定休日と魔法は知っとくべき!
この世界には、魔法というものが存在している。
まあ、ランドが魔法使いなのだから、魔法が使えなかったら存在無意味なのだが……。
魔法というのは、人に向き不向きと言った生まれ持った能力でしか、なんとかならない非常に面倒臭いもんである。
そんな俺は能無し……、間違えた。能力無しなのであるが、勇者にはなにかチート的なカリスマ性が存在するらしい。
大概、魔法には種族……、簡単にいうとその人に合った魔法があり、その種類は大きく分けて4つある。
「喜」主に占い師や、旅芸人の披露を目的とした魔法。
「怒」主に攻撃型の魔法で、メグがこの魔法が一番得意と言っていたものだ。
「哀」主に防御の魔法。
「楽」主に回復、治癒の魔法で、ランドはこの魔法が得意だ。
このほかに、魔法は自然からの力を貰わないと発動が難しいため、光、闇、水、火、風、草木といった属性でも分けられたりする。
面倒臭いうえに、自分がどの属性でどの魔法が使えるのかを知らないと、この世界では魔法なんて扱うことも出来ない。
「いってえ……、なあランド治して」
今日のサラマンダーを倒したときにやられた腕の傷がじくじくと痛む。
――うえー、じゅくじゅくしてきてんじゃねーか。
この世界では衛生的面をあまり望めない。そこは仕方ないが、消毒をしないと切り傷でも命を落としかねない。
俺は傷口をランドに見せながら頼むと、ランドは難しい顔をした。
「いや……ね、治してあげたいのはやまやまなんだけど……」
歯切れの悪いランドに俺は訝るような顔になってしまう。
「あの、さ。もしかして定休日?」
「ふふふ……」
定休日とは一ヶ月に一回、ランダムに魔力を失う日のことである。……まあ、定休日というのは俺が名付けたのだが。
傷口を見せながら呆然とする俺に、ランドは曖昧に笑う。
「なんで、朝に言わねえんだよッ!」
――そしたらこんな傷つくんなかった!
嘆く俺にランドは困ったように笑う。
「だって、朝急いでたし戦闘中に言ったら私が狙われちゃうでしょ?」
俺はため息しか出なかった。
確かにランドが魔法を使えないのなら多少気をつけないといけないが、しかし、コイツ暗殺者じゃなかったか? 図体の馬鹿でかい魔族に襲われたとして、そう簡単に死にそうには思えない。
「………わざとか? わざと言わなかったのか」
「なんのことかしら、ふふっ」
口元に手を添えて笑う姿は優雅だが、ランドの行動に俺は沸々と怒りが沸いてくる。
「どうすんだよこれ」
傷口からは白血球が外部と闘った証がどろどろと流れ出ており、俺はそっと目を逸らした。
――これはいけない。見るに堪えるグロさだ。
こけまで酷くなるとは想像していなかったため、悪寒がした。
「大丈夫よ。治せはしないけど治療は出来るわ」
ランドは小さな救急箱を取り出し笑った。
――用意周到なのは認めるが、言うのが遅い!
「ほら、手を出して」
「……ランドって、絶対俺で遊んでるだろ」
スラリと伸びた白いランドの指が傷の周りを撫で、傷具合を確認すると救急箱から茶色の小瓶を取り出した。
「なんだそれ」
たぷたぷと瓶の中で揺れ動く液体を見ながら聞くと、ランドがその液体を綿製のガーゼに浸しながら、応える。
「アルコールよ。傷口にはこれで消毒するのがいいの」
傷口にゆっくりと被せられたガーゼはひんやりと冷えていて、一瞬身を縮めると、ランドが腕を掴む力を強くした。
ぴりぴりとした痛みがして思わず顔を歪めた俺にランドは「ふふっ」と小さく笑ったのだった。
「新人ちゃん、魔法で傷は治せるわ……でも、それに頼り過ぎちゃダメよ」
救急箱の中を弄りながら話し掛けてくるランドに俺は「なんでだよ」と少しいじけた言い方をしてからランドの次の言葉を待つ。
「魔法は便利だけど、もし危機的状況で使えるかわからないのよ……。条件も揃わなくてはならないわ。だから魔法だけに頼ってわダメなのよ」
治療が終わったのか救急箱の蓋を静かに閉じたランドは俺を見ることなく、どこか悲しそうに微笑んだ。
俺はなんの返す言葉も見つからず、ただ「わかった」と頷くだけであった。