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テレビの影響力は偉大です

方向性が未だ定まっていないにもかかわらず投稿。

でもいいんだもん気にしないもん見切り発車。

第一話『テレビの影響力は偉大です』


「勘違いしないでよね」

アンタのことじゃないんだから、と頬を染めながらこの言葉が続いたならなんて可愛らしいんだろうと思いながら呟く。

残念ながら、私の言葉はそれ程可愛らしいものじゃないし、むしろ人が見たら卒倒してしまうような所業に対する、言い訳じみたもの。

別に言い訳のつもりはないんだけど、後々このことが問題になってきたら、そんな風に周りからは解釈されてしまうんだろう。


まったく。

人間っていうのは、なんて面倒くさい生き物なんでしょう。


私の体を引き裂いて本心を取り出せるなら、見せてあげるのに…。

だけど、それまでに私がこの世界に存在しているとは限らない。まあ、そんなことはどうでもいっかと投げやりに思考を放棄して、眼前の事象を観察する。


「うむ、存外にフツーでしたな」



それともあれだろうか。

感覚っていうものが一時的にでも麻痺しちゃってるんだろうか。

まあ、それはこれから繰り返す検証で分かることでしょう、ああなんて憎い、私の性。

頬を流れる液体を拭い去りながら思う。


「好奇心はナントカって、本当だったんですね~」


のんびりと呟いて、ソファに体を横たえた。

次の予定まで、まだ時間は存分にある。

それまでに何をしようか考える。とはいっても、絶対に必要なことは一応書き記してあった。

「よいしょっ」

すぐ横にある、物置と化した低いテーブルからノートパソコンを取る。

私専用に、高校入学と同時に買ってもらったこのパソコンの中に、データとしてソレは保存してある。別にそこらへんのノートに書いてもよかったのだが、母は人の携帯や財布の中を勝手に見てしまう名人だ。

だから、私しか使わないパソコンの中に、秘密を隠している。

側にあったリモコンを取ってテレビをつけると、お昼からのテレビ番組がちょうど終わる頃だった。たぶんそろそろ二時間サスペンスでも始まる時間帯だろうか。

画面に見慣れたCMが流れる。

「なんか…平和だ」

パスワードを入力しながら、思う。


世界はこんなにも平和だ。

そして平和とは、私が思うに無関心から生まれるもの。

誰かが害されようと。誰かが苦しもうと。誰かが殺されようと。誰を殺そうと。

世界はこんなにも無関心。故に、平和で穏やか。


なんて、素敵で残酷な世界。だけど、私はそれほど嫌いじゃない。

そう、私は嫌ってなんかいないんだ。


別に、嫌いなわけじゃない。

別に、むしゃくしゃしてたわけでもない。

そりゃあ、何に対してもムカつくことがないわけじゃない。私はそこまで心の広い人間じゃない。嫌いな人だっている。その人に会ったら思わず舌打ちしたくなるし、親や先生に怒られたら内心うざいとも思う。

でも、それが理由じゃない。

むしろそんなことが理由で、こんなことができる人がいると思うと、ぞっとする。

そう、そんなことじゃない。


だから。

勘違いしないでよね。

私がたった今、ママを殺したのはそんな阿呆みたいな理由じゃないんだから。





*** *** ***





初めは家族、そう決めたのはテレビドラマを見てからだった。

娘を殺された被害者家族と、殺しちゃった加害者の家族。その二つの家族が運命に翻弄されるような内容。

ふへー、と特に興味もなく、流してしまうような内容だったがとりあえず暇なので父の肩揉みをしながら見た。

五分も過ぎると手が痛くなる。

「パパ凝りすぎ」

「うーん」

何を言うわけでもなく、テレビ画面を見ながら唸る父に思わず肘で肩をぐりぐりした。

「あー、そこそこ。いいねそれ」

逆効果だった。

「あんさー、凝ってんだからどっか行きなよ。ほら、アレ…整骨院かなんか」

整骨院って肩揉みオッケーなんかな?と思いながら肘を動かす。骨を整えるんだから、肩揉みは無理か。

「そうそう、そういうの行きなって。アレいいよ気持ちーし、安いし」

「うーん、今度行ってくるかな」

隣に座る姉が父に声を掛ける。いいぞその調子だ、支援頼む。

「お姉ちゃん、休み取れた?」

「ん?んー」

「韓国行ったら何食べようかな。楽しみだわー」

さっきから母は私以外の三人が使うパソコンに向かっている。他にも無数の旅行パンフレットがちらほら。

今流行りの韓流ブームに乗っかっている、というよりは単純に母が海外に凝っているだけだ。

父は肩凝り母は旅凝る。なんのジョークだ私。しかも面白くないし。却下。

「でもアタシ韓国の顔あんまり好きじゃないなー。なんか凄い特徴あるやん?」

話しかけると、濡れた髪をタオルで纏めている姉が頷く。

「あたしも」

「ええ?韓国も日本も似てないか?」

「ぜんっぜん。すぐ分かるし。町とかでも見間違えたこととかない」

父の横槍を姉が一蹴。いつ見ても鮮やかだ。

というかデジャヴ。もの凄くデジャヴ。

もしかしなくても、この会話既に数回くらい繰り返してる気がする。そして私は思うのだ、韓国が日本を乗っ取ろうとしているんじゃないかと。

……まあ、いいか。とりあえず会話は弾んでるわけだし。

「もう疲れた。やめる」

「ええー、もうちょっと」

「ねえね、やって」

「んーはいはい」

こんな会話を続けている間にも、ドラマはどんどん進んでいく。

被害者と加害者の家族が話している。

第一回を見てないからよくわからないなぁ、と思いながら見ていると、被害者家族が加害者家族を罵倒する。

それを見て、私ははっとした。

ドラマをじっと見続けていると、どうやら加害者家族は世間からも石を投げられ、肩身狭く生きているらしい。


ああ、確かに。


そう思った。

確かにそうだ。人を殺しちゃった人間を家族に持っている者は、きっとたくさん怒られるんだろう。どんな育て方してるんだっ、とか殺してやる!とか。

辛いだろうな、きっと。ううん、絶対。

自分は人を殺してないのに、何もやってないのに。

なのに謝らなくちゃいけなくて、なのに怒られなきゃいけなくて。

どうして自分が、と思うことすら許されない。仕事もなかなかつけないだろうし、お洒落もしちゃいけないんだろう。

それくらいは許されるだろう、と思うことですら、周りは許してくれなくて、何より自分が赦せない。

きっと、真面目な人ほどそうだ。


そして、と視線を部屋に巡らせる。

私の家族は。

パパも、ママも、ねえねも。

凄く真面目。


ああ、それって。

何て、辛いんだろう。

ごめんね、ママ。パパ。ねえね。

そんな辛い思いをさせるくらいなら…。


初めは家族。そう決めた。

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