少女との出会い
「ん……」
朝が来た。小鳥のさえずりとともに、木々のざわめきが昨日に比べて一層耳に入ってきた。
身体が重い。賢治が真っ先に感じたのは、体のだるさだ。
慣れない森をひたすら歩き、おまけに昨日から何も食べていない賢治の身体には、多くの問題を抱えていた。
賢治はライターを使い、消えた日を再び灯すとともに、これからのプランを練っていた。
ぶつぶつと、独り言と共に思案をする。
「……これから一体どれほど歩けばいいのか。食べるモノも無ければ飲み物もないし……このままじゃ飢え死にしちまう」
「確か、川に沿って歩けば人里に出られるって本で読んだ事があるけど。……どこに行けばいいのかも分からないし、まずは川でも探してみるか?」
取りあえず、方針が固まった。賢治は、重たい腰を上げて再び歩き始めた。
相変わらずの歩きにくい地面に、何度も足を取られる賢治。元々、運動靴でもなければハイキング用の靴でもない革靴を履いているため、余計に体力の消費が激しい。
「……腹が減ったな」
その上空腹となっては、満足に動くこともままならない。賢治はあたりを見渡した。
「何か……食べられそうなもの……」
左右前後に視線を送る。ただただ木々が生えているのみだ。
しかし、
「ん?」
何やら見たことも無い、薄い桃色の実がなっている木を見つけた。
賢治は、迷わずその実を手に取る。
「これ……食えるかな……」
形は、リンゴに近い。しかし、色合いは桃そのものだ。
ほのかに、甘い香りがしてきた。
「……」
その香りに、思わず唾をのむ。賢治は意を決して、そのまま実にかぶりつく。
「むぐっ……!」
食感はリンゴというよりマンゴーに近い。おまけに、果汁が口いっぱいに広がっていく。味はどのフルーツを取ってもたとえが出てこない、未知の味だったが……何より、その実の甘さが賢治の身体を駆け巡った。
「う……うまい……っ!」
飢えた野獣のごとく、賢治はその実をぺろりと完食。ようやく、食べ物にありつけたのだ。賢治の体力も、幾分か回復した。
「……よっしゃあ!まだまだ行けるぜぇえええ!!」
体力が回復すると、今度は気力までも回復する。賢治のやる気は、まさに頂点に達したのだ。
「うぉぉぉおおおおお!!!」
賢治は進む。ただただ進んだ。
求めるは川
彼の目には、川以外は無の存在であり、眼中になかった。
そして賢治は、
「うぉぉおおおお!!」
その場で盛大に倒れた。
「ごふぉっ……!?」
身体中に激痛が走る。同時に、体がマヒして動かない。
「な……なに……が……」
力を込めて、震えながらも右手を前に出す。前に進まなくてはいけない!
賢治は、その思いを最後にして……
意識を失った。
⚫⚫⚫
「……おい、起きろ」
声が聞こえた。声質からして、女の子のようだ。
「起きろッたら、おじさん」
……しかし小うるさい声だ。もう少し寝かせろよ。こちとら夜中の11時まで働いてたんだぞ?労働者を敬いたまえ。
「……ぐぅ」
おっと、少しいびきが……
「起きろって言ってんだろうがぁあああ!!!!」
「ひぎゃぁぁああああああっっっ!!!!!」
腹部を思いっきり肘鉄された!みぞおちにクリティカルヒット!一瞬息が出来なかったぞ!?
「あ、起きた。おはよ、おじさん」
「ぬぐぅおぉ……!って、誰だよ……あんたは……!?」
薄れゆく意識の中で、賢治は何とか気力を振り絞って問いかける。
声の主は、腕組みをしながら賢治にぶっきらぼうに答える。
「あんたとは失礼だな。仮にも、命の恩人何だけどな」
「……は?」
賢治は状況をする。辺りを見ると、そこは木材で建てられた家屋の中。賢治は、ベッドに横たわっていたのだ。
次に、声の主へと視線を向ける。
見た目は10代……恐らく12~13歳であろう女の子。髪の色は赤く、割と整った顔だちだ。
しかし、何より目につくのは顔に付いている大きな傷だ。一体何をすればこれほどまでに大きな傷をつけられるのだろうか。
そんなことを確認してから、賢治は少女に再び問いかける。
「えぇっと……俺は一体、何があったんだ?確か、川を目指して歩いていた気がするんだが……」
少女は、あきれ顔で答える。
同時にその言葉は、賢治の耳を疑わせるものだった。
「あんた、死にかけてたんだよ」
「……は?」