俺のパンツはどこいった!
「○月×日 っと、」
こんな馬鹿げた月日を自分が書くことになるとはついこの間までは思ってもみなかった。だが、「此処」には月日なんて時間を計る単位なんて存在しない。
窓から覗ける雲など一つもない晴天を仰ぎ、思わず溜め息がもれた。
確か此処に来てから5日は過ぎたのだろうか?起きたら此処にいたのだ。何日過ぎたのかも定かではなかった。
そもそも、此処はどこなのか、何故此処にいるのかはまだわからないがどう足掻いてもしょうがないのだ。
今の俺には受け入れることで混乱を紛らわせていた。
「さて、今日は中級魔物を5体、小物を26体倒した。明日は何体倒すことになるのか、……うん。」
俺はいつの間にか、というかこのたったファイブデイズで「普通の男子高校生」を捨ててしまったみたいだ。
これは、戻って普通の生活できなくなりそうだな。
ははは、と渇いた笑いでなんとか自分のモチベーションを上げてみようとしたが、そんな自分が余計可哀相に思えてくる。
……こんな時は気分転換に風呂でも入るか。
重い腰を上げ、老朽化が進む部屋の中をギィギィと音を立てながら歩く。
……ん?一枚もない。
少ないながらもタンスに突っ込んで置いたパンツを出そうと思ったが、ない。
少なくとも5枚はあったはずだ……。
「メグー、俺のパンツ知らね?」
部屋を出て真向かいの部屋に向かって尋ねるとめんどくさそうにドアを開けたメグがこちらを睨みつけてくる。
「……知るかよ。あとメグって呼ぶな。メグロット様と呼べ」
……聞きました?奥様!
この男、自分のこと様付けですよッ!
さらに言うとですね、この面倒臭がり屋で高慢なメグロットはこの世界の唯一の勇者だったりしちゃうんですよッ!
このばーか!はーげ!ポンコツなす!
勇者だからって、だいぶ……いや、ちょっと俺よりもモテるからって調子にのってんじゃねーぞ!
いつか俺の前に土下座させてやる。
「なんで知らないんだよ!」
俺の中で燃えたぎった何かにより、勢いよく叫んでしまった。この、もしかしたら魔王なんかよりも質の悪いメグロットに。
「おい。大砲くらいたいのか?」
「いいえ」
……わかってたよ。こうなることは。
だって、言ってる途中でもうコッワーイ双眸が俺のこと射てましたし!
それくらいの察しができないほどの鈍感でもないしね!
だからって、本気で大砲とか構えられても困る。仲間だぞ?一応は。
つーか、こんな所で男子二人でパンツの話とか!……むさ苦しいッ、女の子!女の子と話がしたい!まぁ、女の子に突然「俺のパンツ知らない?」とか聞いたら変態確定だろうけど。
それからはパンツ探しは断念し、下町の一角で安いパンツを大量買いしてやった。
「あー、疲れた」
ベッドに座り、最初はやけ酒……もとい、やけ水を腹一杯に詰め、そのまま後ろへ倒れる。
パーティー組んで4日と半日。今だ仲間はメグしかいないが、そのうち会えるらしいし、それに拠点はこの宿らしいので一応帰る家的なものもある。それがどんだけボロアパートであろうと野宿よりはマシだ。
と、まぁそんな感じで明日から本格的に…。
「……魔王を倒そうか」
と現実世界を覚えている内に還れることを願いつつ、一人ごちるのである。