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この電車は異世界行です  作者: ナメタケ
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最初の戦い

「何勝手に逃げてんだこらぁぁぁあ!!」

「ぐへぇっ!?」


去り行く賢治の背中に向かって、勢いよくタックルをかましたフレア。

賢治はよろめきながらフレアの方を向き、懇願するかのようにして叫んだ。

「俺があんな化け物を倒せる訳無いだろうが!!お前は俺に死ねとでも言うのか!?こんなにか弱いサラリーマンを!!」


賢治が全力で尻ごみをする。フレアはそれでもお構いなしに話を続ける。


「大丈夫だって。スライムは下級モンスターで、雑魚の部類に入ってるほど弱いモンスター何だよ」

「そ、そうなのか?」

「あぁ、そうだ!」


何とも腑に落ちない話だが、この世界の常識なのだろう。


「いいから……私を信じろ!!」

「っ……分かった!俺は、お前の言葉を信じよう!!!」


何とも力強い言葉だった。賢治の迷いも、断ち切れた。

賢治はフレアの言葉を信じ、迫りくるスライムに突撃しながら片手剣ハンドソードを思い切り振りかぶる!


「俺なら出来る、俺なら出来るっ……!」


自分自身を鼓舞するため、自己暗示のように呟きながら距離を縮めていく。

この世界の子どもでも倒せると言われた雑魚モンスター。

しかし、平和な世界を生きる賢治にとっては、そんな雑魚モンスターでも単なる【恐ろしい化け物】なのだ。

ビビらないわけがない。


「大丈夫だ賢治……!俺なら出来るっ……!」


目標であるスライムが、攻撃範囲に入った。


「俺ならできるっ!!!」


賢治は叫んだ。と、同時に片手剣ハンドソードを思いきり振りかぶった。


「はぁああああああっ!!!」


賢治は勢いよく跳躍し、一気にスライムめがけて刃を突き立てる!


「あ、言い忘れてたけど、スライムは【核】って場所を攻撃しなきゃ物理攻撃は全然効かないぞ。それ以外の部分を攻撃したら、むしろカウンターで体がドロドロに溶けるから気をつけろよ~」


「と―――う!!!!」


賢治は、まさしくとんぼ返りのごとく身をひるがえす。


「そんな大事なことは先に言えぇぇぇぇえええええええっっっ!!!!!」


賢治は勢いよく戦線離脱し、猛ダッシュでフレアの元へと撤退する。

そんな賢治を見て、フレアはけらけらと笑う。


「すげぇ逃げ方だな。この村一番じゃないか?こんなに逃げ足が速い奴は」

「うるせぇぇええ!!!お前のせいで俺の身体が持っていかれる所だったんだぞぉ!?何してくれちゃってんだお前!?!?!?!?」


物凄い形相で、汗だらだらの状態で叫ぶ賢治。フレアはまたもけらけらと笑っている。


「悪かったって!まぁ、こんどは私がやるからそこで見てなよおじさん」

「……最初からそうしてくれよ、まじで」


フレアは賢治に渡したハンドソードを手に取り、スライムに向けてさっそうと駆け寄っていく。

賢治は、そんなフレアの姿を尻もちを搗きながら傍観する。


≪ピギャアアアア!!!≫


スライムが叫ぶ。


「うるせっ」


フレアが一言呟く。


そして、


≪ピギィィイィィィィイイイ!!!!≫


瞬殺だった。


「えぇ~……」


フレアが行った行動は大変簡単なものだった。

スライムに近寄って、小さい赤い点を片手剣ハンドソードで突いたのだ。たったそれだけで、スライムはあっさりとその場で形を失い、倒されたのだ。

これには賢治も頭を抱える。


(さっきの俺の焦る部分、いらなかったじゃん……。何だよそれ)


「ほい。終了っと」


そんな賢治の傷つけられた心を知る訳もなく、フレアはあっけらかんと戻ってくる。


「ざっとこんなもんだよ、スライムを倒すなんて。子供でも出来るぜ、こんなこと」


「……」


「まぁ、さっきのおじさんの逃げ様は凄い面白かったけどな!久しぶりに笑わせてもらったよ、ホント!」


「……」


「やっぱ知らない奴って滑稽に見えるもんなんだなぁ。村の奴にも紹介してやりたいくらいだぜ」


「……」


「いいおっさんが涙目で駆け寄ってくるんだぜ?これほどあほな話は――――


≪ぶちっ≫


賢治の頭の血管がぶちぎれた。


「何を好き放題ぶちまけてくれとんじゃわれぇ!!!もとはと言えばお前が何の情報も教えてくれなかったせいだろうがぁ!あぁんっ!?そんなことも忘れて、何勝手にげらげらとアホみたいに笑いよるんじゃお前はぁあ!!命の恩人だからって調子扱くなやこのクソガキがぁああああああ!!!!!」


静かな森に、今年で30歳になるおじさんの叫び声が響き渡る。


フレアは、そんな賢治をにポカーンと見つめるだけだった。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


頭に血が上ったため、自分でも何を口走ったのかは分からない。しかし、人に叫ぶという行為は久しぶりなこともあり、大変すがすがしい気持ちがする。

ただ一つの問題としては、叫んだ対象が10歳以上も年が離れている少女であると言う事なのだが。


「……」


フレアはキョトンとした顔でその場に直立不動をしていた。


「……えっと」


いつまでも黙ったまま賢治の顔を見つめるフレアに、さすがに賢治の方がしびれを切らした。

声を掛けようとする賢治だったが、それと同時にフレアは突然吹き出すかのようにして笑い出した。


「あはははははっ!!!」


「……?」


「あははは!……あ~、やっぱりおじさん面白いな」


笑い涙を拭いながら、フレアは賢治に言う。


「お、面白いって……俺がか?」

「そうだよ。おじさんだよ」

「……?」


面白いという発言にどんな意味が隠されているのか。とにかく、大の大人が怒鳴った後に笑い出す少女の神経が、どうなっているのかとまず疑問に思ってしまう。

怒鳴った賢治ですら、予想外のリアクションに頭が一気に冷えてしまった。


「やっぱりおじさんを助けて正解だったよ。私の勘も、意外と役に立つもんなんだな」

「???」


何のことやら。


「さ、着いてきなよ。今度は村に連れて行ってやるからさ」

「あ、あぁ」


スライムでのいざこざなどまるで無かったかのように、フレアはまたも先に歩き出した。

賢治はしばらくその場に立ち止まっていたのだが、フレアの呼びかけに気付いて、賢治もまた歩み始めた。


何とも拍子抜けしてしまう少女だ。一体何を考えて動いているのだろうか。


フレアという少女に疑問を抱きながらも、今の賢治にはフレアを頼るしかない。

大人しく彼女に着いていくしかないのだ。


二人が目指すはダイルの村。


どうやら、まだまだこの少女に振り回されそうだ。

ため息まじりに、賢治はフレアの後を追うのだった。

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