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この電車は異世界行です  作者: ナメタケ
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見知らぬ土地

「……だからさっさと仕事をしろと言ってんだろうが武本ぉぉぉぉおおお!!!!……って、あれ?」


澄み渡る青空に、悠遊と流れてゆく白い雲。

辺りには小鳥のさえずりと、木々の揺れ動く音が耳を伝う。

目を覚ました男の前に現れた、不思議な光景。

それは、何とも美しい花に彩られた、草原の真ん中だった。


「ここは…いったい……。俺は、なんでここに……」


見たことも無い風景に、思わずそんなありきたりなセリフをつぶやく。


「確か俺は、アホ本の仕事を部長に押し付けられて……それから……」


賢治は記憶の糸をたどる。部下のアホ本…もとい武本に怒りをぶつけていた時から、仕事が終わった深夜の11時まで。そして、それから自分は帰路の電車に乗って、そして……。


「あぁぁぁぁあああああっっっ!!!!!」


全て思い出した。賢治は叫んだとおもったらすぐさま頭を抱えた。


「ぁぁああ……そうか、俺は死んだんだ。だからこんな見覚えのない場所にこうして座ってんだ。畜生……それならせめて天国に連れて行ってくれたんだよな?そうなんだよなぁ?……くっそぉぉぉおおっ!」


ネガティブなのかポジティブなのかはよく分からないが、しばらくした後に、ようやく賢治は立ち上がって周りの風景を見渡した。


「……しかし、本当にどこなんだここは?電車でここにたどり着いたってことは、どこかに最寄り駅があったりするんじゃないのか?」


草原の真ん中で、駅を探す。普通に考えればないことなど分かるものだが、度重なる不可解な現象によって頭の中がお花畑になってしまった賢治には、そんなことはお構いなしである。


「誰かぁ!誰かいませんかぁああ!!」


賢治の声が、ただコダマとなって戻ってくる。


「くそッ……!どうにかして家に帰らなきゃいけないってのに。明日は大事な会議があるんだぞ……!」


このような状況に置かれても、仕事のことを考えてしまうのがサラリーマンの性分なのだろうか。はたまた頭が狂ったのか。

賢治は、取りあえず人を見つけるために歩き始めた。


●●●


歩けども歩けども辺りには草原と、うっそうと茂る森しか視界に入ってこない。いい加減賢治もうんざりしてきた。


「しかし、本当にここはどこなんだ?まったく道路も見えないし、表記もありゃしない。……あ、そうだ。スマホで検索してみるか」


ポケットに入れていたスマホを手に取り、GPSを作動する。


しかし、


「げっ。エラーだと?おかしいなぁ……って、あっ!電波が一本もたってない!まじかぁ……」


大きく落胆する賢治に、さらなる追い討ちがかかる。


「あぁ!充電も残り10パーセントしかない!……ほんとに、運が悪いというかなんというか……」


「……とにかく、早く人を見つけよう。そんで、電話でも何でも借りてみるか」


一筋の希望を胸に、賢治は目の前にある大きな森の中へと足を踏み入れていく。

けもの道を進みながら、ただひたすら歩く。


しばらくして、賢治の歩く体力は限界に達した。


それもそのはず。深夜遅くまで仕事をした後での森の探索だ。体が言うことを聞くわけは無かった。

しかも今年で30歳。だらだらと日々を送っていた男の体力は、決して多くはない。


「ぜっ……はっ……!……くそっ。どんどん暗くなってきやがる。このままじゃ野宿コースまっしぐらじゃねぇか!」

「何で、俺が、こんな目に、合わなきゃいけないんだよっ!!」


半分八つ当たり気味に足を進める賢治だったが、とうとう賢治はその場で尻もちをついた。足は、小刻みに震えていた。


「はぁっ……くそっ。もう、歩けん……」


大の字でその場に倒れ込む賢治。

右の手のひらを、視界の前へと持っていく。


「……疲れるってことは、俺はまだ生きてるって証拠なんだよな?」


自らに問いかける。しかし、その確証は今だに見いだせないままだ。


「せめて、人に出会えたら少しは希望が湧いてくるんだがなぁ……」


薄暗くなっていく空を見上げながら、賢治は弱音を何とか押しこらえようとする。


「……家に帰りたい」


それでも、思わずつぶやいてしまう彼の姿は、心なしか小さく見えた。


「……」


直に辺りは、真っ暗になった。夜が訪れたのだ。


賢治はというと、一人たき火で暖を取っていた。


「やれやれ。こんな時にライターが合ってよかったよ。持っとくもんだなぁ、上司への火付け用ライターってやつは」


背伸びをした後、ごろんとその場で横になった賢治は、改めて自分の置かれている状況を確認する。


何故自分がこんな場所へ連れてこられたのか。

そもそも、自分は生きており、ここは現実の世界なのか。

連れてこられたのなら、一体全体何の目的のために?


分からない。


とにかく分からないことばかりだ。

頭を悩ませる賢治だったが、さすがに疲れたのか、次第にまぶたは閉じられていく。


ここで一旦、賢治の意識は途絶えた。




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