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009 : "オレと組んでくれないか?"

 教室の移動を繰り返し、蓮と刹那は午前中のガイダンスを終え、食堂ではなく解放されている屋上へと向かった。

 受けようと思うすべての授業が同じわけではなかったが、一年生の現状ではそこまで幅がないのも事実。結局、二限目が違っただけだった。

 それは玲たちも同様で、

「オレたちも一緒にいいか?」

「たちって、わたしも? てか、あんた、人の迷惑ってものを考えなさいよ」

「いや、だから一緒にいいかって聞いてんだろうが」

 すぐさま言い合いに発展しそうになる二人。だが、玲のそもそもの発言は彼自身意識しているかはわからないが、自分たちを組みとして認識している節がある。仲が悪い訳ではなく、単に喧嘩するほど仲がいいという奴なのだろう。

「……勝手にすれば」

 仲裁する意思は皆無だったろうが、彼らはぴたりと止まって互いに顔を見合わせた。

 連れだって屋上に向かう間は、玲が蓮に軽い世間話をするぐらいで、目立った会話はなかった。

 琴美は気後れしている様子こそなかったが、刹那とは少し距離があった。無論、蓮に近いと言うこともなく、あくまでも玲に付き合っているという体なのか、時折玲の話に口を挟むぐらい。

 屋上はあまり人気がないのか、先客は上級生らしい男子のグループ。だが、彼らは刹那の顔を見た途端、ぎょっとした顔をして、スクラムを組み、やがてそそくさと去って行った。

「…………」

 玲は少し気まずそうな顔になり、刹那の表情を窺ったが、彼女は閉まった屋上の扉を一瞥しただけで、表情を変えることはなかった。

「やっぱり、今でも顔を覚えてる人は多いのね」

「まあ、そりゃそうだろ。一時は顔を見ない日の方が少なかったぐらいなんだからな」

 出て行った上級生たちもエスカレータ制で上がってきているなら、同じ学校にいるということは知っていた筈なのだが。知っていることと、実際に会うことはまた違うと言うことか。

 結局、自分たち以外いなくなった屋上で昼食と相成った。

 事前にコンビニで購入してあったパンやおにぎりを頬張りつつ、

「そういや、胡桃崎ってなんの楽器やってんだ?」

 一限目、琴美に中断させられた話の続きということか。

 隠し立てする意味もないので、素直に答えることにしたのだが、

「ヴァイオリンよ」

 蓮が答える前に、何故か刹那が口を挟んだ。

「お、おう……」

 流石の彼も、まさか彼女から回答がくるとは予想していなかったのだろう。少しのけぞり気味に頷いた。

「へえ……じゃあ、どちらかというとクラシックとかの方なのかしら?」

「まあ、どちらかと言えば、な。でも、ロックとかも意外にいけるから、特にジャンルは縛ってない」

「音域広いし、弦さえ痛むの気にしなければ、結構ハードにいけるものね」

 玲が軽音だった関係もあってか、琴美も音楽関係には通じているらしい。というよりも、

「あ、わたし元合唱部だったの。というか、部員一人だから、独唱部?」

「部?」

 刹那が思わず眉をひそめて言うのも無理はない。

 どの高校も大体そうだと思うが、一人しか所属者がいなければ、『部』という形態は認められず、『同好会』となるのが通常だと思う。だが、そこにはカラクリがあったようで、

「あ、それね。大会とかでそこそこいい成績だったからさ、学校も降格しづらかったみたいで。わたしも部費がもらえてラッキーだったから、そのまま部だったワケ」

「……実力あるのね。凄いわ」

「いやぁ、さすがに白鷺さんのようなレベルじゃないわよ。畑は違うけどね」

 元とはいえ、有名人に褒められて悪い気はしないのか、表情の緩む琴美。

「私のは実力ってわけじゃないわ」

 しかし、刹那の少し吐き捨てるような物言いに琴美の顔が曇る。

「両親のおかげ。それ以上でも、それ以下でもないもの。そして、運が良かった」

 ある事実として、刹那はタレント、いや、元々はモデルとしてデビューしているのだが、自身のプロポーション以外で、特に特技や趣味などを売りにしたことはただの一度もない。まあ、今でこそ特技と言えるようなものになったものも、当時は素人だった訳だが。

「芸能人も大変なのね」

 なんとも一般市民の感丸出しの意見だが、たいていはそんな感想を抱くに留まる。かく言う蓮でさえ、いろいろ含めて大変だったとしか言いようがない。

「ま、まあ、それはいいとして」

「なにがそれはいいとして、よ」

 場をとりなそうとした玲だったが、琴美にすぐさま噛みつかれる。

 言い合いになりかけるのを制して、

「織原は俺に用事があるのか?」

 朝からの一連の流れで推測されることを単刀直入に問う。

 すると、彼は少し照れたように笑い、それを琴美に気持ち悪そうな顔を向けらたことに文句を言うまでがワンセット。

 気を取り直すようにわざとらしい咳払いをしてから、

「オレ、大学入ったらバンド組んで路上ライブやりたいって思ってたんだ。だから」

 グッと身を乗り出し、

「だから、オレと組んでくれないか?」

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