人間は姿を消し、元の世界へとめでたく戻って行った……らしいよ?」
大分アバウトに説明を受けた賢治だったが、そんな些細なことは構っていられない。
賢治の頭には、元の世界へと戻った人間がいる。そのことで頭がいっぱいだった。
「つまり……俺もモンスターを倒していけば、帰るための手掛かりを見つけることができるというわけか……っ!!!」
右こぶしを力強く握りしめる賢治。その目には、希望の光が差し込まれていた。
「いや、おじさんはどうか分からんよ?そもそも、この話も嘘かもしれないし」
フレアの言葉は、あいにく今の賢治の耳には届いていないようだ。
「うぉぉぉおおおおおお!!!俺はやるぞ!モンスターでも何でも倒して、俺は家に帰るんだぁあああ!!!」
「ちょっ……!?やめろっておっさん!こんな道の真ん中で大声で叫ぶなよ!人が見てんだぞ!?恥ずかしいだろうが!!」
フレアの言う通り、何事かと思う人たちがじろじろと二人に目を向けていた。
「俺はやるぞぉぉぉおおおお!!!母さーーーーーーーんっっ!!!!!」
「ちょっ……!」
フレアは顔を真っ赤にして賢治を静止させる。しかし、一方の賢治は気分が高まりすぎて歯止めが効かない。
ここで、フレアが賢治に取った行動はいままでと同じだ。
「黙れって言ってんだよ!このクソ野郎がぁああああああ!!!!」
「ふごぉぉぉおおおおっっっ!?!?!?!」
みぞおちに一発入れられ、賢治はその場に沈んだ。
辺りは、しばらくの静寂を手に入れたのだった。
しばらくして、
……それで、話を変えるけどさぁ」
フレアが回復した賢治に話を続ける。
「あぁ、何だい?」
はにかんだ笑顔で賢治が振り返る。
「いや、そんな足震えたままかっこつけられてもリアクションに困るんだけどさ。実は、ただこの村を紹介するためにおじさんを連れてきたわけじゃないんだよ」
「ほう?そいつはまさに、寝耳に水DANA☆」
「ふんっ!」
「ふげっ!?」
賢治の頬をビンタするフレア。賢治は鼻血を吹きだしてその場に倒れる。
「知って欲しい基本的な情報を教えようと思って連れてきたんだけどさ」
「……はい」
賢治は鼻にティッシュを詰めながら、大人しくフレアの話に耳を傾ける。
「モンスターを倒すって言っても、装備をきちんとしなくちゃ話にならない。だから、装備について説明しようと思ってさ」
「装備?盾とか、鎧とか?」
「そう。でも、そう言った防具に関わらず、帽子とか下着なども装備の対象になるんだよ」
「???」
首を傾げる賢治に、フレアは得意そうに言葉をつづける。
「例えばおじさんのその服、それじゃあ全然防御力がないんだよ」
「ん?ぼ、防御力?」
何を言っているんだ、この子は。
「あそこに、盾のマークの看板が立ってる店があるだろ?」
「あぁ、あるな」
向いにある、中々立派な外観をした店を指さす。
「あそこでは、鎧や兜などの防具が売ってるんだよ。モンスターに襲われても大丈夫なようにさ」
「へぇ~……」
「んで、そういった防具は特別でさ。どう説明すればいいのかぁ……」
フレアは頭をポリポリと掻きながら、上手い説明を考える。
「要するに。ああいった場所で購入した防具を身につければ、その部分だけが守られるわけじゃなくて、特殊なオーラが全身を包んでくれるんだよ」
「オーラ?」
「上手く説明できないから、そういう表現にしただけだよ。で、そのオーラで包まれている限りは、頭のてっぺんからつま先まで全部、あらゆる攻撃を受けても傷にはならない」
「え?つまり、裸のままで兜だけをかぶっていれば、露出した部分に攻撃をあてられても無傷ってことになるのか?」
「まぁ、極論から言えばそういうことだな。試しに兜を装備したままで指先をナイフで切ってみろよ。一滴も血は流れないはずだよ」
「……そんな効果があるのか」
現実ではありえない話だ。まさか、パンツにまでそのオーラが存在するなんて。
賢治はしばらく沈黙を続ける。
「でも、そのオーラにも限りがあってさ。あまりにも強力な攻撃を浴びせられた時や、ずっと攻撃を受け続けた場合にはオーラは消えて、その装備は無力になるんだよ」
「オーラが消える?無力になる?」
全くピンとこない。
「ちょっと着いてきて」
そんな賢治の様子を察したフレアは、賢治を店へと連れて行った。
「いらっしゃい!」
「どうも」
スキンヘッドに、何とも体格の良い店員が挨拶をしてくる。フレアは店員のあいさつに軽く返事をしながら、そのまま店内をぐるりと回った。
「あったあった」
「?」
見てみると、フレアは皮で作られた兜を手に取っていた。
兜を持って、賢治の方へと顔を向ける。
「例えば、この皮の兜」
「ふむ?」
見せつけられたものの、賢治の目には対して特別なものには感じられない。
フレアが話を続ける。
「この兜だったら、スライムやウルフ程度の攻撃ならいくらかは受け切ってくれる」
「ふむふむ……」
「でも、それ以上の攻撃を喰らった場合には限界値を超えてしまい、オーラは消えて、それ以降の攻撃には何の効果も発揮しないって訳」
「じゃあ、その効果が消えた時に攻撃されたら……」
「痛いし、血は出るし、下手すれば死ぬってことになるな」
「……」
初めは便利だと関心していた賢治だったが、詳しく説明を受けるうちに防具の危険性も分かって来た。
全ての防具には限界がある。
装備をしていても、決して気を許してはならないことを憶えておく必要があるな。
そんなことを考えていた。
「結論から言うと、防具は揃えておいた方がいいってこと。多少値段が高くてもな」
「成程なぁ……」
真剣になってフレアの説明を聞き入る賢治。
しかし、フレアの次の言葉に思わず声を出して反応してしまう。
「で、私が今一番に言いたいことは、あんたのその服からは何のオーラも感じられないってこと。あんたの着てるそれ、ただの服だよ」
「なに!?」
「そのままじゃあ、どんな些細な攻撃を受けても防ぐことが出来ないな。ただの飾りってことだよ」
賢治の来ているスーツを指さすフレア。賢治はスーツに目を向けながら、考え深く呟く。
「来ているものなら何でもいいってわけでもないんだな……」
「そういうこと」
「……俺の一張羅なんだけどなぁ」
「ほら、早く着いてきて」
「え?あ、あぁ!」
今度は、店内の中心にある鎧コーナーへと足を運んだ。
立派な鎧から、こんなものが鎧なのかと疑問に思うものまで、様々な商品が展示されている。
好奇心や興味本位から、賢治も思わずそれらを呆然と眺めてしまった。
「はぁ~……」
「ほら、ボーっとしてないでちょっとこっち来てよ」
「え?あ、あぁ」
フレアに注意され、賢治はフレアの眺める品物に目を向けた。
「これは?」
フレアの手にある品物に説明を求める。
「見てわかるでしょ?」
だが、フレアに一喝されてしまった。
一瞬たじろんだものの、再びフレアに問いかける。
「あ、あぁ。いや、でも何でここにこんなものが?」
「こんなものって言ってるけど、おじさんの服よりも、これの方がまだ防御力があるんだよ?」
「……いや、これって」
フレアが手に持っている品物を、賢治の方へと向ける。
そして、こう答えた。
「見たまんま。ブーメランパンツだよ」